第6話 それは悪魔との契約に等しく
「お待たせしました。プリン・アラ・モードです」
「ありがとうございますっ! いっただっきまーす!」
嬉しそうな声で、夏美は目の前に置かれたプリン・アラ・モードをパクパク食べ始めた。常島ショッピングモールのカフェで休憩を取っていた夏美は、同行している沙耶から総次の件について尋ねられていた。
「それで、他に何か変わったこととかあるかな?」
沙耶に尋ねられた夏美は、プリンを掬うスプーンを一旦容器に掛けて話し始めた。
「真面目なとこは変わってないですね。でも、この半年間は今まで以上に責任感が強くなったって言うか、前にも増して自分に厳しくなったって言うか、そんな感じがします。表情も相変わらず無愛想で怖いし」
「それ以外には?」
次に訪ねたのは沙希だった。彼女も総次とは研究の手伝いと言う形で何度関わってたので、総次の身の上には少なからず興味があった。
「う~ん。あっ! 思い出しました!」
「「何?」」
花咲姉妹顔負けに声をシンクロさせて尋ねる美原姉妹。
「大学を受けるって言ってました。戦いが終わったらもう一度大学に入りたいって」
「そっか、まあ美ノ宮大学はあの件での壊滅的打撃からの回復がようやく始まった頃らしいし、もう一度受験しても大丈夫だと思うけど……」
そう言ったのは沙耶だった。
「総ちゃんもそれは気にしてました。だから滑り止めとして早慶も視野に入れてるって言ってます」
「早慶が滑り止めって、まあ総次君なら特に驚きはしないけど……」
沙希は諦めたかのような表情でつぶやいた。
「とは言っても、あの子の現状を考えたらそれは結構厳しいかも知れないわね」
「えっ?」
沙耶の言葉に夏美ははっとした。
「あの二つの闘気よ。あなた達の話を考えれば、あれだけの力を持った総次君を、国も無条件に野放しにするつもりはないでしょう」
「それは、一応警察と新戦組が協力して沖田総一を倒したということになってますが」
「どうして?」
沙耶は先程までの陽気な態度を改めて真剣な表情で尋ねた。夏美もそれに倣い、手にしていたスプーンを置いて姿勢を整えながら話を続けた。
「……あたしも納得してないんですけど、去年の二度の襲撃で信頼を失った警察が名誉を回復したいからとか何とかで……」
「沖田君の力を利用して、それを実現しようって魂胆ね」
沙希は不快そうな表情でつぶやいた。
「まさかと思うけど、あの子の隊が遊撃部隊として再編された理由もそこにあるって訳じゃないわよね?」
「そこまでは分かりません。ただ、遊撃部隊への再編も、新しい大師討ちのリーダーが強く推したみたいで……」
「新しいリーダー?」
沙希はアイスコーヒーを一口啜りながら尋ねた。
「あたしも一回会議で会ったことがあるんですけど、反MASTERを一番唱えてた人だってくらいしか分からなかったです」
「そう……」
沙希は俯きながらそう言った。
「まあ、その人が考えてることは大体分かる。総次を対MASTERの切り札として自分達の手元に置いておきたいんでしょうね」
「そうみたいです。でも……」
沙耶の言葉に俯いたまま答えた夏美。それでも沙耶は平静を保ちながら続けた。
「勿論、警察の全てがそうだとは言ってないわ。でもその新リーダーのように、それを望んでる派閥があるってことは否定できないわ」
「……だとしたら、警察には、総ちゃんを組織の道具にしたい人がいるってことですか?」
夏美は声を震わせながらそう言った。
「残念ながら、そうなるわね」
「そんなこと……‼」
「まあ落ち着け、夏美ちゃん」
あまりのことに、夏美は激高しながら立ち上がりそうになったが、沙耶は彼女を抑えて話を続けた
「裏を返せば、今の警察は新戦組、特に総次の力に頼らないとダメってことを自分達で証明してるわ。それに総次の力を利用しようとしても、それはリスクが大きいわ。乱暴な言い方だけど、悪魔との契約になるかもしれないわ」
「……どう言うことですか?」
夏美は感情を押し殺すような声で尋ねた。
「現状を一瞬で変えられるような物を人は常に求めるわ。でもどんなものにもそれに値する対価がある。総次の力も例外じゃないわ。警察が総次の力に頼り切って驕れば、その力によって滅びる可能性もある」
「滅びるって……」
「今の所、MASTERを壊滅させるには武力が必要。平和を維持する為にも、現実的には武力なくして有り得ないことよ」
「そうだとしても……」
「でもだからこそ、力相応の責任、そして正しい心と判断が必要よ。もし警察が総次の力に目が眩んだら、彼らは自滅の道を辿ることになるわ」
「でも、だからと言って総ちゃんが警察を敵に回すことは……」
するとそこまで夏美が言ったのを聞いた沙希が話を引き継いだ。
「分かってるわ。でもだからこそ、あの子には道を誤って欲しくないの」
「道を誤る……?」
「あの子は人一倍ストイックなだけじゃなく、責任感も強い子よ。それに押し潰されないようにって願わないではいられないのよ……」
心の底から総次を案ずるような態度で語る沙希に、夏美は静かに立ち上がった
「……沙耶さん、沙希さん。あたしも新戦組のみんなもいます。どんなことがあってもお互いに助け合っています。だから、総ちゃんのことも、あたし達で守って見せます!」
夏美は胸の前に拳を作りながらそう言った。
「……それが聞けたら安心だよ」
沙耶もどこか安堵したような態度微笑みながらつぶやいた。
「まあ、これからのあの子は何かと面倒を掛けるかもしれないけど、あなた達になら託しても問題ないわね」
「勿論です! 皆がついてますから!」
沙耶の言葉に重ねるように、夏美は強く言った。
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