第9話 白き鬼、東京に降臨せり……‼

午前二時三十五分、出撃準備を終えた各組の組長達は、隊員達を先にバスに向かったのを確認した後、急いで駐車場に向かっていた。


「全く、ヘリコプターからの空爆なんて、一体何なんだよ⁉」

「被害は拡大し続けている。我々も急がねば‼」


 得物の大剣を急いで背負いながら言った佐助に、助六も普段の冷静さを失った様子で慌てながら答えた。


「やっぱり、沖田総一がやったのかな?」

「かもしれないわね……」


 夏美の疑問に冬美はそう答えた。


「しかし、警察のヘリを使っての迎撃とは、薫の対応も早いわね」

「だけどここからはうまくいく保証はないって言ってたし、後は私達の行動に掛かってるのは間違いないわね」


 組長達の中でもある程度冷静さを保っていた鋭子と紀子はそう話し合っていたが、不安そのものが皆無という訳では無い為に、内心では他の組長達と同様に不安を抱いていた。


「難しいことは抜きにしても、あいつらがめちゃくちゃだってのは分かる‼」

「あたしも同感だ‼ 今やるべきは奴らを倒す、それだけだわ‼」


 そんな組長達の中でも、最も本質的に自分達のやるべきことを認識していた修一と勝枝は、このような行為をする敵への怒りに燃えていた。


「その通りだよ。修一、勝枝」


 そう言って彼らに合流したのは、得物の弓を右手に構え、無数の矢を入れた筒を背負った真だった。


「真さん……」


 そんな彼の言葉を聞いて静かにつぶやいてやる気を見せたのは冬美だった。


「同感だな!」


 そう言いながら組長達と合流したのは、陽炎を引き連れたリーダーの翔だった。


「こんな無茶苦茶をするような連中を許しておけないわ‼」

「私の太刀筋で、全力を持って相手をするわ」

「俺もです‼」


 翔に続いて麗美、哀那、清輝もそう言って沖田総一一派への怒りを見せた。


「新戦組の隊員として、東京壊滅は絶対に阻止だ。気を引き締めるように!」

「「「「「了解‼」」」」」」


 彼らの言葉を聞いた真の言葉に、組長達と陽炎はそう言って同意した。



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 午前二時四十五分。警察庁警備局長の上原権蔵は、警備局長室で部下からの報告を受けていた。


「被害状況は完全に把握できずか……」

「太師討ちと新戦組にヘリで迎撃に当たらせてますが、それも危険が伴います」

「うむ……」

「ですが、まさかヘリコプターで空爆なんて……」


 報告をした職員は、沖田総一一派のやり方に対して驚きを隠せなかった。


「地上にいくら検問を敷いたところで、上空から攻め込まれては意味をなさない。考えてみれば東京制圧の近道だが、それを実行できる財力や人材を確保していたとは、私にも予想できなかった。新戦組が提出した例の対策書を見た時も驚いたものだ」

「ですが、警備局著はそれを受理なさった……」

「何をするか分からない敵を相手には、打てる手段は打たねばな。せめて早期解決をしてくれることを、祈るだけだ」


権蔵は警備局長室の窓の外に広がる景色を眺めながらそうつぶやいた。


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「二番! 三番! 四番! 五番! 現場に到着したな⁉」

『二番、千代田区に到着しました!』

『三番、中央区内の敵を捕捉しました!』

『四番、港区の敵を発見!』

『五番も、港区上空で敵を捕捉しました!』


 午前二時五十五分。警視庁ヘリポートで出撃準備をしていた太師討ちでヘリコプター操縦の出来る隊員で構成された部隊は、新戦組から派遣された隊員達と共に中央区・港区・千代田区の被害地域に到着していた。一番機も中央区上空で空爆を行っている敵のヘリコプターを、三百メートル手前で捕捉していた。


「これからどうするんだ? 新戦組」

「まずは私がここから賊のヘリコプターに闘気を込めた矢を放ちます。それで敵をおびき寄せて東京湾までひきつけます」


 新戦組の隊員は隣に座っているSITの隊員にヘリコプターのドアを開けさせ、自身は矢に光の闘気を纏わせながら番えた。すると向こう側で警視庁のヘリコプターに気付いた賊のヘリコプターが猛スピードで迫ってきた。


「新戦組‼」


 指示を受け、隊員は光の闘気を纏わせた矢を、賊のヘリコプター目掛けて放った。矢はヘリを掠め、そのまま賊のヘリはこちら目掛けて猛スピードで迫ってきた。


「よし。後は私が応戦しながら東京湾まで誘導してください!」

「分かった。絶対に俺達を死なせんじゃねぇぞ‼」


 SIT隊員は機体を東京湾に向けて発信し、それに釣られた賊のヘリコプターも移動し始めた。すると賊のヘリコプターの中から人影が現れ、手にしたロケットランチャーに光の闘気を纏わせて発射した。


「おい‼」

「分かっています‼」


 隊員はそう言いながら素早く光の矢を放って相殺した。その爆風はすさまじく、双方のヘリコプターの重心場卵子を一時的に崩してしまった。


「ったく‼ 連中は地上に墜落するリスクを考えてねぇのかよ⁉」

「全くですね!」


 新戦組隊員はそれでもなお直進してくる賊のヘリにそんな恐怖に似た感情を抱き始めていたのだった。


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「状況はどうなっているのかな?」

「現在、一番機、三番機、四番機が東京湾への敵機陽動に成功、東京湾上空に到着次第撃墜に入るとのことです」


 午前三時二十分。権蔵は警備局長室で警備局の若い男性職員から新戦組と太師討ちの上空での活動の報告を受けていた。


「新戦組からの例の対策案がなければ、我々は後手に回っていたな」

「このような戦法に出るなんて……」


 報告をした若い職員は冷や汗をかきながらそう言った。


「相応の財力と武力を持った輩は、手段が多い故に何をしてくるか予想すら難しい」

「仰る通りですが、ここ半年のMASTERとの戦いの中である程度持ち直しかけていると思いますが……」

「それでもまだ、現場と中央の連携がうまくいっていないのも事実だ。だが今は目の前の敵から東京を守ることに専念するのみだ」

「はぁ……」

「大変です‼ 警備局長‼」


 すると四十代程の別の男性警備局職員が、権蔵と職員の会話を断ち切りながら慌てて警備局長室へ入ってきた。


「どうしたんだね?」

「練馬区上空から別の複数のヘリコプターが、北東京地区の検問を爆撃しながらこちらに向かって侵攻してきました‼」

「何?」


 それを聞いた権蔵は驚きを見せた。


「数は?」

「現状では、五機確認できたとのことです」

「合計で十機か……‼」


 先程まで権蔵と話していた若い男性職員は手元の資料を地面にパラパラと落としながら力なくそうつぶやいた。


「やはり侮りがたし……」

「どうなさいますか?」


 ショックから立ち直れない若い男性職員は力のない声で尋ねた。


「新戦組に伝えろ。太師討ちが現在までに入手した情報を共有すれば、より具体的な対策を講じれるからな」

「直ちに」


 そう言って若い男性職員は警備局長室を後にした。


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「第二陣の進撃も、成功しましたね」

「最初の五機が東京湾に警察を誘い込み、畳みかけるように後半の五機で更なる被害を齎してより確実に進撃しやすくしたとはね」

「念には念を入れて、部隊を二分して時間差攻撃を仕掛けるというボスの案を使った甲斐がありましたね。ボスはこうなる可能性も考えて、例の案を私達に出したのも納得です」

「全く、あいつが敵じゃなくてよかったぜ」


 道真の言葉を聞いて和馬はケタケタ笑いながらそう言った。

時刻は午前三時二十八分。総一達が東京へ侵攻している間、彼らは情報課でヘリコプターから送られてきた情報や映像を確認していた。細かな変化があった場合に臨機応変な情報のやり取りを行い易くする為だ。


「連中も慌てふためきようも見ものだけどな。そろそろあいつらにも出撃許可を出してやってもいいんじゃえのか?」

「ですね。和馬君、無線を開いていただけますか?」

「ああ」


 和馬はそうつぶやきながら無線通信のボタンを押して総一や御三家に連絡を入れた。


「ボス。第二ヘリコプター隊が進撃に成功しました」

『やはり高い金を使った甲斐があった。こうも鮮やかに決まるとは思ってなかったがな』

「あなたの読みが、この作戦を成功させたも同じです」

『だが、こっからも油断すんじゃねぇぞ。まだまだ祭りは始まったばかりなんだからな』


 無線の向こう側で嬉々とした声でそうつぶやいた。


「ですが、連中も詰めが甘すぎますね」

『確かに、後は新選組モドキとMASTERのみだ』

「彼らは警察と違って闘気において練度が高い上に経験も豊富です」

『ああ。MASTERはまあまあに手ごたえがあったが、もう少しやりがいのある奴が出てくると思ってた。あの仮面の奴の力は中々に良かったが、当分はあれに匹敵する力と戦うことが出来ないのは残念だな……』

「お気持ちは尊重いたしますが、これから見つかればよろしいですね」

『あまり期待は出来ねぇが、そう言うことにしといてやるぜ。じゃあ、御三家とその配下の部隊にも進撃の合図を送ってくれ。俺は既に第二陣が開けた風穴から邪魔者を排除して侵入に成功した。ここからはどんちゃん騒ぎになる』

「ええ。ではここからは宜しくお願い致します」

『目的地に着くまで暫く無線は使えなくなるが、心配はいらねぇ。必ず俺は国を奪ってやるよ。ヘリ部隊の第二陣は一時間後には撤退させるよ』

「期待してます」


 そう言って道真は無線を切り、御三家に進撃指示の命令を下した。


「総一が侵入に成功したとなれば、いよいよ本番も近いな」


 和馬は前髪を手で掻き揚げながらそう言った。


「第二陣の侵入によって出来た隙を突き、生き残った警察官を排除しながら進行中です」

「開幕から派手にやったが、あいつも負けず劣らずだな……」

「ええ。ですがそれによって、この盛大なパーティーを更に盛り上げて下さいました」

「これからもっと盛大なパーティーになるぜ。東京都民の阿鼻叫喚って言う音楽が聞こえ始めればな……」


 そう言って和馬は道真と共に現地からの情報整理を再開した。

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