第8話 決戦の時……‼
警視庁では二十三区内の都民が地方へ無事疎開できたかの確認を、各区の区役所職員と共に行っていた。そしてその結果報告は今後の戦いにおいての警察側の責任者となる警察庁警備局長の上原権蔵にも届いていた。
「都民の地方への避難が完了したようだな」
「しかし、ある程度分散させたとはいえ、これだけの都民をよく各地方は受け入れましたね」
報告書を権蔵に手渡した警視庁公安部の女性警官は感嘆の声を上げながらそう言った。
「事情が事情だからな。住民に多少の不自由を強いることになるが、この際は助け合いということで許してもらえるだろう」
「では、私はこれで」
「ご苦労だった」
女性警官は敬礼して警備局長室を後にした。すると今度は入れ違いに警備局の男性職員が入室してきた。
「警備局長。都内で調達できる食料や医療用具などの補給物資の手配が完了しました」
「そうか。よかった」
そう言って権蔵は安堵した様子を見せた。権蔵は今回の作戦に当たり、警察庁警備局長としての立場を利用し、かつ警察庁所属の全ての部署の職員達の力も借りて、食料や医療用具の必要数の調達を成し遂げたのだ。
「都内の警察官の総数は約四万人。各位が各々の持ち場で待機しつつ、敵の進撃に即応して迎撃する。新戦組のように自ら積極的に攻め込むだけの力をまだ持たない以上、これが我々の基本方針となる」
「数の上では新戦組より上ですので、総数で考えても我々の方が有利ですね」
「だが真の闘気使いを相手にしての戦いは簡単なことではないだろう。それに……」
そこまで言って一瞬黙り込む権蔵。そんな権蔵を不思議そうな表情で男性職員は尋ねる。
「それに、何でしょうか?」
「……私にとっての償いでもある」
「償い、ですか?」
「理由はどうあれ、渡真利君の凶行を止められず、多くの都民の命を奪ってしまった。国民が我々を憎むのも当然だ。このような状態になったのも、事前にこうなることを察していながら、その実何も出来なかった私にもある」
「警備局長……」
「私だけで背負える罪ではないが、せめて、これからの警察の未来の為にも、このような事態を招来せしめてしまったことへの償いだ」
そう言いながら権蔵はサッシ越しに大都会の景色を、罪悪感に苛まれるような眼差しで眺め続けた。
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戦いの日。総次はベッドから重い身体を起こした。日本の今後を左右する翼との戦いになるのを意識し、いつも以上に身体を重く感じていたのだ。
(翼。お前との決着をつける時が来た……)
総次はパジャマから新戦組の隊服に着替え、遊撃部隊司令官のマントを羽織り、刀と小太刀を腰に佩いた。そしてその姿を、ドアの近くに置かれているスタンドミラーで隊服やマントの位置を確認した。
(全力を以て、お前を止める。僕がこれからの国の為に出来ることを探す為にも、夏美さんとの約束を果たす為にも……‼)
強い決心を胸に、組長室を出た総次。そんな総次を最初に出迎えたのは夏美だった。
「おはよう、総ちゃん」
「おはようございます」
そう言った総次を、夏美は少々を頬を赤らめる。
「約束は果たします」
「うん、絶対に生き残ろうね
改めて互いの約束を確認する総次と夏美。そのまま局長室へ二人で向かっていると、今度は澤村修一と水野未菜と鉢合わせになった。
「おはよう総次」
「おはようございます。澤村さん」
「未菜さんも、おはようございます」
そう言って総次と夏美は二人に軽くお辞儀をする。
「いよいよね。私達医療部門も万全の態勢で皆の背中を預かるわ」
「水野さん……」
「戦うのは俺達だけじゃねぇ。未菜達後方支援者もだ」
「今の翼は誰よりも強い正義感とそれを貫く心を持っている。彼の部下達も同様でしょう」
そう話しながら、修一達と共に局長室へ向かう総次達。
「お前は、大丈夫なのか?」
修一は何か懸念するような表情で総次に尋ねる。その言葉の真意を総次も感じ取り、強い意志を以てこう答えた。
「必ず勝ちます。いや、翼には勝たなければなりません」
「なら、安心だ。俺は未菜と共に生き残って、幸せを得る為に戦うよ。他に陰の幸せを願うのもいいが、自分達の幸せを手に入れることも大事だからな」
「それが修一さんの戦う理由ですね?」
確認するように夏美は尋ねた。
「まぁな。難しいことを考えるのはそれからだ」
そんな会話を繰り広げていると、途中で未菜は医療部と合流して修一達と別れ、三人は局長室へ入った。
「おはようございます」
最初に入った総次が、既に到着している陽炎を含む各組の組長や遊撃部隊司令官といった他の面々に対して敬礼をする。続いて夏美と修一も敬礼しながら入室した。
「既に警備局長から、都内二十三区の警察官への応援として、都外の一部警察署のとの連携が可能になったとの情報が入ったわ。これで数の上での有利は更に確保できたけど、まだ油断はできないわ」
開口一番の麗華の言葉に、一同はこれから始まる戦いの苛烈さを想像して畏まる。
「補給物資は十分に確保したとは言え、短期決戦に持ち込まないと、二十三区は致命的な損失を被ることになるわ。決して油断しないように」
「薫、形式的な言葉は無用だぜ?」
そう言いながらキザに言葉を返したのは佐助だった。
「この戦いが死闘になることは既に覚悟しているでごわす。必ず短期決戦でこの戦いを終わらすでごわす」
珍しく助六も自信をもって薫にそう言った。
「佐助、助六……」
そんな二人を見て意外そうな表情になる薫。すると真は二人に人に続いてこういった。
「薫。君達と同じように、僕達も覚悟を決めている。後方は任せたよ」
「真……」
「薫。あなたのプレッシャーは皆も背負ってるわ。だから、もっとみんなに甘えていいのよ?」
そう言って麗華は薫の手を握り、彼女から説明を引き継いだ。
「ではこれから部隊配置を説明するわ。夏美ちゃんの率いる七番隊と、冬美ちゃんが率いる八番隊は、練馬区の第一拠点と第二拠点に、澤村君が率いる六番隊は新宿区の第七拠点に移動し、敵の進撃に備えて」
「「「了解‼」」」
そう言って修一達さん名は敬礼する。
「大師討ちも既にこれらの支部に二百人ずつ駐屯しているから、彼らと協力して敵の進撃を食い止めること。これから他の隊にも順次駐屯する支部が決まるわ。但し、陽炎は私達の指示に従って行動してもらうわ。あなた達は少数精鋭の部隊故に投入するタイミングを指示するわ」
「「「「了解」」」」
陽炎の面々も敬礼して答えた。
「一番隊と二番隊は本部防衛の為にめに待機よ」
「おうよ」
「承知したでごわす」
薫の命令に佐助はサムズアップで、そして助六は腕組をしながら深く頷いて答えた。
「他の部隊の配置は決まってるから、それに従って順次出撃して指定の支部に駐屯して敵の迎撃を行ってもらうわ。大師討ちが討伐した各地の支部からの除法を順次収集、解析して、敵の力を削ぐ。そこで、いつでも出撃できるように臨戦態勢とバスの準備も怠らずに」
薫の指示を聞いて一同は頷いて応えた。
「そして遊撃部隊には今回、即座に出撃して各地のパトロールに行ってもらうわ」
「それなら、万一敵の進撃に遭遇しても即座に戦闘に突入できる」
「つまり僕らは、東京防衛の為の急先鋒ってことになりますね」
「その通りよ」
薫は真と総次の意見を頷きながら肯定した。
「遊撃部隊は新戦組にとっての切り札だけど、同時に最も各部隊の中で行動の自由があるわ。ここから先の部隊運用は、完全にそちらに任せるわ」
「了解しました」
「分かったよ」
麗華の指示を聞いて二人も敬礼して答えた。
「……最後に私から一言。絶対に生き延びましょう。これからの私達の、それぞれの未来の為に……」
麗華のその言葉を聞いて、一同は無言で静かに敬礼した。
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MASTER本部でも、戦いを前にして高揚感に浸る赤狼の面々と、比較的冷静にそんな彼らを眺める第一、第二師団の面々が本部集会場に集結していた。
「さて、これから始まる訳ですが、第二師団長としては、勝算はありますか?」
「あの小僧はともかく、俺とお前なら大丈夫だろう? 安正よ」
舞台上の幹部席に並んで着席していた安正の質問に、剛太郎は静かに自信を持ってそう言った。
「師団長達は余裕だな。敵の数は俺達の三倍以上って見込みなのによ」
そんな二人の姿を、正反対の場所に設置された赤狼幹部席に着席している尊がいささかイヤミも込めてつぶやいた。
「でも実力は本物よ。実戦経験も豊富だし、実力はそれこそ翼に次ぐレベルよ」
そんな尊の愚痴に似た発言を耳にして、八坂はこう言って窘めた。
「でも、あんな余裕かましてられると、なんかムカつく」
一方で尊に同調したアザミはそう言って頬を膨らます。彼女自身、実力が両師団長に比較して劣っているという自覚はあるが、素直にそれを認めたくないという感情もあった。
「お前らがどう思おうと、俺は俺のやるべきことをやる。翼の力になれるんならな」
「ボクも同じ。翼の創る未来で、美味しいご飯が食べたいしね」
「お前は食うことばかりかよ……」
将也のそんな言い方に呆れる慶介だった。
すると会場のライトが一斉に消え、喧騒は一瞬で収まった。開戦に先立っての決起集会が始まり、大師・幸村翼による先生が行われるのだ。
『諸君。ここまで俺の為に来てくれたことを感謝する。我々にとっての、命を奪い合う戦争はこれで最後になる。だが同時に、命を輝かし合う戦いの始まりでもある。この戦いに勝利し、多くの人が希望をもって生きれる未来を築き上げるのだっ‼』
「「「「「オオオオオオオ‼」」」」」
「大師様ぁ‼」
翼の宣言が終わった瞬間、一斉にMASTERの同志達は歓声を上げ、両師団の団員達もこれまでの翼達の活躍から一定の称賛の意味で拍手を送った。
そして、戦いの火ぶたは、切って落とされることになる……‼
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