第12話 新選組の弓神
「空で派手に部隊を暴れさせて正解だったな。おかげで地上への警戒が空と比べて疎かになって、進撃しやすいったらありゃしないぜ」
つぶやきながら八十四人の部下と共に大通りをバイクで疾走する幹敏。その背には獲物である二振りの斧が、その刃を不気味に輝かせていた。
『幹敏。そっちの方はどうだ?』
すると幹敏のヘルメットに仕込まれた無線から、情報課の潟辺和馬の声が入ってきた。
「俺のところは問題なく進撃できてるぜ、和馬。他のところはどうなってんのか、報告は入ってんのか?」
『祐も桐弥も、問題なく突入に成功したと報告が入ってる』
「となると、そろそろヘリ部隊を後退させるべきじゃねぇのか?」
『ああ。後十分でヘリ部隊を後退させるさ。後はそれまでに総一がうまくいけばいいんだがな……』
「……やっぱり不満なんだな」
『当たり前だ。戦略的には全く意味がないってのに……』
「まあ、それがいかにも総一らしいがな」
『道真もそう言うが、そう思う反面、こういうことがこれからも続くと考え物でもあるって思うな』
「確かにな、だがだからこそあいつが燃えるんじゃねぇのか? それに少なくとも今回の戦いであいつの充足感が満たされれば、しばらくの間はそこにまで考えをめぐらす必要はないと思うんだが……」
『……出来ることなら、そうであって欲しいな。その為にもせいぜい、警察や新戦組モドキやMASTERには善戦して欲しいぜ。これ以上あいつの市場に振り回されると後が持ちそうにないからな。あの限界知らずのバーサーカーにはな』
「バーサーカーね。確かにあいつにはそんな部分があるが、単なるバーサーカーでもない部分もある。今回の戦いだって、その為の要素を含めても成功率は高いって道真も言ってたしな。それに何より俺達もいる。心配は無用じゃねぇか?」
『……そうだな。悪い。余計なことを言ったな』
そう言って和馬は幹敏に謝罪した。
「まあ、俺達も全力を尽くす。総一の力を存分に発揮できるためのステージを作る為にな」
『分かった。引き続き、中央省庁への進撃を続けてくれ』
そう言って和馬は無線を切った。
「さて、このままだと後三十分ちょいで中央部に入るが……随分と手薄なもんだ。外の警戒に力を入れ過ぎて、肝心の中央部に繋がる道が手薄とはな。それとも中央部を守る為に敢えて他の防備を手薄にしたか……」
その時だった。幹敏の額目掛けて一筋の光が駆け抜けた。
「来たか。だが……」
それを寸での所でかわした幹敏。その光は背後の部下を射抜いたが、続けて無数の鋭い光が幹敏達に襲い掛かった。
「やっぱり中央を守る為だったか」
幹敏の前に立ちはだかるは、新戦組二番隊組長にして、弓神の異名を持つ椎名真だった。
「狙いといい威力といい。かなりの手練れみてぇだな。だが俺に付いてこれるかな……?」
真が放った矢を巧みなハンドル捌きでかわし、自身の真正面で弓を構える新戦組隊員を率いる真の姿を捉え、彼目掛けて軌道を変える。
「こりゃ手ごわそうだな……だが!」
幹敏はそのまま背負っていた斧を一振り取り出しながらバイクのスピードを更に上げた。
「このスピードを止めらるかな!」
そう言って幹敏は斧を思いっきり振り上げながら青年に向かっていった。
「……さっきと違って直線的……これなら狙いは定め易い……‼」
そのまま真は番えた矢に光の闘気を纏わせながら放つ。
「狙いも早さもあるが、この程度……」
その瞬間、幹敏のバイクのタイヤが爆発音と共にパンクした。
「っと、危ねぇ。やっぱりここを狙ってきたか……」
幹敏の予想通り、真はバイクのタイヤを射抜い走行不可能にして機動力を奪った。
幹敏はバイクから飛び降りつつもう片方の斧を取り出し、周囲を見渡して抜け道を探した。
しかし既に別の新戦組隊員に包囲されていた。
「やるしかねぇか……」
そのまま真と対峙する幹敏。
「へぇ~。ぱっと見弱そうだが、さっきの弓術を見ると、むしろ逆か……」
「称賛は結構だけど、そんな時間はないでしょ?」
真はそう言いつつ弓に矢を番え、風の闘気を螺旋状に纏わせ始めた。
「広範囲に影響が出る光の闘気から、比較的ピンポイントでターゲットを狙える風の闘気に切り替えたか……」
真の次の動きを冷静に観察した幹敏は、両手に持った斧に炎の闘気を流しこんで突撃する。
「動きながら狙い撃ちを避けるつもりだね。皆、一斉射っ‼」
呼応して真は隊員達と共に風を纏わせた矢を放った。
矢はそれぞれ無数の風の矢を生み出し、向かってくる幹敏と部下達に次々と襲い掛かる。
「そっちの言う通りにしてやるよっ‼」
幹敏も両手の炎の斧をそれぞれ手元で風車のように回転させ、それで降りかかる風の矢の雨を次々に焼き尽くして迫った。
「だったら、こうするまでだよ」
幹敏の動きの軌道の一つ一つを正確に見切り、彼が移動する場所に風の矢を放つ真。
「厄介だなっ‼」
幹敏の進撃速度こそ疎かにならなかったものの、降り注ぐ風の矢の雨の一つ一つを叩き落すことに手間取ってしまった。
「ここまでとはな……」
幹敏は、手元の斧に纏わせる炎の闘気の出力を上げることで対処した。
これは同時に、幹敏の闘争心が更に燃え上がったことを自覚させた。
「総一なら、喜び狂ってたかもしれねぇな、こりゃ」
力ある者がその力を発揮できる社会を創らんとする総一に共感した彼にとって、椎名真と言う男は総一の武者震いを誘うだろうと思わせるのに十分だった。
「ならば……‼」
無表情の真がそう言った瞬間、矢に纏わせていた風の闘気が黄緑色に変色しながら凄まじい風を発生させた。
「ちっ、破界まで使えんのか……」
舌打ちしつつ、両手の斧におびただしい量の炎の闘気を纏わす幹敏。
真はその場から駆け出し、彼の五メートル手前まで来たところで飛び上がって頭上を取った。
「これ以上時間を掛けられないね……」(貫鉄閃‼)
放たれた破界の力を込めた貫鉄閃。
だがそれは、放たれる瞬間に寸での所で幹敏はかわした。
路上に着弾した破界の貫鉄閃は爆風を発生させながら半径五メートルに及ぶクレーターを一瞬にして生み出してしまった。
「こいつ、マジでヤベェ奴だな……だがここでつぶれる訳にはいかねぇな」
警戒心を改めて覚えた幹敏は、即座に立ち上がりながら身体を大きく回転させ、両手の斧に纏わせた炎の闘気を刃状に二つ放った。
「無駄だ……」(貫鉄閃・連‼)
朱雀に番えた矢におびただしい量の破界の風の闘気を纏わせて放つ真。
矢から解放された闘気は無数の風の矢となって炎の刃を粉砕し、余った風の矢は炎の刃を粉砕した時に生じた煙を貫き、真っすぐに向かって行った。
「今だ! 二番隊各員も立て続けに闘気の矢を放て‼」
真の指示受けた二番隊の隊員百名は一斉に闘気を纏わせた矢を放ち、更に巨大な爆発を発生させた。
「……やったんですかね?」
「いや、まだみたいだね……」
隊員の声掛けにそう答えた真の言う通り、爆風が晴れた向こう側で幹敏はマシンガンやロケットランチャーを持った部下達と共に現れた。
「お前ら……いいタイミングで援護したな……」
「ですが兄貴、斧が……」
そう言われた幹敏は左手の斧を見たが、それは既に柄の根元から消滅してしまっていた。
「斧一本で助かったぜ。これが少しでも弾道がずれていたら腕の方だった。そしたらもっとヤバいことになってたからな。まあ隊長格はそう簡単にも行かなそうだがな」
左手に持つ刃をなくした柄を投げ捨て、冷静に真達二番隊の戦力、戦闘スタイルの分析を行う幹敏。
ここへ来て、改めて真の脅威を感じ取った。そこで幹敏は部下達に指示を出した。
「あいつらの遠距離攻撃はお前らに任せる。俺の突撃を援護しろよ」
「「「「「オウ‼」」」」」
幹敏の号令の下、部下達は持っていた重火器に闘気を流し込み始めた。
「全員、敵の遠距離攻撃に対して火力を集中。僕が接近する敵の頭を討つ」
「「「「「了解‼」」」」」
それに対抗すべく真も、部下達にそう命令しながら朱雀に黄緑色の風の闘気を纏わせて幹敏達目掛けて無数の闘気の矢を放った。
「ぐあっ‼」
「ああっ‼」
「うああっ‼」
二番隊が放った無数の闘気の矢の雨を受けて次々と言抜かれて息絶えていく部下達。
それをよそに、幹敏は猛スピードで真に突っ込んでいき、彼の手前3メートルまで接近することが出来た。
幹敏の身のこなしを認めながらも、真は両足に黄緑色の風の闘気を纏わせて飛び蹴りを繰り出した。
「ヤベッ‼」
それに気付いた幹敏は咄嗟に飛び上がってかわしつつ、右手の斧に鋼の闘気を流し込んで身体を半回転させ、そのまま真に斬り掛かる。
鋼の闘気の性質によって急激に重量が増した為、振り下ろす速度が急激に上昇した。
「あの攻撃は助六で慣れているよ」
仲間の戦術を思い出しつつ、真は冷静に攻撃の軌道を読んでかわし、幹敏の斧はそのまま道路に突き刺さった。
「かわしても、これなら……‼」
幹敏はそう思いながら斧に流し込んでいる闘気の属性を風に切り替え、纏わせた直後に発生させた爆発で離脱した。そして両者は再び間合いを取って睨み合いに入った。
「闘気を切り替えるスピードといい、咄嗟の判断力といい、相当の手練れなのはよく分かった。さて、相手の戦い方はおおよそ掴んだけど……」
真は立ち込める土煙の向こう側にいる幹敏の戦い方をこれまでの状況から整理し始めていた。
一方で幹敏は真の隙のない戦い方に驚かされていた。そしてこの戦いがそう簡単には終わらないという確信をせざるを得なかった。
「テメェ……俺の攻撃をここまでかわすなんて……」
「戦い方はこの戦闘の中である程度把握できた。後はその情報を元にして君の最も嫌がる戦い方をしたまでだよ」
「んで、俺の戦い方の全てを分析したって訳か……」
膝に手を当てて呼吸を整えながら幹敏はつぶやいた。
「これだけ長時間戦い、尚且つそんなに疲れた様子を見れば、他に斬り部打があっても出す余裕があるとは考えにくいからね。全てとは言わなくても、大半は見切ったつもりだよ」
「そうかい。こりゃ予想以上だな……」
そんな幹敏の心情を表現するように、彼の表情には余裕がなくなり始めていた。
「てめぇの力、予想以上だな」
「お褒めに預かり光栄の至りだけど、最早そんな評価を聞く時間もない。そろそろ決めさせてもらうよ」
そう言いながら真は全身から放出する破界の風の闘気を背負っていた矢立から矢を一本取り出し、そのまま黄緑色に輝く闘気を矢に纏わせて朱雀に番えた。
「最後の一撃は僕の全力で行く……二番隊は援護の為に奴目掛けて乱れ撃って」
「「「「「了解‼」」」」」
真の指示を受けた二番隊組員達はそう言って矢を弓に番えた。
「そうかい……そうくるかよ」
真の毅然とした態度から放たれた言葉を聞いてやや引け越しになった幹敏だったが、息切れしていた身体に鞭打って斧に鋼の闘気を流し込み、放たれた矢を叩き斬る態勢に入って真目掛けて全速力で走り始めた。
「真正面から叩き潰す気だね。だったら受け止めてごらん」(貫界一閃‼)
幹敏の行動の真意を悟った真はそう思いながら矢に多量に纏わせた破界の風と光の闘気を螺旋状に回転させて狙いを定めた。
「叩き潰す‼」
幹敏に狙いを完全に定め、朱雀に番えていた矢を放つ真。
幹敏もまた、最後の一撃に全霊を込めて駆け抜けた。
そして破界の闘気を纏った矢と、幹敏の鋼の闘気を流し込んだ斧が激突した。
「こいつは、重ぇ……けどっ‼」
必死の形相で受け止めた幹敏は、何とそのまま螺旋状の矢を両断してしまった。
両断された螺旋の矢は、背後の敵を飲み込んで一網打尽にした後、静かに消えてしまった。
「組長の必殺技を破るなんて……⁉」
「大丈夫だよ」
戸惑う隊員達と対照的に、真は冷静だった。
「ごれでぇ‼」
螺旋の矢を破り、高まった士気そのままに、真目掛けて走り抜ける幹敏。しかし、その直後だった……。
「ぐはっ⁉」
なんと幹敏の眉間に、一本の矢が突き刺さったのだ。
音もなく、闘気も纏わせていない普通の矢。
眉間に受け、脳にまで到達したことで、幹敏の命脈はあっさりと消されてしまったのだ。
「ま、まさか、笠松様が負けた……?」
笠松幹敏は息絶えた。それを確認した周囲の幹敏の部下達は戦意喪失し、口々に「幹敏がやられるなんて」とつぶやきながら力なく武器を落として降伏してしまった。
「組長。まさか、先程の貫界一閃は……?」
「囮だよ」
真のその一言で、大技を囮にするというギャンブルを成功させた彼の手腕に、二番隊の隊員達は感嘆の声を漏らした。
「でも予想以上に時間を使ってしまった。とにかく、彼らは全員捕縛して頂戴。ところで、皆は疲れてないかい?」
「我々は問題ありません」
「そう。じゃあ取り敢えず、彼らの拘束と警察特殊部隊への連絡を行ってくれ」
「「「「「了解!」」」」」」
そう言って真は二番隊の隊員達と共に生き残った幹敏の部下達の拘束に入るのだった。
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