第5話俺は色々と苦労する

「なぁ、トイレしたいんだけど」

「そう」


よいっしょ、と言って立ち上がった彼女を目で追う。

タンスを開けて、アイマスクらしきものと、手錠を持って戻ってきた。


「はい、少し我慢してね」


視界が暗闇で覆われる。手首にひんやりとした感触が伝わる。


「これは?」

「見ての通り、触っての通り。手錠とアイマスクよ」


そんなテレビショッピングみたいな言い方しなくても、と思うが言っても効果はないだろう。


まぁ、つまり。俺がトイレするときは常にこの状態になるってことか。


「別にこんなことしなくても」

「一応ね」

「はぁー。まぁいいや。ん」

「何かしらその腕は」

「視界もなくて腕をこの状態なんだから自分で行けるはずないだろ。あと足の鎖も外せ」

「なんて要望の多い子なのかしら」


こっちから言えば、なんて自分勝手な女なのかしら、になるんだけど。俺も人のこと言えないけど。


「ちょっと待ってね。足の鎖外すから」

「はいよ」

「んっ、んっあれ、硬い。あ、取れた」

「……」


なんか少し卑猥な感じに聞こえたのは俺だけか?

んっ、んっのところがな。

視覚がないから、聴覚が敏感になってるからか?


「ゆっくり歩いてね。間違っても今押し倒さないでね。床だと痛いから。押し倒すならベットでお願いね」

「……………………しねぇよ」


今の間は押し倒そうか悩んでいたわけじゃない。

少し学校であったことを少し思い出しただけだ。


「おい、歩きにくい。後ろから抱きつくな」

「ふふ。いいじゃない。減るもんじゃないし」

「俺は早くトイレに行きたいんだ」

「ならここで、あーだこーだ言っているのは無駄じゃないかしら」


「だから、お前が離れればいいだろ」と言おうと思ったのだが、何を言っても俺の意見は取り入れてもらえなさそうだから諦めた。


「はい、着いたよ」

「……一緒に入るとか言わないよな」

「フリかしら?」

「ちげぇよ」


視界が戻る。一番最初に入り込んできたのは、真っ白の壁。シミなんて1つもない。トイレもなかなか広い。俺の住んでいる場所のトイレ、いや住んでいた、か、とにかく、2倍くらいありそうだ。


「一応言っとくけど、ここからは出られないからね」

「だろうな」


トイレの上と左横に窓があるが、鉄格子が内側に付いているし、まず窓の鍵が見当たらない。

何のための窓だよ、と1人心の中で呟いた。


「くっそ、下ろしずれぇな」


なにせ、手首に手錠が付いているし、いつの間にか

足首にも手錠がかけられている。

下ろしにくいったらありゃしない。

ただ不幸中の幸いというべきか、今は世界が誇るジャージだ。これが制服だったら何分かけても無理だったと思う。さすがジャージ様だ。


「手伝おうかー?」

「ならこの手錠を外せ」


扉越しに文句垂れる。


「それは無理だわ。逃げたらどうするのよ」

「殺されるって分かってて、今この状況で逃げる奴なんてどこにいるんだよ」

「それもそうね。でも外さないわよ」

「さいですか」


やっと下ろせた。ズボンを下ろすのに二度手間がかかるとは。前だけ下ろせば後ろが落ちないし。

腰をぐいっと回さないと後ろまで手が届かない。

トイレをするのに下半身裸になったのはいつぶりだろうか。もし、ここで誰か入ってきたら。


「あ、下ろせたのね」

「おい。お前狙って入ってきただろ」

「だって、フラグが立った気がしたから」

「何言ってんだお前。とりあえず早く出てけ」

「むぅー」


名残惜しそうにゆっくりと扉を閉めていった。

よく見ればこっちから鍵をかけれないじゃないか。

これ、こういう事を想定して作られてるのか?

それとも、あいつがこうしたのか。

まぁ考えても分からないから無駄だ。


さて、少し1人になれたことだし、落ち着こう。

でも、いつまたあいつが入ってくるか分からないし。

あ、やばい。またフラ……


「ねぇまだー?」

「まだ!だから入ってくるな!」

「はーい」


ふぅ…………なんなんだあいつ。フラグを感知して動くとか……まぁ1つ分かった。俺が1人になる時間は限りなく少ないってことだ。あの部屋であいつが、ほぼ俺を見張ってずっとあそこにいるのか、それともカメラがあるからどこか別の部屋で過ごすのか。

まぁ今はとりあえず戻ろう。何かしら言われて、あの部屋で用を済ませろなんて言われたら、たまったもんじゃないし。


「……」


これまた1からパンツとズボン上げないだめなのか。









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「あのさ、この部屋で監禁されてるけど、何かすることとかないのか?」

「そうねぇ、貴方は何がしたい?」

「……ゲーム。あとできるなら運動」

「いいわよ。ゲームは今すぐには無理だけどね。

運動は何をしたいの?」


これといって部活にも入ってなかったから、得意な球技とかもないし、体力がずば抜けいるわけでもない。


「これといって何かしたいというものはないけど、

動きたい」

「それなら……セックスなんてどう?」

「ゴホッ!ゴホッ!ハァハァ。お、お前なんてこと言ってんだ」


びっくりすぎて入っちゃダメなところに、空気が入った。こいつなら筋トレとか言うと思っていた。

もしくは雑巾とかで掃除とかな。


「だって、動くじゃない。あれもスポーツと一緒よ。激しくすれば消費エネルギーも多いし気持ちよくもなれるらしいじゃない。一石二鳥よ」

「いや、100歩譲ってそうかもしれないけどな、いきなりにも程があるだろ」


100歩じゃ足りないか?もっと必要だな。

あ、でもこいつなかなか頭いかれてるから、何歩あっても足りないか。


「それに今更工程なんてあって無いようなものじゃない。それに貴方も男子高校生なんだからそのくらい興味があるでしょ?」

「いや、あまり興味はないんだが」

「そんな隠さなくてもいいわ」

「いや、ほんとだから」

「あ、もしかして自分が童貞だからーとか思ってるの?安心して私も処女だから」

「あ、俺童貞じゃないから」


30秒ほど、沈黙が続いた。彼女の瞳が絶望の黒さを帯びている。

今まで、軽蔑の類の感情は数え切れないほど浴びたが、絶望の感情はこれで初めてだ。

俺には今その初めて知れた感情を知れて体がゾワっとした。


「…………………………………………………は?ほ、ほんと?」


あまり思い出したくはない。今思えばかなりされていた。


「ね、ねぇ。嘘よね?」

「いいや。本意じゃないけど、多分童貞じゃない」

「どんな女?そいつ今から殺してくる」

「分からない。どんなやつかは分からないんだ」

「なに?その女を庇うの?なんで!ねぇ!」

「まてまて、俺の話を」

「ねぇ!なんで!なんで庇うの!」


今これがヤンデレか、と実感した。人を殺すなんてことは到底普通の人間じゃ出来ることじゃないが、

今のこいつは、殺すのが当たり前、というような感じが漂っている。とにかく、今俺が何を言ってもこの状況は変わらないだろう。何かこいつを落ち着かせれる何かがあれば…………あ、こいつの愛が本当に俺にあるのであれば、できる方法がある。

やっぱりゲームは偉大だな。


「ねぇ!なんでって聞いてるじゃない!ねぇ!

ねぇってんむっ!……んっ……んっ……チュッ

んあ!はぁー……はぁー……」

「プハ。やっと落ち着いたな。初めて俺からしたけど意外とできるもんだな」

「ちょ、ちょっといきなり」

「何すんだって?俺の話を聞こうとしなかったのは誰だよ」

「そ、それは。仕方、ないじゃない。だって」

「はいはい。とりあえず俺の話聞こうな」

「う、うん」

「スーハー。フーーー。じゃあ話すな。

これは中学と高校であった話だ――――――」



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