第17話 仇を討ち、未来へ進む……。

 本部に帰還した九・十番隊と陽炎は、先に冬美を未菜に託し、応急処置をも応急処置は受けた後に局長室へ赴いて報告を行った。


「第二十三支部と第二十五支部が陥落。十番隊と九番隊の隊員が半数以上戦死……」

「力及ばず、面目ない……」


 陽炎・夏美の口から聞き終えた麗華と薫は静かにそう言った。その様子を見た夏美は自身の無力感から言葉を失い、翔は自分達の力不足を痛感して麗華と薫に謝罪した。夏美や他の陽炎のメンバーも、申し訳なさから下を向いたまま麗華達を見上げようとしなかった。

 すると麗華は重い空気からくる沈黙を破って静かに口を開いた。


「新戦組という組織としての被害に限定すれば、これまででも一番大きいわ。私達や情報管理室を含めた後方支援部隊の慢心もあったわ」

「施設とその一帯を占領されるという最悪の事態を防ぎ、殺人狂のBLOOD・Kを討ち取ったあなた達の力を誇りに思うわ。責任を痛感する気持ちは分かるけど、今回のことを重く見た上で、二度とこのような事態を招かない為、これからどうするかを一緒に考えましょう」


 薫と麗華は、それぞれの言葉で彼女達を励ました。


「私達は未来のために戦っているのよ。だからこそ、あなた達の力を、これからも頼りにしてるわ」

「「「「「はい」」」」」


 陽炎と夏美は、薫の言葉にそう答えた。


「それで夏美ちゃん。冬美ちゃんは?」


 そこで麗華は、冬美の様子を哀那に尋ねた。


「組長室で未菜さんが診てくれてます。二日間休めば大丈夫だろうって言ってます」

「そう。安心したわ。身体の方はね」

「え?」

「心の方は、麗美ちゃん達と、そして夏美ちゃんが向き合うことよ。分かるわね?」

「……はい。あの子の為にもしっかりと向き合います。麗美、哀那、一緒にお願いね」


 麗華の言葉の真意を理解した夏美は自信を持って返事をし、麗美と哀那も頷いた。


「今日はご苦労様。九番隊と十番隊の隊員の補充に関しては追って伝えるわ。陽炎も今日はゆっくり体と心を休ませなさい」

「「「「「了解‼」」」」」


 麗華の労いの言葉を聞いた五人はそう言って局長室を後にしようとした。すると彼らと入れ違いに、スーツケースを持った総次が入り、麗華と薫に敬礼した。


「沖田総次、並びに一番隊。只今大阪から帰還しました」

「ご苦労様。報告書はデータで受け取ったわ。定期報告によると、大阪の敵施設の全体的な防衛力が、東京二十三区より低かったらしいわね」

「はい。施設のトラップも無く、重要な情報が蓄積されていた訳でもないので、闘気さえあれば我々に対抗できるという考え方に陥っていたらしいです。肝心の闘気の扱いに関しては、付け焼刃同然の有様でした」

「ではこの件に関しても、あなたには言うべきね……」


 不安げな表情になる総次に、麗華はこう切り出した。


「施設の人材が少なかったっていう報告だけど、もしかしたら、そこに元いた構成員の何割かを関東に集結させているという可能性があるわ」

「どういうことですか?」

「この半年、各地の支部から本部に定期的に送られた情報を精査している内に分かったことなんだけど、以前あなたが新宿と渋谷の支部への奇襲任務に参加した時に戦ったバトンの女。彼女の情報が地方支部にあったことが分かったの」

「本当ですか?」


 薫が齎した情報に、総次は驚きを隠せなかった。


「事実よ。いずれにしても、敵は本格的に東京を落とすつもりでいるわ。覚悟して掛かってね」

「了解です」


 薫にそう言われた総次は、麗華と薫に向かって敬礼した。


「ところで……先程夏美さん達とすれ違いましたが、あれは……」

「今日、あの子達はBLOOD・Kと戦い、彼を討伐したの」

「本当ですか?」

「ええ。あなたとしても気になってるんじゃなくて?」

「それは確かに……」

「じゃあ、休憩がてら話すわね」


 そう言って麗華は薫に二人分のコーヒーを淹れるように頼みながら、総次に例の任務の概要を説明し始めた。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


「……冬美……」


 陽炎と別れた夏美は、その足で十番隊組長室のベッドで眠っている冬美の元へ向かって彼女のそばで寝顔を見ながらそうつぶやいた。すると気付いた冬美は静かに瞼を開いた。


「……お姉ちゃん?」

「冬美……」


 目を開けた冬美を見た瞬間、夏美は彼女を静かに抱きしめた。


「怪我が無くてよかったわ」

「私こそ、お姉ちゃん達が無事でよかったわ。それで、BLOOD・Kは……?」

「……勝ったわ。私達が生き残っているのがその証よ」

「……私達、BLOOD・Kに勝ったのね……パパとママの仇を取ったのね……」

「それだけじゃないわ。またあたし達と同じような目に合う人を増やさずに済んだのよ」


 夏美は冬美から少し離れ、彼女の両手を取って眼に涙を浮かべながらそう言った。その涙は、両親の仇を取ったことだけでなく、最愛の妹と自分が互いに無事だったことが何より嬉しかったというのもがあったからだ。


「それにしても、今日の冬美は凄かったわ」

「お姉ちゃんや麗美ちゃん達と絶対に生き残って戦い抜くっていう気持ちが強かったからだと思うわ。そうでなかったら、あんな風にはなれないもの」

「でも、あなたが最後まで頑張ってくれたから、あたしもあいつを倒せたんだよ。誇りに思っていいわ」


 夏美は冬美に誇らしげにそう言いながら彼女の頭を撫でた。


「……疲れたわ……」

「……そうよね。今日は冬美、凄く頑張ったもんね」

「お姉ちゃん。もう一度、寝てもいいかな?」

「勿論よ。麗華さんと副長からも今日一日しっかり休むようにって言われたんだのも」

「そうだったの……それとお姉ちゃん。一つお願いがあるの」

「なぁに?」

「久しぶりに、一緒に寝てくれる?」


 冬美は少し恥ずかしながら頼んだ。


「……勿論よ」


 そう言って夏美は冬美のベッドに入って彼女の右隣に寝転がった。


「……久しぶりね。こうやって一緒に寝るの」

「うん。保育園の時は一緒に寝てたもんね」

「……お姉ちゃん」

「なぁに?」

「手……握っていい?」

「いいよ」


 そう言って夏美は自身の左手で冬美の右手を静かに握り、そのまま二人は静かに眠りについた。

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