第7話俺は過去話をする2

何も聞こえない。腕はやっぱり動かない。足は動く。だが立てない。


いやだ、逃げたい、なんで俺が、なんでこんなことに、誰がこんなことを。俺にとっては初めての感情だった。

怒られても感じることもないし、1人であってもこの感情はなかった、他にも色々なことで、この感情はなかった。


だが今はものすごく感じる。怖い、と。


体中が汗まみれで、ろくに呼吸ができている感じがしない。小刻みに震えている。


ぞわっ


なんで、俺の陰茎が触られているんだ。

細くてひんやりしている手が俺の陰茎を弄り回すようにされている。


「んっ!んー!んー!」


足をバタバタとさせるが何にも当たらない。

ただ空を切るだけ。横から触られているのか?


や、やばい俺の物が熱を帯びてきた。

(それはそうである。この歳になって碌に自慰行為をしたこともなく、異性には興味があるものの体には興味がない。碌に自分の陰茎を触ったことがない柊にとっては未知の感覚だった。感情に結びつかないような体の現状は柊にとっては新たに怖いと思わせた)


何か俺のものに被せられた。

(これも柊にとっては全く何も分からない物だった。まず柊は18禁というものをほぼ知らないで生きている。痴漢はダメ、女には気安く触るな、ぐらいのことしか知らないくらいの男だった。

保健の授業はあっても将来には大して役に立たないであろうと考え、いつもご褒美タイムとなる居眠りをかましている。そのくらい柊は性について疎いものだった)


そこからは貪りつくされ、自分の意思とは全く関係のない体の反応で弄ばれ、永遠と感じる時間がようやく終わり、目隠し以外全て外された。その時の俺にはそいつらを捕まえようとかは思えずただ単に泣きながら便器に座り、壁に体を預けていた。体が震え、力が入らず何も考えられず頭では何かから逃げるように無に居るような感じだったことを覚えている。

そしてその行為が元に、俺に酷く強い恐怖を刻み込むことになったのだ。


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「そ、そんなことが、あったなんて」

「あぁ」


話している最中はなかなか恥ずかしいものがあった。思い出して少し嫌な気分にはなったものの、もう既に終わった話だし、容疑者が誰か分からないから何にも俺からはできない。警察に話そうと思ったことは一度もない。今更話しても、って感じだと思うし。


「やっぱり私そいつ殺したい」

「でも誰か分からないし、殺すのはまずダメだろ」

「そうかもしれないけど、私はそいつが怨めしい」

「てか、なんでそんなに犯人を殺したいんだよ」


動機が不明だ。襲われる形にはなったものの、別に俺が誰かと性行為をしても気になるかもしれないけど、殺したくはならないだろ。


「だって貴方の童貞を奪ったのよ!!」

「別にお前とそういう行為ができなくなるわけじゃないだろ?」


する気は今のところないけど。


「そうかもしれないけど、愛する人の初めては私が貰いたかった」

「そ、そう、なの、か」

「えぇ」

「で、でもアレ付けてたんだから、童貞(仮)じゃないのか?」


これは流石にこいつの殺人衝動を抑えるのには無理か。てか、童貞(仮)ってなんだよ。自分で言っといてアホらしくなってきたわ。


「……………それもそうね。生でヤった訳じゃないから、確かに仮かもしれないわね」


通っちゃったよ。この人とことん頭おかしいかもしれないわ。まぁ、今は俺を褒めるべきだろう。

こいつを野放しにしたら俺の学校の同級生の名簿をなんとしてでも調べ上げて、徹底的に女子を殺していきそうだ。


「そうよ、私のあそこで上書きすればいいだけよ。

触られたのは手でだけなんだから、お風呂で汚い菌が取れているに決まっているわ。そうに違いないわ」

「お、おお」

「じゃあさっそくヤろうかしら?」

「待て待て待て待て!なんでそうなるんだよ!」

「善は急げって言うじゃない」

「俺にとっては悪だから!お前、あいつらと一緒のことしようとしてることに気づけ!!」


俺はどんだけレイプされたら気がすむんだ。

他の人間にとって俺は気持ちよくなるだけの道具でしかないのか。なんか鬱になりそう。もう布団と結婚しようかな。


「ご、ごめんなさい。で、でも、わだじ、あなだとあいじあいだくて。ごめ、ごめん、なさい」

「うわ、ちょっ、泣くなよ。……強く言いすぎたな、ごめんな」


頭をポンポンしておく。ギャルゲーだと大体これで解決した。にしてもサラサラだな。ずっと触っていたくなる。なんでこんなに俺の髪と違うんだ?

シャンプーの差か?遺伝の差なのか?どっちにしろ

俺には縁のないことだけど。


「ギュってしていい?」

「は?」

「だめ?」

「だ……まぁいいか」


上手い感じに俺の腕をこじ開けて輪っかの中にヒョイと顔を出す。くそ、可愛い。それにめっちゃ細いし柔らかいし、すっごいいい匂いする。あー、なんか落ち着く。


「片手で頭撫でて。もう片方でギューってして」

「いや、今の現状でさえ手錠付けられて輪っかの中にお前がいるのに、どうやって頭撫でるんだよ」

「あ、本当だ。手錠外しとけばよかったわ」

「はぁー」


でも、なんか愛を貰うのもなかなかいいけど、

自分から人に愛をあげるのもなかなかいいな。

なんか愛おしく見えてきたぞ。待て、落ち着け。

落ち着くんだ俺。

こいつは可愛いけど、ヤンデレで俺を監禁している。そうだ監禁だ。ふかふかなベットの上で監禁だ。俺の家なんかよりもずっといい場所で監禁。

……って危ねぇ。もう脳まで支配されてきた。


でも1人よりはずっといいな。







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