第12話 嵐の前の慌ただしさ
「おい! 武器の在庫確認はどうなってる⁉」
「食料や救急用具の点検を急げ‼」
MASTER本部。既に午前零時過ぎているにも関わらず、廊下を行きかう構成員達の動きは慌しかった。
そんな彼らの様子を、加山から緊急の要件と言う理由で呼び出されて秘書室に向かっていた翼と御影は不思議そうな表情で眺めていた。
「翼に問題だ。どうして我がMASTER本部に所属している同志達がこんなにも慌てて物資の在庫確認を行ってるのか分かるか?」
「分かってるが、そいつは恐らく加山様が正解を教えてくれるだろう」
翼は御影のクイズをいささか不謹慎と思い、多少ドスノ利いた声で言葉を返した。
そんな他愛のない雑談をしながら、二人は大師秘書室のドアの前にたどり着いた。
「赤狼司令官、幸村翼。並びに神藤御影。只今到着いたしました!」
「入りなさい」
加山の許可をもらった二人はドアを開けて中に入り、彼が起立している机の前まで来ると敬礼した。
「済まないな。こんな夜中に呼び出してしまって」
「いえ。加山様や大師様のお呼びとあらば、昼でも夜でも馳せ参じる所存です」
「大袈裟な言い方をするな君は」
加山は御影の大袈裟な言い回しに苦笑いした。
そこで翼は咳ばらいを一つし、話題を変えた。
「ところで加山様。こんな夜中に我々に緊急指令とは、まさか廊下の騒がしさと何か関係があるのではと思うのですが……」
「大ありだ。そしてこの任務には、君達赤狼の手を借りたい」
「それで、どういった任務でしょうか?」
「これを見てくれ」
そう言いながら加山は机にタブレットを取り出し、豊島区の地図を見せた。その地図の千早の部分に赤い点が二ヶ所で点滅していた。
「これは……?」
御影は画面をまじまじと見始めた。
「例の新選組モドキの拠点の所在地だ」
「拠点の……⁉」
「ようやく二十三区内でも見つかったのか……‼」
それを聞いた御影と翼は驚きを隠せなかった。これまで地方での襲撃で新戦組の拠点を十か所陥落してきたが、東京二十三区内ではこれが初めてだったからだ。
「だがスパイを放って詳細を調査したが、規模が小さいので本部ではないとみられている。とは言え、二十三区内の奴等に関する情報を入手するのは困難を極めた。首都東京の守りに比重を置く彼らのことだ。ある程度は情報収集に時間と手間が掛かると覚悟していたが、三年も要するとはサイバー対策室のメンバーも思ってなかったようだ」
「二十三区内の拠点への攻撃は初めてになるな。となると……」
「連中の士気に影響を及ぼすでしょうね。地方の拠点制圧任務よりも、今後の我らの戦略を左右すると思われます。上手くいけば本部の情報もつかめるかも知れません」
加山の説明に御影も翼も納得した様子でつぶやいた。
「既に部隊の選択は終わり、少なくとも六時間後には出撃できる見込みだ」
「それで、どの部隊が担当を?」
御影はタブレットを手にして所在地の詳細な確認を行いながら尋ねた。
「第一師団所属の第十四中隊に任せる。既に師団長の新見安正には許可を取っている。だが所在地が判明しただけで、戦力がどれほどのものかは未知数。こちら側が戦力を出し惜しみするのは戦術上悪手だ。そこで、君達赤狼からも幹部クラスの者を臨時指揮官として手配してもらいたい」
「「かしこまりました」」
加山の説明と依頼を聞いた二人はそう言って敬礼した。
「それと、今回の任務にはBLOOD・Kも参加する」
「BLOOD・Kをですか?」
驚いた様子で尋ねる御影。
「とは言って、状況を見て投入するということになる。作戦の成就を考え、念には念を入れてだ」
「念には念を入れて……ですか……」
翼は加山の言葉を復唱するようにつぶやいた。
「とにかく、そちら側で今回の作戦に相応しい人材を決めてくれ。一時間以内に、私のタブレットにそのデータを転送してくれ」
「かしこまりました」
「では、頼んだぞ」
加山の依頼を聞いた二人は彼に敬礼して部屋を後にした。
「御影にクイズだ。今回の拠点襲撃任務において、俺が誰を任命させようと思っているか、分かるか?」
大師秘書室を出て赤狼司令室へ向かっていた翼は、先程御影ややったクイズをそっくりそのまま叩き付け返した。
「個人ではないだろう? 本部へ帰還してからまだ一度も戦場に出ていないあの三人に任せようって思ってたりしてるとか?」
御影はややにやにやした表情で答えた。まだ実戦に出ていない三人というのは、新村慶介・冠城将也・桐原瀬理名である。いずれも支部では実績を上げた精鋭であるが、本部に帰還してからは赤狼に課された任務に従事することが多くなってしまった為、実戦に出られない状態だった。
「慶介は赤狼でも最も高い破壊力を持っている。拠点制圧じゃあ最も重宝する存在だ。将也は持久戦や防衛戦を得意とする粘りの男。攻撃一辺倒の慶介の背を守る壁になる。今回の拠点制圧任務において重要になるのは、この二人の連携だな」
「確かにな。その上瀬理名は攻守のバランスが高いレベルで取れている。単独での指揮で拠点を落とせる可能性は十分にあるな……」
「そういうことだ。それにしても……」
「どうした?」
「我ら赤狼からの出兵が無いとは……それが少しばかり気になっただけだ」
翼はやや残念そうな声でそう言った。本隊との実戦形式の訓練を始めて約3カ月。赤狼の中では本隊と合同任務に出しても問題ないのではという認識が広まっていたからだ。当然その感情は御影も抱いていた。
「俺も同じことを思ったが、加山様から何も言われなかったのなら、大師様の方でもまだ俺達の同志達が実戦に投入できるとだけの錬度ではないのだろう。歯がゆいかも知れないが、まだ堪え時ってことでここは我慢しろ」
「そういうことにしよう。だが、まさか新見さん率いる第一師団の指揮を俺達赤狼のメンバーに一時的に譲渡するとは思わなかった」
「ああ……それは思った。なんか畏れ多いな……」
翼と御影はしみじみとそう言った。MASTERには1万人の師団が二つ編成されており、両師団はこれまでにも警察署やSITなどの特殊部隊への襲撃や支部襲撃に対しての応戦で多大なの働きをした存在である。
特に第一師団団長の新見安正は若干二十九歳で実戦部隊筆頭の実力者と組織内でも謳われている大幹部である。両師団の団長は闘気を扱うことが出来、両師団の勇名は、影の部隊である赤狼にも轟き、公平かつ厳格な安正の性格と相まって彼らからも畏敬の念を抱かれているのだ。
「そう言えば、この間大師様が両師団に指示した地方制圧任務を解除して、本部に近々帰還するように命令を出したという噂を聞いたことがあるが……翼。お前は何か知らないか?」
「その話は本当だ。二週間前に加山様から聞いた。だが赴任している地方大支部の任務がまだ片付いてないから、恐らく今年中は無理かもしれないとも言ってた。少なくとも来年の一月半ばぐらいになるだろうとは言ってたが……」
「それじゃあ、我らの首都陥落作戦はそれまでお預けってことか……」
「だがそれまでの間に連中の士気を多少なりとも挫けば、今後の我々の戦略上有利に立てるのは保証されるだろう。とにかく、例の任務の件について慶介達に伝えなければな」
「その通りだな」
こうして翼と御影は心機一転して任務に当たる準備を整える手筈に入るのだった。
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