第11話 鳴沢佐助、出撃‼
午後八時になり、本部からの指示を受けた鳴沢佐助率いる一番隊と近隣の所轄署に配属された警察官、合計して八百人は二十台のバスに乗り込んで即座に指定された大通りに向かっていた。
「いいかっ! どんな敵が現れようとも油断せずに行くぜっ‼」
「「「「「オウッ‼」」」」」
佐助が率いる全バスに通る放送を聞いて、一番隊の面々ば異口同音に声を張って応えた。
「情報だと、そろそろ激突するだろう。警察連中も気を引き締めろよっ‼」
「「「「「了解っ‼」」」」」
警察官達も一番隊の隊員達に負けないくらい大きな声で応える。本来MASTER戦いを仕掛けられているのは警察に対してであり、その威信の為にも、そして自分隊の正義を貫くためにも負ける訳にはいかない。
修一が締め上げた連中のように臆病風に吹かれてしまう者達もいるが、それと同じ数の勇敢な警察官達もいる。佐助が率いている彼らもまさにその面々だった。
「まだ大丈夫か?」
「……敵ですっ‼ 敵のワゴン車ですっ‼」
運転手が声を張り上げて佐助達に敵の襲来を伝える。
「警察と遠距離攻撃のできる野郎どもは、攻撃を開始しろっ‼」
それを受けて発せられた佐助の指示のもと、警察官達は既に準備していた銃を窓から構えて前方のワゴン車集団に向けて闘気を込めた銃弾を浴びせる。
相手方のワゴン車からも無数の闘気を帯びた拳銃の矢が次々と放たれ、銃弾と悉く衝突して周囲に爆発が立て続けに巻き起こる。
「この隙に降りるんだっ‼ 爆発に巻き込まれんなよっ‼」
バスから飛び降り、折り畳み式刃の大型剣を振るって形を整えて駆け抜ける佐助の指示と同時に、一番隊と警察官達は一斉にバスを飛び降り、同じタイミングでMASTER側もワゴン車から飛び出して佐助目掛けて襲い掛かる。
降りた直後に拳銃の一斉攻撃を受け、爆発に巻き込まれた隊員や警察官達の屍が飛び散る中、戦闘は開始されんとしていた。
「掛かれぇ‼」(炎獄‼)
叫びながら佐助の大型剣は炎を纏い、右へ左へ振う度に構成員達を焼きながら薙ぎ払っていく。大型剣の炎が躍る度に、辺り一面に血と構成員の屍が無数に転がり、その屍を踏み越えて隊員達も刀を振るって突撃する。
「間接攻撃チームは援護しろっ‼」
「我々警察も続けぇ‼」
警察部隊はそのまま一番隊の後方から銃撃を始めた。
「あの大型剣を使う奴に気を付けながら攻撃を仕掛けろっ‼」
佐助達の猛攻勢に対して冷静を保ちながら押し込みにかかるMASTER構成員達。
「へっ、俺達の攻撃を簡単に受け止められると思うなよっ‼」
自信に満ち溢れた佐助の言葉通り、大型剣を縦横無尽に振るいながら構成員達を葬る彼の姿に触発された一番隊隊員達も、闘気を纏う刀で向かってくる構成員達を血祭りにあげていく。
「おらよっ!」
大振りながらも素早い横薙ぎは、纏った炎で軌跡を描きながら左右から迫りくる構成員達を焼き斬る。
「このおっ‼」
「あの男にかまうなっ! 周りの取り巻きを仕留めろっ‼」
「誰が取り巻きだってっ⁉」
構成員達の指示を挑発と感じ、一番達の隊員達が次々と襲い掛かる構成員達に攻撃を仕掛ける。
「こ、こちらも迎撃だっ‼」
突然猛攻を開始した一番隊に戸惑いながら迎撃の指示をした構成員達だが、戸惑ったままの構成員達が相手にするにはあまりにも無力だった。
「あの大剣使い、やはり手強い……‼」
「しかもあの取り巻き連中、なんでか知らないがいきなり士気が……」
突然勢いの増す佐助達に、構成員達は相変わらず戸惑うばかりだった。
翻って戦況を見ると、かろうじて遠距離攻撃という点ではMASTERが優秀であり、警察部隊や隊員達にも負傷者が出ていたが、それ以上に佐助達の破壊力が目立っていた。一度波に乗った時の彼らを止めるのは、構成員達にとって至難である傾向がある。
「まだこっちが有利だ。このまま一気にこちらで追い詰めるぜっ‼」
「「「「「オウッ‼」」」」」
敵を葬るたびに士気が上がっていく一番隊の勢いだが、もとより彼らの勢いに対して多少慣れていた為に、徐々に対策を講じらていた。
「焦るなっ‼ 遠距離攻撃を主軸に戦術を切り替えて叩き潰せッ‼」
「「「「「了解‼」」」」」
一同を率いてる指揮官がそう指示を出し、後方で拳銃を撃ち続ける構成員達は矢に纏わせる闘気量を更に増やして破壊力を上げた。
「ぐあっ‼」
破壊力を上がった拳銃の矢が、隊員達や警察官達を貫いていく。
「くっ、連中の力は一体なんだっ⁉」
どんなに追い詰めようとも攻撃の手を休めず、寧ろ上げていく佐助達に手を焼き始める構成員達。
「奴らはかなり追い詰められているな」
「では、更に力を集中して……」
「いや、そのままでいい」
そう言いながら大型剣に更に纏わす炎の闘気量を増大させ、猛スピードで構成員達の群れに突入する佐助。
「これが俺達の戦い方だろ?」
「「「「「「オウッ‼ 兄貴‼」」」」」」
佐助の激励に更に士気が向上する隊員達。
「じゃあ、絶対に送れんじゃねぇぞっ‼」
「オイッ‼ あの人はいつになったら来るんだっ‼」
「もうすぐですっ‼ 何とか堪えてくださいっ‼」
「よしっ‼ 踏ん張るんだっ‼ ここで持ちこたえて、次に繋げるんだっ‼」
援軍が来ることを匂わす発言をしながら、佐助達の攻撃を受け流そうとする構成員達。
「連中の守りを叩き潰せっ‼」(炎獄‼)
周りの構成員達を薙ぎ払い続けた大型剣に多量の雷の闘気を纏わせつつ振り上げた佐助は、隙を作る前に一気に振り下ろして前方に巨大なひびを入れながら巨大な火柱を地面から発生させる。
「こ、これは……ぐああっ‼」
地面から発生する火柱に触れた瞬間、構成員達の身体が次々と焼け爛れていく。火柱の勢いは留まることなく前方五メートルに扇状に広がり、触れた構成員を次々と焼き殺した。
「おのれぇ……‼」
佐助の技のキレ、そして破壊力に臍を噛む構成員達。
「お前らはお前らの正義を実行する。幸村翼はそう言ってたようだが……」
そして佐助は大型剣を肩にかけ、自信満々の態度で怯える構成員達に対して陽気な態度で話しかける。
「俺達だって負けてる訳じゃねぇってことは、ちょっとは分かったか?」
「ぬぅ……‼」
おそらく自分達の正義に対しての否定が来ると思っていたであったのだろうが、全く違い意見の上に、実際に力の差を見せつけられた為に、構成員達は言葉に詰まったようだった。
「さぁて、まだ足掻くか?」
「そ、そのようなことは……‼」
構成員の一人がそう言いかけた瞬間、佐助から見て大通りの奥の方から更に複数台のワゴン車が続々と近づいてきた。
「この状態だと迎撃は無理だな。連中の拳銃にやられる」
「では、このまま指をくわえるしかないんスか?」
「致し方ねぇ」
一番隊隊員達の無念を横に、佐助は努めて冷静に彼らを宥める。
MASTERサイドからの増援に、一番隊と警察部隊の間に緊張が走る。
「……やっと到着か。地獄(ヘル)の(ゴッ)女神(デス)」
部隊を率いていた隊長がつぶやいた瞬間、先頭に止まったワゴン車から構成員達が雪崩れ込んできた。そしてその中に、両腰に忍刀を一本ずつ佩いた背の高い凛々しい女性が降りてきた。
「……まさか……」
その女性に佐助は見覚えがあった。一年前に戦ったことがある人物だったからだ。
「それはこちらの台詞だわ。どうして重要な戦いになると、あなたと巡り合うことになるのかしら?」
頭を抱えながらそう言った服部由美は、鳴沢佐助の姿に複雑そうな表情になった。
「俺達は運命の赤い糸で結ばれてんのか? だとしたら俺は結構な幸せ者だな。あんたみてぇな美人となら、結ばれてぇもんだ」
微笑みながらそうつぶやいた佐助。奇縁を感じながらも、
「本当におめでたい人ね。まあ、嫌いじゃないけど……」
佐助の軽い口調に苦笑いしながら両腰から忍刀を抜き、闇の闘気を纏わせて構える。
「兄貴っ‼ 気を付けてください‼」
「だな。誰が相手であろうと戦い抜く。それが組長としての俺の信条だ」
「兄貴……」
「それによ、まだ見ぬいい女との出会いをこれからもしてぇんだ。まあ、生き延びるだけだ」
佐助は肩にかけていた大型剣を構え直し、そこに炎の闘気を纏わせた。
「そういうところ、気に入ってるけど。ここで斬らなければ、大師様の悲願が成就しない」
苦笑いから微笑みつつ残念そうにつぶやきながら、佐助目掛けてワイヤーで繋がった二振りの忍刀を振るって襲い掛かる祐美。
佐助は不規則な動きを見せる忍刀を巧みにかわし、時に大型剣でいなしていく。
「あんたも幸村翼の崇拝者って、ことかっ⁉」
その中で先の祐美の言葉に対して飄々とした態度で尋ねる。
「私があくまで依頼を遂行しているだけっ!」
祐美は淡々と答えながらも、佐助のウィークポイントと見た場所を的確に攻撃する。
「もしこの戦いに勝って、その後に、どうするつもりだ?」
「彼に言ったことよっ。彼の闇を司るっ!」
祐美の忍刀がクロスしながら佐助の首元へ襲い掛かる。
「闇、だとっ?」
首筋に命中する直前に屈んでかわしながら、佐助は後方へでんぐり返しの要領で退いた。
「ってことは、汚れ役を買って出るってことか」
「彼は一滴の穢れも許さない。だけど、何かを成し遂げる時には、時として穢れを要することが必要になるときがあるわ。それを私は一手に買う」
「幸村翼は知ってるのか?」
「ええ。彼が切り開く未来の中でやるべきだと思うことをやりたいのよ。だからこそ私は彼との契約を続けることにしたのよ」
「やるべきだと思うこと?」
興味を微かに表情から覗かせながら尋ねる佐助。
「……この世には、女に不貞を働きながらも、法的に罰せられない屑男が多い。奴らを葬るのが私の仕事だわ」
「……そこまで言うってことは、あんたもその屑男って奴に相当むごい目に遭わされたってとこか?」
「そんなところよ」
それまで涼しげだった祐美の表情が、徐々に嫌悪に満ち満ちたものになっていった。
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