第6話 目標は東京……‼
「和馬。情報の整理は済んだか?」
九月九日、午後六時三十分。潟辺和馬が務める情報課にいる総一は開口一番で和馬にそう尋ねた。
「昨日の内にな。だが予想通り、警察連中の警戒は日増しに強くなってる。まあお前にとっては願ったり叶ったりなんだろうが……」
尋ねられた和馬はやや面倒くさそうに頭を掻きながら答えた。
「警察の雑魚共はともかく、例のエセ新選組や、この間ぶちのめしたMASTERの連中も出てくるだろう。それらを纏めて叩きのめせば、東京の武装勢力は一掃できる。連中如き、俺達の力だけで十分だからな」
「だが、お前が言っていた仮面の奴がまた出てきたらどうする? あいつは今まで戦った相手の中でもかなりやるって言ってたじゃないか?」
「少なくとも、奴自ら出てくることはしばらくはないだろう。いくら俺の力を見ずの闘気によって緩和したとはいえ、一週間前後で立ち向かう程の回復力を持った人間はそうはいない。今回あいつに関しては勘定に入れなくていいだろう」
「その油断に、足元を掬われなければいいがな……」
和馬は総一の悠長とも取れる態度に釘を刺した。
「どんな相手であっても余裕を崩すことがないだけだ。まあそれだけの奴も到底いないだろうがな……」
「だが東京となると話は違うだろうが……」
「もしそうだったとしたら、そもそも俺一人に警視庁を襲われるなんて醜態を晒すことはなかっただろうな」
「違いねぇな……」
総一の自信に満ちた言葉を聞いた和馬は納得した様子でそう言った。
「部隊編成は既に終わって連中は待機済みだ。この情報を元に道真が戦術の微調整に入る。後はそれに基づいて行動すればいい」
「そっか。しかし、今更こんなことを言うのもなんだが、本当に俺達だけで東京を陥落させることが出来るのか?」
「幾ら警察が優秀でも、エセ新選組やMASTERが強大な力を持っていようと、この間の警視庁襲撃から二週間も経っていないんだ。対策は立てていたとしても、万全の体勢ではないだろう。俺達がこれだけ短期間で作戦を行う理由がそこにあるのは、お前もとっくに知ってるだろ?」
「……分かった。俺もこれ以上不安を口にしねぇようにする。後はお前達を信じればいいんだからな」
「そう言うことだ。お前と孫崎には此処から作戦の士気と情報の整理を頼む。期待してるぜ」
「へっ、心得てるぜ」
自信気にそう言った和馬の言葉を背に受けながら、総一は拠点を後にした。
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「桐弥の奴、相変わらずだな、幹敏」
「ああ。腕が鈍ってなくて安心したぜ」
午後六時四十五分。第二訓練場で帰還した桐弥との稽古をしていた幹敏と祐は頬を伝う汗を拭きながら正面で方天戟を構えている桐弥の堂々たる姿を眺めた。
沖田総一一派の中でも突出した実力を誇り、三人そろえば沖田総一と同等の力を持つと誉れ高い猛将・御三家。その中でも三宅桐弥の実力は、同じく御三家の笠松幹敏・棚橋祐の両者を相手にしても立ち回れるほどで、筆頭と言われるに相応しいものがあった。
この日の訓練でも、その腕は健在なことを、二人は改めて認識した。
「済まないな。決戦前の訓練で疲れさせてしまって」
桐弥は申し訳なさそうに二人に謝罪した。
「気にすんな。この程度の疲れは大したことはない。直ぐに回復する」
「同じ御三家だろ? 俺達がこの程度でくたびれるほど軟じゃねぇのは知ってるだろ?」
「だが……」
幹敏と祐の慰めを聞いた桐弥だったが、その武力と引き換えに身内への慈悲深さも兼ね備えた彼からすれば、簡単に申し訳なさを拭うことは出来なかった。
「相変わらず情に厚いな。まあそれがお前の美点だからいいけど、度が過ぎると敵にもそれが入って戦いにくくなるぜ」
「分かっている、祐。だが案ずるな。覇権を握る戦いの中で総一に迷いと容赦がないように、俺の力にも容赦はない……‼」
桐弥は強い決意を秘めた眼差しで二人にそう語り、訓練場を後にした。
「……相変わらずだな桐弥の奴。流石は総一の最古参の部下だけあって、忠実だな。そう思うだろ祐」
「俺達三人の中でも突出した力を持ってるから、今回の進撃でも総一と並んで切り込み役を担うことになってる。あいつと総一の二人で東京の首都機能をマヒさせることが出来るって言っても言い過ぎじゃねぇな……」
「こうやって言うと、殆どの連中は誇張してるって言うけど、実際に俺達の組織が発足して間もない頃に二人の暴れまくってた姿を目の当たりにした俺達からすれば、それが誇張でも嘘でもないって言う事実は疑いねぇよな……」
そう言いながら二人も桐弥に続いて訓練場を後にするのだった。
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同時刻、孫崎道真は作戦課のデスクで部下からの報告を受けていた。
『道真様。例の準備が完了しあした』
「ご苦労様です。後は作戦開始まで、ゆっくり身体を休ませてください」
そう言って道真はデスクの電話を切り、手元の資料の整理を続けた。すると彼のデスクに部下が近づいて報告した。
「道真様。ボスがお見えになりました」
「お通ししてください」
そう言って道真は総一を作戦課に向かえた。
「道真。例の準備に関してだが……」
「それならば先程完了したと報告がありました」
「そうか。相変わらず迅速にことを処理してくれ助かるぜ」
「いえ。いよいよ作戦開始を迎えるのに、手間取るような真似をする道真ではありません。恐らく他の部署の人間も既に準備万端でしょう」
「和馬達情報課の連中も、既に今日までに集まった情報を整理し終えた。もうその情報がお前の方に回ってるんじゃないのか?」
「ええ。そちらもつい先ほどこちらに送られてきました」
そう言いながら道真は、デスクから情報課から送られてきた資料を提出した。
「それで、作戦の調整の必要は出てきたか?」
「大幅な調整は必要ないですが、やはり東京の警戒は強いですね。この間のあれで警察も矜持を大きく傷つけられた反動もあるでしょう。ですが……」
「何だ?」
「やはり及び腰の警察官が多いみたいですね。この間の襲撃の目的であった『警察の戦意を削ぐ』という目的は、一応果たされたと見ていいでしょう」
「けっ。ビビり共が……‼」
総一は警察に対して軽蔑の感情を露わにした。
「まあ致し方ないと思いますよ。今回やる気を見せているのは恐らく警察の中でも上層部の人間が大半でしょう。安全な場所で部下に命令し、警察官僚としての矜持だけが肥大化した連中に比べれば、現場でその恐怖を味わうことになる彼らの方が現実を理解してると思います」
「それにしても、如何なる犯罪にも毅然とした態度で立ち向かうはずの警察官のレベルがここまで低いとはな……」
「レベルが低い……ですか?」
総一の失望にも似た言葉を聞いた道真は、やや驚いた表情をした。
「何だ?」
「まさかあなたの口から、現代の警察組織の醜態を憂うような言葉が出るとは思わなかったもので……」
「国を奪うにも、そんな程度の連中しかいねぇのが残念なだけだ……」
「そうでしたか……」
総一の言葉を聞いた道真は納得した様子でそう答えた。
「現れますよ。この国を守護する強者は。現にこの間あなたが仰っていた仮面の男は中々に強かったと仰ってたじゃないですか?」
「あいつぐらいだな……」
「あなたの弟君はどうでしょうかね?」
そう言われた総一は一瞬身体をビク突かせた。
「……どうなさったのです?」
「……微妙だな。」
「何故そう思うのですか? あの戦いから二週間近く時間が空いてます。その期間に強大な力を得るために特訓をしてる可能性も高いと思いますよ?」
「特訓か……」
「確か水瀬名誉教授の研究は、人知を超えた天才的頭脳と常人離れした高い身体能力の付与以外に、それらを最大限活かす為の学習能力と適応力もあると仰ってましたよね?」
「……だから?」
「それだけの力があれば、短期間で驚異的な成長を果たしたとしても何ら不思議ではないと思いますよ。あなただってそうでしょ」
「……まあ、水瀬の野郎に叩き込まれただけのことはある……」
「だったら弟君だって、それだけの力を得ている可能性は極めて高いと思いますよ?」
「だが俺に及ばなかった。俺を叩き潰せるだけの力を得ているとは考えにくいな……」
「あたなという人は……」
総一が話し終える手前で道真は微笑みながらそうつぶやいた。
「……何が可笑しいんだ?」
「天の邪気だなと思っただけですよ。本当は彼が自分に匹敵する力を持って立ちはだかって欲しいと思っていらっしゃるだろうに……」
「……何故そう思うんだ?」
「先日、MASTERの手先がここを襲撃した時、彼らが弟君とやり合ったと聞いたらしいですね。後になってそのことを祐君達につぶやいたとか……」
「チッ、余計なことを言いやがって……‼」
総一はあまり知られたくないことをしゃべられたと思い、やや不機嫌な態度になった。
「ですが、エセ新選組に所属してるだけあって、弟君もなかなか有名人らしいですね。彼らに名が知れているんですから……」
「あいつがなぜエセ新選組に入ったのかは分からねぇが、その中で曲がりなりにも武勲を立てたのは事実だ。それなりの力は備えているのは俺も分かっている。相応の強さを持っているのもな……」
「でしたら、何が微妙なんですか?」
「……俺以上の闘志がねぇ」
総一は静かにそう言った。
「では、それを得ているかどうか、楽しみですね」
「だな……」
そう言いながら総一は腰に佩いた刀の柄を強く握った。
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