第12話 自分はまだまだ新米
陽炎との雑談を終えて食堂に着いた総次は、入って直ぐのテーブルに向かっていた。するとそのテーブルでイチゴパフェを食べていた夏美の姿が総次の視界に入った。それは向こうにとっても同じで、彼を見つけた夏美はハツラツとした声で呼びかけてきた。
「総ちゃん! 今からお昼?」
「ええ。夏美さんは?」
「九番隊の訓練が終わったから、気分転換に♥」
手にしたスプーンを目の前で揺らしながら答えた夏美を眺めながら席に着いた総次は、目の前に置かれていたボタンを押して保志を呼んだ。彼は押してから十秒も経たずにやって来て、手に持ったお冷を渡しながら総次に笑顔で注文を聞き始めた。
「総次君。今日は何を食べたい?」
「日替わり定食をお願いします」
「分かった。直ぐに作るよ」
注文を聞いた保志は厨房に戻って料理人達に指示を出し始めた。その様子を遠目で眺めていた総次に、再び夏美が話しかけた。
「総ちゃん。何かあったの?」
「は?」
「なんか怖い顔してるから、気になって……」
怖い顔と言われた総次は一瞬戸惑った。自覚が無かったからだ。
「……先の任務で少し手こずってしまって。自分が情けなく感じまして……」
「そうだったの……」
「陽炎の皆さんが駆け付けて下さらなかったら、間違いなくあそこが僕の墓場になっていたかも知れません……」
「陽炎と会ったの?」
「ええ。やはり夏美さんも、彼らとお会いしたことがあるんですね」
「会ったも何も、その中にあたしと同じ女子大に通っていた子がいるんだもん!」
「それって、薬師寺さんと海堂さんのことですか?」
「そっ。
「確か三年前に極左勢力に襲撃された大学……あれもMASTERが……」
「うん。うちの教授の畑中っていうのが財務省から天下りしてきた元官僚なんだけど、現役官僚の頃に公金をプライベートで着服してたの。それを知ったMASTERが地検よりも先に嗅ぎ付けて……」
「襲撃したんですね……」
夏美の言わんとしていたことを察した総次はそうつぶやいた。どうやらそれは図星だったらしく、彼女は無言で、暗い表情で頷いた。
「私や冬美の友達も先生も、その襲撃に巻き込まれて殺されたの。麗美や哀那も同じ。その上、その時私達が住んでた寮も爆破されちゃって、そこを新戦組に助けられたの……」
「そうだったんですか……」
「時々ね、夢に見るの。あの時の光景が……辺り一面に聞こえる悲鳴と一緒に……思い出したくないんだけど、今も脳裏に焼き付いて離れないの……」
「そんな思いをしたのに、どうして夏美さん達は新戦組に入隊したんですか?」
「そうね……私達もその時、日本がテロリストの襲撃に遭ってることを知ったの。あの時の総ちゃんみたいにね」
「はぁ……」
「だからね……似てるなって思うの。総ちゃんと私達って……」
「そうですか……」
「このまま逃げてたって、現実は私達を放ってはくれないし、他にもいろいろあるんだけど、一番はそれが理由かな……現実と向き合って戦う……」
「現実と向き合って……ですか……」
総次は俯きながらつぶやいた。夏美の言う「現実と向き合って」という言葉に思う所があるようだった。
「……僕はまだ新戦組の一員になって三ヶ月程度の新米です。まだまだ頑張らないと……」
「総ちゃん?」
総次の決意表明に、夏美は多少彼の顔を覗き込んだ。
「戦いに巻き込まれる人をこれ以上出さない為にもと、改めて思いました……」
「……立派ね、総ちゃんは」
そんな会話をしていると、厨房から保志がやって来て総次が注文したメニューを運んできた。
「お待ちどうさま。今日の日替わり定食は豚カツ定食だよ」
「ありがとうございます、保志さん。いただきます」
総次は保志に対して深々と頭を下げ、そう言って箸を持って豚カツを一切れ口に入れた。その様子を見た保志は微笑みつつ、静かに厨房に戻った。
「総ちゃん。私は総ちゃんも凄いと思うよ……」
夏美はそんな総次を眺めながら、彼にも聞こえないようなか細い声でそうつぶやくのだった。
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