第5話 激突‼ 総次と白き少年
「……どうなったんだ……」
「爆発か……」
川原地域部長と本多交通部長は恐々としながら廊下を見たが、特に異常は見られなかった。
「おい見ろ! 下から煙が……‼」
窓の下を見て愕然とした表情で周囲に叫んだのは春原刑事部長だった。彼の言葉を聞いて俵田警視総監以外の幹部達は窓の外を見た。春原刑事部長の言う通り、すぐ下の階から黙々と煙が上っていた。
「あれをたった一人の賊が……?」
「ここまでとは……」
笠松警備部長と唖然とした表情で、手塚組織犯罪対策部長は表向きは毅然とした表情だが、言葉からは過去に例のない光景に絶望に近い感情が垣間見えていた。
「いや……警察庁の上原警備局長が以前仰ってたことがある。闘気という力のことを……」
すると利家公安部長が、過去に権蔵から聞いた話を思い出して言った。
「何を空虚なことを。そんなものは存在しないといっておろうが」
「そうだ。まだそんな机上の空論を信じてるのか‼」
「全くだ‼」
これを聞いた川原地域部長と本多交通部長が先程までの怯えた様子を一変させて言い放ち、更に同調して
「机上の空論か……こんな狂った時代でもそんな調子とは、お気楽な連中だな」
そんな様子を傍から見ていた手塚組織犯罪対策部長が、利家公安部長に詰め寄っていた三人に静かに言い放った。彼も部署から太師討ちのメンバーを輩出している関係上、闘気の存在に対しては肯定的であり、新戦組の上層部とも面識があったからこその言葉だった。
「貴様……」
「言わせておけば……‼」
「おのれ……‼」
手塚組織犯罪対策部長から論破された三人は負け惜しみにも近い遠吠えをした。手塚組織犯罪対策部長が言うように、この三人は組織内でも保身に対して最も意欲的なのは事実で、その手の話に関して話題に挙がらなかったことは一度も無かったほどだった。
「止めぬか君達。見苦しいぞ」
そんな中、ただ一人席を外さずに席に着いてじっとしていた俵田警視総監が一睨みしながら叱責した。
「やれやれ、こんな低レベルな連中が東京の守護者だったとは……」
その直後、十二人に聞きなれない声が耳に入り、聞こえた方向に一斉に顔を向けた。そこにいたのは白帽子を被り、上から靴まで全てを白で統一した衣服と刀身を血で紅く染めながら口元を歪ませた少年だった。
「き、貴様、いつの間に……」
少年の来訪に最も怯えた様子を見せたのは川原地域部長だった。
「それより総監殿に質問したいんだがよ」
「何だね? 少年」
少年は、まるで友人に放課後の付き合いを誘うかのような軽い口調で俵田警視総監に尋ねた。俵田警視総監は少年に臆することなくそれに応えようとした。
「ここの職員ってどいつもこいつも雑魚なのか? 全然歯ごたえねぇんだけどよ」
「何?」
「だから、ここの連中は殺し甲斐のない雑魚ばかりなのかって聞いてんだよ……」
少年は声にやや怒気を含めた声で帽子の陰から鋭い眼光を放ちながら俵田警視総監に尋ねた。
「ここに来るまで、どれだけの職員を殺したのだ?」
「さあね、ちょうど下の階に特殊班の連中がいたが、手ごたえがなくてがっかりしたぜ」
「貴様まさか、全滅させたのか……?」
少年の言葉に最も動揺して言葉を漏らしたのは、笠松警備部長だった。
「……そうか、お前が警備部長だな?」
「何故私だと思うのだ?」
「警備部には特殊部隊が諸々いるからな。その実力を最も知ってる奴じゃないとそんなリアクションは取れないぜ」
「っぐ……」
それを聞いた笠松警備部長は図星を突かれ、言葉に窮してしまった。
「まあ、俺のターゲットになるのはお前じゃねぇから安心していいぜ。まずはえ~っと……川原安武って言う奴だな……」
「な⁉」
名指しで死刑宣告を受けた川原地域部長は顔面蒼白になってその場にうずくまり、彼の周囲にいた幹部は離れてしまった。
「自己保身の為に国民の税金を不正に利用したんだな。こいつにその証拠があんだよ……」
川原地域部長に対してポシェットに入っていたクリップ止めの資料を取り出してその項目を見せながら、刀に純白のエネルギーを集約させ始めた。
「そう怯えんなよ。どうせお前以外の二人も同じ理由なんだしよ。確かそいつは三城和也って奴と、本多斬滝って奴だったな……」
「「なっ⁉」」
それを聞いた両者も、川原地域部長と同様絶望の表情で少年を見た。
「お前ら三人共、これを暴こうとした警察官連中を、ありもしねぇ噂を流して誹謗中傷の対象にして辞職に追いやるか、自殺に追いやったんだってな。中々の悪じゃねぇか」
そう言いながらニヤニヤする少年に、警視庁幹部一同は並々ならぬ恐怖や異常性を感じ取ったような感じがしたのか、表情が引きつる。
「しょ……証拠はどこにあるんだ⁉」
少年の言葉に怯えながら本多交通部長は反論したが、少年は左手に持った資料をヒラヒラさせながら更に話を続ける。
「俺達の力を甘く見んなよ。どこで誰が見てんのか分かんねぇんだからよ。まあこんな程度のを隠蔽も隠滅も出来ねぇ連中の情報など、引き出すことは造作もねぇ……」
残酷な声で言い放つ少年に戦意喪失した三名は、足元がすくんでその場から動けなくなってしまった。
「取り敢えず……あばよ」
そう言いながら左手に持った資料をポシェットに仕舞った瞬間、少年は腰を深く落としながら強烈な突きを繰り出し、そこから三連の光線で三人の身体を後方の窓ガラスごと吹き飛ばしてしまった。
「これで警視庁の雑魚共の醜態を証明できるな……」
そう冷笑しながら白帽子の少年は血に紅く染まった刀身を眺めた。
「……気は、済んだかな?」
そんな少年を眺めながら俵田警視総監は静かに尋ねる。
「物足りねぇな。愉しめてねぇ……」
「十分、愉しんだと思いますが……?」
すると扉から入ってきた黒い影の刃が少年の背後を捉えて斬りつける。
「っふんっ‼」
背後の気配を察した少年は即座に刀を振るって受け止め、更に強烈な回し蹴りを繰り出す。総次はそれをかわし、間合いを取った。
「……君は……?」
「新戦組の沖田です! ここは危険ですので、大至急避難してください! 既に廊下に僕の隊の者を待機させています!」
手にした刀に雷の闘気を纏わす総次。だが彼は先程の任務からの帰還途中に指令を受けた上に、一階から十四階まで猛スピードで駆け上がった為に、肩で息を整えている。体力的に些か余裕がなかった。
「君は大丈夫なのかい?」
「問題ありません。彼らの指示に従えば身の安全の保障は出来ます。他の隊からの増援も来ていますで、安心してください」
「……分かった。皆も急いでここから出よう」
そう言って俵田警視総監は生き残った他の八名の幹部と共に部屋を出た。
「逃げんなよ……お前らも俺の得物なんだからな……」
「そうはさせません」
鋭い眼光を放ちながら警視庁幹部達に襲い掛かろうとした白帽子の少年に対し、総次は鋭い声を放ちながら彼の前に立ちふさがった。
「ほぉ……お前が相手になってくれるのか。戦い甲斐がいはあるかもしれねぇな……だが今はその時間は惜しいんでな、さっさと終わらせてやるよ」
「……随分な言い様ですね。この世の創造主か破壊神と言わんばかりの物言い……」
「どっちにしても嬉しいが、生憎俺はそう言う類になるつもりはねぇ」
「では、何が望みと?」
「取り敢えず手始めに、この国そのものだな……」
白帽子の少年がそう言った瞬間、総次は飛び上がって少年の頭上を取っていた。
「仕留める……‼」(天狼‼)
電流を迸らせた刀を白帽子の少年目掛けて振り下ろされる。
「おらよっ‼」
白帽子の少年は刀に純白のエネルギーを纏わせて迎撃し、そのまま受け流す。攻撃を受け流された総次は上空で態勢を整えつつ、会議室のテーブルに着地した。
(今のは、闘気?)
総次は白帽子の少年が手にした刀に集約されている純白のエネルギーに戸惑いを覚えた。
(戦いの中で正体を掴むしかないか……)
今度は炎の闘気を刀に纏わせる総次。そして白帽子の少年に襲い掛かる。
「太刀筋は悪くねぇが……やはりそうか……」
少年は総次の炎の斬撃を受け流したが、そのまま総次は白帽子の少年の上下左右を神速で駆け巡り、無数の炎の斬撃を繰り出し始めた。
だが少年は余裕な姿勢を崩さぬまま純白のエネルギーを纏わせた刀でそれらを受け流しつつ、状況を見て攻勢に転じた。
「まだ俺を殺れるだけのものじゃねぇな」
「何?」
「てめぇの力はこの程度かって言ってんだよ。そうでないならもう少し見せてくれよ」
「ではお言葉に甘えて……」
そう言って総次は全方位連撃を止めて少年から離れて部屋の隅に移動し、刀を鞘に納めて居合の体勢を取った。瞬間的な検束と太刀筋を確かめ、白帽子の少年の力を、正確に測る為だ。
「居合いの打ち合いが望みか? じゃあ俺も……」
そう言いながら少年も、総次が納刀したのを確認した直後に鞘に刀を収め、互いににらみ合うこと十秒……。
「……行くぞ……」
頃合いを見計らった総次と白帽子の少年は、互い目掛けて飛びかかりつつ抜刀した。
(狼牙‼)
「っへぇ‼」
風の闘気を纏う総次の刃と、純白のエネルギーを纏う白帽子の少年の刃がぶつかり、部屋全体を巻き込むほどの爆発が巻き起こる。
(なんてパワーだ……‼)
白防止の少年の力に驚く総次。直後、爆風の衝撃で背後の壁まで吹き飛ばされて叩き付けられた。少年は爆発が起きる直前にバック宙をして衝撃を受け流しつつ後退した為、体勢を崩すことなく着地した。
(なんて破壊力……僕の闘気で相殺しきれなかった……)
「まあまあのパワーだが、この程度じゃ物足りねぇよ。 もっと俺に見せてくれよ」
そう言って少年は左手で総次を挑発した。
(挑発に乗るな、冷静に敵の動きを分析して正確な判断を下して戦えばいい)
総次は少年の挑発に乗らないよう自制心を働かす総次。
「来ねぇなら、こっちから行かせてもらうぜ‼」
当然その声が白帽子の少年に聞こえるはずもなく、白帽子の少年は業を煮やして総次の頭上に飛び上がり、一刀両断せんと純白のエネルギーを纏う刀を振り下ろす。
「油断大敵……‼」(狼爪‼)
察知した総次は、刀の柄に鋼の闘気を流し込んで硬質化させてそれを受け流し、腰に下げていた鞘にも鋼の闘気で硬質化させて左手に持ち、少年の右頬目掛けて振るった。
「そう来たか……」
少年は鞘を左手で取り出して純白のエネルギーを纏わせて総次の鞘に叩き付けて不発に終わらせ、その時に生じた爆発で小太刀を粉々に破壊した。
「何⁉」
「反応が遅ぇぞ‼」
爆発にやや戸惑った総次の隙を付いてそのまま総次の右頬を鞘で殴りつけて吹き飛ばした。
「っぐうっ‼」
右頬に鈍い痛みを覚えながら、総次は立ち上がって少年を睨む。
「……僕以上に力が強い……」
「俺を失望させんなよ? てめぇの力はこの程度かよ?」
「ええ。まだまだ、こんなものでは……」
少年の煽りを受けた総次は反論したが、彼の言葉には、内に秘める悔しさと焦燥が徐々に現れ始めていた。
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