第8話 白き鬼の魔手
「ボス、本隊の出撃準備は完了しました」
「ご苦労だった」
九月十日の午前零時五分。沖田総一一派の地下アジトで東京襲撃の準備を整えた道真は、同じく出撃準備を終えて地下駐車場でバイクに跨ってヘルメットを被っていた総一にその報告を行っていた。
「それにしても、ボスの呑み込みの速さには驚かされます」
「何だ? 急に……」
「いえ。本来戸籍のないあなたには、免許を取ることも出来ないはずです。それを御三家がわずか一週間の非公式訓練期間を設けただけでマスターしてしまったのを思い出しませてね。やはりあなたの力は素晴らしいです」
「世辞はいらねぇよ。それより、例のアレも滞りねぇな?」
「ええ。計画の第一段階は、取り敢えず無事に成功したといってもいいでしょう」
「だが東京に入ってからが本番だ。そしてそれからは祭りになる。最も、祭りで踊り狂うのは、俺に斬られる強者の血肉だがな……」
「相変わらず、ボスらしいですね」
「世辞は言い。御三家の部隊と俺は別に行動することになってたな」
「ええ。彼らの腕なら如何なる強者が相手であろうと壊滅させられますし、無双の豪傑を相手にしても、時間を稼ぐことは問題ないです」
「……だな」
そう言いながら総一は腰に佩いた刀の柄を強く握った。
「お前の作戦通りなら、最低でも二時間で東京には着く。後はそこで派手に暴れて強者をおびき出し、連中を一気に叩く。どうせ誰も俺に敵う相手なんていねぇんだからな……」
「和馬君率いる情報課の尽力が、上手くいけばいいですね」
「必ずいくさ。あいつの力なら尚更な……じゃ、俺はそろそろ出る。御三家の連中も準備は出来てるから、俺に続いて十五分後に出発するように通達してくれ」
「直ちに」
そう言って道真は地か駐車用を立ち去った。
「いよいよ俺達の天下取りが近づいてきたな……」
そう言って総一は戦いの前の高揚感と武者震いに満ち溢れた表情になった。
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「そっちはどうだった?」
「これまでに問題のある車はありませんでした、巡査部長」
午前二時十分。練馬区・光が丘に敷いた検問を担当していた若い男性巡査が、上司の男性巡査部長に缶コーヒーを手渡しながら定時報告をした。
「そうか。しかしまあ……」
「どうなさいました?」
「本当に連中が東京に襲撃を仕掛けるのかね……」
「何故そう思われるのですか?」
若い巡査は巡査部長に尋ねた。
「連中が本気で東京を攻撃するつもりだったら、この間の警視庁の時に一気にやればよかったのに、それをしなかったんだから、もうその可能性はないんじゃないかと思ってね……」
「確かにそうですね……周りもそんなことを言い始めてますし……」
「だからだよ。俺達にこんな仕事を押し付けてぬくぬくしてる上役が憎いったらありゃしない……」
巡査部長はそう愚痴を零しながら缶コーヒーを飲みほした。
「それにしても、今日はやけにヘリコプターが飛んでますね……」
「そうだな。確か他の検問の上空でも飛んでたらしいな」
「火事か事故でもあったんですかね?」
「知らん。現場のことならまだしも、担当でもない管轄のことはそこに任せればいい。俺達は引き続き、現場の仕事に当たるだけだ」
「そうですね……了解しました」
そう言って若い巡査は敬礼した。その直後だった……。
『緊急指令‼ 千代田区、港区、中央区が空爆された‼ 敵は上空のヘリコプター、その合計は現在六機と見られる模様‼』
耳に掛けていた無線から入ってきた混乱した声を聞いた二人は、驚愕の表情になって互いの顔を見合わせた。
「ヘリコプターからの空爆って……?」
「まさか、さっきから入ってきたヘリコプターがそれを?」
「だからと言って、俺達に何が出来るってんだ?」
「分かりません……僕も思考が追い付いていないので……」
現実的には有り得ない事態に陥っているのを受け止めきれない二人は、ただ立ち尽くして顔を合わせるしかできなかった。
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「ヘリコプターによる空爆……」
「それも光の闘気を火器に流し込んだものだということが、付近の支部にいる闘気感知能力を持つ隊員から入ってきたわ。上空から闘気を感知したとの報告も入っていて、被害は今も拡大してるわ」
午前三時二十分、麗華は新戦組本部・局長室に入ってきた薫から、太師討ちや各支部から受けた報告を聞いていた。
「被害状況は確認できたのかしら?」
「三つの区の警察署の、それぞれ四割以上が壊滅、慌てて様子を見に来た民間人にも被害が出てるという報告もあるけど、正確には不明だわ」
「やはり沖田総一一派なのね……」
「現状、MASTERは一派への警戒を強めた影響で下手な動きは出来ないはず。こんな無秩序かつ常軌を逸したやり方が出来るとしたら、やはり彼らしかいないと考えるべきね」
「……警視庁からヘリコプターを用意してもらって、こちらで選抜した隊員達に迎撃に向かわせる準備をしてるけど……」
「墜落したヘリコプターが地上に多大な被害を齎す可能性が大きいのが不安なんでしょ? この対策案を提出した時も同じことを考えてたみたいだけど……」
「……そんなことを言ってる場合ではないわね……」
薫の指摘に麗華はそう言い、即座に薫に指示を出した。
「警視庁に連絡。直ちにヘリコプター隊に出撃して迎撃に当たるように。ただし、出来る限り民間人への被害を出さない為に、敵を東京湾沿いに引き付けるべしと。それと二十三区内の新戦組の全支部にも、これから永田町と霞が関に布陣を敷く旨を伝えて。半年以上前の襲撃の時と同様のことをするにせよしないにせよ、あそこに一旦部隊を敷いて待機し、状況に応じて臨機応変に対応する為には、あの場所に向かうのが一番だわ」
「了解したわ。本部の各隊にも伝えるわ」
そう言って薫は麗華からの指示を警視庁に伝える為に情報管理室へ向かった。
それと入れ違いに真が入ってきた。
「二番隊から十番隊の出撃準備を整えておいて正解だったね。僕らも運搬用のバスはいつでも行けるけど……」
「私も一番隊を率いるわ。陽炎にも出撃命令を出したわ。上空のヘリコプターへの対策は向こうに任せて、私達は地上から侵入してくるであろう敵への迎撃準備に向かいましょう。」
「了解した。ところで、総次君はどうする?」
「……総次君……」
「この件が沖田総一によるものと言う可能性は極めて高い。彼を呼び戻しすのはどうかな?」
「私もそれは考えたけど……」
「この時間じゃ寝てるから、呼んでも来ない可能性があるって言いたいのかい? まあ確かにここから雲取山まで多少距離もあるし、報道されていても就寝中とあれば呼んでも意味がないって言いたいんだね」
「けど、呼んでみるわ。戦いには数が必要ですもの」
「分かったよ。僕も急ぐよ」
そう言いながら真は、腰に刀を佩いた麗華と共に局長室を出た。
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