第2話 黒狼乱舞‼
麗華の指示で朝の集合から時間を置くことなく本部を出撃した沖田総次率いる第一遊撃部隊は、都内各地を隊員達と共にバイクを駆ってパトロールしていた。出撃直後の大師討ちからの情報に基づき、真っ先に進撃される可能性のある場所をしらみつぶしにあたり、MASTER構成員達と警察が交戦状態になり、苦戦している場合に即座に加勢する為だ。
既にいくつかの場所では交戦状態に入っており、その中で劣勢に陥っている場所へ急行していた。
「連中は来ますかね? 司令官殿」
「まだ調査を始めたばかりですが、余裕をもって行動できるようにしときましょう」
「了解いたしました、ボス」
そう言って総次にウインクする隊員。ふざけながらの態度であったが、これも一年半に渡って総次と共に戦ってきた故の信頼の証である。
「それにしても、敵の総数は推定で三万以上入るんですよね。それも闘気の扱いに慣れた連中なら、いくら闘気を使えるようになった警察と言っても……」
「不安ですか? 大師討ちレベルの力がないと」
「そこまでとはいかなくても、もう少し力を入れてほしいって思いますよ」
懸念を述べる副官だが、総次の態度は落ち着いていた。
「懸念は分かりますが、彼らだって死線を潜り抜けています。それに日本警察は優秀だと、僕も信じてます」
「まあ、司令官が入隊する前から比べればマシになりましたが……」
「僕が入隊する前から警察も大師討ちは優秀だと思いますが?」
「大師討ち以外は、以前は大したことなかったですよ。それも、警察上層部のとばっちりが理由なんですが……」
そう言って別の隊員が話に割って入って来た。
「いずれにしても、今の警察が再生する為には、彼らが踏ん張らなければなりません。そうでもしなければ汚名返上できません。まあ、出来ればですが……」
「信じましょう。上層部の人間はともかく、現場の人達にはそう言った志を持った立派な警察官が多いんですから」
総次は努めて優しい口調でそう言った。
『沖田司令官、目黒区の駐屯メンバーがMASTER部隊との進撃に接触。数は約500人。既に交戦状態に入っています』
総次の被るヘルメットのインカムに入ったのは、付近を偵察していた新戦組のメンバーからの通信だった。
「了解しました。そちらに急行します」
ヘルメット越しのインカムから入ってきた情報をもとに、総次は第一遊撃部隊の一同に目黒区の大通りに向かうように指示を出した。
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目黒区の大通りでは、既に警察と新戦組支部の連合軍がMASTER構成員千五百人と戦闘状態に入っていた。この時点で警察と新戦組の戦力は二千で、数の上では有利であり、MASTERに対してもその優位を崩さなかった。
「流石にやるようになったな。俺達を相手にここまでやるなんて……」
これまで彼らからすれば腑抜け同然に思えた警察が闘気の扱いに慣れ、更に新戦組との連携もこなしていたことが意外だったようで、いささか苦戦を強いられていた。しかし警察も闘気の扱いがついこの間になって使えるようになったということもあり、新戦組との連携があって初めて前線で戦えていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。この程度なら訓練で何度も行ってきた」
互いを励ましながら戦う警察と新戦組。闘気という力を得てからは元の経験を元に直ぐに現場に即応し、闘気を持つ相手にも引けを取らない力を得ていた。
だが錬度の差も数の差を覆すには至らず、いつの間にやら二百名以下にまで減っていた。
「おのれ……やはり数の差は覆せないか……」
自分達の非力さを呪うようにつぶやく警察官。もっともそこに持っていくまでにMASTERも百人程の犠牲を出しいてた。
「ようやく逆転に持ち込めたぞっ‼ この勢いに乗って一気に突き崩せっ‼」
「「「「「オオオオオッ‼」」」」」
各々の属性の闘気を纏わせた刀や鉈を天に掲げ、大師討ちの銃撃をものともしない勢いで一気呵成に突撃を掛けるMASTERの構成員達。
「引くなっ‼ ここで持ちこたえて、勝機をつかめっ‼」
必死の勢いで見方を押しとどめる新戦組の隊員達。警察もそれに呼応して次々と闘気を流し込んだ弾丸を次々と撃ち込み、MASTERの構成員達は闘気の刃を放ってそれらを迎撃する。この攻防が十五分も続く中でも互いに決め手を欠いていたが、それでも徐々に数で劣勢の警察と新戦組が不利に変わりなかった。
「ここまでか……‼」
ついに新戦組の隊員達も敗北を悟った瞬間、通りの奥から無数のエンジン音が近づいてきた。
「この音、バイクか……?」
「バイク音を轟かせる連中と言えば……」
エンジン音が鳴り響く方向を一斉に敵味方問わず振り向くと、そこにはバイクに跨った漆黒の新戦組隊服に身を包んだ集団が刀を抜きながら猛スピードで迫っていた。
「黒狼だ……黒狼が来たぞっ‼」
MASTERの構成員の一人が戸惑いながら叫び、それが他の構成員達にも伝染する。他方で新戦組の隊員達の士気は一気に上がった。
「沖田司令官が到着したぞっ‼」
それを象徴するように、隊員の一人が歓喜の雄たけびを上げ、新戦組の他の隊員達も嬉々として総次達を迎えた。
「怯むなっ‼」
戦力的には拮抗したものの、総次の存在に怯むMASTER構成員達。やがて第一遊撃部隊は凄まじい爆音を大通り一帯に鳴り響かせながら現場に到着した。
「味方はこの隙を付いて後退っ‼ 僕らの隊が殿を務めますっ‼」
そう指示を出しながら、総次は部下達と共にバイクで構成員達の群れに突入した。他の隊員達の巧みなバイクの運転技術もさることながら、特に総次の活躍は凄まじく、まるで暴れ馬の手綱を巧みに引くように、敵味方入り乱れる空間を縦横無尽に駆け抜け、陽の闘気を纏う刀を振るって構成員達を葬っていた。
「相手は小回りが効かないぞっ‼」
ある構成員はバイクに乗っている総次を叩き落とそうと闘気の刃を放つ。
「ふんっ!」
それもあっさりと斬り裂かれ、そのまま構成員は猛スピードで迫る総次の刀の錆となってしまった。
「乱戦である以上、全員近接戦闘で対処してくださいっ‼」
叫び声で隊員達に指示を出す総次だが、その太刀捌きに狂いも迷いもなく、周囲を取り囲む構成員達を血祭りにあげていった。
「や、やはり沖田総次は化け物だ……」
返り血を一滴も浴びることなく構成員達を葬っていく総次の八面六臂の活躍に慄く構成員達も、これ以上の戦闘を不利を感じ始めていた。
「隊長っ‼ このままでは……」
「分かった。ここは撤退だっ‼ 私と共に誰か殿を務めてくれっ‼」
隊長の指示のもと、集まった百名程の構成員達が、撤退準備にかかる味方をかばいながら刀や鉈に纏わせた闘気の刃を一斉に放った。
(あの数、乱戦下で大技は撃てない。致し方ないか……)
流石に乱戦下からようやく脱出したばかりの隊員達や警察官達にそれらを迎撃する隙がなく、総次はそれを見かねて小太刀を抜きながら陰の闘気を纏わせ、陽の闘気を纏わせた刀に近づけて双方の出力、量を五割に拮抗させて二つの闘気が複雑に絡み合う空間を発生させた。
それは紛れもなく、狼盾だった。やがて狼の顔を象った闘気の口元に現れた混沌の空間に触れた闘気は悉く浄化され、構成員達は驚愕の表情を浮かべた。
「あ、あれだけの闘気を全て防ぎ切った……」
「だが、時間は稼げた。撤退だ」
隊長の指示のもと、構成員達は一目散に撤退していった。
「司令官、流石ですね」
「とは言え、闘気の九割以上を使ってしまいました。状況が状況だったとはいえ、失策でした」
「たった一人であんなに……」
「黒狼、か……」
そんな総次の姿を見て、警察官達はどこかおどおどしている。
「どうかなさいましたか?」
「い、いや、増援、感謝する。では我々も一時撤退する。援護を頼む」
そう言って警察官を率いている責任者は彼らを招集し、新戦組の隊員達にも話しかけた。
「……司令官、お気を悪くなさらないんですか?」
そんな警察官達の総次への態度を見て些か不機嫌な態度を示した隊員の1人が、総次に対して尋ねた。
「大丈夫です。彼らの中ではまだ、一年前の沖田総一のトラウマが拭い切れないんです。それをどうこういうつもりはありません」
特段気にしていないようにしている総次だが、内心では彼らに対して呆れ返っていた。沖田総一の亡霊に未だに怯え、乗り越えようとしない彼らの態度は、総次にとって自身への嫌悪を向けられる以上に不愉快だったのだ。
『沖田司令官っ! 新宿区に援軍を!』
そこへ総次のインカムに別地域の鎮圧にあたっている支部隊員からの通信が入ってきた。
「了解しました」
そう言って総次は通信を切った。
「司令官?」
「至急、僕と一緒に大至急新宿区へ向かいます。そこで第二遊撃部隊と連携して、敵の迎撃を行います」
突然の総次の命令に戸惑う第一遊撃部隊の隊員達。
「援軍要請が出たと?」
「ええ。僕の闘気量は現状フルの一割程度ですが、ある程度は問題ありません。第一と第二分隊はこのまま警察と大師討ちと支部メンバーを伴い、撤退を開始してください」
「「「「「了解しました‼」」」」」
そう指示を出しながら、総次は第一遊撃部隊と共にその場を後にした。
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