第7話 動き出す新たな刃

 午前十時五十九分。港区の新戦組支部長室に、隊員の一人が不安げな様子で入って来た。


「支部長」

「どうした?」

「十一時三十五分に、西麻布警察署を含む、港区の三つの警察署と、ここへ襲撃を掛けるとの情報がネットに出回り始めました」

「支部の場所まで明らかになってたか……」


 片で息をしながら報告した隊員の言葉に幹部は目を見開いて驚いていたが、支部長は平静を保って尋ねた。


「すぐに港区全域の民間人に避難要請を。大師討ちと本部にも確認を取る。なるべく早く済まさねばな」

「念の為に、本部にも出撃要請を出しますか?」

「ああ。やっておく。お前は支部内にこのことを伝え、準備を進めてくれ」

「了解」


 そう言って隊員は支部長室を出た。


「とにかく、時間を作らねば……」



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 本部に連絡が入ったのは一分後だったが、万一のことを考え、三つの警察署と支部以外の民間人への避難要請と、新戦組支部への警戒態勢を出し、本部組長達は出撃準備を終えて出入り口前に集結していた。


「三つの警察署と支部が対象って」

「本部が警戒を強化しようとした直後に、面倒なことになったわね」


 今回の任務に参加を命じられた修一、冬美、夏美はそれぞれの意見を述べながら得物を手に準備を進めていた。


「避難は着々と進んでる。あと十分で完了するだろう」

「そろそろ私達も出撃しましょう。出来る限り早い方がいいわ」


 勝枝と紀子は、既に準備を終えていた。彼らは出入り口からそれぞれの部隊員合計五百名を率いて地下駐車場の各々のバスに乗り込んで現場に向かった。



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 午前十一時二十五分、翼達の下へ、港区の民間人の避難が完了しそうという報告が現場から届いた。


「翼、警察と新選組モドキによる民間人の避難は終わりそうだぞ」

「なら、現場にすぐに連絡しろ」

「了解だ」


 そう言って翼は、彼らに無線でこの情報を流した。赤狼の行動力は早く、それから僅か五分後には、尊達は一斉に警察署に雪崩れ込んでいた。


「民間人を避難させてくれてありがとよ。思う存分暴れられる」


 炎の闘気を纏う偃月刀を縦横無尽に振るい、次々と警察官を八つ裂きにする尊。銃で応戦する警察官達だが、苛烈な攻撃を加え、秩序を保って行動をする尊達が依然として優位に立っていた。


「こいつら、一体……」

「潜った修羅場の数が違う」


 冷徹な言葉と共に繰り出された炎の偃月刀の一振りが、七人の警察官の首を飛ばす。そのあまりの早業に、彼らは身動きも反撃も出来ずに息絶えた。


「な、なんて奴だ……‼」


その惨状に警察官達は恐れ戦きながらも応戦したが、尚も尊達の攻撃を食い止められず、一階部分の警察官を全滅させられてしまった。


「ここまで呆気ないとは思わなかったな」

「この調子なら二階の方の制圧も簡単なのでは?」

「油断すんなよ」


 すると二階にいた警察官達が次々と銃を構えて雪崩れ込んできた。


「……多いですね」

「上等だ」


 警察官達を挑発するように、偃月刀をバトンの如く振り回す尊。その態度は彼らの頭に血を上らせるには十分だったようで、一人一人の表情は怒気を滲ませていた。


「……かかって来いよ」

「こ、この野郎っ‼」


 完全に激発した警官の一人が拳銃に炎の闘気を多量に流し込んで弾丸を放とうとする。

その時、彼の持っていた拳銃が爆発して警官の両腕を吹き飛ばしてしまった。


「ぐあああああっ‼」


 激痛に悶えてその場に倒れ込む警察官。そして突然のことに周囲の警察官達は思わず怯んだ。


「重火器に流し込む量を間違えれば、炎や光の闘気だと暴発するのは知ってんだろ?」

「ぐっ……」


 尊の言う通り、銃器に闘気を流し込んでの発砲は相応の技量を要する。その上炎や光の闘気の場合、流し込む量が銃器の限界を超えると火薬に引火して爆発を引き起こしかねない。

 先の警察官は感情的になって一気に尊を撃ち殺そうとした為に、調整が頭から飛んでいたようだった。


「一瞬で終わらせるぜ」

「「「「「了解っ‼」」」」」


 指示を出した尊は、偃月刀に炎の闘気を纏わせながら警察官達に突撃する。


「迎え撃てっ!」


迎撃をする警察官達だが、彼の振るう炎の偃月刀が次々と警察官達を焼き斬る。


「さっきまでの威勢はどうした?」

「怯むなっ‼」


 指示を出した警察官の前に躍り出た尊の偃月刀は炎から雷の闘気を帯び始め、その警察官を一刀の下に両断してしまった。


「こ、この野郎……」


 別の警察官が両腕を失った警察官と同じ言葉を尊に投げつける。だが尊達への恐怖心故か、気迫はなかった。


「手ごたえはあるが、まだまだだな」


 尊自身、闘気を扱える警察官が多くなり、甘く見ると痛い目を見る可能性があるからと気を引き締めて戦っており、この状況でも油断を見せていない。


「本気で俺達を叩き潰す気があるんですかね?」

「気合だけだな」


 尊達によって警察官達が殺されていく様を目の当たりにした生き残りは、既に反論する感情すら残されていなかった。銃を構える手は震えている者が大半だった。


「これなら、早く制圧できるな」


 そう言いながら尊が多量の炎の闘気を纏わせた偃月刀を振り上げて仕留めようとした。その時……。


「ガン細胞共っ‼」


 青年の叫び声と共に、尊達の背後から無数の闘気の光が尊の同志達十数人を貫いた。尊は振り返りざまにその光を偃月刀の炎で斬り裂き、敵の正体を確認した。


「……増援の数は八十人か」


 以前、地方に赴任していた赤狼七星の面々から聞いた報告を思い出していた尊。


「警察の正義と誇りを汚されるわけにはいかないっ‼」


 刀を持った刑事こと白金は、切っ先を向けながら尊達に宣言した。


「こいよ」

「かかれぇ‼」


 尊の挑発を聞くや否や、白金は怒りの形相のまま風の闘気を纏わせた刀を振りかぶり、味方に指示を出しつつ尊目掛けて駆け抜けた。


「おらよっ!」


 振り下ろされた白金の刀を炎の偃月刀の柄で弾き、柄尻で白金の喉に突き刺さんとした。


「そんなものぉ‼」


 柄尻が喉に突き刺さる瞬間にのけぞりながらかわす白金。そのまま彼はバック宙しながら幾度となく風の闘気の槍を突きから繰り出す。


「これでどうだ?」


それを尊は偃月刀で次々と斬り裂き、偃月刀の横薙ぎから巨大な炎の闘気の刃を白金に放った。


「これしきっ‼」


 白金はバック宙から姿勢を整え、猛スピードで尊目掛けて突進し、目の前に勢いよく迫る炎の刃を斬り裂く。


「その程度で俺に勝てねぇぞ?」


 余裕を見せる尊に、白金は彼の5歩手前まで来ると、身体を右に一回転しながら尊の背後をとった。


「これでぇ‼」


 そのまま身体を軸に右回転しながらの斬撃を繰り出す白金。


「おらよっ‼」


 再び尊は振り返りざまに炎の偃月刀で白金の刀を受け止め、そのまま両者は鍔迫り合いになる。


「お前、前から東京にいた警官じゃねぇな?」

「それがどうしたっ‼」

「宝の持ち腐れだな。お前らみたいなのを東京に残せば、俺達を潰せたのに」

「のぼせあがるなぁ‼」


 叫びと共に更に地面を踏み込んで尊の偃月刀を押し込む白金。


「なら力で示せよ」


 そのまま尊は冷静に白金を押し込む。それは白金より更に強く、白金を押し込んでいった。


「この程度でぇ‼」


 力の差を覆そうと刃を僅かに下にずらして尊の体勢を崩し、向かってくる偃月刀の刃を上に微かにジャンプしてかわしながら唐竹割りを繰り出した。


「はあぁぁ‼」


 振り下ろされた刃に、尊は白金にいなされた勢いを利用して身体を一回転させ、刃が直撃する瞬間に膨大な量の炎の闘気を纏わせて攻撃を防いだ。


「確かに、警察にもまともな力を持った奴がいるな。だが……‼」


 そのまま尊は白金を刀ごと五メートル後方へ吹き飛ばした。


「おのれぇ……‼」


 吹き飛ばされながらも体勢を立て直した白金は、憎々しい表情で尊を睨んだ。


「時間が掛かりそうだな……」


 面倒くさそうな態度でそうつぶやきながらも、尊は再び偃月刀を構えて白金の次の攻撃に備えた。



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「警察の手練れ……ここまでとはね」


 別の警察署の制圧を行っていた八坂も、署員の八割以上を壊滅させた直後に乱入してきた眼鏡をかけた知的な手練れとの戦いに突入していた。


「やりますね……」


 百名近い大師討ちメンバーと共に駆け付けた黒谷は、手にした刀に光の闘気を纏わせつつ振り上げ、八坂も両手の鉤爪に纏わせた風の闘気をその形状に変化させて構える。


「では、改めて……‼」


 その瞬間、振りかぶっていた刀を振り下ろして闘気の刃を放つ黒谷。部下達も銃に各々の属性の闘気を流し込み、弾丸を立て続けに発射する。


「はぁっ‼」(虎爪滅却‼)


 八坂も巨大な風の爪を飛ばし、同志達も闘気を纏わせた刀を振るって闘気の刃を放つ。互いの闘気が激突し、爆風が巻き起こる。


「隙ありだ……‼」


爆風と煙に紛れ、先制攻撃を仕掛ける八坂。


「もらったぁ‼」


 黒谷の顔を風の鉤爪で斬り裂かんとする八坂。すると黒谷は光の闘気を纏った刀で鉤爪がクロスした所を狙って受け止めた。


「小細工は通用しません」

「このっ……‼」


 八坂の奇襲はあっさり受け止められ、更に押し込まれて吹き飛ばされてしまった。


「ただでやられるアタシじゃないっ‼」(虎爪連滅却‼)


 意地で風の爪を連続で黒谷達の密集している場所に浴びせる八坂。


「ぐあっ‼」

「ぐおっ!」


八坂の攻撃は十五人の大師討ちメンバーの息の根を止めた。


「……野蛮なMASTERらしい戦い方ですね」


 血煙漂う中、は八坂の同志達に、黒谷は刀を振るって無数の光の刃を放ち、同志達20人を斬り裂いた。


「お返しってことかい……」


 着地しながら辺りを見渡す八坂。辺り一面に、同志達の屍が転がる。


「相当な力だな。お前……」

「あなた方を一匹残らず滅ぼす力です」


 冷徹に言い切る黒谷に、八坂はより一層真剣な顔になる。


「……一筋縄ではいかないようね」

「あなた方の言葉は、私の癇に障るだけ……」


 徐々に憎しみを滲ませる声になる黒谷。そんな彼から発せられる殺気を感じ取った八坂は、そのおぞましさも感じ取っていた。


「……あんたを叩くっ‼」


 故に八坂は、一瞬で終わらす為に鉤爪に纏わ風の闘気量を増やす。


「アタシに続けっ‼」(虎爪大双滅却‼)


 部下達にそう命令して突撃する同志達。八坂も前方に強く踏み込みながら両腕を交差させ鉤爪を思いっきり振るい、先程より遥かに巨大な風の爪を発生させて飛ばす。その速度も先程までと比較にならず、常人であればかわせないだろう。


「遅い……‼」


 常人ではない黒谷はそれに反応し、そのまま巧みな体術でかわした。一方で彼の部下達は、八坂の一撃をかわせずに両手足や首を切断させて絶命した。


「はぁ‼」


 そのまま八坂の頭上を取り、一気に刀を振り下ろす黒谷。


「いとも簡単に……‼」


 黒谷の唐竹割りを受け止めつつ、驚きを隠せない八坂。


「対処は容易です」

「こんな力を持った人間を地方に派遣して東京をがら空きにするなんて」

「あなた方が嘆く理由など、ありませんよ」


 そのまま腕の力を強め、八坂の防御を一気に崩した。


「ちいっ‼」 


直前に身体を大きく後方に引いてそれをかわし、黒谷の一撃が地面に直撃した直後、黒谷目掛けて身体を強烈に回転させながら攻撃を繰り出す。


「これならどうだっ‼」(虎爪・嵐)


 八坂が放った巨大な竜巻は、周囲の黒谷の部下達を次々と殺し、黒谷に迫った。


「なかなかの威力ですがっ‼」


 八坂の苛烈な斬撃の竜巻に、黒谷も全く劣ることのない速度での連続斬撃を繰り出す。その勢いも威力も互角だった。


「ダメなのかっ‼」

「これが幹部クラスの力ですか」


 全く狼狽えることなく全ての攻撃を弾いた黒谷。その表情は余裕に満ち、眼鏡の奥に嘲笑の笑みを浮かべていた。だからこそ八坂は非常に悔しい表情になった。


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