第6話俺は過去話をする

あれは、中学二年の終わりの頃。それはあまりにも唐突で、当事者である俺も全く予想ができないことだった。


「なぁ、潤聞きたいことあるんだけど」

「ん?なに?」

「これなんだけど」


俺のロッカーに入っていた1枚の紙。

そこには可愛らしい文字が簡潔に書いてある。

自分から見ても、他人から見てもそれはラブレター

としか言えない物だ。


「ん?なになに。小日向くん今日の夜7時に桜町公園に1人で来てください。待ってますって、これラブレターじゃね?」

「多分」


潤が信じられない、というような顔でこっちを見ている。それは俺もだ。


「柊なんかにラブレター送るやついるなんてな。

送り主相当物好きならしいな」

「俺もそう思ってるよ」

「で、どうすんの?」


これは、OKかNOの答えなのか、それとも桜町公園に行くのかどうかなのか。


「どうすんのって言われても」

「いやいや、ちゃんと行けよ。どんなやつかは知らねぇけど。せっかく書いてくれたんだから」


正直この時俺は、本当にこれが女子の書いた文字なのかを疑っていた。もしかしたらこれを使って夜の公園に誘き寄せられて、集団リンチなんてことも、

無いとは言い切れないし。

特別俺が何かしたっていうわけじゃないと思うが、

ちょくちょく、嫌がらせの類は何度かあった。

やった本人たちは、多分俺という不幸の子を、やっつけるヒーロの気分なんだろう。

だから俺には疑いがないものだとはとても思えない。


「でも、もしかしたら、イタズラかもしれないし」

「馬鹿か、よく見ろって。何回か消した跡あるだろ、イタズラならこんなに書きなおさねぇよ」

「いや、でも男子が女子の文字に見えるように書いたってことも」

「はぁー。いいから行けよ。これは間違いなく女子の書いた文字だし、お前が思ってるようなことも多分ない。俺の勘は当たるだろ?」

「まぁ、そうだけどさ」


そうなのだ、潤の勘は何かとよく当たる。

明日の天気予報は晴れなのに潤は「雨降るぞ」

なんて言い出した時にはそんな馬鹿な、なんて思って傘を持って行かなかったら、ずぶ濡れで家に帰る羽目になったり、調べ学習の時に人数オーバーで

揉めあった結果あみだくじで決めることになったのだが、それも見事に当てたり、とにかく何かとよく当たる。


「とにかく行けよ」

「まぁ、それは分かったけど。潤が着いてくるってことはないですかね?1人だと緊張するっていうか」

「アホか、桜町公園ってあんまり人通りないところだぞ、女の子の方も色々と考えて行動してくれてるんだから、お前もちゃんとしろ」

「はいはい」


正直内心ドキドキしていた。変わり者とはいえ、

異性の存在は日々の少なからずモチベーションになっていたし、彼女なんて響きはものすごくいいとも思っていたからだ。


でも人通りの少ない桜町公園ということに、そんな意味があったなんて。知る由もなかった。






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「桜町公園ってここでいいのか」



潤に言われた通りに来てみたものの、本当に人通りがない。公園自体は薄暗いし、整備されてない草と木がしげっている。

これじゃ外からはあんまり見えないな。

夜7時ということもあって、子供の姿は見えない。

まぁ多分昼間でもあんまり人はいないだろう。

あんまり遊具とかないし、砂場とかもないし。

あるのは、滑り台とベンチとトイレ。

なのに公園自体は無駄に広い。


にしても、疲れた。結構家から遠かった。

不安と、期待が混ざっているせいもあってなのか、

心臓がバクバクしている。

少し休もうとベンチに座った。


「ふぅー」


にしてもまだなのか?

俺が着いてから、20分くらい待っている気がする。公園の近くで時計台を見たときは6時50分だった。

潤に「10分くらい遅れて相手きた」っていったら、キメ顔で「女を待つのが男だろ」なんて言われそうだ。でも、地味に似合うから腹立たしい。


その時だった。後ろの草むらからガサっと音がしたと同時に、視界が奪われた。何が起こったか全く分からなかった。呆気に取られていると、口に布のようなものが、俺の嗚咽感など気にする余地もなく、突っ込まれる。


「んぐっ!んー!んー!」


立て続けに、聴覚が奪われた。おそらく硬い物が入ってきたから耳栓だったと思う。


残されたのは嗅覚と触覚それと腕と足の自由、

だったのだが、腕の自由が奪われた。

動かそうとしても動かない。俺が非力だったてこともあるかもしれないが、とにかく動かなかった。

この感触からして、おそらく人1人自体が俺の腕を抱きしめるようにして拘束しているのだと思う。

つまり単独犯じゃないってことだ。

腕が両方動かないっていう事は2人以上ということになる。


少し意識が朦朧としてきた。あまり酸素が行っていないのだろう。


次に気がついたのは冷たい椅子のような物に座っていた。中央に大きな穴が空いている。多分便座だと思う。

足全体がスーっとしている。布越しに空気が当たるのではなく、直接よるの寒さが当たっている。つまり――ズボンもパンツも履いていない。


俺は物凄く怖くなった怖くて怖くて仕方ない。

何も見えない、何も聞こえない。腕も縛られている。あるのは近くに感じる人間の気配と、女子の甘ったるい匂いだけだった。

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