第13話 修一の戦い……‼

「オラオラオラァ‼ 獲物の巣は目と鼻の先だ‼ 一気に突っ切るぜぇ‼」

「「「「「オウ‼」」」」」


 別の大通りをバイクで疾走している棚橋祐は、バイクの速度を振るに発動しながら部下達に檄を飛ばしていた。


「この調子なら、永田町まであっさり行けそうだな! 俺達を邪魔する奴等は、一人残らず叩き潰していくぜぇ‼」

「んなことさせっかよぉ‼」


 祐が後ろの部下達に向かって振り向きながら再び檄を飛ばした瞬間、彼の真正面から祐と変わらない年齢の青年が、その荒ぶる感情と気合を声を叫びながら雷の闘気を纏わせたカットラスで斬りかかってきた。


「っへぇ‼」


 青年のカットラスの一振りに、祐は背負っている肉厚の柳葉刀に鋼の闘気を流し込みながら抜いてそのまま弾いたが、その勢いでバイクから投げ出される形になってしまった。


「中々のパワーだな……」


 小声で小さくそうつぶやきながら吹き飛ばされた身体を中で微かに整えながら着地した祐は、青年を鋭い眼差しで睨みつけた。


「……ここは俺達が守り切るんだよ‼」


 そう言いながら再びカットラスを構えた修一は、目の前にいる祐を照準を会合わせた。それを聞きながら祐は周囲を見渡して別の道から進撃できないかを確認したが、大通り以外の道も新戦組の隊員達がガードをしていることが分かった為、ここで戦う以外の選択肢がないことを悟った。


「威勢は結構だが、俺を殺る自信があるならその力で証明してみろよ!」

「言われなくともそうする。お前ら‼ 絶対にここから一歩も通すんじゃねぇぞ‼」

「「「「「オウ‼」」」」」


 そう叫びながら修一は八番隊の隊員達と共に祐目掛けて両手のカットラスに風と雷の闘気をそれぞれ纏わせながら突進した。


「お前ら‼ あいつらを叩き潰してこのまま突っ切るぜ‼」

「「「「「オウ‼」」」」」


 修一達八番隊の突撃に応じるべく、祐は部下達と共に迎え撃ち、そのまま両者の部隊は乱戦状態に入った。その幕開けは互いに闘気を纏わせた得物による純粋な力押しから始まり、その様子からは駆け引きという言葉は微塵もなかった。

純粋な重量は修一のカットラスを遥かに凌駕している肉厚の柳葉刀を軽々と振るい、常人の腕力では不可能な連続斬りによる力押しでの接近戦による短期決戦で挑んだ祐だったが、始めてから五分以上経過しても修一に対して決定打はおろか、手傷の一つすら与えられなかった。

ぱっと見自分よりも筋肉があるようには見えない修一が、両手のカットラスで一撃一撃に全霊の力を込めて反撃を繰り返して祐のパワーに食い下がり続けたことに驚いたからである。

そは修一も同様だったが、二人の気力が全く衰えることがなかったのは、互いに負けられないという感情が強かったからだ。

 しばらく打ち合った後、簡単に決着が付かないと判断した両者は頃合いを見計らって間合いを取った。


(こいつ、一撃に重きを置いた戦い方をすると思ったら、その力を連続で何度も打ち込んできやがった。弾く度に腕がめちゃくちゃ痺れる)


 修一が思う通り、カットラスを握る彼の両手は祐の腕力から繰り出される技の衝撃によって震えていた。


「……どうした? 臆病風にでも吹かれたか?」


 そんな修一の様子を見た祐は、彼の臆病ぶりを嘲笑するかのような言葉を投げかけた。


「何だって?」


 それを聞いた修一はドスの利いた声でそう言いながら祐を睨み付けた。それを見た祐は更に挑発を続けた。


「臆病風に吹かれて逃げ出したくなったのかって聞いてんだよ。さっきからぶるぶる震えやがって」

「……ざけんなよ……」

「あ? 聞こえねぇな。もっかい言って見ろよ?」

「ざけんなっつってんだよ‼ 俺は臆病者じゃねぇ‼ お前らなんかに怯えてなんかいねぇよ‼」


 そう叫んで自分の中の恐怖心を一掃した修一は両手のカットラスに纏わせている風と雷の闘気の出力を上げた。その闘気の勢いは周囲に激しい暴風とプラズマを発生させるほどだった。


「そうでないと困るな‼」


 修一の勢いに闘争本能に掻き立てられた祐は、彼の力に最大限の力を以て対抗する為に肉厚の柳葉刀を振り上げながら修一目掛けて猛スピードで迫った。


「お前にも沖田総一にも絶対に負ける訳にはいかねぇんだよ‼ お前らに日本を好き勝手させねぇ‼」


 修一は魂からの言葉を力一杯叫びながら祐の突撃を得物のカットラスを振るって迎え撃ち始めた。


「諦めんだな‼ お前ら程度に総一を打ち破ることは出来ねぇ‼ 俺達が作る力ある者だけが生きる世界に、テメェは生きる資格がねぇんだからな‼」

「何が力ある者だけしか生きられねぇ世界だ‼ そんな世界認められっかよ‼」


 祐の肉厚の柳葉刀の威力と、それを扱う祐の力と闘気の威力に圧倒されながらも、持ち前の根性と気迫で彼に食い下がっている修一だったが、彼の苛烈な連続攻撃を持ってしても、祐の攻撃を打ち砕く方法を見つけられずにいた。


「お前らは総一に警視庁を滅ぼす程度の力しかねぇと思ってるようだが、そいつは過小評価もいいところだ」

「何だって?」

「あいつの力はそんな程度じゃねぇ。警視庁の数百人程度じゃあいつは満足しねぇよ」

「冗談を言う余裕ぶっこきやがって……‼」


 祐の総一自慢を聞いた修一は怒りに身体を震わせながらそうつぶやいた。


「どうしても否定してぇんだったら、もっと力を見せてみろってんだよ‼」

「……ったりめぇだ‼」


 祐の更なる挑発を耳にした修一はそう叫びながら全身から凄まじい勢いで多量の雷と風の闘気を放出させ、両手に持っているカットラスの刀身に纏わせ始めた。


「そうだ、そうでなくっちゃ面白くねぇよ……‼」

「あいつがどんなに大きな力を持っていようと関係ねぇ‼ 俺達は必ずお前らを止める‼ 八番隊、突撃だ‼」

「「「「「オウ‼」」」」」」


 修一は八番達の隊員達と共に祐たちに突進していった。


「来い‼ 返り討ちにしてやるよ‼」


 修一の気迫に応えるように、祐も持っている肉厚の柳葉刀に鋼の闘気を流し込んで硬質化させて振いながら突撃した。


「オラァァァア‼」(疾風迅雷‼)


 修一は雷と風の闘気を纏わせたカットラスでの鋭い斬撃を持ってして祐の柳葉刀と激突した。修一の連続攻撃の苛烈さは先程までとは比較にならず、更にパワーも上昇した為に、祐も先程以上に腕に力を入れて迎え撃った。これは単に怒りだけではなく、早く巨大な光の出所に向かって状況を確かめたいという気持ちもあったからだ。


「これだ! これを待っていたんだよ‼ この力、この機動力、この身のこなし‼ 真の殺し合いってのはこうでなくっちゃな‼」

「一々うるせぇんだよ‼」


 祐の嬉々とした態度に腹を立てた修一は、斬撃に込める力と機動力を上げて連続攻撃を行った。それに応えるように祐も柳葉刀を持つ腕に込める力と闘気の量を高めて互角の展開に持っていき、やがて状況が膠着して決着が付きにくいと判断した両者はその場から同時に二十歩程下がって間合いを取った。


「こりゃそう簡単には終わりそうにねぇな。だが丁度いい!」

「ちんたら時間を掛けてる暇はねぇんだよ! ここでさっさとおまえを倒してあの光が出た場所に向かうんだよ‼」


 修一はそう言いながら再び祐に突撃していった。


「諦めんだな。俺達は負けねぇ。あいつが死なねぇ限りな」

「……テメェ、さっき言ってたよな。力ある者だけが生きる世界、それがこれからの日本のあるべき姿だってよ」

「あん? いまさらそんなことの確認をしてテメェに何の得があんだよ?」


 突然の修一の質問にやや不意打ちを食らった祐は、その真意を修一に尋ねた。


「じゃあテメェらはどうなんだよ。テメェ等が勝手に決めた力のねぇ奴じゃねぇのかよ」

「俺達にはそれぞれにあった力がある。俺や総一の様な奴等には純粋な武力だ。それに俺達が居る組織には金や情報の扱いに長けた奴もいる。あいつの言う力や強さってのは、自分の信じる強さって言うのを源にして自分にあったことが出来る奴の力って言うんだよ」

「テメェはその力でどうしたいんだよ?」

「……俺達や、俺の部下のように、この社会で生き場のねぇ奴等の受け皿になる。そしてあいつの創る時代に相応しい力を持った奴らにする。どんなに厳しい世の中でも生きられる力をな」

「……それがテメェの力の源になってるって言う強さか……」

「そうだ。んで、それがどうしたってんだ?」

「なぁに、余計に俺にとって負けられなくなったって思っただけだ‼」


 そう言いながら修一は両手に持ったカットラスに更に多量の闘気を纏わせて一気に祐との間合いを詰め、それに一瞬驚いた祐に対して強烈な猛攻撃を繰り出し始めた。


「負けられねぇってのは、一体どういうことなんだ⁉」

「それって結局沖田総一の言う力のある者だけしか生きられねぇ世界の部品を生み出すだけじゃねぇかよ‼ お前らがやらなくてもな、大きな力がなくても逞しく生きて、自分達の強さを信じて生きてる奴等は今も大勢いるんだよ‼ それをお前らが力しかねぇ世界に変えちまったら、不器用にでも、懸命にでも今を生きて、明日を生きようって言う奴らの気持ちを踏みにじって、大勢の人間の命を奪うことになるじゃねぇか‼」

「それこそ俺達が作る世界だってんだよ‼ 俺達はここに辿り着くまでにどんなこともしてきた。どんなことがあってもこの日までやって来た‼ この程度のことすら出来ねぇ弱い連中が、どうして今を生きられるってんだよ‼」

「お前らの基準だけで人の強い弱いを決めんな‼ お前らが世界の中心って訳じゃねぇだろ‼」

「これからなるんだよ‼ 沖田総一って言う強大な力を持った奴がよぉ‼」


 そう言いながら祐は修一の連続攻撃の最後を弾き、鋼の闘気を流し込んて硬質化させた柳葉刀を大きく振り上げて止めを刺しにかかった。


「絶対にそんなことさせねぇよ‼ MASTERの所為で世の中を乱されたのに、お前らにまでやられてたまるかよぉ‼」


 すると修一の全身からおびただしい量の風と雷の闘気を放出し、祐の体勢すら崩すほどの暴風を発生させた。


「ぐっ‼ 何だこれ‼」

「……俺は、俺達は絶対に負けねぇ‼ 絶対になぁ‼」


 そう叫びながら修一は右手に持ったカットラスに多量の風の闘気を纏わせて祐の肉厚の柳葉刀に打ち込んだ。

 祐は突然重く強烈になった修一の攻撃に驚いた。先程までとはまるで別人とも言える力だったからだ。


「こんのぉぉぉおお‼」


 驚愕が焦燥に変わった祐の精神的な隙を見逃さずに、修一は左手に持った雷の闘気を多量に纏わせたカットラスを振り下ろして祐の柳葉刀を真っ二つに砕いた。


「何‼」

「これでぇ‼」


 予想以上の修一のパワーと、得物を失ったことへの動揺によって傍から見ても分かるほどに隙を晒した祐に、修一はすかさずその場から飛び上がって頭上を取り、全身から放出していた全ての風と雷の闘気を両手のカットラスに纏わせ、落下の勢いを利用してそのまま祐に襲い掛かった。


「終わりだぁぁぁぁあ‼」(驚天動地‼)

「させるかぁぁぁぁあ‼」


 修一の奥義「驚天動地」に対して祐は最後の意地を見せんと両腕に全ての鋼の闘気を流し込んで激突した。その激突によって祐の足元の半径九メートルにクレーターを作った。


「ぐふっ‼」


 すると修一はあまりに多くの闘気を一度に放出したことによって心臓に負担が掛かり、吐血してしまった。


「死ぬ気の奴に、俺を殺ることは出来ねぇよ‼」

「死ぬ気はねぇよ‼ 俺は絶対に生きるんだ‼ 未菜と一緒に生きる為に‼」


 その修一の叫びに応えるように、両手のカットラスに纏わせた闘気の出力は更に上昇し、祐の両腕を砕き、その勢いのまま祐の身体を木端微塵にした。


「た、祐が……」

「っちくしょう‼」


 それを見た祐の部下達は手に持っていた包丁や金槌を投げ捨て、自分達の敗北に打ちひしがれた様子を見せた。それを好機と見た八番隊の一部が更に彼らへの攻撃の手を強め、祐の部隊を撤退に追い込んだ。


「はぁ、はぁ……」


 修一は祐の返り血と肉片をその身に浴びながら祐の亡骸があった場所から15歩ほど歩いた。


「ぐっ、ぐふっ‼」


 その瞬間、修一は闘気を無理に引き出したことによる心臓の激痛に襲われながら吐血し、その場に蹲った。


「兄貴!」

「兄貴、大丈夫っスか⁉」


 それを見た八番隊の隊員達は一斉に彼の下へ駆けつけた。


「……少し、無茶しちまった。これじゃあ東京セントラルドームへはいけねぇな」

「それ以上喋んないでください‼ 直ぐに医療部を呼びます‼」

「今ならもう人を呼んでも大丈夫ですから、安静にしててください‼」

「そうだな。そうさせてもらうよ……」


 そう言って修一はよろめきながらもその場に横になり、しばらく眠ることにした

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