第23話 翼と白き鬼
「総次……なのか?」
赤狼七星がそれぞれの場所で戦闘に突入したのと同時刻、地下施設に潜入した幸村翼の前に現れたのは、沖田総次と酷似した少年だった。
「何だ、あいつの知り合いか?」
「総次を知ってるのか?」
「知ってるも何も、あいつは俺の弟だよ」
「弟? あいつに兄がいるなんてそんなこと……」
そのようなことをいわれても、彼はにわかには信じなかった。当の総一は余裕な態度で話を続ける。
「そりゃあいつも知らなかったんだから無理ねぇことだよ。この間も俺を追いかけてきたあいつと会ったが、正体を言った途端に顔色を変えてボケっとしてたよ。いや~あれは中々に見ものだったぜ」
「まさか、貴様が警視庁を襲った犯人だったのか?」
「ああ。そうだぜ」
悪びれる様子もなく答える総一。
「まさか、その時にあいつと戦っていたとはな」
「連中は俺を愉しませるには力不足過ぎたがな……総次も例外ではない」
悠然と自分の武勇伝を語る総一に、翼は投げかける言葉を見失っていた。
(こいつ……戦いを愉しでるのか? BLOOD・Kと同類の狂人か、単なる戦闘狂か……)
いずれにしても、未だに沖田総一の心中や目的が見えてこない以上、これ以上この考察をすることは無用と割り切って戦いに臨む決心をした。
「ここがアジトではなく『訓練場』だったとはな……」
「残念だったな。お前らが今市にある三つの訓練場を支部と思いこんだのが運の尽きだったようだな」
「貴様。俺達のスパイを見抜いていて敢えて……」
「どうせ俺を殺すことは出来ねぇんだからな。ところで、ひょっとしてお前はあのMASTERの一味か?」
「何故そう思う?」
「警察は、俺の警視庁襲撃によって沈黙状態。あのエセ新選組も今頃俺達への対策とMASTER関係のゴタゴタで手一杯だろう。そうなれば、この場所を特定しうる情報戦能力を持ってんのは、これまで幾度となく高級官僚の不正を暴き、時として奴らを嬲り殺してきた連中しかいない。そしてどうやらそれが、お前らってことになるな」
「……そう言うことか……」
「それに、そんな奇妙な格好をした奴を、エセ新選組にも警察にも見たことはない。それが一番の理由って言った方が良いだろうな」
「……納得だな」
これに関しては翼も否定しなかった。だが次に総一が言った言葉に対しては違った。
「しかしまあ、俺らと同じ穴のムジナと戦うことになるとはな……」
「……俺らはこの国においては外法者だ。だが、少なくとも俺はお前のように人殺しを愉しむ外道者ではない」
「……御託はそこまでか? だとしたらさっさと始めたいんだが……」
「お望み通り……‼」
そう叫びながら翼は腰に佩いていた刀を抜いて炎の闘気を纏わせて総一に一気に飛び掛かる。
「そうだ……それでいいんだよ」
向かってくる翼を見て、その表情を狂喜で醜く歪ませながら刀を抜いて純白の闘気を纏わせて翼の鋭い斬撃を受け止める。
そのまま翼を力任せに訓練場の廊下側の壁近くまで吹き飛ばし、更に付近の床に巨大な斬撃の痕を残した。
一方で翼は巧みに空中で姿勢を整えて着地したが、総一が使った今まで見たことのない闘気に戸惑いを覚えていた。
(今の闘気は……威力が他とケタ違いだ……)
総一の力への警戒心から、翼は額や頬に冷や汗を流しながら彼の次の動きに対処すべく刀を構えた。
「俺の闘気に臆さないとはな。総次と似た部分があるようだな……」
「あいつと似た部分があるかどうかは知ったことではないが、俺はお前を討ち果たさなければならない。この国の未来の為にもな」
「この国の未来ね……それなら安心しろ。この国はいずれ俺が盗って今以上のいい国にしてやるよ」
「……詭弁だな」
翼は総一の物言いに薄気味悪さを感じつつ、光の闘気を多量に纏わせだ刀を振って巨大な光の刃を総一に飛ばす。
「大した大きさじゃねぇか」
総一は刀を纏う純白の闘気を漆黒の闘気に即座に変えて翼が放った光の刃を吸収してしまった。
「闘気の吸収だと……?」
「なかなかにデカい力だな。それじゃあその礼に更に強くして返してやるよ」
総一は身体を一回転させ、漆黒の刃を飛ばす。
漆黒の刃は凄まじい轟音と共に地面を斬り裂いて翼に襲い掛かる。
(速いが、避けられない訳でもない)
翼は寸での所でかわしたが、背後の壁に土煙と共に巨大な傷を刻んだ。
(さっきの白の闘気が攻撃特化なら、あの黒い闘気は闘気を吸収して倍返しにするカウンターの為の代物か。これだけの力なら、確かに警視庁を単独で叩き潰したと自慢しても不可思議に感じないな)
改めて沖田総一の脅威を悟った翼は、このままでは相手のペースになると考え、戦い方を変えねばと考える。
「さっきとは表情が変わったな。少しは俺の力を分かってくれたか?」
「だからこそお前はここで潰す。お前にこの国は渡さない……絶対にな」
「なぜそこまで言えるんだ?」
「俺にも大義がある。この国に光を齎す為の大義がな」
「大義か……それがお前だけの力の源って奴か?」
「ああ‼」
総一の問答に対し、翼は力強く、一切の迷いのない真っ直ぐな目でそう言った。
すると総一も納得した様子で口元を歪ませて喜んだ。
「……いいだろう。 その力、俺に全てぶつけて見ろ」
その瞬間、総一は純白の闘気を、翼は風の闘気を刀に纏わせて互いに飛びかかって嵐のような斬撃の応酬になった。
「まだまだこんなもんじゃねぇだろ?」
打ち合いの中で総一は静かに、しかし嬉しそうな表情でそう叫んだ。
(どことなく戦い方は総次に通じる部分はある。だがその根源はあいつとはまるで違う。邪念と戦闘衝動に突き動かされた物の怪だな……)
そう思いながら総一の斬撃をいなしていた翼だが、接近戦で不利になり始めていることを悟り、一旦その場から離脱して距離を取った。
(このまま何の考えもなく遠距離攻撃を行ったとしても、奴は例の黒い闘気でそれを吸収してしまう。だがそうなれば……)
そう思いながら翼は刀に炎の闘気で炎の刃を生成し、総一に向かって飛ばした。
(カウンター狙いで闘気を吸収するなら、大振りのあの攻撃をかわしつつ突撃すれば勝機が……)
そう算段を企てる翼。
だが総一はそうしなかった。
彼は炎の刃に純白の闘気で生成した刃を以て相殺し、爆風に飛び込まれた勢いのままの総一に接近してきたのだ。
「くそっ‼」
再び至近距離からの打ち合いに持ち込まれてしまった。
「俺の闘気の性質を理解して対策を取ったのは悪くないが、遠距離攻撃にカウンターばかりで来るなんて、一言も言ってねぇだろ?」
「くっ……‼」
確かに総一の遠距離攻撃の手札が黒い闘気によるカウンターだけとは限らない。白い闘気で先制も迎撃もすることも出来るが、翼は勝手に遠距離には黒い闘気で対処すると思い込んでしまったようだ。
刀に風の闘気を纏わせて打ち合いに対する中で翼は、総一が遠距離攻撃に漆黒の闘気を持ってのカウンターで対応するという行動を最初に見たことで「敵は黒い闘気で遠距離攻撃に対応する」という固定概念に囚われてしまい、かえって自らの思考を硬直化させていたのだ。
もう一度距離を取ってどちらにも対応できるように体勢を整えようとした翼だが、総一の斬撃の嵐がそれを許さなかった。先程以上の速度で無数の斬撃を繰り出し、至近距離での戦いを強いて翼に離脱のタイミングを掴ませなかった。
「そう連れないことすんなよ。俺はお前とはインファイトでやり合ってみたいんだよ。俺の息の根を至近距離で止めようと必死にもがきながら、自分ではそれが出来ないことを知って絶望する奴の姿を見んのはなかなか乙なもんでな」
「悪趣味もいいところだな……」
「誉め言葉と思っておこう」
「減らず口を……‼」
翼は戦いが始まってから尚も戦いを愉しむスタンスを変えない総一の姿勢に不快感を覚えたが、愉しんでいるが故に引き出されている総一の力は徐々に高まっていっている。再び打ち合いの中で押され始めた翼は、それを否が応でも実感せざるを得なかった。
総一の戦いへの飽くなき欲求。そしてこれまで経験したことが無い程の苛烈な猛攻に翼は打ち合いながら徐々に後退りしていた。
現状押されているとは言え、危機的状況に陥った訳でもないが、かと言って自分のペースを掴む隙もない。打開の手段を見つけられないまま時間だけが過ぎた。
「どうした? この程度で終わる雑魚なのか? 俺にあれだけ啖呵切った以上無様な死に方は許さねぇぞ⁉」
「当たり前だ。俺はこんなところで死ぬわけにはいかない」
総一のこの挑発は、結果的に翼に塩を送ったことになった。現に翼は先程以上にその場に踏ん張って斬撃の威力と勢いを増し、一気呵成の勢いのまま総一を押し切って間合いを得ることに成功したのだ。
「いやいや、俺の攻撃を切り抜けるとはね……見事な気迫と攻めだったぜ」
「お前のような戦いの権化に褒められたところで、嬉しくもなんともない。寧ろ薄ら寒いだけだ」
そう言いつつ、翼はある決心をした。
(だが、やはりあれを使わざるを得んか……)
直後、翼の手元の光の闘気が紅く変色し始める。
「……ただの破界じゃないな。だがどんな力も俺の闘気の餌になり、お前自身を食らい尽くすことになるぞ?」
「中途半端な力ならそうだろう。だが俺の本気はそうはいかない」
刀身に注ぎ込まれた紅蓮に輝く光の闘気は周囲に地響きと轟音を発生させた。
「さっき以上に大した力だな。その力とやら、俺が測ってやろう」
「やってみろ、測れればだがな……‼」
そう言いながら翼は目を開けることすらままならない程の光を放つ刀を天に掲げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます