第11話 陽炎の戦士達

「それで沖田君。陽炎と一緒に任務を行ってきて、何か思う所はあったかしら?」


 陽炎が退出して直ぐに、薫は総次に対して陽炎への印象を尋ねた。


「そうですね。彼らの高度な連携攻撃には驚かされました。ひょっとして、今までにもこういったことはあったのですか?」

「勿論よ」

「では、他の組長の方々は彼らのことは知っていると……」

「ええ。今までは暗殺などに特化した任務が多かったけど、戦力増強の為に、これからはあなた達との合同任務が多くなるわ」

「そうですか……」


 薫の質問に答えた総次は、麗華にある報告をせねばならないと思い、話しかけた。


「それと、新宿の拠点の守備隊長と思われる男ですが……」

「蒼炎の使い手で、その上攻撃に対する反応速度も極めて高かった。でしょ?」


 総次の言葉に続ける形で言った薫に、彼は小さく頷いた。


「蒼炎は炎の闘気の使い手でも、突然変異的に覚醒する闘気。それに反応速度と腕力は桁違いでした。陽炎との連携で一撃を与えられたくらいですし」

「その陽炎ですら、直ぐに撤退の判断を下した程だったらしいね?」

「ええ。MASTERにあのような戦闘能力を持った構成員が存在してると思うと……」

「青梅の一件以降、MASTER側は今まで以上に戦闘力を増強し始めている可能性が極めて濃厚、ってことかしら?」


 総次の意見の全容を察した麗華は、最後に彼が言おうとしていた言葉を先回りして言った。


「こちらも味方同士の連携だけでなく、個人の戦闘能力にも重きを置いた方がいいかと」

「そうね。それが巡り巡って味方同士の連携を高めるきっかけにもなると考えると、重要度は今まで以上に増すわね」


 薫は総次の提案に近い意見に対して同意しつつ、改めて味方同士の連携の重要性を痛感したようだった。


「同感だわ。次回の組長会議の時に改めて議論することにしましょう。総次君、今日はゆっくり休みなさい」

「畏まりました。では僕はこれで……」


 総次はそう言って麗華と薫に対して敬礼した。


「ええ。今日はお疲れさまね」


 麗華の労いの言葉を背に、総次は局長室を後にした。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 局長室を出た総次は、食堂で遅めの昼食を取りに行こうとしていた。その中で総次は、新宿の拠点で出会った蒼炎の闘気を使う男のことを思い出していた。


「どうやったらあの力に対抗できるのかな……?」


 悩む総次だが、現状では例の男に付け入る隙を見出せずにいた。


「まだまだ強くならないと……」


 自分に言い聞かせるように総次はつぶやいた。


「おや? また会ったな」


 すると突然食堂に続く階段の踊り場で、フルネームで総次を呼び止める男の声が総次の耳に入り、総次は声の主を探らんと見上げた。声の主は自室に戻ろうとしていた陽炎のリーダー。高橋翔だった。見ると彼の背後には他の三名の姿も見える。


「……先程は助けていただき、ありがとうございました」


 総次は先程の任務で自身を救ってくれた陽炎の面々に対して、深々と頭を下げながら感謝の意を伝えた。


「そういや俺達、まだお前にちゃんと名乗ってなかったな……」

「「「あっ……」」」


 翔のつぶやきを耳にした麗美達は声を漏らした。すると麗美がサイドテールを揺らしながら総次に近づいてきた。


「あたし、海堂麗美かいどうれみっていうの。よろしくねっ!」


 ウインクをしながら名乗った麗美。そんな彼女にセーラー服の女性が前に出た。


「同じく、薬師寺哀那。以後よろしく」


 そして二人の男性陣も、彼女達に倣って挨拶を始めた。


「俺が那須清輝なすきよてる。そして隣にいるのが……」

「リーダーの高橋翔だ」

「こちらこそ。でも、皆さんは僕のことを知っているようでしたが……」


 すると総次のそんな疑問に、麗美がサイドテールを揺らしながら答えた。


「そりゃ有名だからよ! 永田町と霞が関にMASTERが襲撃してきたときに一番活躍してたって。知らない人はいないよ?」

「本部とは独立した部隊でも?」


 総次がそう言ったのに反応した哀那が、二人の会話に入ってきた。


「ええ。薫さんの説明通り、私達は先日まで暗殺専門の特殊部隊だったわ」

「それが本日付で局長直轄になったって訳だよ」


 更に清輝も話に割り込んでどや顔で捕捉した。入隊して間もない上に殆どの情報を知らない総次に先輩面をしたくなったような印象を受ける。もっとも総次はあまり気にしていないので、更に話を続けた。


「やはり、僕らの想像以上に戦況が厳しくなってきたってことでしょうか?」

「ああ。国内で大規模な反乱が発生したことが公になったことで、国民の政府に対する反感は高まった。その上、この事実は諸外国にも知れ渡っちまった。このネット社会じゃ、情報の伝達速度は昔とはケタ違いだ。国際的な立場でも日本は不利になっちまった」


 翔は苦々しい表情で語った。


「そうなると、長引けば外交でも貿易でも、交流がなくなってしまうかもしれませんね……」


 総次は不安を抱いた。この戦いを早く終わらせなければ自分達のこれまでの日常が崩壊してしまうのではという意識が強くなったからだ。


「だからこそ、陽炎のリーダーとして、この戦いを一刻も早く終わらせたいと思っている」

「私達はどんな手段を使ってでもMASTERを滅ぼす……二度とこのような争いが起こらないように……」

「あたし達の友達や家族を、訳の分からない理由でこれ以上失わない為にも……」

「その先の平和の為に……」


 陽炎の面々は真剣な面持ちでそれぞれの決意を総次に語った。


「……僕も微力ですが、全霊を尽くして戦います。では、僕はこれで」


 総次はそう言って彼らに敬礼し、食堂に向かった。


「沖田君……ずっと険しい表情してましたね……」


 総次が通り過ぎた頃合いを見て、清輝はふと言葉を漏らした。


「ええ。相当己を厳しく律しているのでしょうね……」

「哀那もなんだ……あたしも、初めて会った時から怖いって印象があるんだよね……」


 哀那と麗美は畏怖を抱いたような険しい表情でつぶやいた。麗美に至っては声が微かに震えている。


「そういやお前らは気付いてたか? 新宿のMASTER支部の中に転がっていた死体に」


 清輝達の話題に乗っかる形で翔が話し始め、清輝達は彼の方を振り向いた。


「なんか変だったんですか?」

「ああ。殆どは肉の塊になってたが、幾つかの死体は首の頸動脈を深く斬り裂かれてたり、心臓を一突きにされているのがあった。状況から考えて敵が錯乱している状態だったのにだ」


 清輝の質問に淡々と答える翔。すると哀那は一瞬驚いた表情をしてこう切り出した。


「まさかあの子、あの狭く薄暗い空間で、急所を的確に狙って息の根を止めたと……?」

「だろうな。あんな空間で、しかも短時間でそんな真似が出来るってことは、俺らの想像以上に化物染みてるかもな……」

「「「……」」」


 翔の淡々とした言葉を聞いた哀那達三人は、茫然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。

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