第12話 佐助と祐美
「……覚悟は分かったぜ……」
手にした大型剣を地面に突き刺しながらつぶやく佐助。
「幸村翼は依頼主としても、一人のリーダーとしても、この上ない英雄だわ」
「やっぱり一筋縄じゃ行かねぇのは相変わらずだな……これで確信したよ」
そう言いながら佐助は突き刺した大型剣に雷の闘気を纏わせ、離脱させて振り上げる。
「あんたは俺がこれまで戦ってきた中で、桁違いにしぶといってことがな……‼」(炎獄‼)
炎を纏いし大型剣を振るい、一面に熱気を放ちながら突撃する佐助。
「光栄ねっ!」
迫る来る佐助に構える祐美。冷静沈着な彼女の眼差しは、佐助の動きを全て見抜き、的確な攻撃を繰り出した。
それを佐助は辛うじてかわしつつ、大振りの唐竹割りを繰り出した。
「そんなに見つめられるなよ、惚れちまうぜ?」
「やっぱり、相変わらずねっ!」
刃の下ろされる先を見切り、苦もなく後ろにかわしつつ、片方の忍刀の切っ先を佐助の顔面目掛けて投げつける。
咄嗟に大型剣の腹で弾き、更に炎の闘気に切り替えながら着地し、同じタイミングで着地体勢に入り無防備な祐美を薙ぎ払いを繰り出す。
「どうだっ?」(炎獄‼)
「簡単ね」
それも軌道を読まれて軽くかわされ、再び間合いを取る両者。
「その強気な口調、態度、どれをとってもいい女だ、それをこの手で叩っ斬らなけりゃならねぇのが非常に残念だが……」
「なら、ここで見逃してくれるかしら?」
「……いい女の頼みを無下にするのは、本来は俺の趣味じゃねぇんだよな」
「では、通してくれる?」
「残念ながら、その願いだけは無理なんだよな。女に寛容なこの俺でも」
大型剣に纏わせる炎の闘気量を増大させる佐助。美女を求めて人生をさすらうこの男でも、分別というものはしっかり付けられるところがある。
「でしょうね……」
苦笑いしながら忍刀を構えた祐美の態度は、まるで佐助がどういう返事をするのかを予測していたようだった。
「あんたとの赤い糸を切りたくねぇが、まあ、敵味方の立場って奴は、如何ともしがてぇからな……悪く思うなよ?」(雷迎‼)
電撃を帯びた佐助の大型剣が振り下ろされた衝撃で発生した無数の電撃が扇状に展開し、その範囲内にいる祐美に襲い掛かる。
「それはこちらの台詞よ」
だが祐美は卓越した身体能力を駆使し、バック中で悉く交わしてしまった。
(体術は鋭子やオチビちゃんと同レベルだな)
改めて彼女のポテンシャルに、佐助は内心舌を巻いた。
更に祐美は、忍刀を繋げるワイヤーを掴んでその中心部分に手を移動させるや否や、こねるように動かしながら忍刀を凄まじい勢いで彼女を中心に四方八方に振り回し始めた。
「……迂闊に近づいたらミキサーにかけらたフルーツの如しってことか」
迂闊に動けば切り刻まれるのは必至。その上闇の闘気を纏っているが故に、絣でもすれば神経系に一時的な麻痺を生じさせてしまう危険性を孕んでいた。
「……だがな」
だが佐助はまっすぐに、迷うことなく祐美目掛けて猛スピードで突っ込んだ。
「そちらがその気なら、こちらも……‼」
祐美も佐助を迎撃する為に、加速しながら佐助に突っかかる。
「やっぱり俺は、こうやって戦うのが一番だな」(炎獄‼)
一気に祐美との間合いを詰めつつ、一瞬でも祐美の迎撃行動の中での隙を見つけんと彼女の行動を見極めていた。
「それならば……」
なんと最初の一太刀は佐助の大型剣の柄を握っている手を狙っていたのだ。それを瞬時に察知し、手元を引いて回避することに成功したものの、攻撃の軌道をずらされた為に二の太刀を食らってしまったのだ。
「ちっ……‼」
「兄貴っ‼」
佐助の負傷を目の当たりにした隊員の一人が悲痛な表情で叫ぶ。
「心配すんな。痛みはねぇよ」
「だけど、奴の闘気は……」
「分かってる。奴相手にゃ、多少の無茶は覚悟の上」
「しかし……‼」
「お前らは継続して攻撃を続けろっ‼」
佐助の心配にうつつを抜かしていることに対し、任務に集中するように檄を飛ばす佐助。
「「「「「りょ、了解っ‼」」」」」
そして隊員達もそれをしっかりと理解しているので、直ぐに支持を受けて構成員達への猛攻撃を再開した。
「隊長格がやられてんのに、どうして……⁉」
佐助の不調と叱咤激励によって更に苛烈な攻撃を繰り出し続ける一番隊隊員達の力に圧倒される構成員達。
「狼狽えないでっ‼」
そんななかでも、祐美は憶病になっている彼らを叱咤し、士気を上げんとした。
(確かに俺の身体がどうなるのか、考えるとやべぇな)
戦いながらそう思う佐助。闇の闘気の持つ神経系へのマヒによって痛みこそないが、それに反比例して浅い傷であったとしてもぼたぼたと血が流れ出る。このまま切られ続ければ痛みもなく出血多量で命を落としてしまう。
(ビビってんじゃねぇぞ、俺)
軌道をずらされ、闇の闘気の持つ恐怖の中でも佐助は躊躇わず大型剣を打ち下ろす。
大型剣が描く軌跡は僅かに祐美の肩を掠めた。それはかすり傷として考えてもあまりにも浅く、そして小さかった。
「直撃を避けるなんてな」
余裕そうな表情で祐美の攻撃を称える佐助だが、腹部から流れ出る血の感触が足に伝ってようやく自分がそこそこの傷を負ったことを理解し、内心では恐怖心を抱いていた。
「深手は避けたみたいね」
「どうしてもっと量を出さなかったんだ? そうすりゃ身体を腐らせることだってできるはずだが……」
「そんな余裕はないわ。だから痛みを感じることなく昇天させてあげるわ」
「これだから闇の闘気の使い手とは戦いたくねぇな」
やれやれと言わんばかりの態度で傷口に視線を移す佐助。浅い傷でこそあるが、それでも多少の出血を避けることは出来ず、服も隊服も朱に染まり始めていた。
「逃げる気はないんでしょ?」
「最初っから尻尾を巻いて逃げるのは男の風上にも置けねぇ。良い女を口説くときもな」
「……本当に逞しいこと」
どんな状況であろうといつも通りの態度を取る佐助。
(それに、一度決めたことをやり通すなら、どんな状況でも自分自身を捨てちゃならねぇ)
だが内心では恐怖心や警戒心を持って挑んていた。それは彼自身がナンパをするときもそうである。一瞬のミスが致命傷になりかねないということを一番理解していたからだ。
「修羅場を潜り抜けた男ってのは、どんなことに対してもそれくらいの意地とか覚悟ってのがあるんだよ」
流石にそれを口にすることは恥ずかしかったので、カッコつけ気味にそう言った。
「大したものね」
そう言うや否や一気に佐助との間合いを詰めんと瞬足で突き進む。
「そりゃどうも」
同じタイミングで佐助も大型剣を構えて突っ込み、激しい打ち合いになった。
「意思のある男は嫌いじゃないわ」
「意思のある、ね」
語らいの中でも決して緩むことのない気迫と太刀筋。閃く刃の光が眩く互いの表情を映し出す。
「だが、俺に後れを取ることがないってのは、驚いたぜ」
「柔よく剛を制す、という言葉を知ってるかしら?」
そう言いながら二振りの忍刀を結ぶワイヤーで佐助の大型剣を受け止める。桁違いの頑強さを誇る特注のワイヤーは、忍刀よりも数倍は重い筈の大型剣の重量も難なく受け止めていた。
「ここであなたは命を落とす運命にあるわ」
「運命とか宿命とか、そんな単語は俺は嫌いだね。人生も未来も、俺自身で決める」
「ならこれが、最初で最後、他人に決められる機会ね」
祐美がそう言い終えた直後、佐助の傷口に向かって強烈な襲撃を叩き込む。
「ぐっ‼」
その衝撃に怯む佐助。闇の闘気の影響で痛みこそないが、それでも勢いは凄まじかった。
「なろっ‼」
佐助は体勢をすぐに建て直せた。そして大型剣にかける重量を更に強め、一気に弓を押し込もうとする。
「ぐ……‼」
力が入れば入るほど、今度は祐美の方が押されていく。
「時には、剛が柔をねじ伏せることだってあるんだぜ?」
更に力を込めて一気に祐実を押し切ろうとする佐助。
「こ、ここまでとはね……」
プルプルと震える祐実の腕。佐助の力強い攻撃によって腕力を奪われている為に、足腰に力を入れて粘らなければならない祐美に、先程のように襲撃をお見舞いする余裕はなくなり始めていた。
「こんな程度じゃねぇぜ?」(炎獄‼)
追い討ちを掛けんとばかりに大型剣に炎の闘気を纏わせ、祐美の危機感をあおる。単に受け止め続けているばかりでは、今度は炎に焼かれてしまう。
「さぁて、どうする?」
「自分の身体の心配はしないの?」
佐助の腹の傷を見つめる祐実。襲撃によって浅かった傷が深くなり、先程以上に多量の血がしとどにあふれている。
(余計な世話って言い返してぇが、痛みを感じなくなっちまった分、さっきの蹴りで傷が広がったことに築くのに遅れちまった、立ち眩みしてきやがったぜ。だがな……)
「こんのぉ‼」
叫びながら大型剣を振り上げ、祐美が迎撃する隙を与えることなく一気に振り下ろす佐助。
「ならば……‼」
祐美はあわやのところで後ろへ跳躍し、同時に片方の忍刀をワイヤーで巧みに操って佐助の左腕をかすらせた。
「なっ……‼」
闇の闘気により、左腕の神経まで一瞬で麻痺させられた佐助。大型剣を支える力が衰えた為に、右腕で足元を負傷することなく大型剣の刃をアスファルトに落とすことに成功した。
「ったく、身体が鈍っちまったのかな?」
「……お互い、もう後が残されていないようね」
彼女の言う通り、腕の震えが激しくなっている。幾度に渡る打ち合いが腕力を奪っていた。片腕で大型剣を使わなければならない佐助と、腕力を失ってワイヤーを利用して忍刀を使わなければならない祐美。状況としては五分になっていた。
「……お前の力、やっぱりスゲェや」
「あなたもね……」
そう言いつつ、再びワイヤーを操って忍刀を回転させ始める祐実。
「またそいつか」
大型剣を片腕で何とか持ち上げた佐助。ここまで追い詰められても尚、彼の口調や声色に変化はなく、飄々とした態度を崩さなかった。
「こんな状態で武器使うのも久々だな」
「前例がない訳じゃないのね?」
「二度と経験したくねぇことだが、なっ‼」(炎獄‼)
炎の闘気を纏わして直ぐに大型剣を振り下ろし、身の丈ほどのひばりらを発生させて祐美に先手を取る佐助。
「まだこんな力を持ってるなんて……」
大きさこそ決して強大という訳ではないが、それでも勢いはあった。故に祐美は両手の忍刀の風車で受け止めるが、その勢いを殺し切れず、後ろへ押し込まれる祐美。
「この状態なら、何とかなるかもな……」
そのまま佐助は再び祐美目掛けて駆け抜け、跳躍して頭上を取った。
「こいつで、どうだっ!」(雷迎‼)
雷の闘気に切り替え、落下加速と大型剣の重量を利用して祐美を一刀両断せんとする。
「それでも……‼」
身体を微かにかわして直撃を避けたが、右手首を斬り落とされてしまった祐美。
「ぐっ‼」
切り口から噴水の如く噴き出る血と、その激痛に表情を歪める祐美。
「流石に、完全かわせなかったわ……」
動揺を隠すように冷静な口調の祐実だが、額には冷や汗が流れ出ていた。彼女自身も既に余裕がなくなっていたのだ。
すると祐美は残った左手に闇の闘気を纏わせ、傷口にそっと当てた。
「はぁ……」
「傷口の神経をマヒらせて痛み止めか。これで互いにイーブンだな……」
ようやく右手首からの血の流れも穏やかになったが、それでも肩で息をしていることに変わりなく、祐美の限界は近かった。
「本当はもっと強がり言いたいが、もうそんな余裕はねぇ、分かるだろ?」
改めて佐助の身体を見渡す祐美。腹には闇の闘気の一太刀で浴びせて開き、蹴撃で大きくなった傷口。左腕には同じく闇の闘気で斬られた切り傷と、出血量も相まって大きく力が削がれているのは誰の目にも明らかだった。
(やべぇな。こういう時、ゲームとか漫画なら回復役がいて、魔法なり薬草なりで傷口塞いでくれるんだがな……)
内心で自分の置かれた状況に、ややふざけながら呆れる佐助。とは言え、徐々に佐助の表情から血の気が失せ始めてもいた。
「……そろそろ、行かせてもらうぜ」
そう言いながら得物を握る力を強める佐助。祐美も忍刀の柄のワイヤーに手を移し、改めて衰えた腕力をカバーする手に出る。両者共に体力的には既に限界状態であるが、精神的には衰えている様子は微塵も感じさせなかった。
「「……行くぞ……‼」」
同時にそう言った瞬間、互い目掛けて走り出し、佐助は大型剣を思いっきり構え、祐美もワイヤーを伝って忍刀にありったけの闇の闘気を纏わせて振り回し始める。
「おら、よっ‼」
大きく薙ぎ払いを繰り出した佐助の大型剣が、火の粉を辺りに撒き散らしながら祐美の首に襲い掛かる。
「それなら……」
それを祐美は海老反りになってかわし、そのまま足元を斬り裂かんとする。
「なら……」
そして佐助は薙ぎ払われようとするところを軽くジャンプしてかわし、そこから再び互いの技のぶつかり合いへと発展する。だが既に両者共に、隙を見つけて即座に勝負を決めるということは難しくなっていた。
「くっ、この……」
徐々に腕力が失われていた祐美の方が押されていく。それを逃さぬように、佐助は猛ラッシュを掛ける。
「守ることが精一杯ってことか?」
「そうであったとしても……‼」
片腕しか動かない状態であったとしても、その力を最大限生かして押し込んでいく佐助。それまで決定打を決められずにいた彼にとって、徐々に押していくことで勝機をつかみ始めていく。
「はぁ‼」
祐美の力が限界まで来たことを悟り、それまでで最も大振りの攻撃を繰り出す佐助。
「このっ‼」
祐美は咄嗟に左手のワイヤーを手繰り寄せ、一気に佐助の背後を襲わせる。
ズシャッ‼
そして辺りに、鈍い金属音と何かが斬られた音が響き渡った。
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