第9話 苦戦
「破界の水の闘気か……」
「本気を出してきましたね」
そんな姿を見て身構える剛太郎と安正。
「行きますっ‼」(水曝麗蝶‼)
パラソルを大きく広げ、おびただしい量の破界の水の闘気を空中にまき散らし、集約して巨大な水の蝶を十体を発生させる冬美。
「少々危険ですね」
「かなりヤバいの間違いだろ?」
背後で戸惑いを見せる部下達と違って冷静な安正と剛太郎だが、破界を発動し、既に迎撃態勢を取っていた。
「あなた方は私達を援護をしてください」
「心配すんな。俺達に任せろ」
背後の部下達に微笑みながら、安正と剛太郎は冬美達目掛けて一直線に駆け抜けた。
「させっかよぉ‼」(疾風迅雷‼)
「あたしも行くよっ‼」(十字豪炎撃‼)
その二人を迎え撃たんと大技を繰り出す修一と勝枝。特に勝枝は、十八番の十字火炎撃よりもより高温の炎を出した形態を繰り出していた。
安正と剛太郎も、二人と接触する直前にその場で飛び上がって頭上を取り、そのまま背後を取って攻撃を繰り出す。
「お姉ちゃん、行くわっ!」
冬実は十体の水の蝶を安正と剛太郎目掛けて発射した。放たれた水の蝶達は羽を羽ばたかせながら、風の如く安正達に突っ込む。
「剛太郎っ‼」
「任せろっ‼」
鋼の闘気で硬質化され、炎の闘気で熱を増したハンマーを軽々と振り回し、迫りくる水の蝶達を叩き潰し、度に周囲に水蒸気が発生した。その間に安正は風のレイピアで水蒸気を振り払い、勝枝と修一の攻撃に相対した。
「俺の攻撃が通用しねぇ」
常人離れした安正の剣技は、修一の力技を全ていなしてしまった。故に安正を手こずらせたのは勝枝の攻撃だった。
「一瞬の油断が命取りになりかねないですね」
「だったら‼」
より力でねじ伏せようと炎の闘気の出力を上げたに十字槍のオレンジ色の輝きは、目を覆わんとする程に増し、安正のレイピアと更に剣戟を交える。安正の巧みな刺突と勝枝の攻撃をを、修一と戦いながらという状況にありながらこなす手腕に、勝枝も修一も改めて脅威を感じていた。
「マジで強ぇ‼」
「バケモンか⁉」
「このままじゃ……‼」
「分かった。修一はもう一人の方へ回ってくれ」
勝枝の指示を受け、修一は剛太郎にターゲットを変えて突撃するが、同時に修一の横を十体の水の蝶が剛太郎目掛けて飛来する。
「叩き潰すまでだな」
ハンマーで次々と水の蝶を叩き潰す剛太郎。水の蝶はその形を崩しながらも剛太郎の横を通り抜け。背後の構成員達を破界の水の闘気の爆発で消滅させた。
「綺麗な薔薇には棘があるということですか……」
「よそ見してる余裕があるとはね」
安正の的確かつ弱点を狙う高速の突きをかわしつつ、十字槍で彼を薙ぎ払おうとする勝枝だが、それらは全てのらりくらりとかわされてしまった。
「ですが、あなたの技の威力も狙いも正確です」
修一と違い、勝枝の攻撃は力と技巧を併せ持っている。最大限の力を出し、相手の攻撃を最小限の動きでかわして次の攻撃に繋げるという駆け引きが出来る勝枝だからこそ、安正は舌を巻いた。
そんな中、冬美は既に先程に負けず劣らずの量の破界の水の闘気を自身の周囲に発生させていた。
「私が援護します」(氷雨‼)
冬美がそう言った瞬間、発生した無数の藍色の氷柱は安正目掛けて四方八方から襲い掛かった。
「厄介ですね……」
愚痴るように安正がつぶやいた途端、勝枝との打ち合いから離脱し、迫りくる氷柱を悉く切り裂いてしまった。
「また叩き潰すか?」
「いち早くやりましょう」
そう言って互いに頷いた安正と剛太郎。そう言い終わったのと同時に安正は膨大な量の破界の風の闘気をレイピアに纏わせ、剛太郎は勝枝達五人目掛けて突撃した。
「あっちも決めるつもりね」
「修一、夏美。ゴリマッチョの方をあたし達がやる‼」
「「了解っ‼」」
修一と夏美と共に部下達を率いて剛太郎の迎撃をする勝枝。紀子は流麗を構えて冬実の四方の警戒を始めた。
「来いよ」
ハンマーに纏わせる炎の闘気の色が先程の勝枝と同様にオレンジの炎に変わっていった。
「畳みかけるぞっ‼」(十字豪炎撃‼)
「分かってるッスよ‼」(驚天動地‼)
「あたしも行きますよっ‼」(女豹乱舞強化・
勝枝と修一が大技を繰り出したと同時に発動した夏美の大技。単なる女豹乱舞の時に纏わせる炎の闘気とは比較にならない程の量がトンファーに纏わされていた。
「あたしが先行するっ‼」
勝枝は剛太郎の頭上に飛び上がって槍の切っ先を突き立てて落下した。
「造作もないな」
剛太郎は勝枝の突きが決まるか決まらないかの絶妙なタイミングを見極めてかわしたが、技が直撃した道路は三メートルの深さはあろうクレーターを作り、剛太郎は不覚を取って足を滑らせた。
「おっと……」
「隙ありぃ‼」
勝枝に続いて彼女と修一が頭上を取り、修一は両手のカットラスに風と雷を融合した闘気の出力を最大限に発動して一気に叩き潰しにかかる。
「ちっ」
そこで砕棒の構えて修一の強烈な落下斬撃を受け止める剛太郎。
「それくらいでぇ‼」
ムキになる修一だが、剛太郎は力を入れて押し返し始めた。
「隙を作ってくれて有難いものだ」
静かな声とは裏腹に見せる強大な力に完全に押し切られ、そのまま立ち上がられてしまった。だが修一は冷静であった。
「夏美ちゃんっ‼」
「はいっ‼」
すると夏美は修一の身体を隠れ蓑にして突撃し、修一が離脱したのと同時に炎のトンファーで一撃を叩き込んだ。解放された炎の闘気は剛太郎に直撃した直後に巨大な火柱となり、巻き込まれた構成員達共々焼き尽くさんとした。
「やったか?」
火柱の発生を確認した勝枝は紀子と共に剛太郎の生死を確認するが、火柱が消えたとき、彼らは我が目を疑うことになる。
「そ、そんな……」
「馬鹿な……」
「何で……」
勝枝も修一も、何より止めの一撃を担った夏美も、平然と火柱から生還した剛太郎の姿に言葉を失った。
「大した威力だな」
称賛とは裏腹に傷一つ負っていない剛太郎を見て、勝枝達は一様に戸惑いと驚きの表情になった。
「どうしてなの?」
疑問の声を口にした紀子。すると技を出す準備をしている冬実は何かに気付いていたようで、他の四人にこう言った。
「あの人、身体の周りに炎の闘気を纏って身を守ってました」
「炎の闘気を身体の周りに?」
「うん。凄い量だったわ」
それを聞いて夏美は驚いた。闘気はコントロールや出力調整を誤ると、自身も巻き込まれかねない力だからだ。
「この手のコントロールくらい造作もないことよ」
得意げに再び鋼の闘気を流し込んだハンマーに炎の闘気を流し込んで振り上げる剛太郎。
「お返しだ……」
剛太郎は地面を強く踏み込んで凄まじい勢いで砕棒を振り下ろし、地面を叩き割りながら巨大な炎の波を発生させた。その速さに驚き、五人は身動きを取る時間がなかった。
「危ないっ‼」(
そこで冬美は水の闘気を巨大な波に変えて剛太郎の炎の波にぶつけ、発生した水蒸気に周囲は覆われた。
「ありがとう、冬美」
「でも次どうするか分からないわ」
夏美の言葉に対して不安を漏らす冬美。ここまで彼らは安正達二人の行動に、数の理を活かしきれなかったのだ。
「この状況じゃ闘気感知も出来ない。まさか……‼」
そこまで言った冬美は何か嫌な予感を感じ取った様子を見せ、周囲にこう叫んだ。
「みんなっ‼ 支部へ向かって‼」
「チィ‼」
「勝枝さんっ‼」
紀子の叫び声を聞いて即座に身体をその方向へ向かわせる勝枝に、修一もついていった。
「冬美っ‼ あたし達も続くよ‼」
「分かったわ‼」
夏美の指示に答えるより早く既に準備を始めながら支部へ共に向かう冬美。すると彼女達の後方では隊員達の悲鳴が四方八方から聞こえてきた。
「あいつら……‼」
足元に転がる隊員達の死体を目の当たりにして舌打ちをする修一。ようやく支部の前まで来ると、既に出入り口が破壊され、内部では隊員達の死体が転がっていた。
「早くしないと、支部の情報もコントロールも全て潰されちまう」
「待ってくださいっ‼」
すると到着した冬美が二人を制止した。
「どうしたってんだ⁉」
「奥の二つの闘気がどんどん大きくなって、もうすぐ爆発しそうで……」
「まさか、文字通り吹き飛ばすっての⁉」
驚愕する勝枝。そして冬実は更に話を続ける。
「だからこそ、ここから早く逃げないとみんな死んじゃいますっ‼」
「だから急いでっ‼」
「今は皆で無事であることが大事よ‼」
冬実に続いて現れた夏美と紀子も修一達を急かす。
「このまま支部が潰されるのを指を咥えて見てるだけなんて……‼」
冬美も夏美も、そして誰もが自分達の力のなさを痛感した
すると二人が支部から十メートル離れた距離に到達したのと同時に、支部は大爆発を起こした。
「支部が……」
身の安全を確保した修一は背後を見て絶望的な表情になった。
その瞬間、瓦礫の中から地下に潜り込んでいた安正と剛太郎が傷一つなく悠々と現れた。
「何とか任務は達成されましたね」
「そうだな。だがどうここから離脱する?」
安正と剛太郎は、絶望に陥っている修一達を突破しようと突撃してきた。。
「……ちっくしょ~‼」
「せめて手傷だけでもっ‼」
やけになった修一は、勝枝と共に安正と剛太郎の両目に対して苛烈な攻撃を繰り出していた。
「技のキレが落ちてますね」
「うるせぇ‼」
修一の高速連撃をかわし、いなして無効化する安正の剣捌きもさることながら、修一に掛ける安正の一言一言が、より一層修一の冷静さを削いでいた。
「大した力だ」
一方の勝枝は感情的になりながらも技のキレは衰えず、更に苛烈さと力を増した突き・斬撃で剛太郎の両刃斧の力技を迎え撃つ。
「このぉ‼」(女豹乱舞‼)
勝枝と一騎打ちを行っている隙を突き、剛太郎の四方から強烈な打撃を連続で叩きこむ。
「……温い……‼」
だがどれだけ叩き込んでも耐えられ、夏美は徐々に焦り始める。
「冬美ちゃん、もう少しかしら?」
「はい! 退避してください!」
冬美の指示に従い、彼女の後方へ撤退する全部隊、そして紀子は改めて流麗を構え、防御の態勢を整えた。鉄壁のディフェンスを誇る彼女の前では、冬美に襲い掛かる同志達は、ことごとく流麗と棒術の餌食となった。
「新撰組モドキの守護神……」
「くそっ、たった一部隊でここまで……」
「おいっ‼ また何か来たぞっ‼」
その直後、通りの奥から無数のサイレンが聞こえ始めた。
「こっちに来てるわ……」
ふとその方向に視線を向ける冬実達。十台近いパトカーの群れがMASTERの構成員達を次々と跳ね飛ばしながら猛スピードで到着した。
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