第24話 破界のその先、創破……‼

「行くぞ……‼」(開明光波かいめいこうは‼)


 総一の挑発に乗りながら刀を大きく振り下ろし、訓練場全体を覆い尽くさんばかりの無数の紅蓮の光の刃を総一目掛けて力一杯放たれる。


「随分とやるじゃねぇかっ!」


 翼が放った無数の闘気の刃を素直に称賛しつつ、刀身に漆黒の闘気を纏わせて光の刃を吸収する準備に入る総一。

 紅蓮の光の刃は総一が刀身に纏わせた漆黒の闘気が受け止めたものの、そのあまりの多さに総一も手間取っているようだ。


「予想以上だな、こいつは。だが……」


 やや押され気味の総一がそうつぶやいた瞬間だった。総一の漆黒の闘気は翼が放った光の刃を吸収し始める。


「なるほど、今のでも無駄だったか」

「闘気を吸収すること自体は無限大に可能だが、それを成しえるかどうかは俺の力と信念次第になる。これで終わりだ」


 叫びながら総一は漆黒を纏わせた刀を思いっきり振るうことで翼が放った光の刃を完全に吸収してしまった。


「……俺の力を甘く見るなって、言ったばかりだろ?」(開明紅雷かいめいこうらい‼)


 翼は動じることなく紅蓮に輝く雷の闘気を刀に纏わせ、漆黒の刃が直撃する直前にその場で飛び上がってそれに目掛けて唐竹割りを繰り出しつつ、一刀両断する。

 そして両断された刃が壁に直撃して発生した爆風を利用して、一気に総一との間合いを縮めるように飛び掛かる。


「勇敢だな。どうやらお前を葬るには、もう少し時間が掛かりそうだな」


 より表情を歪んだ笑みで歪ませる総一。その狂気に応えるように刀に純白の闘気を纏わせて迎え撃つ。対する翼は総一の頭上を取り、刀に纏わす紅蓮の雷の闘気の出力を更に上げる。それにより、紅い火花と電光が辺り一面に飛び散る。


「はぁ‼」


 一息に総一を斬り裂かんと力一杯に刀を振り下ろす翼。それを余裕の笑みで受け止めた総一の足元に半径二メートル程のクレーターを生み出しす衝撃が走った。


「いい力だ。こいつはまだまだ楽しめそうだな」

「これしきの修羅場くらい、俺達は幾度となく乗り越えてきた」


 その言葉を証明するように、翼の斬撃の重さは徐々に増していき、総一もそれを自覚する。


「もう少し行けるだろ?」


 刀の峰に拳を思いっきり叩き込み、その衝撃で翼を弾き飛ばす。


「ふんっ‼」(煉獄開明れんごくかいめい‼)


 弾き飛ばされながらも空中で態勢を整えて刀に紅蓮に輝く炎の闘気を即座に纏わせ、無数に空を薙ぎ払うと共に巨大な紅蓮に燃える炎の刃を次々と飛ばす。


「その体勢でこれだけの力とは、流石だなっ!」


 迫りくる灼熱の火球に歓喜する総一は、身体を回転させながら刀に纏わせた漆黒の闘気で全て吸収しつつ、更に鞘を抜いてそこに純白の闘気を纏わせて十字状に闘気の刃を放った。


「まだまだだっ‼」


 紅蓮の炎を纏う刀を振るい、総一が技を放った直後の隙を付いて一気に間合いを詰めて重い一太刀を浴びせる。


「おらよっ!」


 刀に漆黒の闘気を纏わせてそれを受け止めた総一。だがそのあまりの量と威力を完全に殺し切れず、そのまま両者の力比べになる。

 その直後、総一は何かを悟ったかのような表情になった。


「……ようやく思い出したぜ。てめぇのは破界の上位形態、創破だな?」

「知ってたんだな」


 そう言って総一の言葉を肯定する翼。


「破界の覚醒者が、己の信念を狂気的なレベルまで貫く意思を示した時、その闘気は覚醒者を象徴する色に変化し、限界以上に力を引き出す。だろ?」


 確かめるように叫びながら翼を押し切らんと前進する総一。


「その通り、だ‼」


 対抗するように刀に纏う紅蓮の炎の闘気の量と出力を上げて総一を弾き飛ばした翼。飛ばされた総一は空中で態勢を整えながら翼と五十歩離れた場所に着地して構える。その表情からは先程までの余裕に満ちたものが微かに薄れていた。


「まさかそんな力に目覚めていた奴がいたとはな。大昔ならごろごろいたらしいが、今となっては資料のみの力。この目で拝めて光栄だぜ」

「この力は見世物じゃない。俺にとってこの力は、俺達の夢を叶える為の力だ」

「結構なことだ。だからこそのこの力。認めてやるよ。てめぇは俺がこれまでに戦ったやつで最も強ぇってことをな」

「生憎それに有難みを感じてる暇はない」


 翼が刀を天に掲げ、赤々と輝く多量の水の闘気が刀身に集約する。


「はぁ‼」(開明流斬かいめいるざん‼)


 力強く振り下ろしながら真紅の水の闘気を解放し、巨大な真紅の激流の刃となって猛烈な勢いで総一に襲い掛かる。


「大したもんだ」


 漆黒の闘気を纏う刀で受け止める総一だが、あまりの勢いに一気に後ろに押し切られる。


「まだこんな力があるとはなぁ‼」


 予想以上の力だったのか、喜びながら受け止めて吸収する総一。


「そう簡単に、やらせるかぁ‼」


 それを阻止しようと更に出力を上げて一気に斬り裂かんとする翼。だが同時に彼の身体に微かに痛みが走る。


(ぐっ……‼ やはりまだ完全に力を掌中にしきれてないか……‼)


 内心で自分の力に対する無力感に苛まれる翼だが、状況は予断を許さなかった。


「中途半端でもやらねぇとだめなようだな」


 漆黒の闘気の力で吸収し尽くそうとする総一は吸収し尽くすのを断念し、勢いに飲まれる前に空中に離脱してそのまま前方宙返りをしながら漆黒の刃を放った。


「ふんっ‼」(豪嵐開明ごうらんかいめい‼)


 すると翼の刀を真紅の風が纏い、そのまま横一文字に薙ぎ払って漆黒の刃をあっさりと斬り裂いた。


「何?」


 その光景に些か驚きながら水場のない場所に着地した総一。


「まさか風の闘気にそんな力を齎すとはな」

「言ったはずだ。俺は俺達の創る未来の為にここで死ぬ訳にはいかない」

「……どうやら、まだまだ愉しめるな」


 より一層翼の力に歓喜を覚える総一。


(くそっ、まだ力尽きないなんて、そろそろ限界時間が近づいているってのに……)


 一方で翼は自身の全力をぶつけても尚力衰えぬ総一に焦りを覚え始めていた。自信の力の限界点が迫っていることも、彼の焦りをより一層深刻にしていた。


「どうした? この程度で終わりか?」

「随分と余裕だな」

「戦いってのは愉しんでなんぼだからな」

「愉しんでだと?」


 総一のその言葉に反応する翼。


「命を懸けての戦いほど愉しめるものはない。まして殺し合いなら尚のことだ」

「時代遅れの戦闘狂だな。その上殺しを愉しむなど……」

「まあ、そのおかげでてめぇの力、奥底まで引き出せた。ここまで俺を追い詰めたのもお前ぐらいだ」

「不愉快だな。貴様如きが日本を混乱に陥れるとは……‼」

「この国を奪い、俺色に染め上げる。それが俺がこの国を奪う理由だ」

「……その為に、無関係な人間が犠牲になってもいいってのか?」

「力を得ようとしない、その努力もしねぇ連中に、生きてる意味などねぇ。精々俺達の力の為の餌になってもらう」

「……ふざけるなぁ‼」


 その瞬間、翼の周囲に夥しい量の真紅の闘気が発生した。


「こいつは……‼」


 吹きすさぶ突風と共に発生した真紅の闘気は、辺り一面を覆うほどにその勢いと量を増していった。


「貴様は危険過ぎる。ここで貴様を潰さなければ、この国は終わるっ‼」

「ハッ、ハハハハハッ‼ お前の力は、俺の創る世界でも十分に通用すると見えるっ! 俺達のところにいないのが惜しいくらいだ」

「貴様のところにいないからこそ、俺はこの力を手にできた。そして志を同じくする同志を得た。これ以上、貴様の好きにはさせないっ‼」


 決意を口に、翼の周囲に発生した真紅の闘気が光を放ち始め、一気に振り上げた刀に集約していく。


「これまでで最もデカい力だなっ! なら俺もだっ‼」


 総一の刀にも、夥しい量の純白の闘気が纏わされていく。


「貴様は、この俺がぁ! ここで葬るっ‼」(開明光波かいめいこうは‼)


 目一杯振り下ろされた刀が、真紅に輝く光の闘気の刃を生成して凄まじい勢いで総一に襲いかかる。


「いくぜぇ‼」


 総一の刀が凄まじい勢いで前方の空間を貫き、それと共に純白の闘気の一閃が真紅の光の刃とぶつかる。真紅の光の刃は総一の純白の闘気の槍を押し返さんとする勢いで総一を追い詰めていく。


(くそっ‼ 力を使い過ぎた……‼)


 だが流石の翼も力を出し過ぎたのか、その場に刀をついて跪く。


「ぐっ! こいつは、今まで実感したことがねぇ力だ‼」


 流石の総一も翼の全力に舌を巻いた。


「だが、なぁぁあ‼」


 だが総一は更に闘気の出力を上げ、真紅の光の刃を突き破らんとする。


「その程度で、俺の技を破ることなど……‼」

「へっ‼ デケェ力を叩き潰してこそ、殺し合いってのは痺れるんだよぉ‼」


 すると総一の放つ純白の闘気が出力を増し、徐々に翼の放った真紅の光の刃を崩していく。


「何っ⁉」

「最高だぜぇ‼ お前の力はよぉ‼」


 歓喜に満ち溢れた総一のその言葉と同時に、一気に純白の闘気の出力が跳ね上がり、翼の放った真紅の光の闘気の刃を爆散させてしまった。


「馬鹿な……‼」

「まさか、ここまで俺の力を引きずり出さなけりゃならねぇとはな。お前のような敵がいて俺は嬉しいぜ」


 全く疲れる様子を見せない総一に、翼は唖然とする。


(俺の全力の開明光波かいめいこうはを、打ち破るだと?)


 自分の自慢の技を悉く打ち破った総一の力に、翼の心中は絶望一色に染まった。


「久しぶりに愉しめたぜ……だがそろそろ仕留めねぇと他の連中の援護に回れねぇからな。終わりにさせてもらうぜ」


 やや名残惜しそうな表情になる総一。一方で翼は絶望に打ちひしがれながらもなんとかその場に立ち上がり、総一を睨みつける。


「まだ立ち上がるだけの力はあるようだな。ついさっきまでフラついてたようだが……」

「負けるわけにはいかない。俺を信じてついてきてくれた仲間の為にも、そしてこれからの俺達の未来の為にも……‼」


 そう言う翼の刀の刀身に、透き通った真紅を帯びた水の闘気が生成される。


「そろそろ力も限界だろう」


 そんな翼を一瞥しながら、再び純白の闘気を刀に纏わせて振り上げる総一。


「俺にここまでの戦いをしてくれた奴への礼だ。俺の力で直々に葬ってやる。感謝しながらあの世に逝け」


 総一の刀が振り下ろされると、巨大な純白の刃が翼に襲い掛かる。


(……まだ死ぬわけにはいかない。俺にはまだやるべきことがあるんだ……‼)


 翼が刀を構え、突きを繰り出したその瞬間、訓練場全体を覆う爆発と爆風が巻き起こった。

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