第10話 白金と黒谷

「お前ら……‼」


 怒気を滲ませながら二人を威嚇する修一。


「お前らともう一度戦場で会うのが、こんな形になるのは予想外だったぜ」

「あんた達、何をしたのか分かってんのっ⁉」


 粗暴かつ冷淡な態度をとる白金に啖呵を着る夏美。

すると黒谷が白金に続いてこう言った。


「ええ。MASTERというゴミ共を残すことなく処分しているのです」

「……これも、渡真利警視長の命令なんですか?」


 いつになく殺気立っている冬美。尋ねる時の声には彼女らしからぬ冷徹さが覗かせていた。


「リーダーと私達の総意です」

「……渡真利警視長は……」


 黒谷の言葉に、身体を振るわせる修一。


「あの野郎は、こんな事してまで奴らを滅ぼしたいのかよっ⁉」


 爆発する感情に呼応するように、周囲に突風を巻き起こしながら風と雷の闘気の出力を上げる修一。


「だったらどうすんだ?」

「お前らを叩き潰すっ‼ そして、渡真利も倒すだけだっ‼」

「その通りよっ‼」

「同感ですっ‼」


 修一の威勢は勿論のこと、触発された夏美と冬美も武器を構えて白金達に対峙する。


「……白金君はどう思いますか?」

「俺達の邪魔をする奴らは誰であろうと容赦しない……」


 殺気と共におびただしい量の風の闘気を刀に纏わせ始める白金。


「決まり、ですね」


 黒谷も白金と同量の光の闘気を刀に纏わせる。


「ウォォォオ‼」

「こんのぉぉぉお‼」


 得物に各々の闘気を纏わせながらて猛スピードで白金達に突撃をかける修一と夏美。


「連携でやるぞ」

「了解です、白金君」


 迎え撃つ白金と黒谷。特に黒谷は遠距離攻撃をこなす冬美を先に仕留めようと夏美を半ば無視する形で向かった。


「妹はやらせないわよっ‼」


 無論それを許す夏美ではなく、黒谷の前に立ちはだかりながら炎の闘気を纏わせたトンファーを振るって振り上げた黒谷の刀を受け止める。その力は、夏美にとって今まで出したことのないほど逞しいものだった。


「この力……見た目だけでは分からないものですね」


 両腕だけでなく、足腰にも力を入れて黒谷の力に対抗する夏美。


「はぁぁああ‼」


 そのまま夏美は、トンファーに纏わせる炎の闘気の量を更に増大させる。


「これでどうよっ‼」(女豹乱舞・豪炎‼)


 力強く地面に踏み込み、スタートダッシュの要領で勢いよく飛び出して目にも止まらぬ炎の猛ラッシュを黒谷に叩きつける。


「力は流石ですが、技を繰り出す速さも、かなりものもですね」


 刀でその猛攻を逐一受け止めながら再び称賛する黒谷。


「今よっ‼ 冬美」


 冬美に即座に合図を送る夏美。


「分かってるわっ!」(水姫妖流・静‼)


 夏美の指示と同時に、パラソルから破界の水の闘気の波を発生させる冬美。


「あれは……‼」


 藍色に輝く波を見て危機感を抱く様子を見せる黒谷。だがそう思うと同時に発生した小さな波が轟音と共に眼前まで襲い掛かる。


「いっけぇ、冬美‼」


 タイミングを見計らってその場から冬美の隣まで一足飛びで避難する夏美。


「中々のものです、が……」


 平静を失うことなく、光の闘気を纏わせた刀を天高く振り上げる黒谷。


「はぁ‼」


 振り下ろされた刀は、光の闘気の爆発と共に藍色の波とぶつかる。それによって爆風と水飛沫が五人の周囲とを覆う。


「ぐっ!」

「ああっ!」


 発生した爆風と水飛沫に必死の形相で堪える冬美と夏美。その勢いに身体を後ろに持っていかれそうな感覚に陥っていた。


「威力は妹さんも中々ですね」


 黒谷の声が水飛沫の中から聞こえるや否や、漂う水飛沫を斬り裂き、宙を舞いながら斜め下の二人に襲い掛かる。


「挟み撃ちよっ‼」

「ええっ!」(氷雨‼)


 冬美に合図を送りながら黒谷の背後を取る夏美。その反対側には無数の藍色の氷柱を発生させて構える冬美が待ち構える。


「これは難しい攻撃を……」


 冷静に状況を確認して対処しようとする黒谷。


「はぁっ‼」


 女豹乱舞の炎をトンファーに纏わせ、一気に飛び掛かる夏美。だが黒谷は冷静に判断し、次に行動に移った。


「止めよっ‼」


 ありったけの力で火球を纏うトンファーを振り下ろす夏美。冬美も畳みかけるように無数の藍色の氷柱を黒谷の真正面に叩き込む。だが次の瞬間、黒谷が不敵な笑みをのぞかせたと思いきや、刀身がまばゆい光を放った。


「まぶしっ……‼」

「見えない……‼」


 眼前を覆いつくす光が発生して思わず目をつぶる夏美と冬美。その瞬間、夏美は蹴飛ばされて冬美の目の前まで吹き飛ばされ、二人の渾身の攻撃は不発に終わった。


「きゃあっ‼」


 アスファルトに強烈に叩きつけられた痛みに悶える夏美。


「効果はありましたね」


 余裕を見せながら着地した黒谷。だが彼の腕や足には冬美の氷柱を些か深く付けられた傷跡が足や腕に微かにできていた。


「こんな手で……‼」


 悔しそうな表情で黒谷を睨み夏美。


「このぉ……‼」


 これだけ攻撃を叩き込んだにもかかわらず、その大半を防がれてしまった夏美は悔しそうに地団駄を踏む。


「まさか、ああも簡単にかわすなんて……‼」


 その光景を白金との戦いの合間に見ていた修一は、黒谷の戦い方に舌を巻いていた。


「よそ見しながら戦ってんじゃねぇよ‼」


 すると白金の風を纏う鋭い一太刀が修一の肩に襲い掛かる。


「くそっ‼」


 反応は出来た修一だが、完全にかわし切れず、かすかに右肩に斬撃を食らった。微かに斬れた右肩から噴き出る血は、修一の青い隊服の肩口を紅く染める。


「この程度で、俺はくたばらねぇよ‼」


 右肩を抑えることなく強気な修一。そんな修一を白金は蔑むように見下ろし、烈風の如く駆け抜けて修一に一直線に襲い掛かった。修一は直ぐに立ち上がって風と雷の闘気を纏わせたカットラスで迎え撃ち、その攻防は互いの意地と意地のぶつかり合いとも言えるほど激しさを増していった。


「俺はずっとこの時を待ってたんだ。あのゴミ連中を一網打尽にできるのをなぁ‼」

「こんなやり方をやって、それが正義かよっ⁉」

「お前に何が分かるっ‼ 大切な人を殺された人間の苦しみがよぉ‼」


 その叫びとともに力強い斬撃が修一の首に襲い掛かる。


「そんなことっ‼」


 それを見逃さず即座にしゃがみこんでやりすごし、そのまま白金の胸部に強烈な回し蹴りをお見舞いする修一。


「ぐっ‼」


 それを受けて怯む白金。


「俺だって、親父をMASTERに殺された。だからあいつらを許せねぇのはお前らと同じだ。それこそお前らみてぇに皆殺しにしてやりたいと思ったこともある」

「なら何故お前はこっちに来なかった?」


 不思議そうな表情で尋ねる白金に、修一は毅然とした態度で答える。


「……俺と同じ目に遭いながらも、この国と、自分の未来を掴む為に歯を食いしばって前を向いて戦ってる人達がいる。そういう人達が俺達には多くいるんだよぉ‼」


 力いっぱい。魂からの思いを白金に叩きつける修一。


「……お前らは良いよな。何かを失っても、また何かを手に入れられてよ……」

「何?」


 白金の言葉に怯む修一だが、直後に白金の周囲に灰色の旋風が巻き起こる。


「俺にとっての未来は、一葉を失ったあの時に失ったんだ!」


 白金の感情に呼応し、勢いを増す灰色の風の闘気。


「お前らのように、何かを失ってまた新しいのを手に入れることができるのは、いつも一握りなんだよっ‼」


 白金の魂からの叫びに呼応し、彼の周囲に巻き起こる風が巨大な竜巻に進化し、辺りに暴風が吹き荒れる。同時に彼の身体の肉が裂けるような音がし、放出限界を超えて闘気を吐き出しているのが修一に分かった。


「こいつ……」


 それが何を意味するのかを理解する修一。


「俺はゴミ共を一匹残らず滅ぼすっ‼」


 周囲に巻き起こる闘気の竜巻の中心で刀を天に掲げる白金。周囲に巻き起こる灰色の竜巻が一気に刀に集約され、刀全体を円筒状に覆う。


「自滅覚悟か……‼」


 修一もまた、両腕の風と雷の闘気の量を増大させて融合する。巨大な竜巻に巻き込まれる雷は紫の輝きを放ちながら周囲に火花を散らせる。


「飛び散れぇ‼」


 紫電の竜巻を纏う修一との間合いを、駿足を以て一気に詰める白金。


「ぶっ潰す‼」(驚天動地‼)


 驚天動地の更なる境地を垣間見せ、白金に突き進む修一。荒ぶる風を纏う刃を向け、腕を大きく振るい、力いっぱいの斬撃が激突する。

 その瞬間、二人の闘気の衝突による爆風が辺り一面のアスファルトを吹き飛ばした。


「ぐっ‼」


 修一の両腕の筋肉に鈍い痛みが走る。闘気出力を限界ギリギリまで高めた為、筋肉に掛かる負担が大きくなっているからだ。


「全ての悪を叩き潰すっ‼ それが俺の正義だ‼」

「その正義で罪のない人間を大勢殺して、何が警察官だっ‼」

「貴様に何が分かるっ‼」


 憎悪の力を込めた白金の風の刃が修一の首筋を捉え、地面を踏みしめて振るわれる。


「んなろぉ‼」


 腰を落として斬撃をかわし、白金の胴体を両断せんと、紫電の風を纏うカットラスを力強く押し込む修一。


 カットラスが空を裂いて胴体を直撃する刹那、灰色の竜巻を纏う刀を胴体の前に出して受け止める。


「「オオォォオオオ‼」」


 反発する二つの風の闘気は、互いの感情に共鳴してその規模を増し、やがて巨大な竜巻が発生し、その突風が二人を吹き飛ばした。


「少なくとも、憎しみを誰彼構わず撒き散らしているだけだってことは分かる‼」


 手にしたカットラスの切っ先を地面に突き刺して着地して反論した修一。カットラスを握る手の力も強くなっていた。


「お前らは自分達の憎しみをばら撒いてるだけじゃねぇかよ‼」

「黙れ‼ 未来を奪われた俺達には、これ以外にないんだっ‼」

「勝手言ってんじゃねぇ‼ お前らが殺した連中にも身内がいる。今度はそいつらが束になってお前らへの復讐を企む‼」

「そん時はそいつらを滅ぼすまでだ‼」

「そうやって続けた先に待っているのは破滅だ‼ そんなことさせっかよぉ‼」


 互いの感情の全てが、双方の闘気出力限界までその力を引き出す。

 それは黒谷と戦っている花咲姉妹も目の当たりにしていた。


「修一さん……」

「あれがあの男の真の力……」


 白金の巨大な闘気に唖然とする冬美と夏美。


「久しぶりに見ましたね。滝彦のあの力を……」


 一方で黒谷は冷静にどこか懐かしそうに白金の姿を眺めながら、眼鏡の位置を指でクイッと調節する。


「……私は彼ほど激情家ではありませんが、あの勢いが必要ですね」


 そう言うや否や、黒谷の刀を覆う光の闘気が、赤く禍々しい輝きを徐々に増していく。


「あれは……‼」

「さっきと違う……‼」


 これまで見たことのない光の闘気の姿に戸惑う花咲姉妹。


「ぐっ……‼」


 黒谷もまた、本来の闘気出力限界を超えた力を出した為、全身の筋肉が裂ける痛みに声を漏らす。だが、直ぐに持ち直して刀を構える。


「……さて、あなた方に、私を凌ぐことができますか?」


 


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