第14話 貫く思い
「また来やがったっ‼」
「叩き潰しますっ‼」
剛太郎に続く構成員達は得物を振るって第二遊撃部隊が放った矢を斬り裂かんとする。
「ぐあっ‼ 武器がっ‼」
斬り裂かんとした光を纏う矢は、構成員の刀の刃を爆発で吹き飛ばす。
「怯むなぁ‼」
剛太郎の砕棒だけはそうならずに済んだが、それでも足止めを食らっていた。
「司令官っ‼」
「もうすぐだから……」
真の弓に番えられた矢には、多量の破界の光と風の闘気が螺旋状に絡み合い、周囲に突風を巻き起こしていた。
「来るぞっ‼」
風のする方向へと剛太郎は突き進み、真の技の発動を阻止しようとする。
「よしっ! 遊撃部隊っ‼ 左右に散開っ‼」
真の指示の下、遊撃部隊員達は真の左右を切り開く。
「潰すっ‼」(剛毅豪炎輪‼)
巨大なオレンジ色のリングを砕棒を振るって飛ばした。巨大なオレンジ色の炎の輪は、多量の火の粉を勢い良くあたりに撒き散らしながら、真達第二遊撃部隊に迫る。
「司令官っ‼」
「大丈夫だよっ‼」
動揺する味方の声をよそに、全身から放出した莫大な量の二つの闘気が、螺旋状に鋭く、そして細く番える矢に収束する。
「麗華っ‼」
「うんっ‼」
射線範囲で安正と戦う麗華に声を掛ける真。
「安正っ‼ 離れろぉ‼」
「ぐっ‼ ええっ‼」
安正もまた、剛太郎の声に応え、射線予測範囲から離れる。
「決めるっ‼」(貫界一閃‼)
強弓を引く音と共に、真の矢が放たれる。矢は空を螺旋状に穿ち、周囲の構成員を巻きこみながら、オレンジ色の炎の輪とぶつかる。
炎の輪と螺旋の矢の威力は互角、と見えたが、五秒の衝突の後、矢は炎の輪を貫き、剛太郎へ猛スピードで向かう。同時に、巨大な炎の輪もはじけ、左右に避けた隊員達にぶつかり、焼け死んでしまった。
「ちっ……‼」
それを目の当たりにし、真は唇をかみしめる。
「ぐっ……‼」
だがその刹那、剛太郎の胸部が貫かれ、そのまま空間ごと螺旋状に回転する矢によって両断されてしまった。矢はそのまま後方の構成員達を巻きこみ、やがて巨大な黄金色と黄緑色が絡み合う竜巻となって消滅した。
「……剛太郎、様……」
両断され、息絶えた剛太郎の死体を目の当たりにし、動揺する構成員達。
「剛太郎……」
安正もまた、眼鏡越しに変わり果てた剛太郎の姿を見て、静かにつぶやいた。
「……どうするのかしら?」
そんな安正に、麗華は切っ先を向けながら冷徹な声で尋ねる。
「……そうですね……」
すると安正は、静かに立ち上がり、再びレイピアを構える。
「剛太郎の言う、悪あがきって奴を……」
レイピアに、凄まじい勢いで破界の風と光の闘気が纏わされる。
「してみましょうかね……‼」
「えっ……‼」
麗華が長刀を構えた直後、風に光を巻きこんだ闘気の槍が襲い掛かる。
「ぐっ‼」(白鳳斬‼)
即座に白鳳斬の右薙ぎを繰り出すが、安正の接近を許し、麗華と斬撃の応酬となった。
「麗華っ‼」
突然のことで反応が遅れた真が叫ぶ。
「何て、勢い……‼」
戦いつつ、凄まじい爆発力で、先程とは比較にならない気迫と技を繰り出し続ける安正に、麗華は押され気味になった。
「剛太郎と出会わなければ、この力を引き出せなかったでしょうね……‼」
そう語る安正の技の冴えは、斬撃の度に増していく。
その刹那、安正の鋭い突きが麗華の右肩に迫る。
「ならっ‼」
身体を傾けてかわし、破界の炎の闘気を纏う長刀で安正の右腕を斬り落とさんと振り下ろす麗華。
「まだですよ……‼」
それをレイピアでいなし、更に鋭さとスピードが増した突きを喉笛に繰り出す安正。
「力も上がっている……‼」
一切引くこともせず、その力と勢いは増す一方の安正。
「彼と、約束したんです。悲願を成就させると……‼」
安正のその言葉は、静かながらも覇気を感じさせるに十分なものだった。
「絶対に負ける訳にはいきません……‼」
「くっ……‼」
その勢いに押され る麗華。
「麗華っ‼ 僕も……‼」
「彼は私が討つわっ‼」
「でも……‼」
「場を混乱させるわけにはいかないわっ‼」
麗華の指摘は決して間違いとは言えなかった。麗華と安正が密着状態にあり、また敵の構成員達も一切の手出しをしていないとなると、二人が一騎討ちで決めることを考えているのは一目瞭然である。
弓使いの二つ名を頂く真であれば、そんな状況や言葉を並べ立てられても無理やり介入するが、これは精神的な部分にあるということを悟った。故に手出しをせず、新戦組局長としての麗華をどこまでの信じ抜く決意を新たにした。
「私は死なないわっ‼」
心配を掛けまいと真にそう言った麗華。
「その余裕がどこまで続きますか……ねっ‼」
その瞬間、安正の突きが麗華の頬を掠める。
「くっ‼」
「まだまだっ……‼」
続いて右肩、続けて左足と、麗華の身体に着実に斬撃を加えていく。
「その程度で倒れる、私じゃないわっ‼」
流血し、激痛に苦しみながらも攻撃を繰り出す麗華。可憐な姿と卓越した剣腕を振るう彼女のその姿は、まさに新戦組局長としての風格が滲み出ていた。
「ならばっ……‼」
隙を付かんとする安正の突きが、今度は麗華の右脚に直撃する。
「きゃあっ‼」
太ももを深く貫かれ、その激痛に悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちてしまった麗華。
「はぁ、はぁ……」
安正も、休むことなく断続的に畳みかけた攻撃によって体力を多量の消耗し、その場で体勢を崩しつつ、肩で息をしていた。
「麗華も限界が近いね。でもそれは向こうも同じらしいね……」
未だかつて見たことのない麗華の姿を目の当たりにしつつ真は安正に視線を移す。
「……決着の、時かな……」
そう語る真の額から、いつになく多量の冷や汗が流れる。
「そろそろ、終わりにしないといけませんね……‼」
道路に突き立てたレイピアに纏う破界の風の闘気の出力を上げ、それを引き抜く安正。
「……ここまで追い詰められたのは、先輩との戦い以来ね……‼」
麗華もまた、傷ついた身体に鞭打ってゆっくりと立ち上がる。
「くっ……‼」
太ももに走る激痛に、思わず声を漏らす麗華。
「まだ、まだよ……‼」
その麗華の長刀を纏う炎の闘気が、今度は雷の闘気へと切り替わり、破界の特色である紫電を放つ。
「……この力。今まで以上の力を感じる……‼」
離れていても、安正には麗華の力がこれまで以上に上がっていることを感じ取れた。それだけの気迫と闘気出力を、麗華は見せていたのだ。
「はぁぁぁあ‼」
バチィ‼ という音を轟かせる長刀を、麗華は猛スピードで間合いを詰め、飛び上がって安正の頭上を取る。
「こちらも……‼」
レイピアを斜め上に構え、迎撃態勢を取る安正。
「止めぇ‼」(白鳳斬‼)
白鳳斬の唐竹割りが、安正に襲い掛かる。
「終わりです……‼」(無明の一太刀‼)
これまでにない力を込めた安正の突きが、白鳳斬を迎え撃つ。
二つの技が激突し、道路に巨大なクレーターが発生する。
「ぐっ‼」
麗華のあまりの力に押される安正。
「はぁぁぁあ‼」
技の負担で、全身の傷から更に流血する麗華だが、構うことなく更に長刀に力を込める。
「ならば……‼」
闘気出力を上げる安正。レイピアを纏う風の闘気は、更に太く、力強く光り輝く。
「くっ‼ それでも……‼」
より一層増した安正の突きに押される麗華。
「勝たなければならないっ‼」
その叫びと共に、麗華は限界以上の闘気出力と量を引きずり出し、安正を押し込んだ。
「こ、これは……‼」
安正が圧倒的な量と出力に驚いた直後、安正のレイピアの刀身にひびが入る。
「薫を支える為に、死ねないっ‼」
そのまま押し込み、安正のレイピアを破砕する。
「これが、新選組モドキの、力……‼」
そのまま安正は、麗華の紫電の唐竹割りを食らい、全身を巨大な紫電に包まれる。同時に発生した轟音と地響きに、遊撃部隊員達は耳を抑え、体勢を崩さぬようにその場に踏みとどまる。
「麗華……‼」
真もまた、麗華の技の衝撃を堪えつつ、彼女の無事を確かめ始めた。
「きょ、局長は……?」
真と共に、麗華の姿を確認しようとする隊員。
「あっ‼ あれは……」
すると第一遊撃部隊の隊員の一人が、紫電が迸る中心地点で蹲る人間がいることを確認する。巻き起こる砂埃が徐々に晴れていくと、その中から長い髪の、美しい女性の姿が出てくる。そして地面には、前進が黒焦げになった安正の亡骸が転がっていた。
「……局長が生きておられるっ‼」
それは紛れもなく麗華の姿だった。
「局長っ‼」
「ご無事でっ‼」
一目散に麗華の下へ駆けつける第一遊撃部隊の隊員達。
「安正様……‼」
「撤退だ……‼」
安正の戦死を確認し、構成員達は落胆と共に撤退を開始した。
「第二遊撃部隊。追撃の三連射っ‼」
真は味方に指示を出しつつ麗華の下へ駆けつける。麗華は心臓付近を抑えて苦しそうに悶えていた。
「ぐっ……‼」
「やはり心臓に負担が……‼」
「だ、大丈夫……ぐぐっ‼」
そのままその場に倒れ込む麗華。
「すぐに医療部隊に連れて行って!」
「了解っ‼」
真は第一遊撃部隊の隊員の一人に命令を出す。
「麗華、すぐに医療部隊の所へ行くから、応急処置は済ませる……‼」
「う、ううん……」
麗華は力なくそう答えるのみだった。
「椎名司令官、敵残存勢力を追撃しますか?」
そこへ第一遊撃部隊の隊員の一人が真にそう尋ねる。
「さっきの三連斉射で、ある程度戦力を削れたと思うけど……」
「ええ……」
「こちらも撤退するよ。僕達が
「りょ、了解しました」
真の指示を受け、第一遊撃部隊の隊員達はそのまま麗華の護衛の為にぞろぞろと撤退を始めた。
「よし、第二遊撃部隊は第一遊撃部隊の援護射撃を行いつつ、撤退を始める」
その真の命令を受け、いちどうはそのまま後退を始めた。
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