第11話 過去の為に、未来の為に

 構えた刀で空を薙ぎ払った刹那、発生した巨大な光の闘気の刃が真っ直ぐ2人に襲い掛かる。


「冬美っ‼」

「前から!」(水姫妖夢‼)


 冬美が両手の鉄扇を天に掲げた途端、巨大な藍色の水が二人の周囲に発生し、壁を形成する。その直後、巨大な光の闘気が藍色の水の壁に直撃した。


「冬美‼」

「大丈夫っ、大丈夫よ‼」


その場に踏み止まって持ち堪える冬美。あまりの力に闘気を支える両腕が震える。


「では、これはどうです?」


 冬美の力に素直に敬意を示す黒谷の刀が再び眩い光を放つ。


「またあの光……‼」


 刀身の光を目を細めながら睨む夏美。直後に繰り出される黒谷の鋭い突きと巨大な闘気の槍が襲い掛かる。


「どんな攻撃が来てもっ‼」(氷雨‼)


 両腕を左右に大きく開いて解放される巨大な渦、直後に無数の藍色の氷柱の刃が生まれた。そして鉄扇を目の前に突き出すと、無数の氷柱が散弾の如く一斉に光の槍に襲い掛かる。巨大な光の槍の一閃は、無数の氷柱の散弾と激突し、互いを潰しあう。


「私はこの程度ではありませんよ?」


 今だ自信と余裕を見せる黒谷に苦虫をつぶしたような表情で悔しがる冬美。


「それはどうかしら⁉」


 背後から快活な声が聞こえ、振り返ると斜め上におびただしい量の炎の闘気をトンファーに纏わせた夏美が右腕を振り下ろした。黒谷はそれを慌てることなく肥大化した光の闘気を纏う刀を力強く振るって受け止めた。


「大したものですが……」


 黒谷は刀の峰でトンファーをいなされたが、夏美はもう片方のトンファーを叩き込んだ

が、最初の激突で繰り出された黒谷の斬撃に防がれ、回し蹴りを食らって吹き飛ばされる。


「フォローするわ‼」(水蝶麗爆‼)


 直後、冬美が鉄扇から生み出した十体の藍色に輝く巨大な水の蝶が、次々と黒谷に襲い掛かる。


「はっ‼」


 すると黒谷は二人との間合いを詰め、黄金色に輝く闘気の槍を放って狙い撃った。黄金色の槍は藍色の蝶を貫き、辺り一面を蒼に染めた。

 その勢いのまま冬美に直進していく黒谷だが、彼の頭上から凄まじい熱気が迫った。


「妹には絶対に手を出させないっ‼」(女豹乱舞・豪炎‼)


 夏美は黒谷の頭上を取り、左手のトンファーを纏う白炎の闘気が更に増大させて黒谷の顔面目掛けて叩きこむ。


「復帰が早くて何よりですっ‼」


 黄金色光を纏う刀を振り上げ夏美の技を迎え撃つ。その激突によって十メートルに及ぶ巨大なクレーターが地面にできたが、それでも両者は無事であり、鍔迫り合いに入っていた。

 黄金色に輝く光の刀。燃え滾る白炎のトンファー。身体中の全ての力を総動員し、互いの得物が壊れるような激しい打ち合いは、互いに一歩も譲らぬ力比べの様相を呈した。


「だったら‼」


 余裕を崩さない黒谷に痺れを切らす夏美。その怒りが夏美に更に闘気出力を上げさせた。

その重さに、徐々に刀の峰が黒谷の顔に近づいた。


「……ならばっ‼」


 すると黒谷は、地面を強く踏みしめ、更に闘気出力を上げて夏美を弾き飛ばした。

 夏美は空中で態勢を整えて着地し、炎の闘気の出力を安定化させる。


「私も家族を殺されてから、MASTERへの戦いは始まりました。あなた方が役に立たないのであれば、我々がやらねばならないではありませんか」

「その為なら、関係のない人を巻き込んでもいいと?」


 傷だらけの黒谷の気迫に押されながらも問う冬美。


「……罰は受けますよ。私も、龍彦も、リーダーもです」


 さながら阿修羅の如き表情と決意と共、二人に近づいていく黒谷。


「お姉ちゃん……」

「分かってるわ、冬美。マジでやる気よ」


 先程までと纏う雰囲気が変わったのを肌で感じ取る二人。


「私は……まだ、死ぬわけにはいかないのです……」


 二人との間合いを一気に詰める為に走り出し、それと同時に刀で前方の空間を何度も斬り裂き、刀身に溜めた黄金色光の闘気を連続して放つ。


「ならばっ‼」(水姫妖夢・静‼)


 一直線上に藍色の水を発生させて迎え撃つ冬美。その直後に二つの闘気が激突し、爆風とアスファルトの破片が飛び散る。


「冬美っ‼ 敵の姿は分かるっ⁉」

「正面、斜め八十度‼」

「はぁ‼」(炎姫炎舞‼)


 冬美に指示された角度に向け、限界を超えてオレンジ色に輝く炎の闘気をトンファーに込めて飛び上がる夏美。

煙とアスファルトの破片を逐一炎のトンファーで破壊した先に、唐竹割の態勢に入っている黒谷の姿が見えてくる。


「そこだぁ‼」


 そこで一気に夏美を斬り盛んとする黒谷だが、ここへきて異変を見せた。


「ぐっ‼」


 急に両腕と両足の傷から大量の血が噴き出す黒谷。冬美が放った氷雨のダメージが、無理な動きを続けたことによって大きく響いてきていたのだ。


「隙ありぃ‼」


 黒谷が痛みに悶えた直後、夏美は黒谷の刀を力いっぱいトンファーで弾き飛ばし、そのまま腹部に強烈な一撃を叩き込んだ。


「ぐあぁぁあ‼」


 苦痛に悶え吐血する黒谷。そのまま更に力を込めて押し込み、黒谷を地面へ強く叩きつけた夏美。その腹部はオレンジ色に輝く炎の闘気で黒く焼け爛れていた。


「充利っ‼ てめぇら‼」


 それを目の当たりして激怒する白金は、刀に纏わせる風の闘気出力も増大させた。


「道ずれにするっ‼」


白金へ突進する修一。風と電撃を融合させたカットラスを振るい、白金に嵐のような連続の斬撃を繰り出すが、白金も修一の斬撃を力任せに叩き潰さんとした。


「俺は全ての悪を殲滅するっ‼」


 悲鳴にも似た叫びと共に苛烈で強烈な斬撃を次々と修一に叩きこむ白金。だが強引に限界以上の力を出したのが響き、徐々に身体にガタがき始めているのは修一にも認知できた。


「俺は絶対に負けねぇ‼ こんなこと許してたまるかよぉ‼」


 彼らへの怒りを武器に、修一は更に力を引き出し、白金を追い詰めていく。


「おのれぇぇ‼」


 力で押し切らんとする白金だが、全身の痛みがピークになり、徐々にその力の衰えていた。柄を握る両腕に入る力も弱くなっている。

対して修一は力の点で劣っている様子がなかった。


「何故だっ‼ ここまでやって、何故倒れもしないっ⁉」


 限界ギリギリまで闘気を放出し、全身に痛みが走っているにもかかわらず倒れもせず攻撃を続ける修一に驚愕する白金。


「お前らを意地でも止めるっ‼ それがぁ‼」


嵐の如き竜巻と紫電を纏う左手のカットラスが、身体の回転を加えた修一の力と合わさって白金の刀を弾き飛ばす。


「俺の力だぁぁぁああ‼」


 叫びと共に回転による遠心力を加えた右手のカットラスの斬撃が、鋭く、そして力強く白金の腹から胸を斬り裂く。


「ぐああああっ‼」


 更にその要領で再び左手のカットラスを白金の胸に押し込むように斬り込む。

腹から胸にかけてⅩ字状の深い傷を負った白金は、おびただしい量の血をまき散らしながら吹き飛ばされ、背後の電柱に強く身体を押し付けられてその場に倒れる。


「かず、は……」


 その言葉を最後に、白金は意識を失った。

 一方も修一も、限界ギリギリまで闘気を放出したことによって生じる全身の痛みを思い出し、その場に蹲った。


「修一さんっ‼」

「大丈夫ですかっ⁉」


 その光景を見た夏美は、冬美に肩を抱かれながら駆けつける。


「何とか、だ。夏美ちゃんは?」


 息も絶え絶えになり、全身の痛みを感じなら画も訪ねる修一。


「あたしは大丈夫」


 そう言いながらピースサインを出す夏美。


「そっか。でも、なんとか、これで……」

『沢村組長』


 すると突然、修一の無線に六番隊隊員からの通信が入る。


「どうした?」

『数十台のパトカーが強引に我々の包囲網を突破しました』


 その報告を聞いて愕然とする修一。


『猛スピードで我々を引きながらでしたので、こちら側の全戦力の約3割に負傷者も出てます。現在追跡中ですが、恐らくそちらかと……』

「本部には?」

『伝えましたが、まだ時間が掛かるらしく……』

「……分かった。夏美ちゃん達の部隊と一緒に来てくれ」


 そういって通信を斬った修一は、不安そうな表情で自信を見つめる花咲姉妹に対してこう言った。


「……渡真利の増援がこっちに向かってる」


 その報告を聞いて絶望的な表情を浮かべる夏美と冬美。


「数の上では何とかなるかもだが……」


 そういって安心させようとする修一だが、それも今の2人にはあまり効果がなかった。


「冬美。闘気は?」

「破界を使い過ぎて、出力の方は……」


 夏美の問いかけに自信なさげにそう言う冬美。


「俺はまだやれる……ぐっ‼」


 そう言いながら息を整えて立ち上がろうとする修一。だが全身に走る痛みはごまかしきれず、悶えながらの形になった。


「修一さんっ……‼」


 そんな修一を不安げな表情で声をかける夏美。


「平気だ」


 夏美の不安に対して強気になりながら立ち上がった修一。


「弱音吐いてる時間は、ねぇな……」


 修一は唇をかみしめながら悔しそうに言った。

そうこうしていると、修一達の背後から徐々に無数のサイレンが近づいてきた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る