第8話 師団長、襲来‼
MASTER第一師団長の新見安正と、第二師団長狭山剛太郎の両者が率いる計三百名の部隊が、十一時三十八分から襲撃した新戦組支部は混乱の渦中にいた。既に五分以上が経過したが、本部からの援護はいまだ来ていなかった。
「本部からの増援は?」
「もう少々でこちらに来ますっ‼」
「それまで持ちこたえろっ‼」
陣頭指揮を執る支部長は、電撃的に攻め込んだインパクトと、予想以上の敵の力と数に圧倒されていた。決して彼らが弱い訳ではなく、MASTER最強の二師団の精鋭を相手にするという運の悪さがあった。だがそれでも崩れないのは、彼らの統率力と戦闘力の高さに他ならない。
「新撰組モドキの東京での力は油断ならないということは聞いていましたが、納得です」
「だが、対処可能だ」
そう言いつつも、安正は片手間に風の闘気を纏ったレイピアに次々と隊員達を突き殺し、剛太郎は手にした炎の闘気を纏う巨大なハンマーを振るって血塗られた肉塊の山を作っていた。
「そろそろ敵の援軍が到着するようですね。その前に一気に片を付けますかっ‼」
地面を蹴って飛び出し、新見の突きによる風の一閃が、十五人以上の隊員の腹に巨大な穴を開ける。隊員達はそのまま血の池に沈んだ。
「元よりそのつもりだっ!」
力強く振り下ろされた剛太郎の炎の砕棒が地面に直撃した瞬間、地響きと共に半径十メートルに渡るクレーターと共に、彼を中心に発生した巨大な火柱が隊員達に襲い掛かった。
逃げ遅れた隊員達は炎の身を焼かれて果てた。
『前線部隊に告ぐ。あと三十秒弱で新撰組モドキの拠点に敵援軍が到着予定だ』
その直後、彼らが耳につけている無線から御影の声が入ってきた。
「来たみたいだな」
「どうなさいますか?」
「迎撃に決まっている」
「ですね」
安正と剛太郎は背中合わせになって全方位への警戒を強めた。その瞬間……。
「ぐあっ‼」
「うげっ‼」
構成員達が、安正達の斜め左から無数に飛来してくる氷柱に突き刺されて斃された。安正と剛太郎は得物を振るって打ち砕いていった為に無事だったが、その氷柱の命中精度や鋭さに舌を巻いた。
「この威力と精度。剛太郎、聞いたことがありますか?」
「何がだ?」
安正の質問に対して尋ね返す剛太郎。
「新撰組モドキの幹部で、破界の水の闘気に卓越した人物がいると」
「奴が来たってことだな?」
「まあ、その人だけではなさそうですが……」
安正の言う通り、無数の氷柱が迫りくる方角から新戦組の増援が続々と駆け付ける。
「間に合ったかぁ‼」
最初に雪崩れ込んできたのは修一の率いる六番隊であった。手始めに修一はは両手に持ったカットラスにそれぞれ風と雷の闘気を纏わせて安正に飛び掛かるが、安正は風を纏うレイピアを思いっきり振るって突風を巻き起こした。
「ぐっ‼」
風に煽られて体勢を崩した修一に、安正の鋭い突きが斜め下から襲い掛かる。
「危ないっ‼」(女豹乱舞‼)
そこへ猛スピードで駆け付けた夏美が炎のトンファーの縦横無尽の攻撃が、安正の攻撃を弾いた。
「こいつでどうた?」
その瞬間、安正と背中合わせの剛太郎は、炎のハンマーを夏美と修一目掛けて振り下ろした。
「夏美ちゃん‼」(疾風迅雷‼)
「分かってますっ‼」(女豹乱舞‼)
そこで二人は同時に多量の闘気の放出と共に苛烈な連続攻撃技を出し、剛太郎の強烈な一撃を防ぎつつ、発生した爆風に身を預けて離脱した。
「やるじゃねぇか」
「流石は幹部クラス、ですね」
二人の行動と賭けに称賛しつつ、安正と剛太郎は次の彼らの行動に備えた。直後に勝枝と紀子の率いる部隊も到着し、数の上では新戦組が有利になった。
「こいつら、一体……」
「なかなかやるみたいね」
「この闘気の質、強力でとても激しい……」
勝枝も紀子は安正達の武芸に驚き、冬美は安正達の闘気の質に驚きを隠せなかった。
「手強そうな方々ですね」
「数の上では連中が有利だが、安正はどうする?」
「数を覆すのみです」
剛太郎との掛け合いが終わるや否や、目にも止まらぬほどの速度で紀子と勝枝の間を縫うようにレイピアから発せられた風の槍で一直線上にいた隊員達を貫いた安正。
「……ほんの一メートル程度の隙間を……」
「出来るな……」
紀子と勝枝は安正の技量に戸惑いと驚きを隠せなかった。
「数の差は、時に関係ない時があります」
ニコニコしながら小馬鹿にしたような態度でそう語る安正に、修一や夏美は奥歯を噛み締めて悔しがった。
「感情的になるな、二人共」
そう言って二人を宥めた勝枝。勝枝も感情的になりたかったが、ここで二人に同調すれば収拾がつかなくなることを分かっていたので自制をしていた。
「剛太郎。そろそろ一気に仕留めましょう」
「分かった。俺達がが先に仕掛けるっ‼」
そこで剛太郎はハンマーに纏わせる炎の闘気の量を増やしつつ修一達目掛けて走り出し、安正も部下達と共に一気に突撃を掛けた。
「また来たぞっ‼」
「任せてくださいっ‼」(氷雨‼)
得物の十字槍「白虎」に炎の闘気を纏わせながら剛太郎を迎撃する勝枝と、援護するようにパラソルから水の闘気で生み出した無数の氷柱を飛ばして剛太郎を牽制する冬美。
「安正っ‼」
「今ですっ‼」
剛太郎の合図を受け、安正は部下達と共に風の闘気の刃を発射した。数十本の風の刃と無数の氷柱は相討ちになり、辺り一面に冷たく白い爆風が吹き荒れた。
「行くぞぉ‼」
それに負けずに前進し続ける剛太郎が、炎の闘気を纏わせている砕棒に、更に鋼の闘気を流し込んで強化する。
「ヤバいっ‼」
何をするのかを直感です理解して危機感を抱いた勝枝。
「大丈夫。私が隙を作るわ!」
するとそう言いながら紀子は勝枝の前に出て剛太郎の攻撃を受け止める為に、得物の流麗に夥しい量の鋼の闘気を流し込んで彼の攻撃に対した。
「長い棍棒を使う返し技の女。なら俺の力でそれを叩き潰すっ‼」
あらかじめ紀子の情報をある程度MASTERのデータバンクから取り入れていた剛太郎は、自分の力に絶対の自信をもって紀子に砕棒を思いっきり振り下ろした。
「はあっ‼」
それを流麗で直に受け止めるのではなく、掠めるように受け流して難を逃れ、その勢いのまま剛太郎の喉笛に流麗を突き立てんと迫る。
「甘いっ‼」
だがそれでも全く諦めることなくハンマーの持ち手の先端でそれをいなし、その先端で紀子を串刺しにしようとする剛太郎。
「ここだぁ‼」
割り込むように炎の闘気を纏わせた白虎で、その間を縫うように突きを繰り出して紀子を救い出す勝枝。狙い通りに、その間に紀子は離脱した。
「あれをかわすなんて」
「でももういちどやれば何とかなるわ」
「ならこれでっ‼」
そう言いながら白虎の炎の闘気にさらに光の闘気を纏わせる勝枝。その刃先はあまりの輝きに周囲の人間は目を開けることもままならない程だった。
「行っけぇ‼」(十字豪爆槍‼)
二つの闘気を纏わせた白虎を構えて猛スピードで駆け抜け、途中で一気に突き出して十字の闘気を安正達目掛けて飛ばした。
「なかなかの威力ですね。ならば……‼」
すると安正の全身から黄緑色のおびただしい量の闘気が溢れ始め、その闘気をレイピアに螺旋状に纏わせると、そのままダッシュしながら猛烈な速度の突きを繰り出した。十字の闘気と螺旋状の風の闘気が激突し、凄まじい爆風と同時に道路の横幅に匹敵する大きさのクレーターを作った。爆風が晴れてすぐに敵の姿を確認した勝枝達は、先程安正の体を覆った闘気を見て何かに感づいた様子を見せている。
「……さっきの闘気は……」
「破界の闘気ね」
「マジかよ……」
勝枝と紀子の会話を聞いて体の力が抜けるような感覚を覚える修一。
「やっぱり冬実が軸にならないと……」
「そうね。勝枝さん、紀子さん」
夏美の言葉を受け、二人に尋ねる冬実。無論、破界の力を使うかどうかの確認である。
「紀子先生は?」
「私も同感ね」
「分かりました。では……」
二人から許可を得て、冬美は全身から藍色の闘気を放出し始めた。
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