第13話 出撃命令……‼
「あれ? 早ぇな。真」
「おはよう。翔」
翌日の午前五時。いつもより早く目を覚ました翔は、目覚ましのコーヒーを飲む為にフリールームを訪れると、テーブルに数枚の資料を並べて眺めつつカフェオレを飲んでいた真の姿を見掛けて声を掛けた。
「何やってんだ?」
「二番隊の来週からの訓練のメニューだよ。僕ら組長が、金曜日になると隊の訓練メニューを組んで、麗華と薫に報告しなきゃならないってのは知ってるでしょ?」
「知ってるけど、にしてもこんな朝早くにやるなんて……確かに提出が今日だが、基本的には終業報告書と一緒だったんじゃないか? 昼休みに組んでも間に合うと思うんだが……」
真はそう尋ねながら自販機でブラックコーヒーを買って真の正面の席に座った。
「まあね。でも僕の隊が他の部署の仕事に一部駆り出されていてその余裕が少ないし、出来る限り時間を見つけてやっておこうと思ってね」
「……それだけか?」
「それと、いつもより早く目が覚めちゃったってのもある」
「ていうか、そっちが本音だろ?」
「分かる?」
「やっぱりな……」
真の本音を聞いた翔はそう言いながらコーヒーを一口すすった。
「そう言えば、総次君達が今日大阪から帰還するって、麗華達が言ってたよ」
「沖田総次か……新戦組次世代のエースが、功を引っ提げてご帰還か。さぞ大きな成果を上げたんだろうな」
「確認が取れた大阪の敵施設を手当たり次第に叩く各個撃破。それが総次君と一番隊に課せられた任務だからね。まあ施設の規模や制圧難度はピンキリの上に、彼らは応援部隊だから、そこまで大きい戦果になるとも限らないけどね」
「なるほどね」
真の主張を聞いた翔はコーヒーを飲みながら頷いた。
「ところで翔。冬美達の訓練の調子はどうなってるの?」
「既に冬美ちゃんは、実戦で十分使えるレベルにまで破界の力を戦闘中にもコントロールできるようになったぜ」
「そうか……良かった……」
翔から冬美達の近況報告を聞いた真は胸を撫で下ろした。
「改めてお前の凄さを実感したぜ。たった一言のアドバイスで冬美ちゃんの特訓を効果的にアシストするなんてな……」
「過大評価だよ。僕はあくまで自分の経験談を話してみただけ。それこそ夏美ちゃんや君達の協力もあるし、何より冬美の努力が結果に繋がったんだ。そう考えれば僕は単にお節介をしただけだよ……」
「よく言うぜ。でもまあ、そういう謙虚で誠実な性格がお前の美点でもあるんだがな……」
そう言いながら翔がブラックコーヒーに改めて口を付けようした瞬間。本部の緊急指令を告げるサイレンが、薫の呼び出し放送と共に流された。
『九番隊組長の花咲夏美。十番隊組長の花咲冬美。陽炎。以上の六名は至急局長室に参上するように』
「……君達も大変だね。特訓の後は緊急任務とは……」
「全くだ……」
翔は真の慰めにも似た言葉を聞きながら残りのコーヒーを喉に流し込み、自販機の隣に置かれていたゴミ箱に空き缶を捨ててその足で局長室へ駆け足で向かって行った。
「とは言え、半年で二度目の緊急指令ととなると、大変という言葉で片づけるのも不謹慎と言えるかもしれないな……」
翔が立ち去って一人になった真は、先程の自信の言葉に対して自省するようにつぶやいた。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
「陽炎の高橋翔。只今到着した‼」
翔はそう言って局長室の扉を開けた。既に彼以外の五名は到着して麗華の机の前で起立していた。
「これで全員揃ったわね……単刀直入に報告するわ。豊島区千早にある新戦組第二十三支部と第二十五支部がMASTERの襲撃を受けて、現在賊と交戦中よ」
「「「「「「⁉」」」」」」
六名は同時に身体を震わせながら表情を曇らせた。東京都内の支部が襲撃を受けたということ自体が前代未聞だったからだ。
「落ち着きなさい! これらから簡単に任務説明を行うわ」
動揺していた六名に対して落ち着くように檄を飛ばした薫は、その流れで簡易的に任務を説明し始めた。
「今回の任務で九番隊と十番隊を任命したのは、本部所属の隊で全隊員の疲労度が小さいのが二人の部隊だったからだわ。夏美ちゃんの方は九番隊に加えて麗美ちゃんと哀那ちゃんに救援に向かってもらうわ」
「「「了解‼」」」
薫の指示を受けた三名は敬礼した。
「冬美ちゃん率いる十番隊には、翔と清輝君と援護に着けるわ」
「「「了解‼」」」
冬美達三人も指示を出した薫に対して敬礼した。
「万一を想定して、二つの支部には蓄積されている豊島区内の他の支部の情報のバックアップを取って本部に転送してもらい、支部にはデータを削除するように指示を出したわ。情報漏洩の危険はある程度排除したけど、予断を許さない状況に変わりないわ。細かい部分はあなた達の判断に任せるわ。大至急現場に向かうように」
薫の指示を聞いた六名は、無言で敬礼して早足で局長室を後にした。
「はあ……」
「まさか都内の支部の場所を特定されるなんて……」
ため息を一つついた薫の隣で、麗華は多少の動揺をちらつかせた声でそうつぶやいた。
「これまでの経験から情報戦に関してはMASTERの方が優れている可能性があるとは言え、まさかここまでとは……油断したわね」
「それは否めないわ。でも大事なのはアフターフォローにある。それには間違いないでしょ?」
「麗華……」
「それに、わざわざ冬美ちゃんを今回の任務に選んだのは、破界の力の特訓の成果を確かめるいい機会にもなるからと思ったんでしょ? 隊員の疲労度が最も低い隊を選出したっていうのも、それを誤魔化す為の下手な方便かしら?」
「隊員達の疲労度を鑑みたのは事実よ。でも、破界の力の特訓の成果を確かめるという理由をそのまま伝える訳にもいかないと思ったの。まして新戦組始まって以来の最大の危機となれば、尚のことよ。最も、あの子達ならその点にも勘づくと思うけど」
「全く……こういう時のあなたは、とことん不器用ね……」
あくまで平静を装いながら理由を述べた薫の表情を見上げながら、麗華は今後を憂うような表情でつぶやいた。
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