第二部 第九章 動乱の渦中の東京

第1話 切って落とされる火蓋

集会場での集まりの後、情報戦略室へ赴いた御影は、共に参上した翼に東京決戦の最初に投入する部隊への出撃許可を取っていた。


「さて翼。斥候からの情報じゃあ、既に警察は臨戦態勢を取っている。そして連中が動けば確実に新選組モドキも動く」

「ヘリ部隊の方はどうだ?」

「そっちはいつでも出撃可能だが、あんなものを使う理由はあるか?」

「上空から攻撃を仕掛けてくる可能性があるということだ」

「まさか、去年の沖田総一の一件のように、無差別に東京を空爆するならまだしも……」

「だが俺達の立場は連中からすればテロリスト同然だ。そんな手段を使ってくる可能性も考えているはずだ。一応の準備だけはしておいて損はない。無用の可能性もあるだろうが、まあそれはこの際考えなくてもいいだろう」

「なら、そうさせてもらうよ。んで、先手必勝でこちらから仕掛けるとして、その部隊はどれにするか?」


 翼の意見に対して最もと言わんばかりの表情になりながら、御影は質問を続ける。


「なら、既に都内に配置している例の部隊への出撃命令を出す。但し」

「但し?」

「俺も自分の部隊を率いて出撃する」

「おいおい、いきなり大将自ら出撃なんて、そこまでしなくても……」

「俺の力を見せつけることで、連中の戦意をくじく。今後の戦いにおいてそれが俺らサイドの優位性を手にすることは出来るだろう」

「……創破の力でか?」


 御影は微笑みながら尋ねる。どうやら異論はなくなったようだ。


「ああ。少なくとも連中の士気を挫くことは出来る」

「確かに、お前の力に現状勝てる奴がいるとしたら、沖田総次ぐらいだろうしな。それで、どのタイミングで部隊を出撃させる気だ?」

「別方向から進撃し、頃合いを見計らってそいつらと共に撤退する。そのための時間稼ぎをする中で出来る限り連中の戦力を削る」

「そうか。じゃあ、先遣部隊にはその旨を伝えておくぜ」

「頼む」


 そう言って御影は情報戦略室へ向かっていった。


「さて、今の警察と新選組モドキにどこまで出来るのか、見せてもらうぞ」


 そう言って翼は自身の部隊への連絡を構成員に伝えつつ、彼らの動きを観察するのだった。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 新選組本部のメンバーは引き続き拠点からの出撃となるが、警察は都内全域に防衛網及び探査網を敷き、随時戦況の観察とあらゆる状況に応じて戦力を投入できる体制を作り上げていた。これにより、敵の進撃に対して後れを取ることなく対処ができるようになっていた。


「あくまで、戦力的にも拮抗していればの話だけどね」


 そこまで説明をして薫はそう締めくくる。戦力的という意味では、一つには数で警察と新戦組が有利だが、他方で闘気の扱いと組織員個々人の練度という意味では赤狼の方が全体的には有利だった。

更に拮抗していると言えば新戦組のみであり、その戦力では半数の差がある。


「確かに警察も、この八ヶ月で闘気の扱いにも実戦経験も十分なものを得たと思うわ。だけど敵の方が闘気の扱いにも慣れてる。闘気を使い慣れているかどうかってのが大事になってくるとなると、自信を持って言えないわね……」


 薫の話を聞き終えて懸念を述べた麗華。


「でも、前よりは戦力になってるわ? 結果も残してるし」

「確かにね。大師うちが最も私達に近い錬度を維持してるけど、他の連中はまだまだだわ」


 薫は警察の戦力をある程度評価したが、麗華の方は身長だった。伊達に7年近くに渡って彼らと実践を共にした訳ではない分、冷静に分析できたからこその意見であり、故に警察の現場での戦闘力に関しては自信を持って言えなかった。


「あなたの意見も分かるけど、その為に本部のメンバーを各地に散らせたんでしょ? 彼らのサポートがあれば、警察官達も各地の新戦組支部の面々も士気を上げて戦えるわ。それに本部にも戦闘要員を五百人、何とか三日前までにこしらえたんだし」


 そう言った麗華の表情は、二人の遊撃部隊司令官の力を心底信頼しているような、涼しげな表情だった。ちなみに本部に残っている部隊が待機しているのは、戦力の温存の為である。状況を見て臨機応変に対応する為に支部に残した隊員達と連携して戦う為でもある。


「だが、懸念すべき点がないわけじゃねぇ。真の方はともかく、沖田総次の方はどうだ?」


 その流れを断ち切って話題を振ったのは、陽炎のリーダーを務める高橋翔だった。


「……まだ警察が、彼を沖田総一と重ね合わせてみている節があるってことを言いたいのね?」


 そう言われ、翔は無言で頷いた。


「あの事件からまだ一年も経ってねぇ上に、奴の力は日増しに増して言ってやがる。既に警察連中にとって手に負えねぇくれぇの力を手にしちまった。そんな奴を前にして委縮しちまう連中が出てくるかもしれねぇ。いくらあいつが強いからと言って、動揺しっぱなしの警察官連中を宥める力があるとは思ねぇんだが」

「その懸念は私にもあるけど、残念ながら今のところはそこまで考えを回している時間はないの。それに、例えそうだったとしても、彼らはプロよ。その辺りの気持ちは割り切って戦てくれると信じてるわ」

「まあ、それなら良いけどよ……」


 そう言いながらも佐助は不安だったようだ。


「……佐助みたいに不安に思う人が多いのは理解してるわ。確かに総次君の力は凄まじい勢いで、今も増大していっている。それに恐れを抱いている警察や新戦組関係者だけには留まらない勢いで、今も強くなっていってる……」

「麗華……」


 そこまで言って微かに沈む様子を見せる麗華に、薫は静かに背を抑えて姿勢を正させ、麗華に代わってこう言った。


「沖田君の力も真の力も、今回の戦いでは鍵になるわ。だからこそ、あなた達の力が必要なの。彼ら二人の力のみで状況が好転することではないの。油断しないで臨んでほしいわ」

「「「「「了解‼」」」」」


 そう言って各組の組長と陽炎の面々は敬礼した。


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