第15話 猛者達への挑戦状
『ボス。先程現場からの報告で、御三家がそれぞれ戦闘状態に入りました』
「そうか。俺も目的地に到着する。上空のヘリ部隊は撤退したな?」
午前四時三十分。都内中枢部を進行していた沖田総一は、道真からの報告で御三家が戦闘状態に入ったことを知り、その上で現場全体の現状確認をした。
『先程、第二陣は完全に撤退し、第一陣の一部も離脱を始めました』
「追手はどうだ?」
『まだ追手はいません。警察も呆気にとられたようで後手に回ったままの様です。ですがまだ第一陣の二機が離脱できておりません』
「見捨てろ。どうせ他の敵ヘリコプターに袋叩きにされて惨めに撃墜されるのがオチだ。そんな足手纏いの巻き添えに、他の連中を付き合わせる必要はない」
『了解しました』
「さて、俺もそろそろ盛大な花火を上げる時が来たな……俺はこれからここで戦うことになるから、再び通信を切るぞ」
『後の事はお任せください。ボスはそこで盛大に戦って下さい』
「ああ。頼むぞ」
そう言って総一は道真との通信を切り、そのまま新宿区内にある東京セントラルドーム正面入場門までバイクを走らせた。東京セントラルドームは、東京都内でも最大規模を誇るサッカー場で、東京のシンボルの一つとして数えられている場でもある。総一がこの場所に向かったのは、ここで東京都内の全ての猛者を一網打尽にする為だった。
「さて……始めるか」
腰に佩いた刀を取りだした総一は、そこに純白の闘気を纏わせた瞬間に繰り出した突きと共に純白の闘気を発射してセントラルドームの入場口ゲートを跡形もなく破壊してしまった。非常事態を告げるサイレンが鳴り響く中、バイクを降りた総一は破壊した入場口から入ってドーム内へ侵入した。
(にしても、流石に警察も新選組モドキもここまで注意が向いてなかったか。だがだからこそ俺がここまで来れたってもんだ……)
そう思いながら進んだ総一は、やがてドームのグラウンドに到着した。屋根付きの球場である為に、深夜でライトがついていないグラウンドは薄暗かった。
「……パーティーのメインディッシュ、頂くとするか……‼」
グラウンドの中央へ辿り着いた総一は、刀におびただしい量の純白の闘気を纏わせて天に掲げた。
「集まれ……獲物共……‼」
その言葉と共に総一が掲げた刀から、纏わされた莫大な量の純白の闘気が解放され、巨大な光線となって凄まじい爆発音と共に天井を隅から隅まで跡形もなく吹き飛ばしてしまった。そのまま純白の闘気は鋭く、そして力強く天を貫いた。
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「何? 今の爆発音……」
午前四時三十二分。首相官邸外縁南部を警戒していた冬美と夏美は、比較的近くからと思われる爆発音を耳にし、音の下はどこからなのかを知る為に辺りを見回した。
「近くで鳴ったように聞こえたけど、ヘリで爆撃されてから火の手なんてあちこちで上がってるし……あれ?」
「どうしたの? お姉ちゃん……」
「冬美、あれ……」
夏美はそうつぶやきながら北西の方角を振るえる指で冬美に見るように仕向けた。
「あれって……‼」
夏美が指差す方角を見た冬美は絶句した。直径一キロメートルはあろう巨大な白い光が天を貫いているのだった。
「お姉ちゃん、まさかあれって……」
「あの白い光がもし闘気だったとしたら、あいつがもう近くまで……」
「検問もいくつか破壊されて、それで地上から侵入したとしたら、でも東京に侵入した敵は三つの大通りからって報告があったじゃない」
「あたしもそこまでは分からないわ。分かりっこないよ……」
そう言いながら花咲姉妹は絶望の色を顔に浮かべ始めていた。
「おーい。冬美‼ 夏美‼」
「夏美ちゃん‼」
するとそこへ勝枝が駆け付けてきた。彼女も夏美達と共に官邸外縁南部の防備を任されていたが、より前方での防衛の為に夏美達とはやや離れた場所で七番隊を展開していた。
「勝枝ちゃん!」
「夏美、冬美。あれは見えてるな……」
そう言いながら勝枝は夏美達が先程見上げていた巨大な白い光に視線を移した。
「はっきりとは言えませんけど、でも多分……」
「闘気かもしれないって、言いたいんだね?」
勝枝にそう言われた冬美は無言で軽く頷いた。
「勝枝ちゃん、やっぱり行くのね」
そう勝枝に尋ねたのは夏美だった。
「ええ。さっき薫に連絡したら、現場は隊員達に任せて向かえってさ。恐らく間違いなくあいつがやったものだろうな」
「沖田総一……」
冬美は小さくそうつぶやいた。それを聞いた夏美と勝枝は頷いて肯定の意を示した。
「方角から見て、東京セントラルドーム近くだろうな。他の組長達も薫の指示で、現場を部隊の隊員達に任せてあの光の出所に向かわせたわ。あたし達も急ごう‼」
「うん‼」
「勿論です!」
夏美と冬美はそう言って勝枝と共に巨大な光の出所へ向かい始めた。
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「遂に来たか‼」
『そうだ慶介。東京セントラルドーム方面で確認された例の光は、沖田総一がやった可能性が高い』
MASTER支部で、瀬理名のスマートフォンから御影からの連絡を受けていた七星の面々は、彼が伝えた報告に驚きと闘争心を隠せなかった。特に慶介は瀬理名のスマートフォンに噛り付くように聞いていた。
「と言うことは、例の大通りの三人はやはり囮と見るべきか?」
そんな慶介とは正反対に比較的冷静に尋ねたのは八坂だった。
『そうなる。恐らくそいつらを目立つように進行させ、奴は人目のない道を選んで侵入したんだろう。つまり奴は二つのヘリ部隊の時間差をつけた運用と、例の三人の部隊の同時進撃という二重の囮を使って、自分が侵入したことを気付かれないようにしたというのが考えられる』
「少数でそこまでのことを成し遂げられるなんて……やはり只者ではないわね」
感嘆の言葉を口にした瀬理名だが、内心では慶介ほどではないにしろ、沖田総一とは早く戦いたいという感情に支配され始めていた。
『だがこれで、いよいよお前達の出撃の時が来たってことになる』
「ついに来たね」
「絶対に負けないんだから‼」
来る戦いに胸を躍らすアザミと、穏やかながらも戦いへの覚悟を決めた目をした将也。二人も瀬理名と同様、この戦いを待ち望んでいたのだ。
『だが状況が状況なら、一旦引くことも考えておけ。こんなところでお前達に死なれたら困る奴が大勢いることを肝に銘じて……』
「俺達はこれまで戦いの中で死ななかった。運に助けられた面もない訳ではないが、俺達は簡単には死なねぇよ。だから安心しろ、御影」
『……そうだな。お前達がそう簡単に死ぬタマじゃねぇよな。分かったよ』
尊はそう言って御影の懸念を払拭させた。
『皆、絶対に生きて帰ってこいよ』
「「「「「勿論さ‼」」」」」
御影の労いの言葉に対し、八坂達は意気揚々と応え、そのまま支部を後にした。
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「ぐっ‼ 遅かったか……」
同時刻、二十三区に到着した総次は、体中を襲う熱気に苦しみながらそうつぶやき、天を貫く純白の光を眺めた。
「……これ以上あいつに好き勝手させる訳には絶対行かない」
身体を迸る熱気を感じながら総次は決意を口にした。
「あの方角は東京セントラルドームだな。でも他にも火の手が上がってるということは、既に派手な戦いに入ってる証拠だな。こうなると大通りは使えない」
総次はそうつぶやきながら再びバイクを走らせて総一のいると思われる東京セントラルドームへ向かった。
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「あれは……」
同時刻。権蔵はそうつぶやきながらは警察庁・警備局長室の窓から見える純白の光を眺めていた。
「あの光は一体、何なんでしょうか?」
警備局長室を尋ねていた職員の一人が戸惑いながら権蔵にそう尋ねた。
「純白の光……あれが闘気だとすれば、やはり現れたか……」
「まさか、沖田総一とやらでは……⁉」
「この様子では確定的だな。これまでの攻撃や信仰は全てカモフラージュだったということだ。奴の為に東京を蹂躙される訳にはいかんが……」
「では、もう東京は……」
職員はその場に崩れ落ちながらつぶやいた。
「諦めるのは早い。今こうしている間にも、新戦組が戦っている。現場の警察官達が使命を果たさんとしている。既に残ってるヘリ部隊は帰還したな?」
「は、はぁ……」
「そうか……」
(後は任せたぞ、警察官諸君、新戦組……)
そう思いながら権蔵は純白の闘気を睨み付けたのだった。
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