第8話俺は飯と風呂を求めた

「続き続きすまないが、風呂とご飯をいただきたいんだけど」


俺をここで生活させるのだから贅沢の一つや二つ言っても罰はないだろう。

正直お腹も減っているし、何かと走ったりしたから、風呂にも入りたい。


一方俺を監禁している彼女といえば、俺の胸板に顔を離してたまるかと言わんばかりに、くっつけている。

汗をかいたから、あんまり長い時間くっ付かないで欲しいんだけど。


「あ、そうよね。ちょっと待っててね」


名残惜しそうに俺から離れていくと同時に、俺の心臓が少しずつ落ち着きを取り戻し始める。

良かった、と思うが、まだ心のどこかで他人の暖かさをもっと味わっていたくもあった。


ご飯は多分ここで食べることになるんだろうけど、

風呂はどうするんだろう。目隠しして入るわけにもいかないし、腕と足の自由がきかないのもかなり困る。

でも、俺が監禁する側ならお風呂は一番要注意な場所だ。まずお風呂に窓が無いわけないし、お風呂で叫べばかなり響くと思う。まぁ叫べばこれからお風呂に入れなくなるし、より一層拘束が強くなると思うけど。それに監禁される側としても、ほぼ唯一無二の脱出チャンスなのだ。

確かに、彼女から溢れ出ている愛は俺を着々と満たしているかもしれないが、俺はここから抜け出さないといけない。

彼女からの愛は俺にとって初めての物であり、とても嬉しい物でもある。だがやはり彼女のやり方は間違っている。

普通に俺にアピールでもしてくれればコロッと落ちると思うんだけどな。

やっぱりヤンデレだから、監禁に憧れるのかな。


扉がからピーと音が部屋に響く。

ロックを解除した音だ。


「ねぇ、先にお風呂にする?それともご飯?」


さっき彼女に強めな言葉を投げた俺が言うのもなんだけど、そこは「それとも私?」を入れて欲しかった。ギャルゲーでこれを見てから少なからず憧れていたんだけど。


「あ、えっとご飯、かな」


これは俺だけかもしれないけど、お風呂入った後にご飯食べるのあんまり好きじゃないんだよな。

なんて言うか、食欲が無くなるみたいな。


「分かったわ、あと少しで出来るから待ってて」

「あぁ」

「ふふっ」

「……」


え、怖。なんで笑ったんだ?もしかして、ご飯になんか変なもの入れられるとかないよな。血とか体液入ってたりしたら、めっちゃ嫌なんだけど。






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「ごちそうさま」

「美味しかった?」

「かなりな」


あぁ、めっちゃうまかったよ。

変なもの入ってるとか思ってた俺を殴りたい。

栄養バランス完璧、味も申し分ない。

なに?シェフが作ったの?レベルだった。


「これ、お前が作ったのか?」

「他に誰が作るのよ」

「そ、そうだよな」

「えぇ、それよりお風呂はいつ入るの?」

「お前が入ったあとがいい」

「それは私の残り湯を使ってどうとかの話?」

「……なら先に入る」

「サービス精神旺盛なのかしら?」

「どういうことだよ」


え?なに?逆もあるの?

初めて聞いたんだけど。俺が知ってるのは、「パパが入った後のお風呂に入りたくない!」みたいな思春期の女の子だ。それが逆だと?ありえん。


「まぁ、安心して。お風呂なら2つあるから」

「それを先に言え」

「1人で入れるなんて思わないでほしいわね」

「おい、お前今1人で入れるどうとか言っただろ」

「……貴方そこは、難聴系主人公を演じるところでしょう」

「残念ながら俺は耳にはまぁまぁ自信があるからな」

「まぁ、楽しみにしていなさい」


皿をお盆に乗せて器用に扉のロックを解除して出て行った。

……これ間違いなくあいつ入ってくるだろ。



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