第10話 あの頃の花咲姉妹
「おっ。ここに居たか、修一に未菜ちゃん」
「佐助の兄貴! お疲れさまっス!」
「お疲れさまです!」
真達がフリールームに向かうのと同時刻。食堂で談笑していた修一と未菜の所へ訪れたのは佐助だった。
「助六さんはどうしてるんですか?」
「さっき真と一緒にメールを送ったんだが、訓練場で隊の訓練を終えてこっちに来るって言ってた。つい六時間前まで冬美ちゃん達が使ってたらしいがな」
「ああ。確か破界の特訓をしてるんスよね。冬美ちゃんと夏美ちゃん」
「陽炎の方々も協力されてるって聞いてますが……」
「ああ。しかしまあ、組長として忙しい中で休憩時間として充てられてる一時間を割いての特訓とは……俺には出来ないな……夏美ちゃんと冬美ちゃんの気合には負けるぜ……」
修一と未菜に尋ねられた佐助は、噂で聞いた夏美達の奮闘ぶりに白旗を上げる態度を取った。
「気合というか気迫というか……あの二人はここに来た時からずっと、何て言うか強い部分はあったと思うわ」
佐助のそんな言葉を聞いた未菜は、思い出すような素振りを見せながら言った。
「そう言えば、夏美ちゃん達が冬美ちゃんの闘気コントロールの特訓に付き合ってた時に、佐助の兄貴が夏美ちゃんに詰め寄られたって聞いたことあるんスけど、あれって一体……」
「ああ~怖ぇこと思い出さすなよ~……」
修一がそう話しかけた途端、佐助は頭を抱えながら怯えたような態度で声を震わせた。
「あんときは空気が悪かったんだよ~。真に頼まれて特訓の代わりをやった時に夏美ちゃんと麗美ちゃんが俺に突っかかって来てさ~……」
佐助が怯えるのも何ら不思議な話ではない。
当時保護されたばかりの夏美達四人は、真達の証言によって冬美が闘気に目覚めていること、そしてその闘気が破界と呼ばれる形態であることを知り、今後の四人の処遇が決定するまでの間に冬美に闘気を教え、暴走状態に陥って大惨事を巻き起こすことが無いようにと真を指導員として闘気の特訓していたのだ。
だが一日だけ所用によって真が指導出来ない日が出来てしまい、手が空いていた佐助が代わりに担当することになった日があった。
当時は夏美達が保護されて一ヶ月が経過した時期で、夏美達は真や勝枝、更には麗華達から否応なく日本の現状や反体制派によるテロ行為と言った情報を断片的にだが知ることになり、それらの情報を隠匿していた日本政府や新戦組。何より自分達が通っていた大学を襲撃した組織の存在など、不安がピークに達し始めていた頃でもあった。
佐助にとって運が悪く、また不手際だったのは、彼女らからのその日の質問の中で、それらについて機密事項として扱い続ける理由を話せないということを、真や麗華達と比較して夏美達に寄り添う形での説明やフォローができなかった部分にある。
無論佐助なりには上手く伝えたつもりだったのだが、ここへ来て彼らしくもない不器用さが出てしまったのだ。
この出来事は女たらしの傾向が強い佐助に、女性を怒らせたときの恐怖を改めて思い知るにはある意味で好都合だったのではと、当時の三番隊の隊員や麗華達の間では語り草にもなった。
「夏美ちゃん達が怒るのも無理ないと思うっスね。佐助の兄貴の態度の問題もあるっスけど、こういう事情を知ったら誰だって……俺も夏美ちゃん達ほどではないっスけど、事実を知った時はめちゃくちゃムカついたっスよ」
修一のこの言葉に嘘は無く、彼女達ほどで無いにしても、真や佐助に対し日本の現状や治安維持の不備について不満を意見したことはあった。
「反省してるよ。そりゃ夏美ちゃんのあの時の質問は組織の機密情報にギリギリ関わることだったし、あいつらもここに一ヶ月以上いても今後の処遇が分からねぇってなれば精神的にもストレスが溜まる。いつ爆発してもおかしくねぇから気を付けろって真から言われてたけど、まさか真っ先に俺がその爆発に巻き込まれるなんて思いもよらなかったんだよ」
この一件は当時の佐助の迂闊な言動によるものであり、その後は相当反省したらしく、以後忘れることは無く自戒として記憶していることでもある。佐助もその日の夜に真を仲介者として面と向かって謝罪したので既に解決済みであり、現在の関係に影響はない。
「でも、それがきっかけであの子達が新戦組に入隊したんですよね?」
二人のやり取りを聞いていた未菜は、会話が途切れたところでそう切り出した。
「そうだったな……でも今となっては夏美ちゃん達は組長に、麗美ちゃん達は特殊部隊所属と、確かに強くなったって思うぜ」
「本当にそう思うっス。入隊するときに『自分達の安全は自分達でつかみ取るしかない』っていう冬美ちゃんの言葉も結構印象に残ったし、今も自分の力と向き合って……強いっていうか勇敢っていうか……」
「女の子の強さっていうのは、案外そう言うものよ。これと決めたら男よりも強い気持ちで立ち向かえるんだから」
四人の強さを称える佐助と修一の隣で、未菜はそんな冬実達女の子の強さを誇らしげに語ったのだった。
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