第5話 手に入れし異次元の力……‼
「……ここは……?」
総次が目を覚ました時、そこは先程までいた場所ではなく、里見神社の寝室だった。部屋のふすまの上に掛けられている時計に視線を移すと、九月五日の午前八時を回っていた。
(朝……はっ‼ 稽古は……)
慌てながら辺りを見回してると、ふと最後に紗江と打ち合った時のことを思い出した。
「そう言えば、最後僕が使った闘気って……」
稽古の時に発動した漆黒と純白の闘気を思い出しながら総次はつぶやいた。
「偶然、だったのかな……?」
そう思いながら総次は布団から身を起こし、紗江を探し始めた。すると紗江は居間で出来上がった朝食を食卓へ並べていた。
「あら、おはよう」
「……おはようございます」
紗江はいつもと変わらない平静な態度で声を掛けた為、総次は拍子抜けしてしまった。てっきり先程のことで何か言われるのではと思っていたからだ。
「あの……」
「早く食べましょ?」
「は、はぁ……」
紗江にそう誘われた総次は座布団を一つ取って食卓の前に座った。
「……あの、さっきの稽古の時のことですが……」
「それは朝食後の稽古で話すわ」
「そう……ですか……」
「思うことは多いと思うけど、言いたいことや聞きたいことはその時に聞くわ」
「……分かりました……」
総次はそう言いながら箸を握って食事に手を付け始めた。言いたいことや聞きたいことはたくさんあったが、ここで改めて聞いたところで同じ言葉を返されて無意味な問答を繰り広げて、時間と労力の無駄になると判断したからだ。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
朝食を取り終えた後、午前十時から社殿裏の広場に出て稽古を開始した。総次の身体の状態を考慮して、一時間程度の短い訓練になると総次は言い渡された。
「それで龍乃宮さん。例の闘気ですが……」
「あたしも初めて見たわ。黒い闘気があたしの闘気を吸収しつつ、それを倍以上にしてお返しする。それと同時に白い闘気の刃も現れた。あれを受け止められる人はそうはいないと思うわ」
「……龍乃宮さんでも、ですか?」
「最後のは本当にヤバかったわ。一体どういう闘気なのか興味が湧いたわ」
「……沖田総一も、同じ力を使ってました……」
総次は俯きながらそうつぶやいた。
「血縁者同士だと、闘気の属性が同様のものになるという学説があるけど、恐らくあなたの闘気はその類ね」
「しかし、何故僕と沖田総一にだけ、こんな力が……」
「それは分からないわ。それに、君もこの力に関して分からないことは多いんでしょ?」
「ええ。知っているのは、先程の漆黒の闘気は闘気を吸収して倍返しにする力と、炎や風や光の闘気を遥かに凌ぐ強大な攻撃力を持つ純白の闘気があります。以前沖田総一と戦った時に確認済みです」
「ということは、もう一つの方の闘気も覚醒している可能性が高いわね。一度闘気を出してごらんなさい」
「ではまずは、炎の闘気を出す感覚でやってみます」
指示された総次は、身体の力を抜きながら刀に闘気を纏わす為に手元から闘気を放出した。するとその闘気は混じりっ気のない純白の輝きを放っていた。
「……白い、闘気……」
それを見た総次は愕然とした表情でそうつぶやいた。続けて総次は光・風・雷の闘気を発する際のイメージで発動したが、全て同じだった。
「四つの属性では純白の闘気ね。では水の闘気の感覚でやってごらん」
「はい」
「但し、白い闘気を発動した状態で、小太刀の方に流し込んでね」
「えっ?」
「沖田総一が出来たのなら、あなたにも可能性があるわ」
「で、では……」
そう言われた総次は、水の闘気を発動するイメージ、つまり濡れるイメージをしながら闘気と直結させて小太刀に流し込んだ。すると闘気は禍々しい漆黒の属性だった。
「で、出来た。それに黒い闘気……」
「じゃあ、闇と鋼の闘気を発動するイメージでやってみて」
「はい」
闇の闘気を発動するイメージと、鋼の闘気を発動するイメージで属性を発動したが、いずれも同じ属性だった。
「じゃあ、これからその闘気を使ってあたしと打ち合いましょう。その中で力の確認と運用を考えるのが建設的だわ」
「分かりました」
総次は純白の闘気を刀に纏わせて構えた。紗江もそれを見て刀に風の闘気を纏わして総次の行動に備えた。
「では、行きます……‼」
そう言って総次は紗江に飛び掛かり、紗江目掛けて強烈な斬撃を繰り出した。
それに即座に反応した紗江は風の闘気を纏わせた刀を振るって総次を迎撃せんとしたが、受け止めた瞬間に手元に強烈な振動と重量を感じ、一瞬驚いた表情をしながら総次から距離を取った。
「重いわね。技の重量なら鋼の闘気以上ね……」
総次の一撃に舌を巻いた紗江だったが、一方の総次は刀に多量の純白の闘気を纏わせて紗江と間合いを取りながら猛烈な連続突きを繰り出した。
「行きますよ……‼」(尖狼‼)
総次の尖狼から放たれた三十三の純白の光線は、真っすぐ紗江目掛けて飛来した。ここで紗江を驚かせたのは、尖狼からな放たれた純白の闘気の速度が以前までと比較にならない速さで迫ってきたことだった。
「今までで一番早いわね」
そう言いながら紗江は光の闘気で形成した刃を放って相殺を図ったが、光の闘気で形成された刃は総次の放った純白の闘気を一瞬で食いつぶしてそのままの状態で紗江に向かって行った。
「やっぱり早いわね……‼」
紗江は総次の放った光線の猛襲をかわしてそのまま総次に斬り掛かり、それに即応した総次も純白の闘気を纏わせた刀を振るって紗江の一の太刀をいなし、そのまま両者は壮絶な斬り合いを展開した。
「至近距離ででも尚この威力……やはりこの闘気とさっきの黒い闘気は、これまで体系化されたどの属性とも違うわね」
紗江は改めて総次の刀を纏っている純白の闘気の威力と重さが想像を絶するものだという認識を確かなものにした。
やがて至近距離での斬り合いに意味がないと判断した両者は、間合いを取って遠距離攻撃の構えに入った。だが総次の方はまだ戦い始めて五分と経たないにもかかわらず、やや疲れ気味の表情だった。
「この白い闘気の攻撃力は予想以上だ。だがそれに比例して体力の消耗も激しい。こんな闘気を難なく使う沖田総一って一体……」
純白の闘気は、他のあらゆる闘気を凌ぐ攻撃力を誇るものの、同時に総次の体力を短時間で大幅に消耗するリスクがあったのだ。
只でさえ激しく動き回って相手を翻弄しつつ、遠・近あらゆる距離から攻撃する総次の戦闘スタイルからすれば、体力の消耗は本人の予想を遥かに上回っていたのだ。故に総次は、この異次元ともいえる力を疲れ一つ見せることなく使いこなす沖田総一の脅威を改めて感じ取った。
そして紗江も、戦いが始まって間もないにもかかわらず膝に手を当てて息を整えようとしている総次の姿に、彼の力のリスクを薄々感じ取ったようだった。
「その力がどれほどのものかは分からないけど、もし君の身体に負担が掛かるんだったら、身体に慣らしていくことから考えてもいいのよ?」
「いえ、問題はありません」
「そう。じゃあ一つ聞いていいかしら?」
「何でしょか?」
「改めて、あなたが沖田総一と戦う理由。そしてここへ来た目的っていうのを確認してもいいかしら?」
そう聞かれた総次は少々考える素振りを見せた後、こう言った。
「……これ以上、罪のない人々が命を落とすようなことにならない為に、水瀬名誉教授の業に決着をつける為、です」
「……分かったわ……」
紗江は静かにそうつぶやいた。
「目の前に迫っている強大な敵を野放しにすれば、結果として更なる乱を招くことになります。それを阻止したいです。もう、美ノ宮大学の二の舞は御免です。そして水瀬名誉教授の狂気の研究の結果には、同じ研究で生み出された僕が終止符を打たねばならないと思ってます」
「……分かったわ。あなたが納得するまで付き合ってあげるわ。あなたのその力が、これからの危難を振り払うものになるのなら、それに協力してあげるのが託された者の役割だもの。残り五十二分間、思いっきり掛かってらっしゃい」
そう言いながら紗江は面を上げて凛とした表情で彼を見据えた。
「では遠慮なく……‼」
総次は改めて、純白の闘気を纏わせた刀と、漆黒の闘気を纏わせた小太刀を振るって紗江に立ち向かうのだった。
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