第18話 因縁の戦い

「俺と同じ力を得たか……」


 東京セントラルドームに到着した沖田総次の手に握られた刀に纏わされた、純白の闘気に視線を移した総一はそうつぶやいた。


「この力で、お前を討つ……‼」


 総次の言葉に、総一は納得した様子で笑みを浮かべた。


「アタシ達の出る幕はないわね」

「悔しいけどな……」

「うん……」


 八坂と尊はそう言い、アザミも小さく頷いた。すると総次は、彼女達を見てあることを察した。


「……翼はどうした? あの人達は翼の仲間だ」

「まだ生きてるよ」

「生きてるって、まさかお前、翼を……?」

「結構骨のあるやつだったぜ。お前よりも遥かにな」


 総次は大いに驚いた。翼の実力を知っている彼だからこそ、その衝撃は大きかった。


「……あの時、俺がお前に言ったこと覚えてるか?」

「元より戦う理由は変わっていない。もう罪のない人達が命を落とすのを見たくない。そして、お前との因縁に決着をつける‼」


 はっきりと、自信に満ちた表情で総次は宣言した。


「なら……見せてもらおうじゃねぇか‼」

「望むところだっ‼」(飢狼‼)


 総次は純白の闘気を餓狼と共に総一目掛けて放った。その速度も闘気量もこれまでとは桁外れであり、発動しただけで周囲に猛烈な爆風と土煙を発生させ、地響きすら引き起こしていた。


「なんだ‼ こりゃあ⁉」

「最初っからこれ⁉」


 総次が放った飢狼に声を上げる慶介と将也。総次達が戦ってる場所から二百メートル以上も離れた場所でも、その衝撃は身近にいると錯覚する程に強烈だった。


「いいじゃねぇか‼」


 その攻撃に闘志むき出しの総一は、迫る純白の光線を刀に纏う漆黒の闘気で受け止め、吸収し始めた。


「ふんっ!」


 総一は総次が放った純白の光線を吸収し、地面を強く踏みしめて巨大な漆黒の闘気の刃を発射した。闘気の刃はフィールドを抉り、周囲一帯に衝撃波と土煙を発しながら総次に襲い掛かる。


「もらったぁ‼」(嵐狼‼)


 総次は腰から小太刀を抜いて多量の漆黒の闘気を纏わせ、巨大な漆黒の刃目掛けて突進してそれを受け止めた。


「はぁぁぁあ‼」


 総次は押し込まれながらもその場に踏み止まり、その威力と重さを利用して振り切りった加速を得て、常人には捉えられない速度で総一に迫った。漆黒の闘気の刃は、そのまま総次の後方に直撃し、ドームを両断してしまった。


「それでいい‼」


 武者震いしながら総一は総次の攻撃の軌道を読み、凄まじい量の純白の闘気を刀に纏わせた。


「このぉ‼」


 刀に純白の闘気に纏わせ、一気に総一へ迫り、彼と激突する総次。総一は最初の一撃を受け止めたが、後方三十メートルも押し込まれた。


「もっとテメェの力を見せてみろよぉ‼」


 総一は闘気の量と出力を釣り上げて突撃する。総次も刀を纏う純白の闘気が増大させ、一足飛びに総一へ飛び掛かり、激突した。

 二人はそのままドーム中を駆け抜けながら、時に凄まじい金属音と爆発と共に激突し、ドームの原型を留めない程の凄まじい剣戟の応酬を繰り広げた。


「俺をもっと滾せろ‼」


 圧倒的な強さを手にした総次に、総一は一層闘争心を燃やして攻撃を繰り出した。


「何なんだよ‼ あいつらの戦いはよ‼」

「人間同士の戦いなの……⁉」


 清輝と麗美は二人の常識外れのパワーに驚愕した。やがて爆風によって巻き起こった土煙が晴れ、距離を取った両者の姿が徐々に表れてきた。双方共に負傷してなかったが、無数の土煙で服は汚れまくっていた。


「どうだぁ‼」


 総一は刀に多量の純白の闘気を纏わせた突きを繰り出し、先程総次が発射したのと同レベルの規模の光線を螺旋状に発射した。


「ふんっ‼」(飢狼‼)


 総次も莫大な量の純白の闘気を纏う餓狼を放ち、グラウンドの半径に匹敵する巨大な純白の光線を発生させた。双方の純白の闘気は凄まじい轟音と地響きを伴ってグラウンドを抉り、激突と同時に大爆発を起こした。


「もっと力を見せろぉ‼」


 総一は総次の懐に飛び込み、刀の柄尻で総次が左手に握っている小太刀を破壊したが、総次の攻撃は止まず、両者の斬撃が敵の身体を斬り捨てんと鋭く閃く。


「まだまだこんな程度じゃねぇだろ!」


 総一は更に純白の闘気を籠めた連撃を繰り出す。総次も同量の闘気を刀に纏わせ、互いにグラウンドの四方八方を駆け抜けながら斬撃の応酬を繰り広げた。


「何なの、あの闘気量……」

「普通ならガス欠になってる筈だが……」


 二人の戦いを見守っていたアザミと瀬里奈は、その闘気量に言葉を失い始めていた。


「ぐっ‼」


 やがて総次は、総一に力負けして体勢を崩し、隙を晒してしまった。すかさず総一は刀を総次目掛けて大きく振り下ろした。


「まだだぁ‼」


 だが総次は崩れた姿勢のまま、振り下ろされた刀を受け止めて斬撃をかわした。

流石に威力と勢いまで殺すことは出来ず、そのまま百五十メートル背後のゴールまで飛ばされ、網を突き破って壁にめり込むほどに叩きつけられた。


「ぐあっ‼」


 強く壁に叩きつけられた総次は背中に走る痛みに声を上げた。


「総ちゃん‼」


 吹き飛ばされた総次に、思わず声を掛ける夏美。総次はよろめきながらも膝に手を突いて立ち上がろうとしたが、疲労の所為で中々立ち上がれなかった。


「これで終わりってのもつまらねぇな」

「まだやれる……‼」

「そうだ。まだやれるな……」

「当たり前だ……‼」


 総一は立ち上がろうとしたが、疲労が祟って体勢を崩して倒れ込んでしまった。


「このっ……‼」


 再び総次は立ち上がろうとしたが、痛みと疲労からやはり立ち上がるのは難しいようだった。


「てめぇの限界はここまでか?」

「あ……⁉」


 挑発まがいの総一の言葉に、総次は身体をピクリとさせた。


「俺を倒すんだったら、限界の一つや二つを越えて来いってんだよ……‼」

「……それくらいっ……‼」


 すると総次の身体の周囲から、じわじわと漆黒の闘気と純白の闘気が漏れ出し始めた。


「見せて見ろ‼ てめぇの力を‼」


 総一は総次目掛けて巨大な純白の闘気の光線を飛ばす。巨大な純白の闘気はグラウンドを抉りながら一直線に向かって行ったが……。


「負けるかぁぁああ‼」


 身体から漏れ出している多量の漆黒の闘気を刀に纏わせ、総次は総一の放った巨大な純白の闘気を受け止めて吸収し始めた。


「……まだ限界に達してねぇようだな」


 予想外の総次の粘りを見た総一は即座に刀を構えた。一方で総次は漆黒の闘気を纏わせた刀で巨大な純白の闘気の光線を受け止めて一瞬で吸収した。


「おのれぇぇぇえ‼」


 疲労と痛みで限界に近づいていた身体に鞭打って強引に刀を振るい、グラウンドを覆わんとする程の巨大な漆黒の闘気の刃を発生させて総一へ返した。


「伏せて‼」


 総次の放った漆黒の刃の大きさに一番恐怖心を抱いた様子の将也が叫んだ。その叫びを聞いた他の七星や新戦組の面々も、総次の放った漆黒の闘気の巻き添えを食らわない為に一斉に伏せた。


「デケェなぁ!」


 総次の技の大きさに感嘆しつつ、総一は純白の闘気を纏わせた刀で受け止め、弾いた。弾かれた巨大な漆黒の刃はそのままドームの外壁に激突し、延長線上にあった無数の観客席を全て吹き飛ばした。


「僕は……‼」


 静かに立ち上がりながら、徐々に闘争本能を解放する総次。


「絶対に……勝つんだぁぁぁあ‼」


 その瞬間、二つの闘気が全身から解放され、一気にグラウンド全体を包み込む巨大な闘気の柱になった。


「何だ⁉」

「有り得ない……こんな量の闘気……」


 そんな総次の姿を見た勝枝は総次の放つ闘気量に驚きの声を上げ、冬美は非現実的な量の闘気に我が目を疑っているようだった。


「リミッターを外したみてぇだな……」

「これが、総次殿の真の力……‼」


 勝枝達と同様に、佐助と助六も総次の放つ規格外の量の闘気に唖然としていた。


「総ちゃん……」

「お姉ちゃん、どうしたの?」


 不安そうな表情でつぶやいた夏美に、冬美はそう尋ねた。


「……これが総ちゃんの、本来の力……?」

「分からないけど、前とは違う……」


 二人はこれまでにない総次の力と姿に愕然としていた。

 やがて二つの闘気は総次の身体に集約し、狼のような姿を象った闘気を身体に纏った。


「……来い」


 総一が挑発したのと同時に、総次は総一の頭上まで飛び掛かって刀を振り下ろした。


「はぁぁぁあ‼」(天狼‼)

「おらよぉ!」


 総一は苦も無く純白の闘気を纏う刀で受け止めたが、総一の周囲二百メートルに渡って巨大なクレーターが生まれ、発生した衝撃波で周囲の面々はその場に深く伏せた。


「ぬぉぉぉぉおお‼」


 総次は刀に掛ける力を更に高め、総一の体勢を崩そうとした。その力と勢いは総一の防御の姿勢を崩していき、総一は徐々に押されるが、すかさず両手に力を込めて総次を押し切った。


 幸い総次は空中で一回転して総一から距離を取った場所に着地したが、総一は猛スピードで総次へ突進して斬りかかる。総次が峰でそれを受け止めると、更にその勢いを利用して身体を半回転させて勢いを増した斬撃を返した。


「おらぁぁああ‼」(狼爪‼)


 だが総一は受け止め、更に刀に纏わせる闘気量を増幅させて勢いを増した斬撃を繰り出した。


「ならばぁ‼」(伏狼‼)


 総一の斬撃を足元に伏せてやり過ごした総次は、そのまま足元から斬り裂かんと刀を突き出す。


「おらよっ‼」


 総一は総次を三十メートル以上向こう側に蹴り飛ばし、間合いを作った。当の総次は綺麗に着地し、刀を水平に構えて技を繰り出した。


「はぁぁあああ‼」(尖狼・百九十八連‼)


 尖狼から放たれた百九十八の巨大な純白の光線が、一気に総一へ襲い掛かる。


「面白れぇ‼」


 総一は刀に漆黒の闘気を纏わせて総次が放った闘気を全て受け止めた。


「重いなぁ‼」


 嬉々とした態度で攻撃を受け止め、吸収した総一は、途中で身体を右横へ翻して総次の攻撃をかわし、総次の攻撃とクロスする形で漆黒の闘気の刃を放った。


「させるかぁぁぁあ‼」(飢狼‼)


 総次もまた、尖狼を全弾撃ち尽くした状態で飢狼に切り替え、放った純白の闘気でそれを撃ち落とした。


「今度はこっちの番だ‼」


 総一は総次の下へ一足飛びで飛び掛かって刀を振りかぶりながら襲い掛かる。

総次もそれを迎え撃つ為にその場から高速を以て総一と壮絶な打ち合いに入った。 


「これって……」

「まだ力尽きないの……?」


 哀那と麗美は、力尽きない両者の打ち合いに愕然としていた。そして彼ら陽炎の面々の中で、徐々にもう一つの危険性に気付き始めていた。


「沖田総次と、沖田総一」

「人知を超えた二人……」


 尊と八坂の会話は、明確に二人の力の脅威を知らしめていた。

 そして二人が刃を交えること二百回を超えたその瞬間、総次は総一の背後を取った。


「隙ありぃぃい‼」


 そう叫びながら総次は総一の背を凄まじい速度で斬り裂いた。


「ぐはっ‼」


 斬り裂かれた総一はそのまま三百メートル向こうのグラウンドの壁に叩きつけられた。


「はぁ……はぁ……」


 総一への初めての有効打を与えた総次だったが、蓄積された疲労から、その場に膝まづいた。


「総ちゃん……」


 そんな総次に、思わず彼の名をつぶやく夏美。


「見ろ‼」


 すると佐助が、目を見開きながら総一が吹き飛ばされたグラウンドの壁を指さして叫んだ。立ち込める土煙の中から、仁王立ちした総一の姿があった。


「いい一撃だったぜ……」


 そう言いながら総次に向かって歩き出した総一。背中の傷からは多量の血が流れ、歩く度に地面に滴り落ちた。


「やっと全力でやれるぜ……」


 すると総一の身体から二つの闘気が解放され、再びグラウンド全体に二種類の闘気の柱が発生した。量だけで言えば、総次を凌いでいるかもしれないだろう。解放された闘気は全身を覆い、頭には闘気が鬼の角のように生成されていた。


「行くぜ……‼」


 その瞬間、総一の姿が一瞬にして消え、一同に動揺が走った。


「……そこか‼」


 唯一総次だけは動揺せず、彼が既に自分の背後に回り込んでいることを察知し、刀を交えて彼の鋭い斬撃を防ぐ。一方、総一は刀の峰を押し込み、総次を刀ごと胴体から一刀両断しようとした。


「んぐぐぐぐ‼」


 だが総次は全体重をかけて踏み止まっていた。


「殺し合いってのは、こうでなくちゃなぁ‼」


 総一の叫びに反応するように、刀に纏わせた純白の闘気は更に輝きを増し、更に右脚で刀の峰を力強く蹴り、その衝撃で総次の刀をいなした。


「はぁぁあ‼」


 総次は総一の白いシャツの襟元を掴み、そのまま彼の脳天に刀を振り下ろした。


「粘るなぁ!」


 総一は即座に柄に漆黒の闘気を纏わせ、そのまま闘気を吸収しながら総次の腹目掛けて叩きつけ、事なきを得た。


「このぉ‼」(餓狼‼)


 即座に純白の闘気を刀に纏わせてダメージを打ち消す総次。勢いまでは殺せなかったが、意地でその場に踏ん張ったことで直ぐに体勢を整え、餓狼で総一に追撃を掛けた。


「おらよっ!」


 しかし総一は技の軌道を読んで刀であっさりとかわし、再び総次に迫り、彼もまた総一目掛けて高速で飛び込み、激突した。


「「はぁぁぁああ‼」」


 激突してもなお、二人の刀を纏う純白の闘気の量は増大し、やがて限界に達した力はドームの観客席にまで及ぶ大爆発を引き起こし、周囲の壁も拡散した闘気で木端微塵に破壊してしまった。

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