第16話 BLOOD・K
「お前だけはぁ‼」
「っへぇ‼」
BLOOD・Kは両拳のメリケンサックナイフに炎と雷の闘気を纏わせて夏美の炎のトンファーによる猛攻を弾きつつ重い一撃を繰り出し続けた。純粋な腕力ではBLOOD・Kが上手であり、夏美は手数の多さとBLOOD・Kに対する怒りで補っている為、一向にBLOOD・Kに対する致命傷に至るチャンスを掴むことが出来ずにいた。
「麗美‼」
「分かってるわ、夏美‼」
夏美の合図を受けた麗美はBLOOD・Kの背後をついてボウガンに番えた風の矢を放って命中させたが、深手を負いながらも全く怯むことも攻撃の手を緩めることはなかった。このように両者の戦闘の隙を付いて麗美達や九番隊の隊員達も連携を取って対処したが、手傷を負わせても致命傷は望めなかった。
「隙あり……」
哀那はBLOOD・Kの右横へ闇の闘気を纏わせた大太刀で鋭い居合を放った。
「その程度でぇ‼」
するとBLOOD・Kは、叫び声と共にメリケンサックナイフに纏う炎と雷の闘気の出力を増大させ、その強烈な拳打で哀那の大太刀を粉々に破砕した。
「おのれ……」
「哀那‼」
「済まない夏美‼」
哀那は麗美にそう詫びながらBLOOD・Kから離れようとした。
「逃げるなよぉ‼」
哀那が逃げようとしたのを見たBLOOD・Kは、白髪交じりの長髪を振り乱しながら周囲で哀那の離脱を支援しようとした隊員達二十人を炎と雷のメリケンサックナイフで切り刻みまくって迫った。
「なっ……‼」
「やらせるかー‼」
不気味な笑みで迫るBLOOD・Kの常軌を逸した狂気に怯む哀那。そんな哀那を助けようと、麗美はボウガンからおびただしい量の風の闘気を纏わせた矢を放ち、BLOOD・Kの左脇腹を貫いた。
「お前もだぁ‼」
だがBLOOD・Kの狂気と攻勢は増し、寧ろ矢が放たれた方から攻撃者を見つけて炎と雷の闘気を更に増幅させて麗美目掛けて突撃した。
「あいつ不死身なの⁉」
麗美はBLOOD・Kの異常な生命力に恐怖しながら叫んだ。
「九番隊‼ 麗美の援護を‼」
「「「「「了解‼」」」」」
夏美の指示の下、隊員達は各々の属性の闘気を纏わせてBLOOD・Kを迎撃した。
「獲物をありがとよぉ‼」
右手のメリケンサックナイフに纏わせていた炎の闘気を巨大な刃に変化させ、迫りくる隊員達に放った。
「「「「「なっ……‼」」」」」
一部は辛うじて逃げ切れたが、回避出来なかった四十人はそのまま焼き斬られ、更にBLOOD・Kは麗美達に迫った。
「こっ……この‼」
麗美は慌てながらも風を纏わせた矢を連射したが、BLOOD・Kは左手の雷のメリケンサックナイフで叩き潰しながら迫った。
「お前の相手はあたしだっ‼」
夏美はそう叫びながら麗美に迫りくるBLOOD・Kに立ちはだかって炎のトンファーによる連撃を繰り出した。
「殺させろぉ‼」
BLOOD・Kは壊れたように叫びながら両手のメリケンサックナイフで夏美の連撃を弾き返し続けた。
「このぉ‼」
夏美はトンファーに纏わせていた炎の闘気の出力を増大させて連撃を続けた。
「まだまだだなぁ‼」
するとBLOOD・Kは、両手のメリケンサックを猛烈な速度で夏美に振り下ろした。その衝撃で夏美を後ろへ大きく吹き飛ばしてしまった。
「ぐあっ‼」
吹き飛ばされた直後、BLOOD・Kは夏美に対して挑発するようにこう言った。
「この程度かよぉ⁉」
「お前は……ここであたしが倒す‼」
背中への痛みと、長髪の隙間から邪な眼光を放つBLOOD・Kの攻撃の重さによって体がいつにも増して重く感じながらも立ち上がった夏美は、BLOOD・Kを真っ直ぐに睨みつけながらそう宣言した。
「じゃあやってみろよぉ‼」
BLOOD・Kは全身の筋肉を膨張させて夏美に迫った。その時……。
(氷雨‼)
突如夏美とBLOOD・Kの間に藍色の輝きを放つ無数の氷柱が駆け抜けた。直後、十番隊と翔達を引き連れた冬美が、藍色に輝く水の闘気をパラソルに纏わせながらBLOOD・Kに迫って来た。
「麗美‼ 哀那‼」
「大丈夫か⁉」
夏美に助けられた麗美と、その麗美によってある程度離れた場所にある電柱に隠れていた哀那に対して声を掛けたのは翔と清輝だった。
「大丈夫よ‼ リーダー‼」
「私も無事です!」
麗美と哀那はそう言って生存をアピールしたが、まだBLOOD・Kが両者の中央で仁王立ちしている為に近づけず、その場で動けなかった。冬美達と十番隊の隊員達は足元に転がる九番隊の隊員達の無数の屍に声を失った。
「あひゃ……あひゃあひゃあひゃあひゃ‼」
「何がおかしいんだよ‼」
九番隊の隊員達の屍を足蹴にしながら笑い続けるBLOOD・Kに憤りを覚えた清輝は、大鎌に雷の闘気を纏わせてBLOOD・Kの頭上を取った。
「これでも食らえよ‼」
そう言いながら清輝は雷の大鎌を勢いよく振り下ろす。
「甘ぇんだよ‼」
白髪交じりの長髪を振り乱し、BLOOD・Kはその一撃を腹に受け止め、鎖を炎のメリケンサックナイフで斬り裂いて清輝へ飛びかかる。
「やらせねぇよ!」
清輝がかわしきれないと判断した翔は、清輝に飛びかかろうとしたBLOOD・Kを、風の闘気を纏わせた双刃薙刀で迎え撃つ。
「清輝! 哀那! お前達は冬美ちゃんの援護を! 夏美ちゃん! まだ動けるか?」
「はい‼」
「翔さん‼ 一緒にこいつを押し留めましょう‼ 冬美は隙を付いて攻撃を叩き込んで‼」
「分かりました。麗美と十番隊も手伝ってくださいっ‼」
「「「「「了解‼」」」」」
冬美は十番隊隊員達と九番隊の残存兵力を糾合させて翔と夏美の援護に当たらせ、麗美と清輝は翔の指示に従って冬美達の後方へと移動した。
風の闘気を纏わせた双刃の薙刀によってインファイトに持ち込むことは出来たものの、三週間前とは段違いの力を見せるBLOOD・Kに、翔は驚愕した。
「こいつ、一体なんなんだよ⁉」
「あひゃあひゃあひゃあひゃ‼」
「キモイ笑い方だな……」
不快極まりない笑い声を発しながら攻撃を繰り出し続けるBLOOD・K。そんな中、冬美はパラソルに藍色に輝く水の闘気を纏わせていた。
「冬美ちゃん。やっと破界の力を……」
「今ならこの力で……‼」
自信に満ちた表情の冬美は、パラソルから十体の藍色の蝶を発生させた。
「凄い……‼」
隣で矢に風の闘気を纏わせていた麗美は、冬美の闘気量に思わず感嘆の声を上げた。
「皆‼ 冬美が攻撃を仕掛けるから、一旦離れて‼」
夏美の指示を聞いた翔達は、夏美と共に一斉にBLOOD・Kから離れ、冬美はパラソルを持った両腕を一瞬左右に大きく広げ、そして素早く交差させた。
「パパとママの仇と、私達未来の為に、ここで倒す‼」(水曝麗蝶‼)
夏美に負けない強気の宣言と共に、冬美は巨大な藍色の蝶をBLOOD・K目掛けて一斉に放った。
「これを待ってたぁ‼」
BLOOD・Kは先程以上に狂喜して両手のメリケンサックナイフに纏わせていた炎と雷の闘気を更に増大させた。
「てめぇは俺以上のバケモンだった‼」
歓喜の叫びと共にBLOOD・Kは冬美の氷雨に突進始めた。炎と雷を纏ったメリケンサックナイフは藍色の蝶を斬り裂いていったが、彼を以てしても完全には砕き切れなかったものが残り、それらがBLOOD・Kの身体に着弾し、爆発した。
「……決まったのかな?」
「いや……あれを見て……」
哀那の指摘に、麗美は
「もっと……もっと俺を楽しませろぉ‼」
狂気と狂喜に満ち溢れたBLOOD・Kは、口から大量の血を吐きながら、全身の筋肉を限界まで膨張させて大量の炎と雷の闘気を引き出した。
「あの時と同じ……いや、それ以上か……」
「どうやったら死ぬんだよ……」
「あたし達じゃ、無理なの?」
「ここまで……なのか……?」
陽炎の四人はBLOOD・Kの異常なまでの闘争本能と殺人狂ぶりに戦意を喪失し始めていた。
「そんなことは無い‼」
陽炎と対照的に夏美は諦めてなかった。身体は疲労とBLOOD・Kの攻撃の重さで負荷が掛かって震えていたが、BLOOD・Kを鋭い眼光で睨みつけながら叫んだのだ。
「私もお姉ちゃんは絶対に勝つわ……‼」
冬美も穏やかの中に力強さを込めた声で宣言し、同時に体中から藍色の輝きを放つ水の闘気を溢れださせた。
「私達姉妹は絶対に負けない……‼ 何があっても勝つわ‼ そして……」
「「BLOOD・Kは、ここで倒す」」
二人の逞しさに満ち溢れた宣戦布告が、戦場に轟いた。
「行くわよ……冬美……‼」
「ええ‼」(氷雨‼)
自信満々に答えた冬美。
「行くぞぉ‼」
BLOOD・Kはそう叫びながら猛烈な速度で突撃し、立ちはだかった十番隊の隊員達を次々と葬り去っていった。すると冬美は先程以上の速度で、かつ無数の鋭い藍色の氷柱を全身に纏わせた水の闘気を抽出した。
「一気に叩き込むわ‼」
鋭い無数の氷柱は彼女の声に呼応してBLOOD・Kに襲い掛かった。
「今まで以上に力を感じるぜぇ‼」
BLOOD・Kは長髪を振り乱しながら藍色の蝶を次々と斬り裂いていったが、既に先程の攻撃で全身ボロボロの為、多少体勢を崩した。
「お姉ちゃん‼ 今よ‼」
「分かってるわ‼」(女豹乱舞‼)
夏美は冬美の指示でBLOOD・Kの懐に飛び込み、両足にも炎の闘気を纏わせて目にも止まらぬ速度で無数の襲撃と打撃の乱打を繰り出した。体勢が僅かに崩れた瞬間に叩き込んだ無数の攻撃はそれまで決定打を与えられなかったBLOOD・Kに初めてダウンを奪うものだった。
「こんなもんじゃないだろぉ‼」
ダウンを奪われながらも立ち上がったBLOOD・Kは、更に口から大量の血を吐きながら闘気を引きずり出しつつ、再び突撃を掛けた。
「だったらこれで‼」(氷雨‼)
冬美は再び無数の鋭く尖った藍色の氷柱を発生させて発射した。
「あひゃあひゃあひゃあひゃ‼」
先程と同様に冬美に向かって一直線に突撃するBLOOD・Kだったが、今度は攻撃の起動と氷柱の大きさを見切って的確に両手のメリケンサックナイフで対処していった。すると夏美はその背後を取ることに成功した。
「お姉ちゃん‼」
「分かってるわ‼」(女豹乱舞‼)
冬美の合図を受けた夏美は改めて赤々と燃え滾る炎のトンファーと脚による襲撃と打撃の嵐を叩き込む。一方でBLOOD・Kは夏美の攻撃を感知して冬美の攻撃の射線軸から離脱してインファイトに持ち込んだ。
「あひゃあひゃあひゃあひゃあひゃ‼」
「ぐっ……」
夏美はBLOOD・Kのパワーにやや押されつつも攻撃を受け流し、渾身の乱撃を叩き込み続けた。
「夏美がBLOOD・Kと互角に打ち合ってる……」
「ええ。確実にBLOOD・Kを追い詰めてるわ……」
麗美と哀那は、BLOOD・Kと夏美の攻撃の応酬を見ながらそうつぶやき合った。
「絶対にここでお前を倒すんだぁ‼」
二分に渡る打ち合いの果てに、夏美はBLOOD・Kの動きの一瞬の隙を付いて腹にありったけの豪炎を纏った乱撃を打ち込んだ。
「あひゃあひゃあひゃあひゃあひゃ‼」
BLOOD・Kは狂喜しながら地面に叩き付けられた。既に彼の両腕や腹部は焼き尽くされ、更にインファイトの中で両頬を潰され耳も削がれていた。誰も目に見ても再起不能と思われる傷を負っていたのは明白だった。
「あひゃ……あひゃ……あひゃあひゃあひゃ……‼」
だがBLOOD・Kは立ち上がった。無数の攻撃を受け、限界以上に闘気を引きずり出し続けたにも関わらずまだ笑い声を上げられるBLOOD・Kの姿に、陽炎は改めて脅威を感じた。
「私はまだ諦めてないわ……」
「冬美……あたしも諦めてないわ……」
「次の一撃で……」
「何としても……」
二人は互いに近づいて力強い眼差しで見つめながらつぶやいた。
「……面の小僧……約束は果たしたぜ……」
一方でBLOOD・Kは他人に聞き取れない程の小さな声でつぶやきながら渾身の力で闘気を引きずり出し、花咲姉妹の頭上を取って落下攻撃の体勢に入った。
「あひゃ……あひゃあひゃあひゃ……」
「来るわよ‼ 冬美‼」
「ええ‼」
夏美の合図に合わせ、冬美は全身から先程以上に無数の藍色の闘気を抽出して迎撃態勢に入る。
「あひゃひゃひゃひゃひゃ……」
狂喜して落下しながら両手のメリケンサックナイフに炎と雷の闘気を融合させてきたBLOOD・K。
「冬実っ‼」
「分かってるわっ‼」(氷雨‼)
藍色の闘気から無数の氷柱を発生させ、その束を極太のレーザー砲の如く発射する。すると驚くべきことに、BLOOD・Kは迎撃態勢を取ろうとせずに真正面から攻撃を受けた。
「何で……?」
「どうして……?」
BLOOD・Kはこの異常な行動をしながらも、笑い続けて攻撃を受けていた。
「あばよ、最強の小娘どもよ……」
BLOOD・Kは小さくそうつぶやきながら無数の氷柱に斬り刻まれ、消滅した。最後の最後まで命乞いをせず、己を貫いて死んでいったBLOOD・Kに、花咲姉妹も陽炎も言葉が出なかった。
「……う……ううっ……」
「冬美!」
その直後、冬美の藍色の闘気が消滅し、そのまま倒れてしまった。夏美はそんな冬美に駆け寄って彼女を抱きとめた。
「……冬美……」
「気を失ってるみたいね……」
花咲姉妹に駆け寄った哀那は冬美の左胸に耳を当ててそう言った。
「本部への連絡は俺の方から入れておく」
「両方の支部はどうします?」
「薫が言ってたが、細かい部分の判断は俺達に任せるってことで、取り敢えず北区の第二十四支部に任せるように連絡を入れることにする。清輝。頼むぞ」
「了解しました」
指示に応えた清輝はスマートフォンをジーンズのポケットから取り出した。
「清輝さん。文京区の第二十二支部にも連絡を入れてください。二十四支部だけに任せるには負担が大きいかと……」
翔の指示に続いて夏美も清輝に提案した。
「分かりました」
「ありがとうございます」
「夏美ちゃん! 連絡はバスに戻りながらってことでいいかな?」
「そうして下さい。冬美はあたしがみます。じゃあ皆。直ちに本部に帰還するよ。軽傷の人は重傷の人を助けながらで」
「「「「「了解‼」」」」」
夏美の指示を受けた九・十番隊の隊員達と陽炎は夏美に敬礼し、その場を後にする。だが先程まで戦ってた戦場のアスファルトに残ったおびただしい量の血が、BLOOD・Kの象徴たる「K」の文字となっていたことに、彼らは気づくことはなかった。
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