第10話 懐かしき母校を去る時……
「四割? あれが百パーセントの力じゃなかったの?」
「あくまで自分の感覚ですが」
十一時四十分を過ぎた頃、総次から旅館の一階に呼び出された沙耶は、先程彩佳に放った陰と陽の闘気の開放についての話を聞いていた。
「……じゃあ、フルパワーならもっとデカい規模の力になるのか?」
「ええ。ただ、四割以上の力を出そうとすると、コントロールが異常に難しくて、心臓に負担も掛かるので、避けているんです」
「なるほどね」
「それに、あの闘気が身体に纏わりついた時の感覚も、沖田総一と戦った時とは違ってました。あの時はもっと力が解放されてるような感覚があって、その上……」
「……陰と陽の闘気の融合と、それによって発生した力。全てを一瞬にして跡形もなく消滅させた、沖田総一の力ね」
「ですが僕は未だに使えないんです。何度か試しているのですが、二つの闘気が反発し合って、その上、互いに反応して急激な速度で闘気が消耗するので、仕事にも影響が出かねなくて……」
総次は俯きながら暗い表情でつぶやいた。
「それで、今もやってるのかい?」
「時間が空いた時には一応、ですが今も失敗してばかりで……」
「そう……まあ、それはそれとして、これからどうしたいんだ?」
「これから?」
「今以上に二つの闘気の力を解放出来るようになりたいって思ってるのかい?」
沙耶にそう言われた総次は一瞬身体をビクッと震わせながら俯いてしまった。
「……総次?」
「破壊力は十分です。ですからこれからは、この力をいかに制御するかを考えています」
「制御する、ね」
「沖田総一を倒した時のレベルでは、間違って関係のない人間まで巻き込んでしまいかねません。ですが、コントロールさえできれば、それを回避し、その上で戦う上での圧倒的なアドバンテージを得ることが出来ると考えています」
「なるほど、それで、その自信はあるのかい?」
「まだ……ですが、いち早くこの力をものにできないと、これからの戦いを生き抜くのも、そして、この力とどう向き合っていくのかも出来ないと思っています」
総次は受け答えが徐々にたどたどしくなっていったが、最後まで応えた。
「分かった。まあ、その答えはいずれ出てくると思うわ」
「ですが、この半年間考えても答えが出ないので、それがもどかしくも思えてきてます。このまま、答えが出ないのではと、そんな気がして……」
「だったら、その時はその悩みをかなぐり捨てちまえばいいのよ」
「どうやってですか?」
「自分の中で、考える必要があることと、その必要がないこととをシッカリと分けることだよ。お前は時々必要以上に考えなくていいことまで考えることがあるからな」
「ですがこの力に関しては、そんな軽々し感じで考えてはいけないと思いますが……」
「そりゃ当然よ。でも限度を超えて考え込まないこと、たまには周りを頼ってもいいのに」
「……分かりました。これからは少しずつそうしていきます。どこまでできるかは自信がないですが……」
「いいのよ。自信がなくても、自身とか誇りって奴は、生き続けてその果てにあるもので、そう簡単に手に入るようなものじゃないわ」
「……ありがとうございます。それと、いろいろと相談に乗っていただき、本当に感謝しきれません」
「大袈裟ね。まあ、そう言うとこは変わってないというか……」
沙耶は呆れながらも微笑ましそうな表情で総次をからかった。
「あっ、いたいた! 総ちゃん!」
するとそこへ夏美が駆け足で総次達を見つけて駆け付けた。
「夏美さん。どうなさったのですか?」
「麗華さんと連絡が取れたから、これから帰ってくるまでに簡単な報告書を書いて提出するようにって言われて、伝えに来たの」
「そうですか。かしこまりました。では、先生。船着き場で」
そう言って総次は沙耶に手を振った。
「……全く、でも、これからは新戦組の人達と支え合うのよ」
沙耶は小さく、周囲に聞こえないほどの小さな声でそうつぶやいた。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
「それでは、ほんとうにありがとうございました」
「楽しかったです!」
十二時十五分。船着き場に到着した総次と夏美は、見送りに着た沙耶と綾香に礼を言っていた。
「いいのよ。また何かあったら連絡頂戴。いつでも受け入れ態勢は整ってるからっ!」
沙耶は自慢げに明るく言った。
「総次君。またもし試合をできる機会があったら、もう一度戦ってくれるかしら?」
「勿論だよ。何度だって戦うよ」
彩佳の激励に対して、総次も凛とした表情で応えた。
やがて汽笛の鳴る音が船津木庭一帯に聞こえてきた。
「そろそろ、出向時刻だから、急ぎなさい!」
「「はい!」」
沙耶に言われた総次はバイクを押しながら、夏美は両手にお土産を抱えながらフェリーに乗り込んだ。
「先生! 彩佳さん! ありがとうございましたっ!」
「ありがとうございましたっ‼」
総次と夏美は大声で別れの言葉を言い、彩佳達は手を振って見送った。
「彩佳。総次は強くなったわね」
「ええ。本当に……」
やがてフェリーが離れた頃に、沙耶が彩佳に話しかけた。
「どうしたんだい?」
「私も闘気研究者としての道を目指す為にも、精進しなきゃって思ったんです」
「そう、良い心掛けね。総次も自分の生き方に対してそれに近いことを言ってたし」
「そうですか……」
「大丈夫よ。総次もお前も、皆あたし達南ヶ丘学園の誇れる生徒達よ」
「先生……ありがとうございます」
そう言って彩佳は目に涙を浮かべながら沙耶に深々と頭を下げた。
「大袈裟ね。でも、これからも精進しなさい。沙希もお前を応援してるわ」
沙耶は彩佳の頭を軽く撫でながら言った。
「まあ、あたしもお前も、総次が無事に戦いを生き延びられることを祈ろうさ」
「生き延びますよ、総次君なら絶対に……‼」
彩佳は力強く言った。それは総次の強さを強く知っている彼女だからこその説得力があり、沙耶も納得した様子を見せた。
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