第9話 修一と未菜

 午後六時。駆け足で警視庁近くの病院にたどり着いた修一は、入って早々に未菜の行方を捜していた。


「すんません、水野未菜って人の居場所を知ってますか?」


 手っ取り早く見つける為に、通りかかった女性看護師に声を掛けた。


「水野さんなら、二階の病室で看護師達のフォローを終えて、休憩室にいますよ。えっと、あなたは~……」

「澤村修一っス。ありがとうございます」


 そう言いながら修一は受付の女性に礼を言いながら二階へ駆けあがっていった。

 休憩室は二階に上がってすぐの廊下にあり、そこに女性看護師が言った通りベンチに腰掛けた未菜の姿があった。


「未菜……」

「修、早かったわね」


 そう言いながら出迎えた未菜は、修一を自分の隣に座るように勧め、修一もそこに腰掛けた。


「六番隊の調子はどうなんだ?」

「大半が負傷してないし、負傷してる人達もかなりの警鐘だから大丈夫よ。まだ無理しても問題ないと思うけど、程々にすべきだよ?」

「それは心掛けてるよ。俺だって組長だし、あいつらだって俺に応えてくれるからな。俺としてはすげぇ有り難いし、頼りにしてるよ」

「そうなの……」


 話出しがやや堅苦しい修一に、未菜も同じような態度に自然となってしまっている。だが未菜は、修一の表情がが心なしか険しい表情になっているのを見逃さずにいた。


「……何かあったの?」

「なにかって?」


「いつもの修らしい顔じゃないなって思ったの。なんていうか、思いつめた感じ?」


 言われた修一には心当たりがあった。本来なら隠したいことであるが、自分のやったことから逃げてはいけないという自覚もあるので、素直に皆に行った。


「……今日俺が助けた本庁刑事部の連中なんだけど、おれ、ちょっと刑事連中に乱暴しちまって……」

「どうして?」

「……あいつらが、総次のことを化け物って言ったからだよ。さんざん総次に助けてもらってばかりの癖に、総次を化け物扱いしやがってよ」

「そんなことが……」


 ことの顛末を聞いた未菜は静かに修一の膝に手を当てながらうんうんと頷いた。


「そういうあいつらの態度がすげぇムカついて……」

「それで、暴力を振るったの?」

「俺が悪いのは分かってる、でも、総次があんな風に言われたのは、今でも許せねぇんだ」

「そう……」

「未菜は、こんな俺をどう思ってるんだ?」

「私が?」

「いざって時に感情のコントロールも出来ねぇような、こんな情けねぇ先輩を。総次に向ける目がねぇよ」

「修……」


 徐々にブルーになっていく修一に、未菜は静かに修一の話を聞いていたが、ここへ来てこういった。


「……私が修の立場だったら、やっぱり修と同じことしてたかも」

「えっ?」

「私だって、総次君が頑張ってるのは知ってるわ。修だっていつも総次君の話をしてるし、そんな総次君がそんな風に言われてたら、私だってムカつくわよ」

「未菜、お前……」

「警察官の人達も情けないって思うわ。国の治安を守る為の組織なのに、総次君や幸村翼の二人にずっと怯えてさっ」


 静かに感情的になる未菜。其れに修一は少々拍子抜けをした。いつもなら修一の情けない部分を窘めるはずの未菜が、珍しく修一と同じようなことを言っていたからだ。


「今回ばかりは、私も修と同意見よ。だって幸村翼は、警察に戦いを仕掛けてきたんでしょ? あたし達新戦組はあくまでその手助けをする為ってスタンスでこの戦いに参加してるんでしょ? なのにその気概のない警察官が多くて、その上総次君をそんな風に言うなんて、私だって許せないわ」

「……まさか、未菜がそんなこと言うなんてな」

「当然よ。今の総次君は私達にとって大切な仲間だもの。そんな仲間が馬鹿にされて、感情的にならない訳ないわよ」

「……お前にそう言われると、なんか助かる。でも、こんな騒動起こして、警察との間にわだかまり作っちまったのは事実だよ。だから俺も、しっかりと責任取らねぇといけねぇよ」

「それでいいのよ、修」

「ありがとう、未菜」

「うん、でも……」

「でも、どうしたんだ?」


 突然テンションが変わった未菜に戸惑う修一、すると皆の急に重くなった口が開いた。


「……総次君の力がどんどん大きくなってるのは、私も不思議に思ってるわ。普通は闘気の量って、ある程度増やすことは出来るけど、あんなに加速度的に量が増えるってのはない筈なのに、それが起きてるのは気になるわね」

「やっぱり、未菜もそう思ってるのか?」

「うん。それに、修はどうみてるの?」

「どう見てるって、何をだ?」

「渡真利警視長の戦いが終わって、幸村翼の宣戦布告を見終えたときのことよ。突然総次君が局長室を出た途端に倒れそうになったって」

「ああ、確かに言ったけど、あれは単に疲れてたからじゃねぇか?」

「普通ならそう思うけど、その時『身体が軽くなった』って言ってたんでしょ?」

「確かにそうだけど……考えてみたら確かに不思議だな」

「でしょ? 普通だったら身体が重くなったって言うはずなのに、それと逆のことを言ったのがずっと気になってたの」


 そう言いながら二人は、総次の身体に起きた異変がどれだけ特異なことなのかを悟った。


「……これは私の勘だけど、本当は当たってほしくない勘だけど、なんか、取り返しのつかないことになるんじゃないかって思うの」

「取り返しのつかないことって、未菜にとってどういうことになるんだ?」

「分からない、けど、なんかそんな言葉が浮かんでくるの」


 不安そうな表情になる未菜に、今度は修一が慰める側に回る。


「大丈夫だよ、未菜。あいつに何があっても、俺は絶対にあいつの味方だ。それは今、お前と話して改めて決意出来た。ありがとう、未菜」

「……総次君って、本当に幸せ者ね。修みたいな仲間に巡り合えて」

「未菜にそう言われると、俺も自信が出るな。それに俺だけじゃねぇ。夏美ちゃんも冬美ちゃんも真の兄貴も局長も、みんながみんな、総次のことをかけがえのない大切な仲間だって思ってる。だから、あいつに何があっても、俺はあいつを見捨てることはしねぇ。絶対にだ」

「私もよ、修」


 そう言って未菜と修一は互いの手を取ってそっと繋いだ。

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