第16話 白き鬼の少年vs新戦組

「夏美ちゃん! 冬美ちゃん! 勝枝!」

「佐助さん‼ 助六さん!」


 午前四時五十分。東京セントラルドーム入場口前に到着した夏美達を待っていたのは、既に到着していた他の組長達と陽炎の面々だった。


「夏美……あれ……」


 そう言い名が麗美は振るえる指で木端微塵にされた入場門を指した。


「あんな風になってるなんて……」

「警報もさっきまで鳴ってたんだが、誰も来ていない。この混乱で既に警備員も避難してしまったからな……」


 冷静を装いながら哀那はそう言ったが、彼女も内心では恐怖を感じていた。東京セントラルドームをここまで破壊してしまっと沖田総一の想像もつかないレベルの力は、哀那でなくとも全員平等に恐怖を感じる代物であった。


「中でどうなってるのかは分からないけど、私達の想像以上の力を持った敵ということだけは、はっきりしたわね」

「今のところ、この状況でどう戦うべきかの対策も全くない状態だから、ここから先は慎重に戦うべきだろうな」


 紀子と鋭子はそう言いながら東京セントラルドームを眺めた。


「我々も中に入るべきでごわすな」

「助六の言う通りだな。沖田総一って奴の仕業なら、ここで決着を付けるべきだ」

「ですがリーダー。俺達で奴相手に敵うんですか?」


 翔の言葉に不安げな表情で尋ねたのは清輝だった。


「俺も不安がない訳ではないが、戦って見ないと分からないこともある、それにこれ以上連中の好き勝手をさせる訳にもいかない、俺達がここで食い止めるべきだ」


 翔はそう言って清輝を諭した。それを受けて清輝も納得した様子で頷いた。


「取り敢えず行くぜ。俺達で東京を食いつぶす悪の権化の首を討ち取るんだ」


 佐助のその言葉を聞いた一同は無言で頷き、そのまま東京セントラルドーム内に入っていった。グラウンドの中央に到着すると、沖田総一が今か今かと敵を待っていた。


「待っていた。この沖田総一、お前達の入場を心から歓迎するぜ」


 総一は薄気味悪い笑顔で辿り着いた佐助達にそう言った。


「修一の言う通り、本当に姿はオチビちゃんと瓜二つだな。だが醸し出すオーラは獣同然」


 対峙した佐助は肌でそう感じ、他の者達もどこか薄気味悪さを感じているような表情になった。


「怖気づいたか?」

「へっ、言ってくれるじゃねぇか」

「日本を奪うっていうてめぇの考えが気に入らねぇんだよ」

「そんな自分勝手を許すはずねぇだろ」


 佐助と翔と清輝は嫌悪の表情で総一にそう吐き捨てた。


「お主は何が目的で日本を奪う気でごわすか?」


 そんな彼らと対照的に冷静に総一に日本を奪う理由を問いただしたのは助六だった。


「自分達の力を示し、力こそが未来を切り開くことを証明する」

「何?」


 佐助はやや挑発気味に声を出した。


「俺達はあまりいい身分じゃねぇが、力があればそんなものは関係ねぇ。お前らみてぇに、恵まれ過ぎて力のねぇ連中などいつでも滅ぼせる」

「あたし達を馬鹿にするのっ⁉」


 苛立ちながら詰問したのは夏美だった。


「どんな力であっても、極めりゃこの国を奪える。それを知らねぇ無能者が多すぎる」

「無能者だと⁉」

「力だけが国を変えた訳じゃねぇだろ‼」


 翔と清輝はそう総一を怒鳴った。


「なら俺が変えてやるよ」

「大言壮語ね……」

「私は願い下げだね」

「お前は何人犠牲者を出せば気が済むんだ‼」


 紀子は呆れ、鋭子と勝枝は怒りをぶちまけた。


「弱者が滅ぶまでだ。力のねぇ連中にこの国を、俺が切り開く未来を生きる資格はねぇよ」

「自分が最強だと思い込みやがって……‼」

「あんたみたいな奴、絶対に認めるもんか‼」

「力があるとかないとか、てめぇの尺度だけで決められたくねぇな……‼」


 哀那と麗美は力強く反論し、佐助は今まで自分でも抱いたことがないほどの怒気を抱きながら総一にそう言った。


「だったら証明してみろよ‼」


 総一は天に刀を掲げておびただしい量の純白の闘気を纏わせながらそう叫んだ。そんな彼に対して最初に行動を起こす為に前に出たのは佐助だった。


「俺が最初に行くぜ」


 そう言いながら背負った大剣を構え、炎の闘気を刀身に纏わせながらその場で振るい、複数の炎の刃を生成しながら総一目掛けて襲い掛かってきた。


「弱すぎるな……」


 総一は強烈な突きと共に巨大な純白の闘気の光線を放ち、それらを一瞬で消滅させつつ夏美達に猛烈な勢いで迫った。


「みんな散らばって‼」


 夏美はそう叫びながら攻撃が及ぶ範囲外に逃げた。彼女達が去った場所は、純白の闘気によってドームの観客席の二階までを一瞬で吹き飛ばしてしまった。


「ここからだぜ……‼」


 そうつぶやきながら佐助は総一の頭上に取りながら雷の闘気を纏わせた大剣で振り下ろした。


「軌道が読みやすい……」


 だが総一は頭上の佐助の気配と攻撃の軌道を見切り、多量の純白の闘気を解放して佐助を大剣諸共吹き飛ばしてしまった。


「ぐあああっ‼」


 吹き飛ばされた佐助はそのまま地面に叩きつけられてしまった。


「くそぉ‼」

「好きにはさせぬ‼」


 勝枝は十字槍に炎の闘気を、助六は己の拳に鋼の闘気を流し込んで硬質化させながら総一目掛けて一直線に飛びかかってきた。


「動きが直線的過ぎるんだよ……」


 総一は小さくそうつぶやきながらその場から姿を一瞬にして消してしまった。


「何っ‼」

「早……」

「見切りやすい上に遅過ぎ……」


 背後からの総一の声で勝枝と助六は振り向いたが、彼は至近距離で純白の闘気を解放し、半径十メートルに及ぶ爆発で二人を吹き飛ばした。


「きゃあ‼」

「ぐぬぅ‼」


 吹き飛ばされて地面に強く体を叩きつけられ、全身に迸る鈍い痛みに声を上げた。


「冬美‼」

「うん!」


 勝枝達が地面に叩きつけられたのとほぼ同時に花咲姉妹が動き出す。冬美は水の闘気を鉄扇の上に発生させて無数の氷柱を生み出す。同時に夏美は炎の闘気をトンファーに纏わせながら総一へ急接近して襲撃とトンファーの打撃を交えた猛烈な連増攻撃を繰り出した。


「こんのぉ‼」(女豹乱舞‼)


 しかし総一は全く動じることなく冷静に攻撃の一つ一つを見切りながら時には打ち返し、時にはかわして夏美の女豹乱舞の全てを封じてしまった。


「冬美‼」

「はぁ!」(氷雨‼)


 夏美の合図で、冬美はパラソルから生み出した大量の氷柱を総一に向けて一斉に放った。


「いただき……」


 総一は夏美とのインファイトの一瞬の隙を突いて離脱し、刀に纏わせる闘気を漆黒の闘気に切り替えて冬美の氷雨を全て吸収しつつ、刀を振るって巨大な刃状に生成して放った。二人はその場に伏せてやり過ごしたが、漆黒の刃は二人の後方のドームの壁を最上階の観客席まで真っ二つにしてしまった。


 その瞬間、総一の左右を取った紀子と鋭子が総一を挟撃しようとしたが、総一はその場で一回転しながらその純白の闘気を纏わせた刀で豪快な回転斬りを繰り出した。二人は身を引いて避けることに成功したが、攻撃の余波で吹き飛ばされてしまった。


「きゃ‼」

「ぐっ‼」


 グラウンドの左右の隅まで吹き飛ばされてしまった紀子と鋭子。


「よくもぉ‼」(十字火炎撃‼)


 激昂と共に勝枝は得物の白虎におびただしい量の炎の闘気を纏わせて一突きで彼の息の根を止めんと凄まじい速度で総一に突進してきた。


「大したことねぇな……」


 一方で総一は冷めた態度で勝枝の突進の軌道を見切りながら純白の闘気を纏わせた刀から多量の闘気を太いレーザー上に飛ばして勝枝を吹き飛ばした。


「ぐあぁっ‼」


 後方の壁に叩きつけられた勝枝は紀子達と同様にその衝撃によって生じた痛みに声を漏らした。


「手ごたえがなさすぎる」


 痛みに苦しむ組長達と違い、総一は余裕の態度で彼らを見下ろしながらそう言った。


「……気を引き締めんぞ」

「「「了解」」」


 総一の強さを目の当たりにした翔は、仲間に指示を出して得物の両刃薙刀に風の闘気を纏わせ、清輝達も獲物に闘気を纏わせて構えた。


「行くぞ‼」


 翔の合図を聞いた他の面々も一斉に総一に突撃して彼を包囲し、そのまま持ち味の連携攻撃を開始した。


「そらよっ!」


 まずは翔が得物の双刃薙刀に風の闘気を纏わせて回転させながら闘気の大鎌を総一目掛けて巻き起こした。それを総一は漆黒の闘気で吸収しながら翔目掛けて突進してきた。


「隙ありっ!」


 総一が翔の闘気を吸収したのを見計らって彼の背後を取った麗美がボウガンの矢に光の闘気を纏わせて放ち、次に哀那が総一の左側に回り込んで大太刀に闇の闘気を纏わせながら鋭い軌道を描く斬撃を浴びせるという連携を繰り出した。

 だがこれに反応した総一は矢を全て避け、漆黒の闘気を纏わせた刀で哀那の大太刀を纏う闇の闘気を吸収してしまった。


「お返した」


そのまま哀那の左脇腹に強烈な右蹴りを食らわせて二十メートルも吹き飛ばした。だがその直後、総一の頭上からバチッという音が騒がしく轟き始め、総一は上を見上げた。


「雷の闘気……」


 見上げた総一の視界に入ってきたのは、大鎌に雷の闘気を纏わせた清輝が、それを勢いよく振り下ろして凄まじい勢いで総一に迫った。


「造作もない」


 だが総一は清輝の雷の大鎌を純白の闘気に切り替えた刀でいなして陽炎の包囲網から離脱してしまった。


「全てを軽々と……」


 総一の予想以上の身のこなしと剣技に、哀那は驚きを隠せなかった。


「連携も力もまだまだだな」


 総一は退屈そうな態度で周囲を囲んでいる新戦組の隊員達全員に聞こえるようにそう言った。


「言ってくれるじゃねぇかよ」


 そんな総一の態度に対して内心もっとも苛立っていたのは佐助だった。彼は総一を耳にして怒気を含んだ声でそう言った。


「俺達の本気をまだ見てねぇくせに」

「だったらさっさと見せろ」

「お望み通り……‼」


 佐助はそう言いながら得物の大剣におびただしい量の炎の闘気を纏わせて振り上げながら総一に突っ込んでいった。


「これでも食らえ!」(炎獄‼)


 佐助は多量の炎の闘気を纏わせた大剣を総一目掛けて猛烈な速度で振り下ろした。


「そうでなけりゃな……‼」


 総一は純白の闘気を纏わせた刀で佐助の大剣を受け止め、そのまま鍔迫り合いに持ち込んだ。


「受け止めてしまえばどうってことはねぇな」

「減らず口叩きやがって……‼」

「そいつは俺に勝ってから決めろよ」


 そう言いながら総一の力は徐々に佐助の大剣を佐助側に押し込み始めた。


「ちくしょう‼」

「そろそろ飽きたな」


 更に総一は刀で受け止めていた佐助の大剣をいなし、強烈な蹴りを彼の鳩尾に食らわして吹き飛ばした。


「佐助殿!」 


 吹き飛ばされた佐助を受け止めた助六は、鳩尾を挟撃されて咳き込む佐助を介抱しながら総一を睨んだ。総一は相変わらず面倒くさそうな表情で周囲を見渡していた。


「まとめて掛かってこいよ」

「始まったばかりでこの様とはね……」


 勝枝はやりきれない感情をぶちまけるようにそう言った。


「冷静さを忘れてはいけないわ、勝枝ちゃん」

「だが、近づくのも厳しい……」

「私が隙を作ります」


 そう提案したのは冬美だった。


「でも……」

「あたしが援護します!」


 夏美は勝枝達に対してそう言った。


「……分かった、あたしも行くよ」


 花咲姉妹の意気込みに共感した勝枝は、彼女達と共に立ち向かう意思を示した。


「行くよ‼」

「「はいっ!」」


 夏美と勝枝は得物に炎の闘気を纏わせながら総一に突進し、冬美は破界を発動させておびただしい量の藍色の水の闘気を全身から放出してパラソルに集め始めた。


「来い……‼」


 総一も刀に纏わせていた純白の闘気の出力を上げて迎え撃つ態勢に入った。


「おりゃぁぁあ‼」(女豹乱舞・豪炎‼)


 真っ先に総一に接近した夏美は、目が眩むばかりに白く燃え滾る炎の闘気を纏わせたトンファーで猛烈な連続攻撃を繰り出した。


「多少は面白くなってきたな」

「だったらあたしがもっと面白くしてやるよ‼」(白炎豪撃‼)


 攻撃を受け流した総一にそう言ったのは、夏美の背後から飛び上がって頭上を取った勝枝だった。彼女も白虎に白く燃える炎を纏わせて貫かんとした。


「この程度ではな……‼」


 すると総一は純白の闘気の出力を更に上げて夏美の女豹乱舞を力技で潰し、そのまま勝枝の上空からの強襲を受け止めてしまった。


「力は中々だが……」


 総一は刀に纏わせている純白の闘気の出力を更に上げ、巨大な刃に発展させてしまった。


「上には上がいるってことを覚えとけ‼」


 総一はそのまま刀に更に力を入れて凄まじい爆発を引き起こした。


「うあっ‼」


 勝枝は上空に吹き飛ばされつつ、上空で態勢を整えてふらつきながら着地した。


「冬美‼」

「うん‼」(氷雨‼)


 夏美からの合図を受けた冬美は、パラソルに集約させた藍色の水の闘気を無数の氷柱に変化させて土煙の中にいる総一目掛けて放った。


「闘気を吸収できるといっても限度だってあるはずだし……」

「……そうじゃないみたい……」


 夏美の言葉を失望しながら返した冬美の視線の先には、巨大な漆黒の闘気を刀に纏わせた総一が余裕に満ち溢れた表情で立っていた。


「まさか、破界まで……」

「俺の力の前では大したことはねぇな」


 全く冷や汗一つ見せない総一の態度に、一同の表情には絶望の色が見え始めていた。


「有り難く受け取れよ!」


 総一は体を一回転させながら刀に纏わせた漆黒の闘気を無数の刃に変化させて全周囲に乱れ撃った。


「全員かわせ‼」


 翔の合図を受け、一同は一斉にドームの観客席まで散開して事なきを得たが、グラウンドは半壊し、原型を留めなくなっていた。


「随分と派手にやってくれたじゃねぇか」

「マジでこのドーム潰しそうな感じですね」


 翔と清輝は総一の周囲のグラウンドの有様を眺めながらそう話し合った。


「これじゃあ勝てる見込みなんて……」

「そんなことないよ、あたし達全員が協力しながら戦えば勝てるっ‼」


 悲観論を述べる哀那の言葉を、麗美は力強く否定した。


「……麗美の言う通りね」

「陽炎の力を見せつけるぞ」

「「「了解‼」」」


 翔の激励を聞いた哀那達は再び総一と睨み合いに入り、攻撃を仕掛けるタイミングを計り始めた。その時だった……。


「やっと見つけたぜぇ‼」


 グラウンドの入り口から青年の叫び声と共に凄まじい銃声が鳴り響き、無数の光の弾丸が総一を捉えて襲い掛かる。


「しゃらくせぇ‼」


 総一は純白の闘気を纏わせた刀から巨大な闘気の刃を放って全てを粉砕した。


「何だ⁉」

「銃声でごわすか⁉」


 佐助と助六をはじめとする新戦組の全員が銃声が轟いた方角を向くと、両手にマシンガンを持った青年・慶介が立っていた。


「この間はよくもうちの大将を派手にやってくれたな……」


 更に青年の背後から偃月刀を持った青年を筆頭として六人の武器を持った若い男女がぞろぞろと入ってきた。彼らの姿は、新戦組の面々にとって意外な集団だった。それは今年に入ってから幾度となく戦場で戦った、赤狼七星であったからである。

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