第9話俺はリンスを知った

「……」


今現在俺は風呂に浸かっている。

ただ、お風呂特有のリラックスができているかはまた別だ。なにせ風呂がめちゃくちゃ広い。

数回……指で数えれる程度だが銭湯に行ったことがある。流石に銭湯のように、何個も風呂があるわけではないが、一個の風呂のデカさであればそれ同様の広さだ。

……どんだけ金持ちだよ。

シャワーも3個ある。なんで?という思考が頭を巡るが、俺の頭から下の体と同じように風呂に沈めておく。


さて、風呂に浸かるのもそろそろやめて、体洗って、さっさと出よう。あの感じからして絶対にあいつ入ってくるから。


「うわ、めっちゃいい匂いする」


思わず一人で喋ってしまうくらい、いい匂いだ。

俺が使ってる激安シャンプーとは格が違う。

全然髪のサラサラ感が違う。これがあいつの秘密か。

次は体を洗おう。


「ちょっと、リンスしないとダメでしょ」

「なに?リンスって」

「知らないの?仕方ないわね、私がやってあげるわよ」

「あ、あぁ頼む」

「じゃあ、失礼するわね」

「おぉう、めっちゃ気持ちいい」


こりゃすげえ。髪になんか塗られてる感があるけど、すっげぇ心地いい。

やっぱり他人がやると違うな。うん、他人……他人、他人?


「ってお前なんじぇいるんだよ!!」


慌てて思いっきり噛んだじゃん。舌が痛いです。痛うございます。んなことは置いといて、やっぱりこいつ入ってきたよ。王道イベントなのかもしれないけど、ここ現実!憧れてたけどやっぱりここ現実!


「だってここ私の家よ。どこのお風呂に入ろうが私の勝手よ」

「そうだとしても、なんで俺が入ってる時に入ってくるんだよ!」

「……偶然よ。ただの偶然。」

「流石に無理があるだろ。第一お前、俺のこと目隠ししてここまで連れてくるときに、ごゆっくりって言ってただろうが」

「……」

「無言で手を動かすな」


あ、でもやばい。なんか、こいつ絶妙な力加減で俺の頭皮マッサージしてる。これ癖になる。

あ、やばい。声出ちゃう。


「ふぇ」

「何かしら今の声は」

「き、気のせいだろ」

「ふーん」


あ、こいつ、ちょっ、待って。なんかそこめっちゃ気持ちいい。やばい。また声出る。


「ふぁ」

「気のせいねぇ?」


これ、やっぱりダメなやつ。中毒になる。

頭皮マッサージ中毒です。この人恐ろしいです。


「も、もういい。そろそろこの髪にぬられたやつ流したい」

「ふーん。もうちょっと強めにしようと思ったんだけど」

「うっ!卑怯だ」


せ、背に腹は変えられない。今日は我慢して、こいつを俺から距離をとらせよう。くそ、俺も絶対に頭皮マッサージをマスターしてやる。


「そんなことよりも、俺から早く離れろ。もしくはもう一つの風呂の方に行け」

「……今日のところはそうしようかしら」


おお、なんかやけに素直だぞ。奇跡か。それとも今はヤンデレタイムお休みなのか?どっちにしろ俺に損はないからいい。


お、おお!さらに髪がサラサラになった。

すげぇ!リンスすげぇ!もしかして、気持ち良かったの、あいつのおかげじゃなくてリンスのおかげじゃね?それに違いない。


ボディソープもめっちゃいい匂いするやん。







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えぇと、どうすればいいんだ?

バスタオルもある。なんでか知らんけど着替えまである。だけどここからどうする。扉にはパスワードがきっちりかかってるし、逃げ出そうにも出口がない。これワンチャン出れるんじゃね?って思ったのが甘かった。まぁそこまでは予想通りというかなんというか。ただ、次だよ次。出れないってことは、あいつが出てくるまで俺待ってないとダメってことだろ。ここあの馬鹿でかい風呂に比べて結構小さいんだよ。つまり俺は間近で女子の生着替えにあうんだよ。俺も一応あんな怖い目にあったとはいえ一応男子高校生なんだよ。あれから結構学習したんだよ。俺も大人になったんだよ。


ガチャ


「っ!」

「あら、私をそんなに見たかったの?さっき見ればよかったのに。あ、もしかして恥ずかしかったの?」


うわーウゼェ。めっちゃウゼェ。どこの誰だよここにロックかけて俺を出れなくしたやつは。

腹立つわー。ちょっとだけコイツのこと気にした俺が馬鹿だったわ。


「そんなに見ないでよ。なんか、恥ずかしいじゃない」

「み、見てないから!」


顔を紅潮させてもじもじしながらこっちを見つめるな。風呂上がりだからなんか艶やかでドキッとするじゃん。俺までなんかもじもじしたくなるやん。


「早く服着ろよ。俺誰かさんに監禁されてるから疲れてんだよ」

「……」

「な、なに?」

「別に」


なんか、シャンとしないな。風呂でのぼせたのか?

でもそんなに長い時間風呂に浸かってないと思うんだけどなぁ。


「はい、これつけるから手出して」

「……」

「よいしょ。はいいいわよ」


やっぱり気のせいだわ。だって平気で拘束具つけたもん。








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「もう寝ていいか?」

「えぇ」


こいつヤンデレなのに意外と俺に自由くれるよな。

普通自由とかないと思うんだけど。まぁもしかしたら、これがこいつなりのヤンデレなのかもしれないし。


「よいしょっと」

「なんでお前、入ってきてるんだよ」

「何を言ってるの?ここで寝るからに決まってるじゃない」

「自分の部屋で寝ろよ」

「愛して止まない人が同じ屋根の下にいるんだから同じ所で寝るに決まってるじゃない」

「……そうか」


やっぱり、愛って言葉に俺弱いらしい。

仕方ないじゃん、めっちゃ嬉しいんだから。


「ふふっ。あったかいわ」

「くっつくなよ、暑苦しい」

「やだ」


うわ、何今のもう一回お願いしていいですか?

そんなにクールな感じ醸し出してるのに、そんなに甘えた声出せるんですね。えぇ、ギャップ萌えです。最高です。


「じゃ、おやすみなさい」

「あぁ」


なんか多分、これまでで一番気持ちよく寝れそうだわ。






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