第17話 乱入せし赤狼七星‼
「やっと尻尾と掴めたぜ。沖田総一さんよぉ……」
「派手に暴れたようね」
憤りを禁じえない様子の慶介と瀬理名は声を震わせながらそう言った。東京セントラルドームに到着した赤狼七星の面々は、遂に沖田総一と対峙するに至っていた。
「あいつはあれから死んだのか」
「死んじゃいねぇよ。だがあの時の戦いではっきりした。テメェがこれからの俺達と翼にとって邪魔者以外の何物でもないってことがな」
声に怒気を含ませて言い返したのは尊だった。
「あれだけの奴なら、そう簡単に死なねぇ。お楽しみが増えたぜ」
「何がお楽しみだ‼ 派手にやりやがって‼」
慶介は今まで以上に声を荒げて叫んだ。
「あたし達や警察だけじゃなく、MASTERとも戦ったみたいね」
「自分達以外の全てが敵と考え殲滅する。それが沖田総一……」
「それでも、満足しそうにないわね……」
大体の事情を察した勝枝と鋭子、そして紀子はそれ以上言葉が出なかった。特に勝枝は沖田総一の底知れぬ闘争本能に恐怖も感じ、身震いをした。
「文句があんならかかってこいよ。それともお前らは虎の威を借りてるだけの狐の群れか?」
「言わせておけばぁ‼」
総一の挑発を最も鋭敏に受け取った慶介が激昂しながら凄まじい勢いで乱射し始め、他の五人もそれと同時にその場から散開した。
「ワンパターン……」
総一は半ば呆れながら純白の闘気を纏わせた刀を振るって闘気の刃を生成して放ち、慶介が放った弾丸全てを叩き落した。その直後総一は背後に人の気配を感じ取った。
「後ろを取ったつもりかよ」
総一がそうつぶやきながら背後に刀を振るうと、激しく鈍い金属音が周囲に鳴り響いた。そしてちらりと背後を総一が見ると、偃月刀に雷の闘気を纏わせた尊が怒りの形相で力を込めて総一を睨んでいた。
「身の程知らずが」
「いつまでも余裕こいていられっと思うなよ?」
尊がそうつぶやいた瞬間、更に四方から人気が総一目掛けて殺到し始めた。
「こんのぉ‼」
「これ以上させないわ」
「翼の為に、ここで君は止める!」
アザミ・瀬理名・将也の三名は総一目掛けて襲い掛かってきた。
「勢いが足らねぇ」
総一は刀に纏わせた純白の闘気の出力を更に上げて振り下ろし、辺り一帯を包み込む激しい爆発を引き起こしてその場から離脱した。瀬理名達は爆風で着地直後の体勢を整えるのに手間取り、総一を逃してしまった。
「個人の力はそこそこ、連携は付け焼刃。中途半端すぎる……」
「あたしのことを忘れんなよ‼」(虎爪滅却‼)
総一の右側から飛び出してきたのは、両手に持った鉤爪に多量の風の闘気を巨大な爪状に飛ばした八坂だった。
「闘気量はまあまあ。動きは俺の感知範囲内。やはり中途半端だな」
そんな八坂を嘲笑いながら、総一は刀に纏わす闘気を漆黒の闘気に切り替えて巨大な風の爪を吸収してしまった。
「奴から俺のことは聞いてるはずだろ? だがこの醜態、愚かだ」
そのまま総一は八坂の闘気によって肥大化した漆黒の闘気を纏わせた刀を横一文字に構えて八坂が襲い掛かってきた方向へ巨大なレーザー状にして放った。
「八坂‼」
空中で身動きが取れない八坂の危機にいち早く反応した尊は、雷を纏わせた偃月刀を風車の如く回転させて防ぎつつ、彼女の身体を抱えてその場から離脱した。
「尊……」
「今のはヤバかったぞ……」
尊は改めて総一の様子を伺っていた。先程尊が弾いた漆黒のレーザーはそこから拡散し、着弾箇所を中心に無数の穴を壁一面に穿っていた。
「少しは粘れよ……」
「あいつ……‼」
総一の挑発を聞いた八坂は苦々しい表情になった。それは他の赤狼七星の面々にとってもそうだった。
「ここにいる連中はどいつもこいつもドングリの背比べってことになるな……」
呆れ返りながら総一は赤狼七星と新戦組各組長、更に陽炎を貶す発言をした。そんな総一の侮辱を耳にした一同は同時に身体をピクリとさせて顔を引き攣らせた。
「つまらねぇ……」
すると総一の全身から、凄まじい量の純白の闘気と漆黒の闘気を同時に放出した。その勢いはグラウンド全体に至る巨大な光線となり、耳をつんざくような轟音と共に辺り一帯のあらゆるものを吹き飛ばしてしまった。
「なっ……‼」
「さっきまでと闘気量が違う……」
「冬美と同じか、それ以上……‼」
その圧倒的な闘気量に勝枝は絶句し、冬美は戦意喪失寸前になり、夏美は彼の闘気量に愕然とした。そしてそれは他の面々も同様だった。
「ビビんってんじゃねぇよ‼」
その中で唯一と言っていい程その気配を見せずに啖呵切ったのは慶介だった。
「でも、あれはさっきとは違い過ぎるよ‼」
「けど将也‼ 俺達はここで奴を葬る為に来たんだろ‼」
「慶介‼」
慶介を制止しようとした将也だったが、慶介はそれを振り払って両手に持ったマシンガンにマガジンを入れ替えつつ、多量の光の闘気を流し込んで総一に照準を合わせた。
「これでも食らえぇ‼」
そう叫びながら慶介は引き金を引き、総一に向かって無数の巨大な光の闘気の光線を放った。
「……弱ぇよ」
すると総一は、ドスノ利いた声で純白の闘気と漆黒の闘気を刀に集約させ、慶介が放った無数の巨大な光の闘気の光線を斬り裂いてしまった。
「何⁉」
「弱ぇっつったのが聞こえねぇのか?」
慶介が怯んだ瞬間、目の前に刀を振り下ろそうとする総一が現れた。
「慶介‼」
「ゲームオーバーだ」
尊の叫びをよそに総一は刀を振り下ろした。
「くそぉぉぉお‼」
慶介は両手のマシンガンに光の闘気を流し込んで発射させていなそうとしたが、総一の刀の直撃と光の闘気の爆発によってマシンガンは破壊され、発生した爆風によって慶介の身体は後方へ二十メートルも吹き飛ばされてしまった。
「ぐあっ‼」
「慶介‼」
瀬理名は駆けつけながら彼を助けた。慶介の両手の皮膚は多量の出血と共にボロボロになっていた。
「ぐっ、あっ……‼」
慶介は両手に鋭く迸る痛みに声を出せないでいた。
「隙ありでごわす……」(連砲撃‼)
騒然とした空気を突き破って総一に襲い掛かった助六は、両手に鋼の闘気を流し込んで硬質化させ、重量を増した拳による拳の猛ラッシュを叩き込んだ。
「弱過ぎなんだよ……‼」
だが総一は助六目掛けて凄まじい速度で迫り、そのスピードを加えた強烈な連撃を繰り出して応戦した。
「ぐっ……‼」
総一の予想以上の力に助六は徐々に押され始めた。
「物足りねぇ……なぁ‼」
そんな助六の力に見切りをつけた総一は自棄気味に今まで以上の力を込めた一撃をお見舞いし、助六をあっさりと吹き飛ばしてしまった。
「ぐはぁ‼」
助六はグラウンドの端の壁にめり込むほどに叩きつけられ、全身を強く打ち付けた痛みに声を上げた。
「むしゃくしゃすんなぁ……‼」
荒れながら総一は勝枝達へ猛スピードで迫った。
「勝枝ちゃん‼」
「分かってる‼ 冬美‼」
「ええ‼」
夏美と共に、勝枝と冬美はそれぞれ闘気を得物に纏わせたが、同時に総一が彼らの前に現れてしまった。
「雑魚共が……‼」
総一の声が彼女達の耳に入った瞬間、夏美の鋼鉄のトンファーと勝枝の十字槍は粉々に砕け散り、三人の身体は凄まじい速度で後方へ吹き飛ばされていた。
「きゃあ‼」
「んああ‼」
「きゃああ‼」
更に背後の冬美を巻き添えにした。
「次の獲物は……」
更に総一はそのまま紀子と鋭子がいる方向へ向かった。だが勝枝達と違ってある程度状況を冷静に分析していた二人は武器に闘気を纏わせて迎え撃つことが出来た。
「この力……」
鋼の闘気を流し込んだ得物の長棍『流麗』で総一の攻撃受け止めた紀子だったが、既にその圧倒的な力に押されていた。だがこの状況は彼女にとって最も理想的な状況でもあった。
「はぁ‼」(硬防乱‼)
総一の強烈な一撃をいなして身体を回転させ、彼の攻撃の勢いを利用して凄まじい勢いで流麗を振るった。
「脆い……‼」
だが総一はそれすら受け止め、刀に纏わせた純白の闘気と漆黒の闘気の出力を増大させて流麗を破壊しながら紀子の身体を吹き飛ばしてしまった。
「きゃああ‼」
「先生‼」
吹き飛ばされる紀子に、鋭子は叫んだ。
「先生が作った隙、無駄にしないわ」
彼女の思いを受け取り、気配を消して総一の背後を取った鋭子は、苦無に流し込んだ闇の闘気で総一の息の根を止めんとした。
「遅い……‼」
だが総一は彼女の位置を即座に把握して彼女の方を振り返りながら刀を振るい、苦無を破壊しながら鋭子を吹き飛ばした。
「ぐあぁ‼」
「このままで終わらせねぇよ‼」(雷迎‼)
すると佐助は大剣におびただしい量の雷の闘気を纏わせ、総一の頭上に飛び上りながら振り下ろした。
「もっと俺に力を見せろよ……‼」
総一は頭上を見上げつつ、刀の闘気の出力を更に上げて佐助を迎え撃った。
「俺はテメェなんかには絶対にな‼」
「だったらもっと力で示せよ……なぁ‼」
受け止めた総一の力もさることながら、佐助の力は、これまでのリベンジと言っても過言ではないものを感じさせるものだった。だが徐々に受け止めた総一の力が上回り始めた。
「何なんだよ‼ テメェはよ‼」
焦りと恐怖、そして総一のプレッシャーから叫んだ佐助だが、総一は大剣を力技で粉砕しながら彼を遥か上空へ打ち上げた。同時に解放された闘気が佐助の身体をずたずたに斬り裂いて彼を苦しめた。
「ぐあ……」
全身に走った強烈な痛みに声を上げることすら出来なかった佐助は、そのまま地面に強く叩きつけられた。
「お前ら‼ 一気に行くぜ‼」
「「「はい‼」」」
最後の力を振り絞らんと、翔は陽炎のメンバーと共に、それぞれの武器に闘気を纏わせて一気に総一目掛けて飛びかかった。
「俺達も行くぞ‼」
「「「「当然‼」」」」
それに呼応して赤狼七星の面々も総一目掛けて得物に闘気を纏わせて襲い掛かった。
「もう面倒だ……」
しかし総一は全方角にに純白の闘気による巨大な光線を放ち、一瞬にして彼らの得物を破壊つつ吹き飛ばしてしまった。
「手ごたえがなさ過ぎる……」
失望した総一は刀に纏わせた闘気の出力を更に上げて天に掲げた。二種類の闘気は互いに反発しながら際限なく巨大化し、その大きさは先程ドーム天井を吹き飛ばした光線を凌ぐものになっていた。
「まだあんな力が……‼」
「あいつの限界って……‼」
「こんなんじゃあたし達……」
尊、八坂、アザミはその場から力なく起き上がって総一の刀に纏わされた闘気を見て戦意喪失した様子でそうつぶやいた。
「ここまでなのかよ……‼」
「佐助殿……」
「力の差があり過ぎる……」
「もう、力がない……」
諦めの態度を見せた佐助に、反抗する力を失った助六。そして総一との力の差を思い知った勝枝と、彼の力の底知れなさを認めざるを得なくなった鋭子。
「お姉ちゃん……もう私……」
「諦めたくないけど、でも……‼」
冬美の弱音をたしなめるはずの夏美ですら、最早力が及ばないという現実を受け入れ始めていた。
「そう、もう私達には……」
「全然太刀打ちできない……」
「麗美が弱音吐くなんて、初めてだな……」
「清輝。俺も認めたくはねぇが、奴の力は本物だ……」
同様に陽炎でも戦意が衰えてきていた。自分達の連携を見破られた上に完全に叩き潰されたことが止めになったからだ。
「つまらねぇ玩具は処分するに限る。取り敢えず、全員逝けよ……‼」
総一がそう言いながら刀を振り下ろそうとした。その瞬間――
(餓狼‼)
総一が破壊した壁の穴から巨大な純白の闘気の光線が総一目掛けて一直線に迫る。
「これは……」
総一は光線をかわし、刀に纏わせた巨大な闘気を刃状にその方角へ飛ばすと、グラウンドにブゥゥゥウンっという激しいエンジン音を響かせながら猛スピードで突撃して飛び上がったバイクを斬り裂いた。
「はぁ‼」
激しい爆発が起こったと同時に、総一の頭上から小柄な少年が純白の闘気を纏わせた刀を振り下ろした。
「ふんっ‼」
総一が持ち上げるように刀を押して弾き返すと、少年は上空で体勢を立て直して着地した。彼は黒地に赤い炎の如きダンダラ模様の羽織を着用し、肩から黒いコートをマントのように羽織り、右手には純白の闘気を纏わせた刀を持っていた。
「まさか……」
「うん、間違いないわ……」
その姿を見た冬美と夏美は、少年の姿に心当たりがあった。
「……お前か」
総一は驚きつつもどこか納得したような表情でそうつぶやいた。
「決着をつけるぞ……‼」
漆黒の服に身を包んだ少年・沖田総次は、被っていたヘルメットを脱ぎ捨て、黒帽子を被りながら睨みを利かせて総一と対峙した。
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