第15話 再戦の時……‼

 第二十五支部のあるビルに到着した冬美達の眼前には、第二十三支部と同様に、支部の隊員達の骸が転がっていた。それを目の当たりにした冬美達は、殺された仲間の仇討と言わんばかりに猛攻を繰り出して慶介達に挑んだ。

 だが慶介の二丁マシンガンから放たれる光の闘気の弾丸の圧倒的な攻撃力と、その慶介を堅固に守護する将也の大双戟による粘りを軸とした構成員達の戦いぶりを前に、戦闘は膠着状態が続いていた。


「あの大男、なんて馬鹿力だ……」

「本当に人間なのかあいつは⁉」


 将也の鋼の闘気を流し込んだ大双戟の威力を前に、翔も清輝も苦戦を強いられていた。幾度となく刃を交えても一向に将也に傷をつけることが出来ない状態は、翔の冷静さを損なわくとも、清輝に苛立ちを覚えさせてて攻撃が乱れ始めていた。


「あの大鎌の野郎、ヤケになって動きが乱れ始めたな‼」


 そう叫びながら慶介は上空から将也に攻撃を仕掛けようとした清輝目掛けて光の弾丸の嵐を浴びせようとした。


「やらせないわ‼」(氷雨‼)


 冬美はパラソルに水の闘気を集約して無数の氷柱を発生させて応戦したが、慶介の光の弾丸の破壊力はそれを凌駕していて全てを撃ち殺せず、残りの弾丸は清輝が自力で身体を回転させてかわした。


「威力が違い過ぎるわ……だとしたら……」

「なに訳の分かんねぇこといってんだよぉ‼」


 そんな独り言をつぶやく冬美を見て隙ありと見た慶介は、今度は冬美に両手のマシンガンを構えてすかさず光の弾丸を乱れ撃った。すると冬美は全身に藍色の水の闘気を纏い、それをパラソルに即座に集約させて無数のやや歪な氷柱を発生させた。


「翔さん! 清輝さん! 下がってください‼」(氷雨‼)


 指示を出しつつ、冬美はそのまま藍色に輝く無数の氷柱を光の弾丸目掛けて放つ。

すると今度は冬美の氷雨の威力が勝り、慶介が放った光の弾丸全てを打ち砕いただけで全弾の半数を残し、残り半数が慶介目掛けて空を切った。


「やらせないよ‼」


 それに反応した将也はその巨躯を藍色の氷柱の車線上に動かし、鋼の闘気を流し込んだ大双戟を左右の手で回転させて全弾を打ち砕いた。


「済まねぇ、将也。あの女の闘気、何かさっきと違うぜ」

「みたいだね。ちょっと腕に痺れが来てるよ……凄い威力だったよ。打ち返せたのが嘘みたいだ……」


 将也の言葉を裏付けるかのように、大双戟を持つ彼の両手は大きく震えていた。するとその直後、慶介と将也の無線に御影から撤退指示が入ってきた。


「……だってさ」

「あいつか……あんな野郎が俺達の殿ってのは気に食わねぇが、この際仕方ねぇ……第一、第二部隊! 撤退するぞ‼」

「「「「「了解‼」」」」」


 慶介の指示に従い、将也を筆頭に率いていた部隊は全員現場を離れ始めた。


「十番隊。追わなくて大丈夫です。占領という最悪の事態を避けられただけでも良しとしましょう」

「「「「「了解しました‼」」」」」

「冬美ちゃんの言う通りだな……」

「取り敢えず、内部の情報は無事でしょうし……」


 冬美の隊員への指示を聞きながら、翔はそんなことをつぶやいた。するとそう遠くない場所で激しい爆発音が鳴り響き、冬美達は爆音に驚きながらも音がした方を振り向いた。その方角からは黒い煙がモクモクと立ち込めていた。


「あそこって……お姉ちゃん達がいる方向……」

「第二十三支部からだな。間違いねぇ……何かあったな……」

「とにかく、急ぎましょうよ‼」

「ええ。十番隊! 第二十三支部の援護に向かいます‼」

「「「「「了解‼」」」」」


 冬美の指示に従い、十番隊と翔達は第二十三支部へと急行した。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


「九番隊‼ 第二十三支部へ急ぐわよ‼」

「「「「「了解‼」」」」」


 拠点付近でバスを降りて第二十三支部に向かっていた夏美は九番隊に命じた。


「麗美ちゃん‼ 哀那ちゃん‼ 協力お願いね‼」

「勿論‼」

「全力を持って戦うのみだわ」


 麗美と哀那は夏美の期待する言葉にそう答え、俄然やる気を見せた。

そんなやり取りをしつつ拠点へ向かっていたが、そのやる気と覇気は、第23支部へと続く木造の平屋前に到着した瞬間に大きく削がれてしまった。


「ねぇ、聞こえる、この声……」

「うん。悲鳴ね」


 麗美も哀那も、地下へと続く階段からは隊員達の悲鳴を耳にし、何が起きているのかを悟った。


「ヤバい……みんな急ぐわよ‼」

「「「「「はっ‼」」」」」

「あたしも続くわ」

「麗美と同じく」


 九番隊の隊員達と麗美達は夏美に続いて地下の支部の司令室へと向かった。司令室に続く廊下を我が物顔で占拠する構成員達を次々と葬った。廊下に転がっている隊員達の屍を横目に支部の司令室に向かっていた彼女達の目の前に現れたのは、右手にサーベルを構え、茶髪のボブカットをなびかせた女性・桐原瀬理名だった。


「遅かったの……?」

「そんな……」

「おのれ……」


 サーベルを手にした瀬理名が手にしていた首に戦慄を覚えた三人は憮然としながらつぶやいた。


「恨むのなら、あなた達の鈍足ぶりを恨むことね。それよりさっさとどいてくれないかしら?」


 瀬理名はそんな三人の心情を逆なでするような言葉を投げかけた。そんな瀬理名の挑発を耳にした夏美は怒り心頭のまま瀬理名に突撃を掛けた。


「こんのぉー‼」(女豹乱舞‼)


 悔しさと共に両手に持ったトンファーに炎の闘気を纏わせ、瀬理名目掛けて縦横無尽に技を振るうが、瀬理名は夏美が繰り出す攻撃を巧みにかわしつつ、サーベルに風の闘気を纏わせ、目にも止まらぬ速さで反撃し始めた。

瀬理名の剣技は攻守に隙がなく、目にも止まらぬ速さの斬撃が強みになっていた。

故に序盤は優勢だった夏美も、二分後には頬と額に汗を流して瀬理名の剣技の勢いを殺そうと必死になっていた。


「なんか夏美、ヤバくない?」

「……麗美。後方支援頼むわよ」


 麗美の懸念を察した麗美は背中の大太刀を抜いて闇の闘気を纏わせ、両者の激突の隙を付いて斬撃を繰り出す。


「甘いわね」


それに即座に反応した瀬理名は風のサーベルで受け流し、夏美・哀那の両者の攻撃を受け流しつつ鋭い斬撃や突きを繰り出して二人を翻弄した。


「何なのあいつ⁉」


 瀬理名の立ち回りに戸惑いつつ、彼女の隙を付いて一閃をお見舞いせんとボウガンを構える麗美。

既に周囲では夏美が瀬理名に襲い掛かった直後に両勢力が率いている隊員達が交戦に入って乱戦となっていた。結果的にそれで麗美の位置から瀬理名を狙うのは極めて困難になり、援護射撃が出来なかった。


 双方の戦況の均衡が破れたきっかけは、瀬理名が耳に着けていた無線に御影の声が入って来た時だった。


『瀬理名。慶介。将也。BLOOD・Kが殿を務める為にそっちに向かった。奴の力ならお前らを逃がすことぐらいたやすいだろうから、お前達は部隊を引き上げさせろ』

「そのつもりよ。ありがとう」


 瀬理名の応答を聞いた御影は無線を切った。


「第三部隊! 撤収よ!」

「「「「「了解!」」」」」


 瀬理名の号令を聞いた構成員達はそれに応え、新戦組の隊員達の攻撃の隙をついて出口へと急いだ。瀬理名は構成員達が全員撤収したのを頃合いとし、両者の攻撃をいなして切り抜け、麗美のボウガンの連射を炎の闘気を纏わせたサーベルでことごとく焼き尽くしてその場を離脱してしまった。


「待てっ‼」

「よせ夏美‼ 奴らは撤退させた」


 瀬理名を追いかけようとした夏美を、哀那はこう言って宥めた。


「支部長があのようになった上に、私達以外の声が施設全体に聞こえない以上、副長の意見を仰ぎつつ私達もここから撤退するわ。麗美。お願い」

「分かったわ、哀那」


 哀那の願を聞いた麗美はスマートフォンを取り出して薫に連絡を取り、哀那と夏美は麗美と隊員達と共に出口へ向かった。

だが出口から出た瞬間に三名を待ち受けていたのは、予想外の人物だった。


「……久しぶりだな……小娘の片割れ」

「お……お前……‼」


 待ち受けていた男・BLOOD・Kの姿を目の当たりにした夏美は、全身に迸る両親の仇敵への憎悪に震え始めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る