第8話 破壊者と汚染者
「これで、矯正局からの報告は以上かね?」
「はい。一部に刑事事件に相当する者もいたので、警察からの報告書も同封されています」
「ご苦労……」
同時刻、検事総長の
「しかし、矯正局長もそうだが、この件を未然に防ぐことも出来なかったと考えると、私の責任問題にも繋がりかねんな……」
「その件に関しては我々の方で何とでも……」
「だがここまで来た以上、隠匿も出来まい。だが、ただで終わる私ではない、どの道堕ちるなら、MASTERという体制を破壊者共を道連れにしてでも……」
相良がそう言った瞬間、検事総長室のドアが激しくノックされた。
「騒がしいぞ、中にいるから慌てず入れ」
「失礼しますっ!」
慌てながら入って来たのは、法務省の課長クラスの男性職員だった。その手には数枚のプリントが握られていた。
「何があったのだ?」
「先程、法務省の全職員宛てに、このようなFAXが……」
そう言いながら、相良と矢田部は男性職員からプリントを手渡された。その瞬間、二人の表情は一気に曇った。
「……何故これを……⁉」
震える手でそれを眺める相良。それはMASTER新大師こと、幸村翼からのものだった。そこには、こう記されていた。
―――愚かなる相良検事総長。あなたが出世の為に行った不正行為を部下達に擦り付け、それをスキャンダルとしてメディアに報道し彼らの人生を破壊した事実を、我々は長年の調査で突き止めている。この件を証言してくれた当事者達の音声データを、既に日本の各メディア、地検特捜部に送付済みだ。仮にも法務省の官僚でありながらこのようなことを起こしている体制の汚染者に、検事総長の席は相応しくない。法務省を清浄なる組織にする為には、あなたのような輩は排除しなければならない。
これに並び、波多野矯正局長、矢田部事務次官、中山検事長、竹中次長検事が行った贈賄と、それに伴う隠蔽工作を記録した音声データや証拠テープも各マスメディアに流した。これであなた達は終わりだ―――
「まさか、私のことまで……」
プリントを眺める矢田部はその場にへなへなと崩れ落ちた。
「……もう、終わりだ……」
そう言う相良の声は、全ての力を抜き取られたかのような弱々しいものになっていた。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
「作戦は成功です」
「ご協力、ありがとうございます。財部さん」
MASTER情報戦略室で相良検事総長に関する不正の暴露した翼は、情報を各メディアに流した責任者の財部に対して感謝の意を述べた。
「法務省関係に関する不正は他にもありますが、どうなさいますか?」
「各支部に連中のサーバーがパンクしないように、少しずつ流せと伝えてください」
「了解致しました」
財部はそう言って翼に敬礼した。
「しかしまあ派手なもんだな」
すると情報戦略室に入ってきた御影が翼に声を掛けた。
「御影、赤狼の訓練結果は総務部に渡したか?」
「ああ。それにしても、改めて俺達は随分なことをやったんだな。これで法務省の上級官僚は全滅だな。他にも法務省関係の不祥事が少なく見積もっても二百件以上もあるんだから、政府の動向が見ものだな」
御影は両手を後頭部で組み、嬉々とした表情でそう言った。
「連中が蒔いた種だ。誰が悪い訳ではない」
報告を聞き、冷徹に答えた翼。
「しかしまあ、法務省まであのざまってのは驚いたよ」
「それだけ彼らのやったことが重罪だった。特に相良は検事長時代に繰り返し朱運管氏に女性スキャンダルが報じられてたんだが、それをライバルがやったように知り合いのジャーナリストと共同で偽装工作をし、挙句に自殺に追いやった過去がある。そんな輩を官僚にしておく道理などない」
「お前らしいな」
「当たり前だ。例えどんな立場にあろうと、こんな無法者共を許してはおけん。法の網の目を潜り抜けたとしても、社会的地位に響けばそれで連中は終わりだ。それでも逃げ切ったのなら、その時こそ俺らの本来のやり方の使うまで……‼」
「押し付けられた人間の無念を考えれば、今回の相良の末路も満足できないだろうけどな」
相良のこれまでの経歴を調べ尽くした情報戦略室からの報告書に改めて目を通しつつ、御影は呆れた態度を取った。
「相良だけじゃない。他の官僚や政治家の中にも、その手の寄生虫がうじゃうじゃいる。そいつらを一掃して俺達が目指す未来に辿り着く為にも、まだ手を緩める訳にはいかない」
「だが、これから俺達がこの四年で握った権力者の不正の情報を全て叩き付けるにはそれなりに時間が掛かるぞ?」
「その時間を短縮する為にも、各支部から情報戦略室の予備構成員も既に招集したんだろ? 彼らの実力も第一線の構成員に負けず劣らずの精鋭揃い。抜かりはない」
「過去から今に至るまでのほぼすべての連中の犯罪は俺達が把握済みだ。打がその情報すべてを処理することは、流石に難しい」
御影にそう言われた財部は恐縮そうな表情で深々とお辞儀した。
「まあその分、七星の他の六人もこの事態を覚悟していても、我慢できない部分はあるだろうな。特に慶介は」
翼は申し訳なさそうな表情で言った。
「だから訓練に力を入れてんだ。次に武力を行使する時、何人も寄せ付けない力を俺達に敵対する連中に叩きつける為にもな。まあ、あいつの気持ちを考えるとかわいそうなことをしてしまっていると思うが……」
「でもあいつらもその辺は分かってる。だからこそ同志達もお前の期待に応えられるようにって気張ってる」
「あの慶介の猛烈なしごきにか。だが有り難いもんだ。あいつらの力は、これからの俺達の大望の為に最も大事なものになる」
「お前らしいな」
御影は陽気に言った。そんな彼の様子を、翼は拳を握りしめて何かを堪えているかのような素振りを見せた。
「……翼?」
「……何だ?」
「やっぱり、お前も慶介に負けず劣らず、堪えてんだな?」
「……お前の目は誤魔化せないな」
「赤狼司令官になってからは随分と落ち着いてるが、本質的な所は変わらないな。理不尽や不合理、そして弱者を救済せず放置して私腹を肥やす連中を許さない姿勢と、それらをいち早く一掃したくて独走したがるところも」
「……本来なら、俺達の闘気を持ってして警察を乗っ取ってやりたいとは思ってる。だがそれは沖田総一と同類になるだけだ。まして闘気の教義に反する」
「真に闘気を使う時、時代と人民が避け難い苦難と災厄に瀕した時、だっけか?」
御影は記憶を辿るような表情を見せながらつぶやいた。
「……今、災厄と苦難の原因は浅永様であり、そしてその業を引き継いだ俺達だ。その罪を贖うには、これからの俺達の人生を捧げることだ」
そう語る翼の表情は真摯なものであった。
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