第10話 遊撃部隊の問い掛け

 午後七時五十五分。波野美月なみのみつきが管理する情報管理室では、大師討ちを始めとした警察から集められた情報と、新戦組特務部隊の偵察で得られた情報を整理しつつ、都内全ての監視カメラを利用して敵の出方を窺っていた。


「どう?」

「まだですね。それらしい集団も、不審者も今のところは……」

「各地の偵察隊からの報告は?」

「異常なしです」

「そう……」


 そこまで聞いて美月は小さくつぶやいた。


「室長、どうかなさいましたか?」

「監視カメラが仕掛けられているといっても、都内全ての道路にありのはい出る隙間もないくらい仕掛けたという訳ではないわ」

「確かに、偵察隊も、十五人編成で十部隊各地に散らせたといっても、その二つだけで全てを監視できるはずもないですから……」

「神出鬼没な彼らのこと、どこからどのように表れるか分からないわ。私達も気を抜いてはいけないわよ」

「「「「「はっ!」」」」」


 そう言って情報管理室の担当メンバーは異口同音に応えた。


「こ、これは……‼」


 その直後、管理室メンバーの一人が戸惑いながらモニターにくぎ付けになった。


「どうしたの?」

「不審なワゴン車約五十台が品川区の大通りを進行中っ! この方角は……目的地は警視庁と予想されますっ!」

「こちらでも不審なワゴン車を確認っ! 数、およそ八十台‼」

「ば、馬鹿な……こちらでも同型の車を確認っ‼ 数はおおよそ六十台‼」


 次々と大軍が押し寄せる事態を受け、情報管理室は一気にあわただしくなり始めた。


「この型は最大で十人乗りですから……」

「二千人は下らないわね。館内と各地の支部に緊急放送を流してっ‼ その上で引き続き奴らの動向を監視してっ!」

「「「「「了解っ!」」」」」


 美月の号令の下、管理室メンバーは一斉に作業に取り掛かった。


「それにしても、これだけの量の人員を派遣して、全く闘気感知が出来なかったなんて……」


 そこで波野の補佐を務める女性がやや戸惑いながらそう言った。


「……これからの戦いは、本当に苦戦の連続よ。私達の情報を活用してもらうことこそ、今回の戦いのカギになる。そのことを忘れてはいけないわよ」

「はっ」


 補佐を務める女性はそのまま波野が使う資料の整理に入った。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 情報管理室からの報告は即刻新戦組本部や各地の支部に送られ、本部の指示が待たされていた。


「予測される敵の総数は二千人ですか……」


 戦局の詳細と具体的な指示を受ける為に局長室へ向かっていた総次は、途中で合流した真に尋ねた。基本的にこれは、自らが前線に出る為に必要なことであるが、総次は闘気が完全に回復していない為、どんな答えが返ってきたとしても部隊副司令官に戦闘面に限定して任せ、彼らのサポートの回るつもりということを彼らに伝えた上での行動である。


「随分と数を揃えたものだね。それに警視庁へ向けて三方向からの同時進撃だ」

「確かあの一帯は、うちの監視が他の二つの部隊の使っているルートと比較して監視が薄く、警察署の数も少ない場所だったはず……」

「偵察隊による索敵網に引っ掛かったからすぐに分かったけど、近くの部隊や警察官を派遣しても、数は心許ない」

「つまり、こちらからも出撃させると?」

「その一帯の近い場所に、帰還途中の佐助達がいる。話じゃあ、助六達より先に帰還の途についていて、既に本部近くまで来てる」

「他の二つのルートは、本庁舎に滞在している澤村さんと剛野さんの部隊でしょうね。確かあそこには高橋さんと那須さんもそれぞれいらっしゃるはずです」

「だろうね。修一は助六と一緒に、翔は清輝君と一緒に敵の迎撃するって、情報管理室に連絡があったよ」

「後は、敵がどう出るかですね」


 二つのルートの近くに待機している味方部隊の数は合計しておおよそ三千人であり、数の上ではこの二つのルートに限定しては有利であると総次は確信していた。


「その二つのルートなら警察や新戦組隊員の数の上でもこちから有利だけど、それでも練度が違うからどうなるかは分からないね」

「局長や上原さんがこの件をどう捉え、どう判断するかが大事になりますね」


 そう言いながら総次は真と共に局長室へ足を踏み入れた。


「第一遊撃部隊司令官、沖田総次。参上しました」

「同じく、第二遊撃部隊司令官、椎名真。右に同じ」

「……出撃の相談かしら?」


 突然の来訪ではあったが、麗華も薫も驚くことなかったので、総次はデスクの前まで来てあらかじめ用意した質問を提示した。


「その必要の有無の確認です。僕も椎名さんも部隊にいつでも出撃できるように準備はしてあります」

「……随分と手が早いのね」


 薫は多少驚くそぶりを見せたが、直ぐに表情を整えた。


「それで、どうなんだい?」

「今のところは必要ないわよ。勿論、状況次第ではその限りではないでしょうけど」


 穏やかな口調で尋ねた真に、麗華は静かに答えた。


「……そう」


真はにこりと笑ってそう言った。


「安心してるの?」

「まあね。まさかここを空にする訳にはいかないからね」

「第一遊撃部隊はも本部周辺の防衛の為にここにいます。他の部隊が出ているこの状況で出るのは危険です」


 これは総次の偽らざる本心である。いくら自分の闘気が空に等しい状態とは言え、何もしない訳にはいかないと思っているからだ。


「その割には随分と慌てていたようだけど」

「だからこそ急いで来たんです」


 それ故に総次は淡々とそう答えることが出来た。


「あなた達も知る通り、MASTERが使っているルートの一つには既に佐助に向かわせたわ」

「佐助の所は寄せ集めの部隊だけど、数だけは揃えたし、佐助の指示なら大丈夫なのは僕も分かる。他の二つのルートもでしょ?」


 薫の報告に対して真はそう答え、それに頷きながら彼女は説明を続けた。


「不安があるとすれば……」

「敵の錬度ですね?」

「そう、MASTERはこちらと比較すれば少数精鋭。だからこそ数の不利を覆して反撃された時が不安だわ。現に今朝はあの幸村翼にしてやられている」


 そのことを思い出した麗華は表情に些かの不安を含めながらそう言った。


「正直、僕としても、あいつの力があそこまでというのは想定外でした」


 総次は改めて、翼のことで知らないことが多いということを思い知らさせたようだった。


「今回の戦いにおいて、幸村翼の力が私達が戦う相手の中で最も強大であることに疑いはないわ。そしてあの力に対抗できる存在は沖田君、あなたしかいないわ」


 確信したように薫は総次をまっすぐ見つめて宣言した。


「……覚悟はできています」

「だけどこれは最も厳しい戦いになるわよ」

「分かっています。ですが、やらなければなりません」

「自身はあるの?」

「あります」


 薫の質問にきっぱりと言い切った総次。その回答に麗華は少々不安を抱き、続けてこう尋ねた。


「では、対策はないと?」

「……敢えて挙げるなら、自分を信じて戦い抜くことです」

「自分を信じて、ね……」

 それを聞いて麗華は一応の納得をしたようだった。

「……覚悟は分かったわ」

「「はっ!」」


 そう言って二人は麗華達に向かって敬礼し、局長室を後にした。


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