第10話 帰還
「翼、渋谷の方は駄目だった……」
「そうか……」
「幸い、重要データは既に支部を経由して本部に纏めて送られてきたから、情報流出の心配はない。既にデータバンクの完全破壊も完了してるからな」
「が、奴らの攻勢が激しくなってるのも事実か……」
MASTER本部・赤狼司令室。八坂達の報告を受けた御影と翼は、少々俯いた様子で言葉を交わした。
「それで翼。新宿の方は?」
「奇襲を掛けられたが、無事防衛できたとのことだ」
「一勝一敗……イーブンってところか……」
「いや。一勝二敗で俺らの負け越しだ。前の青梅のを含めれば……」
「だな……それで、山根は他に何か言ってなかったか?」
「『黒い羽織を着た小さい奴がいた』と言ってた……」
「沖田総次……また奴がいたのか……」
沖田総次の名前を聞いた二人の表情は、先程よりも暗いものになった。
「一応そこから総次を追い払うことは出来たが……」
「さっきの八坂達の報告では、その沖田総次が渋谷の方に合流したらしい。それも見知らぬ四人の男女と共にな……」
「そいつらの特徴について何か言ってたか?」
「詳しくは分からなかったらしいが、支部を直接叩いたのはその四人組だ。他にも沖田総次以外に二人いた」
すると突然、翼がしている無線から通信が入った。
「幸村だ……分かった。直ぐに迎えに行く」
「八坂達が戻ってきたのか?」
御影は翼の無線の主を察しながら尋ねた。
「ああ。申し訳なさそうだった」
「だろうな……」
それを聞いた尊は面を伏せながらつぶやいた。
「だが、新戦組モドキの錬度も士気もかなり高くなってきている。気を引き締める必要があるな……」
「ああ……」
翼の決意の言葉を聞いた御影はそう言った。
「じゃ、行ってくる」
「ああ。いってらっしゃい」
そう言って御影は、本部に帰還してくる八坂達を迎えに行く翼を見送ったのだった。
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「五十嵐八坂、並びにアザミ。帰還したぞ」
「無事で何よりだ、二人共。大師様と加山様には既に報告してある。」
本部エントランスで八坂達を迎えた翼は、二人の浮かない顔を覗き込みながら言った。支部を守り切れなかった二人のやりきれなさを察したのだろう。
「申し訳ないよ……結局アタシ達は何もできずに……」
「新宿第八支部は守り通せた。それだけでも良しとしよう」
「翼。アタシは先に御影達の所に行く」
「八坂……分かった。あいつらは今赤狼司令室にいるから、行ってこい」
「ありがとう……」
そう言って八坂は翼を横切って赤狼司令室に向かって行った。
すると彼女について行かなかったアザミを不思議に思ったのか、翼は彼女にこう尋ねた。
「お前は行かないのか?」
「うん。ちょっと翼に聞きたいことがあってね……」
「聞きたいこと?」
「あのちっちゃい子に会ったわよ。沖田総次って子にね」
「知ってる……新宿の防衛に向かわせた山根から聞いている」
「相当強かったわ……」
「そうか……それでどう思った? あいつのこと」
それを聞いたアザミは顎に手を当てて考え込む素振りを見せ、十秒程その姿勢を続けた後にこう切り出した。
「……結構可愛かったわ……♥……」
「可愛い……か……」
「翼。アタシにも詳しく聞かせてくれるかしら? 沖田総次って子について……」
「小学生時代の同級生だ」
「そう……翼も気の毒ね……」
「は?」
「かつての友達と敵味方に分かれて戦うなんて、切ないっていうか……」
アザミの「気の毒」という言葉にピクッと反応した翼は、アザミの言葉を聞いて直ぐにこう言い返した。
「とっくに覚悟は決めている。俺達の邪魔をする奴らは容赦なく斬り捨てる……」
「だったわね……」
アザミは「やっぱり」という表情でつぶやいたのだった。
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「お疲れさま、総次君。そして陽炎の皆……」
新戦組本部に帰還した総次達は早速局長室に向かい、麗華からの無事帰還を安堵する言葉を戴いた後に任務報告をした。
するとそれを終えた総次は、紀子たちが何処へ行ったのか気になり、薫にこう尋ねた。
「本島さん達は……?」
「既に任務報告を終えて、それぞれの自室に戻ったわ」
「そうですか……」
それを聞いた総次は麗華と薫の前に出て、二人に向かって深々とお辞儀をしながらこう謝罪し始めた。
「申し訳ありませんでした。僕が不甲斐ないばかりに、新宿の支部を落とせなくて……」
「沖田君……」
薫は総次を見ながら、申し訳なさそうな表情でそうつぶやいた。するとそれを見ていた陽炎のリーダーである
「上原。あまりこいつを責めないでくれ。相手は蒼炎を使える手練れだったんだ」
「私達の連携を以てしても、一撃を加えるのがやっとだった……」
「別に責めはしないわ。責められるべきは寧ろ私よ。相手方の戦力を見誤ってしまった……」
「薫……」
麗華は隣で申し訳なさそうな表情で総次達に自分の不甲斐なさを謝る薫を見て寂しそうにつぶやいた。
それを見かねた海堂麗美は、自身の隣にいた那須清輝と一緒にこう励ました。
「でもっ、渋谷の方はばっちりやったわよ‼ あたし達の力をあいつらに思い知らせてやれたわっ‼」
「そうですよ! 思い詰める必要はないですよ!」
「……ありがとう。でも、以後は気を付けるわ」
二人の励ましの言葉に多少自信を取り戻した薫は、そう言って笑顔で麗美達を見て言った。
「皆が無事で何よりだわ」
「局長……」
麗華が微笑みと共につぶやいたその言葉に、総次は更に申し訳なさそうな表情になった。
「思いつめることは無いわ。次で取り返せばいいわ」
「……ありがとうございます」
「うん……」
総次の表情が相変わらず申し訳なさそうな表情をしているのを気にした麗華は、熱を失ったような表情で言った。
「……それで副長さんよ。確か本日付で、俺達は本部直轄の部隊になるんだったよな?」
不意に翔が薫に対してこう尋ねた。どうやらこのいたたまれない空気がたまらなかったのだろう。先程からバツの悪そうな表情をしていた。
「ええ。これまで正規部隊と独立した特殊部隊だったあなた達だけど、先の永田町と霞が関の一件でMASTERの脅威を改めて認識した上層部の意向よ。とは言え、突然のことで申し訳ないわね」
「気にすんなよ。俺達は上が誰になろうと関係ねぇよ」
「では、任務によっては本部と合同になる確率が今までよりも多くなることも知っているのかしら?」
薫は確認の為に陽炎の面々に尋ねた。
「あたし達も知ってます。最初は驚いたけど、状況が状況ですから……」
麗美は完全に納得していないような態度で言った。
「それでも俺達陽炎の任務は、どんな手段を使ってでもMASTERを滅ぼす。ですよね?」
麗美は対照的に、爽やかな笑顔で胸を張って言ったのは清輝だった。
「素晴らしい覚悟だわ。では改めて、明日からから宜しくお願いね。あなた達の部屋は地下二階に用意したから、外にいる案内役の指示に従って今日はそこで休んでね」
「「「「了解!」」」」
陽炎の面々はそう言って麗華と薫に向かって敬礼し、そのまま部屋を出た。
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