第11話 動き出す赤き狼達

「やはり仕掛けてきましたか!」

「御影様、こちらです」


 午前三時五分。分室や都内の各支部と情報を共有していたサイバー戦略室の財部から東京が空爆されたとの報告を受けた御影は、急ぎサイバー戦略室へ赴いて状況の確認を行いに来た。


「財部さん。現在の状況の再確認をお願いします」

「各支部から送られてきた情報によると、中央区、港区、千代田区の三か所で合計六機のヘリコプターが空爆を開始、十分前に到着した警察のヘリと空中戦を展開しています」

「警察のヘリコプターは戦いながら東京湾方面へ移動しているようですが、やはり地上への被害に配慮してとみて間違いないでしょうね。そしておそらくそこに乗ってるのは新選組モドキでしょう」

「そうですね……」


 そうつぶやく財部をよそに、御影はやや考え込み始めた。


「どうなさいますか? 他の七星の方々をヘリコプターで出撃させますか?」

「いや、敵が空中戦を展開してる以上、ここで我々がしゃしゃり出ても、かえって戦況が混乱して地上への被害が出ます。その中で七星を失う訳にもいかないです」

「では、しばらく様子見ですか?」

「ですね、出撃もそれも慎重に行うべきだと思っています」

「と言うことは、出撃も近いという訳ですね?」

「ええ」


 御影は短く答えた。


「しかし、沖田総一の仕業だとすれば、こんな方法で東京に侵攻するなんて……」

「翼は連中がこう言う方法で襲撃する可能性を事前に予期してました」

「何ですって?」


 財部は驚いた様子で尋ねた。


「警視庁襲撃事件が終息した時からです。そもそも奴はあの時も撤退の為にヘリコプターを使ってたので、上空から空爆する可能性は考えていたようです。地上に検問を敷いたとしても、それは結局地上の話。上空から侵略されれば無防備です。今の警察組織や防衛省の堕落ぶりを考えれば……」

「そこまで考えていらしたとは……」


 財部は、御影を仲介しての翼の先見の明に驚きと同時に畏敬の念を表した。


「そうなれば闘気を使える者であれば沖田総一でなくとも誰にでもできることです。恐らく今出てるヘリコプターが連中の全勢力とは限らないでしょうし、奴本人が乗ってるという確証もありません」

「すると、敵の第二陣が到来するかもしれないと……?」

「否定できないでしょうね。七星を出撃させるにしても、連中の手の内がある程度把握出来てからがベターですが……」

「それまであの方々が我慢できるかどうかですね……」


 御影と財部は共通の懸念を吐露した。翼への絶対的な忠誠を誓っている赤狼七星となれば、翼をあのような目に合わせた沖田総一へのリベンジを誰に命じられなくとも実行する可能性は高い。それによって組織の足並みが揃わなくなった時のことを想像して不安があったのだ。


「あいつらにも、そろそろ出撃指示を出します。地上から分かることもない訳ではないですし、隠密行動にも優れるあいつらなら、下手に見つかるようなことは有り得ないですからね」

「分かりました。私達も引き続き、情報収集を続けます」


 御影は懸念を抱きつつもNo2としての責務を果たす為にと自分に鞭を打って財部にそう言い、財部もそんな御影の覚悟を感じ取ってそう言った。


⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶



「奴が東京に攻め込んできたかもしれねぇってのに、俺達が出られねぇってのはなぁ……」

「慶介の言う通りだよ~」


 午前三時十七分。訓練場で得物を構えて燻っている慶介に、将也は珍しく同調した。翼を痛めつけた相手が東京に襲撃を掛けてきたという現状が、将也にそう思わせているからだ。


「あたしも同じ気持ちだが、この状況で打って出ても目立つだけだし、何より上空と言う圧倒的に有利なシチュエーションが相手にある。そう考えれば御影があたし達にストップを掛けるのも無理ないもの事実だ」

「同感だな。今は堪えるべきだ」


 燻っている慶介達にそう慎重論を述べたのは八坂と尊だった。無論内心では彼らと同意見だったが、現状を鑑みて自分達がしゃしゃり出たところで戦場を混乱させるだけというのも理解していた。


「でもっ‼ いつになったら戦いになるのかも分からないんでしょ⁉ あたしもいつまでも耐えられる自信ないよ~」

「落ち着けアザミ。感情は皆同じだが、今は御影のGOサインを待つしかない」

「でも瀬理名~!」

「御影だって理由もなく待機命令を出してる訳じゃないのは分かるでしょ? その時を見定めてくれる。その時を待つんだ」

「瀬理名……分かったよぉ~……」


 焦りながらごねるアザミだったが、瀬理名に抑えられてある程度落ち着きを取り戻した。


「それにしても、随分と派手になってるみてぇだな、連中はよ」

「ああ。容赦のない上空からの砲撃による破壊活動で、警視庁も新選組モドキもてんてこ舞いの状態だって報告をもあった。恐らく手こずってるのは間違いねぇな」


 慶介の発言にそう答えたのは尊だった。彼はここに到着する前に状況確認の為に情報戦略分室に立ち寄り。ある程度の情報を仕入れいていたのだ。


「それに今あたし達が出たら、それこそ警察や新選組モドキの感心はあたし達にも向く可能性だってある。この機に乗じて一気に東京を落とそうって魂胆があるんじゃないか勘ぐりながらだと、隠密行動も取りにくいだろうし……」


 そう八坂が言っていると、尊の無線に通信が入って来た。相手は御影だった。


「御影、何かあったのか?」

『待たせて悪かった。お前らにも出撃してもらう』

「マジか⁉」


 いつも飄々としている尊の珍しく驚きを隠せない声を聞いた七星の他のメンバーは一斉に彼の下へ駆けつけた。


「どうしたの?」


 いの一番に尊に声を掛けたのはアザミだった。


「出撃命令だ……」


 それを聞いたアザミを始めとする七星の面々の表情に笑顔と覇気が浮かび始めた。そして直接連絡を受けた尊はそれを隠せない様子で御影に更に尋ね始めた。


「ついに俺達があいつをぶっ倒せるって訳か?」

『可能性はある。出撃してしばらくは中央区の爆撃地点付近で潜み、連中の本隊が乗り込んだのを確認出来た時にタイムラグを置くことなくぶつかってもらう。既に連中のヘリコプターは東京湾付近に誘き出されてるから、あの辺り一帯は安全だろう。お前達はそれまでその付近の情報支部に潜んでいてくれ。地上に敵が出てきたらそちらの判断で出撃しろ。沖田総一の動きは、俺達の方で追って伝える』

「分かった」


 そう言って尊は御影との通話を切った。


「それで、どこで戦うことになるんだ⁉」


 先程まで戦えないことに対して最もイラついていた慶介は嬉々としながら尊に尋ねた。


「中央区に点在している支部に潜伏し、状況を把握次第、俺達の判断で戦闘に入れってさ」

「俺らの判断ってことは、敵が来たら好き勝手戦っていいってことだよな⁉」

「まあ、乱暴な言い方をすればそう言うことになるな」

「っしゃあ‼ やっとあいつに借りを返せるぜ‼」


 慶介は今まで以上に狂喜しながらそう叫んだ。


「慶介ったら嬉しそう。でも僕も嬉しいよ」


 そんな慶介を穏やかに微笑みながら将也はそう言った。


「はしゃいじゃって……でも、こちらの判断で戦っていいってのは意外だったわ」


 そう言って意外そうな表情をしたのは瀬理名だった。


「まあ、あたし達があいつへのリベンジに燃えてることを知ってるから、ここで貯め込み過ぎて爆発しないように配慮したのでしょうね」


 そう言って冷静に御影の心理を分析したのは八坂だった、付き合いの長さから彼の性格を熟知していた為、彼の配慮の理由を察することが出来たのだ。


「なんにしてもグッジョブよ御影‼ これで思う存分戦えるわ‼」

「そうだな。そうと決まったら俺達もこうしちゃいられねぇな。連中へのリベンジを果たそうぜ!」

「「「「「勿論だ‼」」」」」


 尊の号令を聞いた五人は異口同音にそう言ってやる気を滾らせながら訓練場を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る