第14話 新戦組の局長として……‼

「やはり新宿の大通り一帯と路地裏に続く道を塞ぐように部隊を展開し、包囲網の中で袋叩きにする算段だったか……」


 バイクに跨る桐弥は、手に持った方天戟を構えて部下達と周囲を見渡していた。同時に、目の前で新選組の隊服を着た青年達の陣頭に立っていた栗色の髪を風に靡かせる美女の凛とした表情と、手に持った長刀に只ならぬ雰囲気を感じ取っていた。

 栗色の髪を靡かせる美女こと、新戦組局長・鳳城院麗華は目の前の男の隙のなさを脅威と捉えていた。


「どうやら敵が誰であろうとどんな状況であろうと容赦せず戦えるタイプね。この包囲網の中でも全く動揺する素振りを見せないとなると、精神的な部分で崩すのは無理ね」


 そう思いながら麗華は長刀に光の闘気を纏わせて構えた。


「そちらから来るがいい。俺を退けたければ先手必勝が近道だか……」

「御託は無用よ……」


 麗華は桐弥が言葉を言い終える寸前に既に振り上げていた長刀を思いっきり振り下ろして光の刃を彼めがけて放った。


「無駄な気遣いだったか……」


 麗華の攻撃の鋭さと迅速さを見た桐弥は、得物の方天戟に風の時を纏わせて光の刃を一振りの下の両断してしまった。

 重さ十キロ以上の方天戟を振るう剛腕と、幹敏以上に冷静に宣教を観察することが出来るのが桐弥の戦術は、麗華を翻弄するに十分だった。


故に麗華は部下達を制止して留まり、そのまま互いに動かずにただ時だけが流れた。睨みあいを始めて三分。遂に事態は動いた。桐弥は方天戟に風の闘気に纏わせ、身体を大きくひねりつつそれを振るって巨大な風の刃を繰り出した。


「来るわよ‼ 全員散開‼」

「「「「「了解‼」」」」」


 麗華の指示に合わせて散開した麗華含む一番隊隊員達だが、その内の五人が逃げ遅れ、風の刃の餌食になってしまった。辺りにおびただしい量の血を撒き散らされ、彼らの骸は無残な姿となってアスファルトに転げ落ちた。


「一瞬で五人を……」


 その光景に言葉を失いかける麗華。

 しかしそこは局長としての意地で持ち直し、長刀に風の闘気を纏わせる。


「あの方天戟の男は私がやるわ。あなた達は周囲の敵を殲滅してっ‼」


 勢い良く振るわれる麗華の長刀が、空を切って無数の風の刃を放つ。


「お返しと言うことか……」


 麗華の意図を見破り、風を纏う方天戟を振るって突撃する。


「突出して力技で防ぐって訳ね……‼」


 連続して風の刃を放つ麗華その刃は放つたびに徐々に大きく、そして鋭くなっていっていた。これらの風の闘気の刃には、多量の闘気が込められている訳ではない。最小限の闘気量で繊細なコントロールを行い、薄く、そして切れ味抜群の刃を生成しているのだ。初からこうしなかったのは、段階的に敵の力を削いでいく為である。


「徐々に闘気が鋭くなっていってるな。斬り裂くのが難しい……」


 桐弥の言葉通り、方天戟にかかる負荷が大きくなり、些か腕が震えていた。そこで桐弥は、麗華の放つ風の刃の連撃の合間を縫い、その斜線上から外れて突撃を再開した。


「技と技の間を切り抜けるなんてね……」


 冷静に桐弥の動きを観察し、中距離からの権勢が無意味と判断した麗華は、即座に接近戦に切り替える体勢を整えた。

 同時に長刀に纏う闘気を炎に切り替えた。


「はぁ‼」

「ウラァァ‼」


麗華の炎を纏う長刀と、桐弥の風を纏う方天戟が激突する。その衝突により、地面にひびが入り、周囲に土煙が舞い上がった。


(一撃の力が凄まじいわね)


 内心で桐弥の力に驚きつつも、麗華はその卓越した剣技で次々と桐弥の攻撃をいなしていった。


「おのれ……」


 言葉に徐々にいら立ちが入ってくる桐弥。腕力に絶対の自信がある彼にとって、麗華の技量は驚異的だったようだ。とは言え、麗華の方も桐弥の攻撃をいなすのでやっとだった為、改めて距離を取ろうと考え始めていた。


(相手の動きを一瞬でも怯ませれば……‼)


 続けて右横薙ぎを繰り出し、桐弥の攻撃を弾く麗華。


「くそっ‼」


 一瞬の戸惑いを見せる桐弥だったが、即座に方天戟の柄に風の闘気を纏わせて防いだ。

 もっとも麗華の思惑通りに怯んでしまった為、麗華が離脱する隙を生んでしまった。


「まさか俺の攻撃をいなしながら、怯ませるとはな……‼」

「簡単に出来ることではないわ。それだけの力をあなたが有しているのは確かなんだから」


 桐弥の力を素直に称賛する麗華だが、このまま接近戦でも遠距離戦でも隙を見つけられないのは流石にまずいと思い始めていた。

 そこで麗華は、腰を深く落とし、光の闘気を纏わせた長刀を前に構えた。


「より力を込めた一撃を……‼」


 そのまま強烈な突きを繰り出し、素早く、そして大きな光線を放った。


「チィ‼」


 あまりの素早さに、桐弥は戸惑いながらも巨大な風の刃を放った。光線と風の刃が激突するが、光線が押し込み、風の刃が徐々に崩れていった。


「俺の闘気が……」


 力勝負での自信を持っていた桐弥には信じられない光景だった。


「技では私の方が上と言うところかしら……」


 自分と桐弥の違いを理解し、突破口を見つけたと確信した麗華。彼女の放った光線は、単に闘気を放出しているだけではない。回転を掛け、貫通力を高めているのだ。これは真の貫徹螺閃と同じ原理ではあるが、高い技量があってこそ、このような芸当が出来るのだ。

 当の麗華としても、彼ほどの技量がある訳ではないので、多少量を多めにしているのは否めないが、桐弥を抑え込むのには十分だった。


「行くわっ‼」


 白鳳閃に込める闘気量を増やし、一気に押し込みにかかった。


「ふざけるなぁ‼」


 その瞬間、桐弥の全身から夥しい量の闘気が解き放たれた。


「これは……」


 突然のことであったが、麗華は動揺することなく攻撃を続行する。


「オンラァァア‼」


 ふたたび方天戟を振るい、先程以上の巨大な風の刃を放つ桐弥。


「これは、対処できないわね……」


 冷静に判断を下し、攻撃を中止してその場を離脱する麗華。彼女の想像通り、巨大な風の刃が麗華が離脱した直後に背後を通り抜け、その先にあるビルを一刀両断してしまった。

 両断されたビルは左右に分かれ、そのまますさまじい時事引きと轟音を伴って倒壊した。


「これがあなたの本気……」


 そう思いながら麗華は手に持った長刀の柄を強く握りしめた。


「やっぱりすんなり終わらせてくれないようね」

「終わらせんさ。総一が東京から国を奪うまではな」


 殺気の籠った眼で麗華に豪語する桐弥。


(本来であればこれ以上大技を発動するのは、周辺被害を考えて控えようと思ってたけど、それも無理そうね……)


 麗華の中には、未だにそう言った戸惑いがあった。


「どうやら、まだ何かを隠していそうだな」


 そんな麗華の心情を知らない桐弥は、どこか違和感に似たものを感じた表情で麗華にそう尋ねた。


「だとしたら?」

「俺を倒したいのなら、如何なる力を使う必要があるぞ……」


 桐弥のその言葉に、麗華は覚悟を決めたようなキリッとした表情になった。


「ご忠告ありがとう。ならばこちらも遠慮する必要はないわね……」


 麗華がそう言った瞬間、彼女が長刀に纏わせ続けていた炎の闘気が更に赤々と燃える激しい炎になっていた。


「……破界か……」

「あなたを討つには、必要ね……」

「総一ならお前ほどの力を持つ者を真っ先に打ち取りたいと思うだろうが……」

「それは残念ね。その機会は永遠に訪れないわ……」


 麗華の表情は、静かに凛としながらも局長としての気迫を醸し出していた。


「……行くわ」


 直後、麗華が先に飛び出す。長刀を纏う激しい炎が真っ直ぐな閃光を描きながら、強烈な袈裟斬りが繰り出される。


「ふんっ‼」


 同時に突撃した桐弥もまた、風を纏う方天戟を振るって麗華を迎え撃つ。二人の攻撃がぶつかり、そこから激しい攻撃の応酬に発展した。


「やるな……」

「破界を発動した私と打ち合って尚も無事な人は、あなたが初めてだわ」

「……やはりお前、まだ何かを隠し持ってるようだな」

「あなたは……」


 麗華は桐弥の洞察力の高さを認めざるを得なかった。だが同時に彼女にある決断を下す契機にもなった。


「そろそろね……」


 そう思いながら麗華は長刀を振りかぶりながらおびただしい量の破界の炎の闘気を纏わせ始めた。


「あれは……」


 桐弥は麗華の長刀に纏わされた破界の炎の闘気の輝きに目を細めながらそうつぶやいた。


「あなたの言う通り、確かに私はまだ力を持っているわ。周辺への被害も大きいから迷ってたんだけど、覚悟は決めたわ」

「これがお前の全力か……」


 そう言いながら麗華の長刀に纏わされた炎の闘気の量は、桐弥を驚愕させるものがあった。


「斜線上にいる味方は速やかに私の後ろに隠れなさい‼」(白鳳閃‼)


 麗華は長刀に纏わせた真紅の炎の闘気を巨大かつ鋭い矛のように変化させて腰を深く落としながら強烈な突きを繰り出した。真紅の炎の矛は螺旋状に渦巻きながら周囲八メートルを溶かし、凄まじいスピードで桐弥に向かっていった。


「この力は……‼」


 そうつぶやきながら桐弥はおびただしい量の炎の闘気を纏わせた方天戟を回転させて真紅の炎の矛を受け止めた。


「うっ……うぐぐぐぐ‼」


 だが真紅の炎の矛は螺旋状に回転しながらその威力を高めていき、遂に桐弥を飲み込んでしまった。


「ぐあああ‼」


 桐弥はそのまま全身を焼き尽くされ、焼却されてしまった。真紅の炎の矛はそのまま桐弥の部下達を巻き込んで巨大な火柱を発生させ、全てを焼き尽くした。


「スゲェ……」


 麗華と共に桐弥の部下と戦っていた一番隊の隊員達は、久しぶりに見た麗華の全力を目の当たりにして驚嘆の声を上げた。


「……はぁ……」


 麗華はそう息を漏らしながらその場にしゃがみ込んだ。


「「局長!」」


 それを見た周囲の一番隊隊員達が麗華の下へ駆けつけた。


「流石に疲れちゃったわ……」

「そう……ですか……」


 麗華の言葉を聞いた隊員の一人は、小さく言葉を返した。

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