第3話 翼の思い
「大師様がお考えになられていた通り、連中の勢いは、この拠点を制圧することである程度は抑えられるでしょう」
同時刻、MASTER大師室で、翼は御影と共に財部からの報告を聞いていた。
「この辺りはこの四ヶ月、連中の監視が厳しくなっていたようですね。近辺に放ったスパイからの情報では、既に警察や新選組モドキはいくつかの拠点の情報を掴んでいるらしい。その情報収集源の一つとして考えられるのが、ここにあるってことだ」
そう言いながら手元の資料と合わせて確認を取ったのは御影だった。
「やはり情報においても、連中はこの数カ月、俺達の先を越してたのか……」
「だが、問題は一昨日の戦いでこの地域の構成員が何人か捕虜になってしまったってことだ。情報が洩れてるかもしれないぞ」
「分かっている御影。それでも、ここを攻撃することで連中のこれからの動きに抑えを利かせられるかもしれない。準備を速め、一気に攻めるしかあるまい」
と、翼は決意の眼差しで御影にこう言った。
「これまで連中の勢いに押されていたが、これで逆転が出来る」
「裏を返せば、ここで失敗したら、更に状況は厳しくなる。そうだろ?」
確認するように御影に尋ねる翼に、彼は微笑みながら無言で頷いた。
「今回の戦いが、これからの戦いを左右することになる」
「だが俺達の部隊がいくら少数精鋭とは言え、戦いの勝敗を左右するのはやはり数だ。情報管理の重要拠点なら、かなりの数の警察官や新選組モドキが守りに入る。短期決戦で終わらせるのは難しいぞ」
「では、各地の拠点に先月完成した最新の情報プロテクトデータを転送するよう、各地の情報支部とハッカーに伝えます」
「そうして下さい、財部さん」
そう言って翼は御影と共に財部にお辞儀をして大師室を後にした。
「とは言っても、報告では連中の情報施設はまだ他にもあるぞ。最近できたばかりと思われるから制圧は容易だろうが、時間を与えると厄介だぞ」
「だからこそ、今回の任務のその一つを叩いて敵本部を見つけての電撃戦に移るか、それが無理ならあれを使って……」
「あれって?」
「江東区の第四情報拠点が開発したやつだ。報告書でお前も見たことがあるだろ?」
「……なるほどな」
翼の示したあれが何を意味するのかを理解した御影。
「それで、別件にはなるが、情報戦略室の第一分室に頼んでいた件だが……」
「俺達に全面対決の宣言をした男か?」
「ああ。半年前から連中の情報プロテクトも随分と厳重になっていて俺達の追及が難しくなっているから、各地のハッカー達や情報支部に随分と苦労を掛けてしまっているが……」
「だが僅からながら情報は掴めた。名前は渡真利司。警察庁から出向中のキャリアで、階級は警視長。現在は警視庁公安部の参事官の職にある」
「……そこまでか?」
「残念ながら。引き続き他の連中の情報収集と並行して調査は行わせるが、かなり時間が掛かることは覚悟しておいてほしい。俺達のこの行為だって、向こうに気付かれてるかもしれないからな。一応の後始末は付けてるが、油断はできない」
「そうだな。後のことは頼むぞ」
そう言いながら二人は赤狼司令室へ戻り、各々の仕事に戻った。
「それともう一つだ。例の宣言を受け、これからの各拠点防衛に関する人事の草案を決めた」
「分かった。すぐに資料を俺に回してくれ」
指示された御影はその資料を彼の机に置き、翼は一通り眺め始めた。
「……大方問題はないが、二つ俺から提案がある」
「何だ?」
「今回の任務には、慶介と将也に努めさせたい。あの二人の圧倒的な火力とパワーは、こういう時にこそ最も役に立つ」
「了解だ。それで、もう一つは?」
「慶介が鍛えた赤狼のメンバーの現時点での実力を見たいから、そのメンバーを派遣してくれ。細かい人選はお前に任せる」
「分かった。やれやれ、また仕事が増えるときた。こいつは残業代も払ってもらわないと採算が合わないぜ」
「経理担当には伝えておくから安心しろ」
「期待してるぜ」
そう言いながら御影は早速赤狼メンバーのピックアップとチーム編成の草案を作り始めた。
「……それにしても……」
「どうしたんだ?」
すると御影は、何か言いたげな翼を見て声を掛けた。
「あの渡真利と言う男、この半年で警察内部のMASTER討伐部隊の指揮を取り始めたんじゃないかと思ってな」
「そう言えば、その頃からだったな。警察の俺達への警戒や攻勢が激しく、そして情報に対して堅牢になったのは」
「そこに至るまでの六年間、あの男を何故早く俺達の討伐部隊に入れなかったのが気になるな」
「だがどうしてそんなことをお前が気にするんだ? 奴がこれまでいなかったからこそ、俺達も前線に出る機会が多かったし、先手も取りやすかったはずだろ?」
「……あのような人材を前線に置かなかった警察連中の心根が随分と愚かなものに思えてな。理由はどうあれ、有能な人材を登用しないのは、保身と個人的欲求にまみれた組織の典型例だ。その下で働いている真面目な警察官があまりにも哀れだ」
「……なるほどな。お前は警察が自分達の掲げる正義と信念に相応しい力と志を持っているかどうかを図ってたんだからな」
「だが、連中にその二つが欠如しているのは明らかだ。あれでは折角の立派な正義も信念も活かされない。特に上層部は悲惨だ」
「でもあれだけの情報。いくら今の日本警察の組織力や検挙率が低下してるとは言え、有能な組織でも完全に捌き切れるか分からない量だろ?」
「少なくとも、能力があれば今以上に多くの犯罪者を検挙することも出来た。だが連中はそれを怠った」
「手厳しいもんだ」
あくまでブレない翼に、御影は一種の感心を覚えた。
「俺達はあくまでその後押しをしたに過ぎない。いい加減現実を直視するべきだ。特に警察上層部の連中はな」
「その前に連中は破れかぶれになって先制攻撃を仕掛けてきた。あの文京区役所の自爆テロが俺達の指揮する者でない以上、連中はそれを利用したと見ていいだろう」
「ふざけたことだが、それを好機でもある。そして、闘気の理念と、俺が真に貫くべき正義を貫く為に必要だ」
「闘気の理念と、真に貫くべき正義?」
「闘気の理念からも真の正義という点を考えても、今まさに俺達がやろうとしていることに合致している。これが俺達のやり方であり大義なんだ」
「その意味では、新見さん達が掲げる大義もそれに当てはまるな」
「大きな枠組みは違えど、その本質は国家の安寧だ。あの方々も俺達とは違う考えだが、目指す方向は同じだ。どの場所がゴール地点かは別だがな」
「じゃあ、俺達はそのゴールとやらに、いち早く到達するとしますか」
「当然だ。その為に今俺達は出来ることをやるんだ」
「合点承知」
翼の決意に聞き届けた御影は、改めて今回の作戦に関する人材を選ぶために手元の資料と格闘し始めた。
「ああそうそう。情報と言えば、例のモノだが……」
「やっと報告が来たのか?」
「いや、八日前から起きてる例の回線混乱。あれでまだ報告できる状況じゃないらしいんだ。報告期限の日に限ってこれだからな」
「そうか。最終報告を聞かないと俺達としても不安が募る。こちら側でもその辺りを把握して今後の行動を考えたいものだが……」
「まあ、回線が回復したらやってくれるだろう」
「今回ばかりは俺も大目に見るが、次怠るようなことをしたら処罰の対象にするのみだ」
「まあ、情報周りは財部さん達がしっかりとしてくれる。俺達の心配は無用だろう」
そう言う御影の言葉に、翼は頷いて作業に戻った。
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