第13話 新戦組の双璧vsMASTERの双璧

 新戦組・本部ビルから一キロ離れた大通りでは、鳳城院麗華が第一遊撃部隊を、椎名真が第二遊撃部隊を率いて防衛線を構築していた。


「後方は一応、他の支部と警察部隊で張っているわ」

「なら、眼前に迫る敵に集中しよう」


 そんな会話をしていると、MASTERの構成員達が続々と大通りの奥から押し寄せてきた。


「来た……」

「全部隊、戦闘準備よ」


 真と麗華は武器を構え、第一遊撃部隊員は刀を抜き、第二遊撃部隊員は祐美に番える矢に闘気を纏わせた。


「弓使いと長刀使い……」

「油断大敵だな」


 無数の軽トラックで迫りくるのはMASTER第一師団と第二師団、その先頭車の荷台には、新見安正と狭山剛太郎が乗っていた。


「第二遊撃部隊っ、迎撃開始っ‼」(貫鉄連閃‼)


 真と部下達は迫りくるトラック目掛けて闘気を纏う意思やを放ち、風の闘気による真の貫鉄連閃がそこに苛烈な追い討ちを仕掛けた。


「退避っ‼」


 安正の指示で、全てのトラックが道路の左右に散開し、荷台の構成員達も飛び降りつつボウガンに闘気を纏わせて矢を放ち、第二遊撃部隊を各個に迎え撃つ。


「続けぇ‼」


 続く剛太郎の指示の下、全部隊が刀や鉈に闘気を纏わせて突撃を開始する。


「こちらも迎え撃つわよっ! 真達は援護をっ!」


 真達に指示を出しつつ、麗華達第一遊撃部隊は突撃を開始した。


「私に続いてっ‼」(白鳳斬‼)


 長刀に纏わせた光の闘気を刃状に前方に飛ばし、続けて第一遊撃部隊員も同様に闘気の刃を飛ばす。


「ぐあああっ‼」

「うげっ‼」


 麗華達の闘気の刃の餌食となる構成員達。


「散開しつつ、迎撃ですっ‼」(無明散華‼)


 安正は卓越した体術で次々とかわし、跳躍しつつ斜め下に風の闘気を纏わせたレイピアで生成した槍を無数に飛ばす。


「狙い撃つ……‼」(貫鉄連閃‼)


 後方で真の声が轟くと同時に、無数の闘気の矢が安正の闘気の槍を全て粉砕する。


「剛太郎っ‼」

「分かってる‼」(剛毅列炎‼)


安正の合図を待たず、既に炎の闘気を纏わせた砕棒を振るい、前方に巨大な炎のリングを形成して豪快に飛ばす。


「させないっ‼」(貫界一閃‼)


 後方で視認した真が破界の風の闘気の矢を放ち、螺旋状に空間を斬り裂いて炎のリングと激突する。巨大な爆音が轟き、爆風が塵と共に辺りに吹き荒ぶ。


「隙あり、ですよっ‼」


 爆風を斬り裂き、破界の風の闘気を纏わせたレイピアを猛烈な速度で突き出す安正が現れる。


「はぁ‼」


 即座に麗華は反応して破界を発動、風の闘気に切り替えつつ安正の突きを峰で擦るようにいなし、そのまま猛烈な攻防へと突入した。


(突きの精度は私や総ちゃんを遥かに凌駕している。身のこなしに判断力も高い)


 打ち合いの中で、麗華は安正の技量に驚きを隠せなかった。


「安正ぁ‼」


 すると二人の間に、安正が炎を纏う砕棒を飛び掛かりながら振り下ろした。


「退避っ‼」


 反応した麗華は、まるで薄氷の上を華麗に滑るフィギュアスケーターのように真のいる場所まで離脱した。第一遊撃部隊もそれに続いて左右に散開して事なきを得た。


「長刀使いのみならず、部下達もやりますね……‼」


 麗華と部下達の動きを称賛する安正。


「連中の隊服を見ろ……」


剛太郎は麗華の率いる部下達の隊服を指さす。彼らの隊服は黒地に白のダンダラ模様がある。


「……まさか」

「あっちもだぜ」


 更に剛太郎は別の隊員を指さす。背を向けているが、そこには白いラインで狼のペイントが刻まれていた。


「肝心の黒狼がいないってことは……」

「二人の戦いが始まりますね……」


 二人は、翼と総次の戦いが近いことを感じ取った。


「流石に君が指揮していただけあっていい動きだ」

「でも、私自身は鈍ってるわ」


 そう言って真の称賛に謙遜する麗華。


「でもあの二人、修一達が苦戦するのも分かるよ。君が汗だくになるんだもの」

「そうね……」


 真の指摘通り、麗華の頬には数敵の汗が伝っていた。


「龍ノ宮先輩との稽古以来かな?」

「いえ、東京襲撃の時以来ね……」


 麗華はその時、沖田総一の部下の粘り強さに微かな苦戦を強いられた。その時の記憶は彼女に深く刻まれていた。


「去年と言い今年と言い、強敵のオンパレードだね」


 改めて真は、これまでと状況が大きく変わっていることを自覚した。


「……敵の力は見事だね……」

「連携もしっかりしてるわ」


「レイピアの方は機動力、ハンマーの方はパワー。厄介だね」


 次の矢を番えながら涼しい表情で語る真。


「……相変らず真は、疲れとは無縁ね……」


 対照的に汗を流すこともなく涼しい表情の真に、麗華は悔しそうに振舞った。


「随分と余裕ですね、ご両人」


 そんな二人に、安正は多少大きな声で話しかけた。


「あなた達にはそう見えたのね?」


 汗を拭いながら麗華が応える。


「これまで私達と戦った方々の中でも、殆ど疲労を見せていない。大したものですよ」

「MASTERの要注意人物リストに名を連ねているだけある」


 真はともかく、麗華は一番隊組長兼任時代より多少戦闘勘が鈍ってるが、それを剣腕で辛うじてカバーしていた。それでも彼らから称賛されるだけの力を持っていた。

 

 真も第二遊撃部隊長として、弓神の異名の如く数多の敵を射抜いてきた技量と新戦組随一の闘気コントロール能力は、MASTERにおいて今もなお脅威だった。


「長刀使いの麗人にも弓使いには我々も随分と同志達を仕留められました」

「称賛は有り難いわ。でも幸村翼の同志は本当に多士済済ね」


 麗華が二人にそう言った瞬間、二人の表情が微かに変わった。


「何も知らないと、そう思うのが必然ですか……」


 眼鏡の位置を左の中指でクイっと直しながら安正が言った。


「どういうことかな?」

「私と剛太郎は、彼を利用してるだけです」


 尋ねた真は少々意外そうな表情になる。


「私の大義は、大師様の掲げる大義とは違います」

「では、あなたの大義とは?」


 麗華は長刀の切っ先を付きつけながら尋ねた。


「……一握りの天才と、不断の努力で力を得た凡人の支えによる国家統治」


 説明を始めた安正に、剛太郎は深々と一回頷いた。


「天才と凡人による統治?」

「天才は常に新しい道を切り開ける者こそ、新時代を司る者となる」

「あなたがそれだって言うの?」

「無論です」


 安正の指摘に、麗華は頷かざるを得なかった。先程までの戦いの中で、安正の力は、確かに天才という言葉に値するものがあったことは、否定できない事実だった。


「ですが、天才は能力では比類ない者がありますが、精神的に脆い。そして脆い人間ほど、弱点を突かれるとあっさり瓦解します。それを支えるのは、凡人なのです」

「凡人は天才を支えるだけの駒って事?」


 麗華は不愉快そうな表情で尋ねる。しかし安正から帰ってきた言葉は意外なものだった。


「違います。天才の持ち得ぬ力がある。これは貶せない力です」

「天才の心を支えるのは、凡人の役割、無数の凡人あってこその天才ってことだ」


 補足するように話す剛太郎に、安正は頷きながらこう続けた。


「そして天才もまた、凡人達から学んで成長できるものです」


 あまりに意外な答えに、麗華も真も少々拍子抜けした。天才は凡人を見下すものだと思い込んでいたからだ。


「驚いたよ。まさか天才が凡人をそこまで評価するとはね」

「私も、凡人にしてやられ続けた一人ですからね」


 そう言いながら安正は剛太郎の方を見つめた。


「……安正。そろそろ本気を見せてやろうぜ」

「無論です……‼」


 その瞬間、安正の全身から黄緑色の闘気が凄まじい勢いで解放された。


「破界の風の闘気……」

「ええ。そしてもう一人も……」


 解放された破界を冷静に分析する真と麗華をよそに、剛太郎の全身からも眩いオレンジ色の輝きを放つ炎の闘気が解放される。放たれた破界の炎の闘気が砕棒に纏わされていく。


「ここで私と長刀使いの戦闘妨害の阻止を」


 安正のレイピアにも、黄緑色に輝く破界の風の闘気が集約され、眩い刃を形成した。


「務め、果たすぜ……‼」


 剛太郎は頷いて受諾した。


「……麗華。僕らも」


 真も彼らに合わせるように、黄金色に輝く破界の光の闘気と、黄緑色に輝く破界の風の闘気を同時に全身から解放する。


「勿論よ……」


 同時に麗華も、七色に輝く混沌の闘気特有の現象を巻き起こしながら破界を解放した。


「本気、ですね……‼」

「こっから本番だ……‼」


 そう語り合った刹那、安正と剛太郎は麗華達目掛けて突撃を開始する。


「我々も続けぇ‼」


 構成員達も剛太郎と安正に続き、闘気を武器に纏わせながら続いた。


「真っ‼」

「撃てっ‼」(貫鉄螺閃‼)


 麗華の合図を受けた真の号令の下、彼に続けて無数の闘気の矢を安正達に雨あられの如く放った。


「俺がやるっ‼」(剛毅連炎‼)


 安正に先行し、砕棒をバトンのように回転させ、発生した複数の炎のリングを飛ばして矢を焼き払っていく。


「突っ切りますっ‼」(無明の一太刀‼)


 黄緑色を纏うレイピアの一閃が、突撃する麗華を襲う。


「その程度なら……‼」(白鳳閃‼)


 麗華が白鳳斬を突きで繰り出す技・白鳳閃を風の闘気を纏わせつつ繰り出すと、直後に二つの技が激突、爆発と爆風が巻き起こる。


「混沌の闘気でここまで対抗するとは流石ですね。技術も見事です」


 麗華の技と闘気の双方を称賛する安正。彼の言う通り、闘気に加え、技の威力・キレも技の強弱も関係する。麗華の白鳳閃は、純粋な威力で安正の技を凌駕していたのだ。

 麗華が安正の死角に斬撃や突きを繰り出せば、安正はひらりひらりとかわし、時にレイピアの平面で滑らすようにいなし、安正が麗華に突きを繰り出せば斬撃で受け流され、しかし目にも止まらぬ速さで二ノ太刀を繰り出して対処する。その攻防は、いつ果てとなく続いた。こちらの方はそう簡単に決着がつくことはないだろう。


 しかし、尚も突撃を掛ける剛太郎の方は別だった。剛力から繰り出される高威力の炎の輪が新戦組と警察に次々と命中し、死体の山を築き上げていた。


「並の威力だと潰されてしまいますね」

「でも機動力はないね。攻撃を続けるよ」


 困惑する遊撃部隊員に優しく語り掛ける真。このような状況でも冷静なのが、彼の最大の強みともいえる。


「局長が彼を抑えている間に仕留められますか?」


 剛太郎に狙いを定めながら、真は隊員の言葉に頷く。


「君達は取り巻きを仕留めて、終わったら僕と一緒に仕留めるよ」(貫鉄螺連閃‼)

「「「「了解っ‼」」」」」


 味方の乱れ撃ちに合わせ、真は貫鉄連閃に螺旋効果を付与して貫通力を高めた矢を凄まじい勢いで剛太郎達に浴びせる。


「乱れ撃ちに螺旋効果……迎撃っ‼」(剛毅豪炎斬‼)


 師団員達の遠距離闘気攻撃と同時に、剛太郎は砕棒から巨大な炎の刃を放つ。


「ぐっ‼」

「抑えきれないっ‼」


 真の貫徹螺閃に次々と構成員達を討たれる剛太郎。


「侮り難いっ‼」


 それでも剛太郎は持ち前の力と闘気で難なくそれらを焼き払っていくが、先程よりも微かに苦心している様子が見て取れる。


「やはり彼は特別だね……‼」(貫鉄螺連閃‼)


 冷静さを失うことなく更に矢を放つ真。その矢には、黄緑色に輝く風の闘気に加え、黄金色に輝く光の闘気も巻き込まれていた。


「猪口才なっ‼」


 砕棒を振るって安正の戦いへの妨害を阻止し続ける剛太郎だが、遂に動き出した。


「俺が露払いするっ‼ その隙に近づけっ‼」


 剛太郎の指示の下、構成員達は一斉に真達に突撃を掛ける。


「やはり接近戦を挑む気だね……」

 そう言いつつ、矢を番える真。


「近づけさせませんっ‼」


 それに続き、再び矢の雨を叩きつける遊撃部隊員達。


「焼き尽くすっ‼」


 炎の砕棒を振り回せば、次々と闘気を纏う矢が焼かれていく。しかし真が放った矢だけは、簡単にそうはいかなかった。


「師団長‼」

「分かってるっ‼」


 剛太郎はそう言うが、光の闘気の爆発力も加わっている為、破壊力は段違いだった。


「吹き飛ばすっ‼」(剛毅大炎‼)


 砕棒の大振りが巨大な炎の渦を生み出し、風と光を纏った矢を悉く爆裂させるが、並外れた闘気コントロール力を誇る真の矢の数本は、それを貫通して二十人以上の構成員達を貫き、光の闘気で爆死させた。


「貫通力が桁違いか……‼」


 並走する部下達が命を落とす中、炎の渦の勢いを増しながら突き進む剛太郎。


「また炎の勢いが増している……‼」

「司令官っ‼ 何故貫界一閃を使わないんですっ⁉」


 貫界一閃は、真の使う技の中でも奥義であり、その貫通力と破壊力は極めて強大なもの。闘気も多量に使うが、その威力は他の貫鉄閃を遥かに凌駕する。

 一年前の東京襲撃の時は、この技を沖田総一の幹部を討ち取る布石とする為に敢えて外したので、対人戦闘で決まったのは山根義明との戦ったの時が久々だった。表向きな活動が出来なかった時代、この技を切り札として用いていた。


「援護があればともかく、あれは一番コントロールが難しいんだよ」


 苦笑いして答える真。彼はこの状況で使わないのではなく、コントロールが難しく使いづらいのだ。距離を取って部下達の矢で敵の足を止め、時間を稼ぐやり方もあるが、剛太郎達の勢いがそれを許さなかった。


「……我々が囮になります」

「えっ?」


 すると隊員の一人が、覚悟を決めたような表情で提案した。


「我々は闘気を最大限に発動して狙撃を行います。司令官はその隙を付いてください」

「つまり、闘気が空になることを覚悟でってことかい?」


 真にそう言われ、隊員達は無言で頷いた。


「……覚悟、したんだね?」

「はい」

「命を粗末にする行為だってのは、承知の上だね?」

「その上でのことです」


 曇りのない、真っすぐな瞳で答える隊員に、遂に真は決断した。


「……頼むよ」

「「「「「了解っ‼」」」」」


 真の許可が下りたと同時に、隊員達は一斉に剛太郎達目掛け、持てる闘気の全てを込めて矢を発射した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る