第12話 死ぬ覚悟 生きる覚悟

「来たぞっ‼ 左右から挟み撃ちにしろっ‼」(虎爪滅却‼)


 他の二人に命じつつ、夏美達目掛けて二つの風の爪を飛ばす八坂。


「任せてねっ‼」(攻防乱‼)


 鋼の闘気を流しこみ、迫る風の爪を次々と薙ぎ払う紀子に続き、今度は勝枝が仕掛ける。


「はぁ‼」(十字豪炎撃‼)


 迫る八坂に、炎と共に薙ぎ払いを掛ける勝枝。

 それを八坂は飛び上がってかわし、斜め上から攻撃を仕掛ける。


「あたしがやるわっ‼」(女豹白炎乱舞‼)


 勝枝の袖から夏美が飛び出し、八坂の鉤爪をトンファーで受け止める。


「すばしっこいわねっ‼ あんたは‼」

「総ちゃん程じゃないけど、速さには自信があるのっ‼」


 そのまま夏美は、トンファーに纏わせる白炎の勢いを上げ、八坂を押し込みにかかる。


「でも、あたしだって……‼」


 すると八坂は、下半身に力を入れ、反動をつけて夏美を押し返した。


「冬実っ‼」

「うんっ‼」(水姫妖流‼)


 直後、冬美のパラソルから巨大な藍色の渦が放たれ、八坂に襲い掛かる。


「八坂っ‼」


 その瞬間、八坂の前に瀬里奈が飛び出し、風を纏うサーベルで藍色の渦を斬り裂いてしまった。


「そんな……⁉」


 破界の力で放った技が、あっさりと破られたことに動揺を隠せない冬美。


「ならばっ‼」(水曝麗蝶‼)


 だが直後にパラソルでで巨大な藍色の水の蝶を四十体生み出す冬美。


「こいつは……⁉」


 そのあまりの量と規模に、アザミは戸惑いで身動きが取れなくなった。


「隙ありっ‼」(十字火炎撃‼)


 その隙を見逃さず、八坂はアザミへの迫撃し、冬美も四十体の藍色の水の蝶を、アザミ達の四方八方へと飛ばした。


「ちょ、これって……‼」


 あまりの規模に戸惑うアザミ。


「危ないっ‼」(虎爪滅却‼)

「アザミっ‼」(聖剣乱撃‼)


 戸惑うアザミを庇うかのように、八坂と瀬里奈が同時に技を放ち、周囲の藍色に輝く水の蝶を斬り裂いた。


「無駄よ……‼」


 冷たい冬美の言葉と共に、八坂達の周囲を飛び交う藍色の水の蝶が、更に勢いを増して襲い掛かる。


「仕方ない……‼」


 すると八坂の周囲に、強烈な風の闘気が暴風と共に巻き起こる。


「瀬里奈、アザミ。全ての闘気を解放するぞ‼」

「「ええっ‼」」


 直後、アザミと瀬里奈の全身から、八坂と同じように闘気が巻き起こる。


「全力で来たわね……‼」

「うん……‼」


 勝枝も夏美も、彼女達の覚悟を感じ取っていた。


「翼の創る未来へ辿り着くぞっ‼」

「「ええっ‼」」


 八坂と共に、アザミ、瀬里奈が次々と猛烈な勢いで新戦組の部隊に突撃する。

 八坂が鉤爪を振るって勝枝に突っ込み、一瞬で彼女を押し込んだ。


「ぐあああっ‼」


 あまりの勢いと力に、勝枝は悲鳴を上げる。


「続くわっ‼」(聖剣豪閃‼)


 風と炎を纏うサーベルを突き付け、超高速で紀子目掛けて駆け抜けたのは瀬里奈だった。


「ぐっ……‼」(攻防乱‼)


 辛うじて十八番のカウンター技でサーベルを弾くも、鋭く力強い突きに、紀子も怯んだ。


「これがこいつらの本気ならば……‼」


 八坂に押し込まれなが、勝枝の身体から光と炎の闘気が放出され、白虎に纏わされていく。


「だったら、アタシもだっ‼」(十字爆炎撃‼)


 闘気を解放し、足腰に力を込めて前へ踏み出す。


「そのくらいで、アタシを止められると思わないでよっ‼」


 八坂はそこで、猛烈な勢いの連続攻撃を繰り出し、勝枝を吹き飛ばしてしまった。


「ぐあああっ‼」


 吹き飛ばされ、アスファルトにドッと叩き落された勝枝。そんな勝枝に、八坂が迫る。


「あたしだってっ‼」


 夏美もトンファーに纏う炎の温度を上げてアザミを追い詰めに掛かり、それを阻止すべく、猛烈な風の闘気の勢いと共に、夏美へ猛ラッシュを繰り出すアザミ。


「アタシは、翼の為に、命を投げ出したってかまわないっ‼」(スパイラル・ストリーム‼)


 命を捨ててでもというアザミの決意が、巨大なかまいたちとなって夏美に襲い掛かる。


「きゃあ‼」

「吹っ飛べぇぇえ‼」


 猛烈なかまいたちの嵐は、夏美から力を奪い、膝をつかせる。


「……私は生きるの……」


 直後、夏美は必死の形相で立ち上がり、一歩ずつ歩き出し、徐々に加速していく。


「はぁぁあ‼」


 両腕と両脚に力を込め、双方のトンファーを左右に振るい、吹き荒ぶかまいたちの嵐を薙ぎ払った。


「嘘っ……‼」


 突然のことに、アザミは驚愕と困惑の表情になる。その隙を夏美は逃さず、斬り裂かれた全身の痛みに堪えながら走り出し、そのまま力いっぱいトンファーを振りかぶる。


「あたしは総ちゃんと一緒に生きるっ‼ 絶対に死ぬ訳にはいかないのっ‼」


 その言葉と共に放たれた右手のトンファーの一撃で、アザミの右手のバトンが弾き飛ばされた。


「なっ……‼」

「あたしは、あの子と生きる覚悟があるのっ‼」


 続けて左手のトンファーで、アザミを更に追撃する。


「きゃああ‼」


 もう片方のバトンで防ごうとしたが、それも弾き飛ばされたアザミ。その勢いはアザミの身体をも吹き飛ばす程だった。


「このっ……‼」


 あまりの力と、バトンを弾き飛ばされた反動で腕にダメージを抱えたアザミ。既に立ち上がる力もなく、限界まで闘気を引き出した為なのか、体力をも使い切ってしまったようだった。


 そのまま夏美は、その場にどっと倒れてしまった。彼女もまた、限界だったのだ。


「……翼……」


 力尽き、涙を流すアザミ。


「アザミっ‼」


 意識を失ったアザミを目の当たりにし、叫び声を上げる八坂。


「よそ見してる場合かっ‼」


 その隙に、勝枝が力強く十字槍を振るい、八坂を追い詰めに掛かる。


「八坂っ‼」


 直後、紀子との戦いを中断した瀬里奈が八坂の援護に入る。


「させないわっ‼」(水曝麗蝶‼)

「勿論よっ‼」


 間を与えずに、冬美が大技を繰り出し、護りに徹していた紀子も流麗を振るって追撃を掛ける。


「これしきっ‼」(虎爪大滅却‼)

「斬り裂くっ‼」(聖剣乱撃‼)


 両手の鉤爪を纏う風で、無数の蝶を斬り裂く八坂と瀬里奈。


「はぁ……はぁ……」

「おのれ……‼」


しかし二人は技を繰り出すたびに、肩で息をし始めていた。徐々に力が失われているのは誰の目にも明らかだった。


「お前ら、闘気量を無理やり引き出してたな?」


 それを見て、勝枝は確認するように尋ねた。


「それは自分の体力を大幅に使う諸刃の剣よ」

「くっ、それでも私は……‼」

「ええ。アタシ達は……‼」


 尚も瀬里奈と八坂は、全身から迸る闘気の勢いを殺さず、ふらつく足に喝を入れて立ち上がり、得物を構える。


 一方の勝枝と紀子も、既に体力が尽き掛けており、得物を持つ手が力のなく震えていた。


「冬実。闘気は?」

「まだ大丈夫です。ですが、次で決めます」


 冬美は覚悟を決め、次の攻撃の準備を始めた。


「……行くぞっ‼ 瀬里奈っ‼」

「ええっ‼」


 ふらつきながらも、得物を振るい、突撃を掛ける二人。


「はっ!」(水曝麗蝶‼)


 向かってくる八坂達の周囲に三十体以上の藍色に輝く水の蝶を襲わせる冬美。


「翼の切り開く未来をっ‼」(虎爪大滅却・飛翔‼)

「必ず手に入れるんだっ‼」(聖剣襲撃‼)


 互いに最強クラスの技を放ち、迫る水の蝶を次々と破壊していく。


「まだここまでの力があるのか……」

「体力がない筈なのに、ふらついていた脚を一瞬で整えたわね……‼」


 戸惑う勝枝と紀子に瀬里奈と八坂が急接近し、持てる全ての力を籠めた一撃を繰り出す。


「食らえぇえ‼」(真・虎爪滅却‼)


 勝枝の緑に輝く鋭い風の爪が、勝枝に襲い掛かる。


「ぐあああっ‼」


 不意に十字槍を構えて防ぐ勝枝だが、予想外の力に押し込まれる。


「勝枝ちゃんっ‼」

「これで終わりよっ‼」(聖剣一閃‼)


 勝枝に気を取られ、防御が遅れてしまった紀子。不意討ち気味の瀬里奈のサーベルの一閃を受け止めるも、その速さと鋭い太刀筋に、限界の紀子の体力では持ちこたえられそうになかった。


「「これが、あたし達の力だぁああ‼」」


 心からの叫びと共に、前へ踏み出す八坂と瀬里奈。


「……それでも……‼」


 その瞬間、勝枝が静かにつぶやく。


「あたし達はぁぁあああ‼」


 勝枝の全身から、炎と光の闘気が迸る。


「死ぬ訳にはいかないんだぁあ‼」


 そのまま盛り返し、八坂の鉤爪を押し込んでいく。


「私も、保志さんと一緒に、これからを生きていきたいのっ‼」


 紀子もまた、瀬里奈のサーベルの一撃を、渾身の力で徐々に上に持ち上げていく。


「負けないっ‼」


 意地と共に、紀子の反射を阻止せんと両足に力を籠める瀬里奈。

 両者の技が拮抗する。


「お前らの未来なんか、あたし達の未来には遠く及ばないんだっ‼」

「それでもっ‼」


 八坂の言葉をそう返しながら、全身から迸る二つの闘気を十字槍に纏わせる勝枝。それに伴い、八坂はその力強さに驚き、押し込まれ続けてしまう。


「アタシ達は生きなきゃいけないの‼」

「それが私達の力の源っ‼ 未来を切り開く力なのっ‼」(攻防乱‼)


 全身全霊の力で、。


「きゃああ‼」


 渾身の力で放たれた攻防乱で、瀬里奈は五十メートル以上も吹き飛ばされ、そのまま気を失ってしまって倒れてしまった。

 彼女の手にしていたサーベルも、刀身が砕け散ってその場に転げ落ちた。


「瀬里奈っ‼」

「よそ見、してる場合かっ‼」


 瀬里奈の敗退に動揺する八坂に、更に力を押し込む勝枝。


「ぐっ、赤狼七星の双璧として、こんな所でぇ‼」


 喉が枯れんばかりの叫び声を上げ、同時に、渾身の力で前へ踏み出し、両腕に力を籠めて勝枝を押し込んだ。


「しまっ……‼」

「そこぉぉお‼」


 体勢を崩した八坂だが、右腕の鉤爪がヒョウっという風切り音を上げる。


「くそっ……‼」


 とっさに十字槍を前に出し、鉤爪の一撃を受け止める。


「ぐああああっ‼」


 その瞬間、爆発と共に勝枝の十字槍が砕け散り、爆風に身体を煽られて勝枝が吹き飛ばされる。


「勝枝ちゃんっ‼」


 その勝枝を紀子が全身で受け止め、そのまま吹き飛ばされた。


「紀子さんっ‼ 勝枝ちゃんっ‼」


 二人が一瞬で倒された光景に、冬美が叫ぶ。


「ぐっ……‼」


 八坂の右腕と右脚から大量出血し、道路に血飛沫が飛び散る。限界を超えた闘気の開放が負担をかけたからだ。


「何があろうと、アタシは……‼」


 尊と並ぶ、赤狼七星の双璧としての意地で前へ進む八坂。その姿は、まるで鬼神を想起させるものがあった。


「そんな……」


一歩、また一歩と自分へ近づいてくる八坂。

そんな八坂を前に、冷や汗をかきながら後ずさる冬美。既に闘気も尽きてしまっている以上、戦う力は残されていない。


「もう、ここまでなの……?」


 万事休す、そんな感情が冬美の表情に現れた。その時だった……。


「冬美っ‼」


 冬美を呼ぶ声と共に、ヒョウっと空を貫く音が聞こえ、八坂の頬を掠めた。


「何っ⁉」


 突然のことに驚きつつ振り向く八坂。


「遅れてごめんっ‼」

「すみませんでしたっ!」


 そこには、ボウガンを構えた麗美と、大太刀を道路に突き立てた哀那が、警察の増援と共に駆け付けていたのだ。


「麗美ちゃん……哀那ちゃん……」


 遂に到着した来援に、冬美は全身から力が抜けたようにその場にへたり込んだ。


「遅過ぎんだよ、お前達は……」

「申し訳ありません。道中で敵軍と遭遇してしまい……」

「半分味方を裂いてここまで来たんです」


 そう言う二人の服は、それまでの苦戦を物語るように汚れていた。


「冬美。幹部連中は、生け捕りにするように警備局長から命令が出ている」

「こいつらの組織について出来る限り多い方が得られる情報が多くなるからね」


 そう言いつつ、既に哀那と麗美は得物を構えて八坂を迎え撃つ態勢を整えていた。


「アタシ達を舐めるなぁ‼」(虎爪滅却‼)


 全力で繰り出された必殺技。


「ふんっ‼」


 だが放たれた風の闘気の爪は、哀那の闇の闘気を纏う大太刀の一振りによって両断されてしまった。既に技の力が失われていたようだった。


「こ、このっ……‼」


 そのまま八坂はその場に倒れ込み、気を失った。

 その直後、彼女の背後を取った麗美が、彼女の意識を確認した。


「……流石に闘気の使い過ぎみたいね。まあ、だからこそ勝枝さん達を追い詰められたんだろうけど……」


 そう言いながら、麗美は彼女を抱えた。


「麗美、ありがとう」

「いいってことよ。それよりも……」


 そう言いながら、麗美は哀那と共に背後を振り返る。

 先程まで警察や隊員達と戦っていた構成員達が、悔し気な面持ちで哀那達を睨んでいた。


「まだ戦う?」

「大師様の志の為ならっ、この命っ、惜しくはないっ‼」

「「「「「オォォォォオ‼」」」」」


 恐怖を振り切るように、構成員達は気力だけで哀那達へ襲い掛かる。


「麗美っ‼」

「ええ。分かってるわっ‼」


 隊長が戦闘不能になっても、尚も戦い続ける彼らの気迫に驚きながらも、八坂達は率いてきた警察官や隊員達と共に、構成員達の迎撃に入る。だが既に構成員達の戦闘力は衰えており、一方的に蹂躙されるだけだった。彼女達の周りには、同志達の死体が無数に転がることになった。


「……哀那、あの……」

「言わないで……」


 降伏勧告をしても尚、まるで死を恐れない戦いぶりを見せた構成員達の姿は、彼女達に一種のやるせなさを抱かせた。



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