第6話 やるべきこと
同じ頃、情報管理室に残っていた麗華と薫の下に、ある報告がは伝わった。
「報告っ! 敵が本部付近の大通りを進行しようとしてますっ!」
「何ですって?」
まさかの敵襲に微かに声を乱す麗華。未だ新戦組本部の存在は敵に知らされていないと思っていたからだ。
「敵の予想総数と、予測激突時刻は?」
一方で突然の敵襲にもかかわらず、薫は冷静に尋ねた。
「およそ千人程、激突まで約十分と見えます」
「まさか、本部の場所を割り出されたのかしら?」
「それはあり得ないわ。もしそれが分かっていたら、もっと前にここを襲撃するか、この間のように情報関係で混乱させたうえで殲滅することが出来たわ。それがなかったのを考えると、まだこの場所が割り出されたと思えないわ」
「確かに、本部機能がマヒした時もそれがなかった。もし何の前触れもなく敵襲があれば、無事では済まされないレベルの打撃を与えられたはずなのに……」
「問題はこの大通りと使うということは……」
「永田町と霞が関に近づいてるってことね。そうなると首都機能を完全に掌握されるってことになるわ」
「大半の官僚と政治家が東京に残っているけど、それがかえって危険をさらしたようね」
麗華が非常に懸念す両な表情でそう言った。実のところ、多くの官僚や政治家は自分達の身の危険を感じて逃げ出そうとしていたが、それは国家の中枢機構を司る者達が、職務放棄して己のことのみを考えたと捉えらえられることになり、それによって自分達の地位や名誉が失墜するのを恐れた。その為、彼らはあえて東京に残っていた。
「この近辺の警察署と支部の総数は分かるかしら?」
「三つの警察署と、五つの支部駐屯部隊を出撃させられます」
「分かったわ。薫、放送をお願いね」
「では、二つの遊撃部隊も出撃させるわ」
「ええ。真にも伝えて頂戴」
薫にそう指示を出しながら、麗華は情報管理室を出て迅速に準備に取り掛かった。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
第二遊撃部隊司令官の椎名誠は、自室で次の戦いの準備を進めていた。
「……これからの戦い、か……」
俯いたまま、暗い表情のまま大型ポシェットに医療用具や食料を詰め終え、得物の弓の手入れを始める真。
そこへ大型ポシェットに入れいていたスマートフォンが着信音を鳴り響かせた。画面に表示された名前は、花咲冬美だった。
「どうしたの? 冬実」
『ごめんなさい、真さんが心配になって……』
「僕の心配をしてくれるのは嬉しいけど、そっちは大丈夫なのかい?」
『私達も辛いです。でも戦い抜かないとダメじゃないですか、だから、佐助さんの分も、これまでの戦いで死んでいった方たちの分も、勝たないとって……』
「……強く、なったね。僕の知らない間に……」
『そのきっかけを作ってくれた一人が、真さん、あなたなんです』
「僕が?」
『破界の闘気を完全に会得する大きな力となったのは、真さんのアドバイス何です。この力があったからこそ、BLOOD・Kを倒すことが出来ました』
「冬実……」
そう言われ、真の表情は微かに明るさを取り戻す。
『お姉ちゃんが言ってたんです。この戦いで生き残ったら、必ず総次君と再会するって、だから私も、真さんと約束したいんです』
「……この戦いが終わったら、僕と再会するって?」
『勿論です』
穏やかながらも、自信に満ちた声でそう言った冬美。
「……漫画とか小説とかでそんなことを言うと、どっちかか、あるいは両者共に命を落とすってのがお決まりなんだけどね」
『あの、ごめんなさい……』
「ううん、大丈夫だよ。君の言葉なら、そんなお決まりを打ち壊してくれそうな感じがする」
『真さん……』
「冬実、僕もこの戦いを生き抜いたら、自分のやるべきだと思ったことをやってみようと思うんだ」
『真さんの、やるべきだと思ったこと?』
「麗華達の協力だよ。それが今の僕の出来ることだからね。あの2人をこれからも支えていくのが、これからの僕の使命だと思ってるんだ」
『真さん……』
「君は、これからどうするのかな?」
『それはまだ……ですが、しっかりと見据えていきたいと思ってます。もう一度、大学に通って、これからの自分のことを考えたいですし……』
「確か、小学校の先生だったね」
『はい。この戦いを通じて、その思いが強くなりました。子供たちに、正しいことが何なのか、どんな時代や世界の中であっても、優しい気持ちを忘れないこと。それを教えていきたいって思えるようになりました』
「……立派な夢だね。その夢を叶える為にも、生き残らないとだめだね」
冬実の夢を聞き、改めて彼女の強さを感じ取った真。佐助が命を落としてから落ち込んでいた自分と違い、その悲しみをの乗り越えて未来へ進もうとする力強さを、彼女の声から伝わってきていた。
「佐助も、この戦いが終わったら大学へ通い直そうとしてたんだ。うちの大学なら一流企業への就職も難しくないからね。その上でまた、良い女性を探していきたいって。まあ、一人の人としての幸せを掴む為にってのが理由らしいけど」
『そう言えば、言ってましたね。男が自分の幸せを手に入れるには、いい男になる必要があるって』
冬実の言葉は重かった。普段はひょうきんな態度を取っていた佐助だが、自分の人生に対しては非常に真摯に考えていたことを、彼女も知っていた。
「そういった当たり前の幸せを手に入れることが、この時代の中でどれだけ難しいことなのか、そして、どれほど尊いものなのかってことが、本当に実感できたよ。今になってそれを感じるのも、遅い話だけど……」
『真さん……』
「僕も君も、それぞれの未来の為にも、必ず勝とうね」
『はいっ!』
そう言って冬美との通話を切った。
(佐助、君が歩もうとした未来は確かに違うかもしれないけど、その未来につながる扉は皆同じだと思う。君が進もうとし、僕達が開こうとする未来の扉を開ける為にも、もう一度、頑張るよ。だから、しっかり見ていてくれ)
心の中でそう思いながら、真は弓の手入れを再開した。その直後、再び真のスマートフォンがバイブ音を轟かせた。着信相手は薫だった。
「どうしたんだい?」
「敵襲よ。この本部がある大通りに敵千人が進撃中よ。既に近隣の警察署都市部には出撃要請を出してるけど、遊撃部隊にも出撃してもらうわ」
「じゃあ、総次君達と連携して?」
「いえ、遊撃部隊は麗華が率いることになってるわ」
「麗華が? それはどういうことだい?」
「詳しい説明は後よ。とにかく、第二遊撃部隊も出撃して」
「……分かった。直ぐに準備する」
そう言って真は通話を切りながら、手入れしたばかりの弓と大量に矢をつがえた矢立を肩にかけて部屋を出た。
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