第8話 蒼き炎が燃ゆる時
「チッ、折角楽しくなって来たってのによぉ……‼」
男がそう言い終わる前に、四人のリーダーと思われるジージャンの男が、柄の両端に刃が付いた薙刀に風の闘気を纏わせて突撃し、ハルバードの男に斬りかかった。
「仕留める……」
ハルバードの男はそれを柄で防いだが、いつの間にか後ろに回り込んでいたセーラー服の女は、腰まで届く黒髪のポニーテールを振り乱しながら背負った大太刀に闇の闘気を纏わせて男の背中を切り上げようとしていた。
しかしハルバードの男はそれにも反応し、セーラー服の女の方を振り向いてガードしつつ、二人から距離を取った。そこへサイドテールの女性が、続けてボウガンの矢に光の闘気を纏わせて男目掛けて放った。
「オラァ‼」
男は叫びながらサイドテールの女性が放った矢を躱した。
「隙ありです‼」
男が矢をかわした直後に、彼の右腕に雷の闘気を纏わせた大鎌の一撃で動きを封じたのは、ヘアバンドをした青年だった。
「仕上げに入るぞ!」
ジージャンの男の号令の下、四人は闘気を纏わせた得物を構え、ボウガンを持ったサイドテールの女性が光の闘気を纏わせた矢を放ったのを合図に、一斉にハルバードの男に襲い掛かった。
「舐めるなぁぁぁぁぁぁあ‼」
山根の雄たけびと共に左手に持ち替えた蒼炎のハルバードの柄尻で力いっぱいに地面を突くと、男の周囲に巨大な火柱が発生して広がった。しかし、四人は焦る様子も見せずに、冷静に火柱から離れて総次の近くまで来た。
「その模様……」
小声でそうつぶやいた総次は、大鎌の青年のヘアバンドと、他の三人が腰に巻いていた腰布にデザインされた青地に白のダンダラ模様を見た。
「そっか、お前が例の……」
薙刀の男は総次を見下ろしながら話しかけた。
「あなた達も僕らの……?」
「おたくの副長から話は聞いたんだろ?」
「あなた達が上原さんの仰ってた協力者……」
総次は彼らを見渡しながら言った。
「それにしても、蒼炎の闘気を使えるとはな……」
「ですが……」
「ここまでよく持ちこたえてくれたわ。後は私達が主導で攻めるけど、まだ戦える?」
セーラー服の女は総次を気遣う言葉を投げかけた。
「まだいけます」
そう言いながら総次は立ち上がり、刀に炎の闘気を纏わせ始めた。
「俺らがもう一度仕掛ける。合図したら奴に一撃叩き込んでくれ」
「はい!」
「よし……行くぞ‼」
薙刀の男は総次に指示しながら他の三人と共にハルバードの男に飛びかかった。
「同じ手は食わねぇよ‼」
男は蒼炎のハルバードを構え、四人の中で先行して突っ込んできたセーラー服の女性は闇の闘気を纏う大太刀で男の頭上に飛び掛かり、唐竹割りを繰り出す。
それに反応した男は炎のハルバードの柄で防いだが、正面を見るとサイドテールの女が、ボウガンに装填した矢に風の闘気を纏わせた矢を放っていた。
「この程度ぉ‼」
矢に反応した男は叫びながらそれをハルバードで薙ぎ払った。しかし、男が正面を向くのを予測していたと思われる薙刀の男が彼の背後を取り、刃に風の闘気を纏わせつつ、身体を一回転させて斬撃を繰り出した。
「無駄だぁあ‼」
ハルバードの男は右足に炎の闘気を纏わせて後ろの男の薙刀を蹴り上げて弾いたが、それによってハルバードの男の体勢が崩れた。それを逃さずに、ヘアバンドの青年は大鎌に雷の闘気を纏わせて振り下ろした。
「このぉ‼」
男は寸での所で躱したが、右脚での蹴りによって崩れた体勢から無理して躱した為に、身体が大きくぐらついた。
「今だぁ‼」
薙刀の男の叫びを聞いた総次は、夥しい量の炎の闘気を纏わせた刀で強烈な突きを繰り出した。
(飢狼‼)
巨大な火炎の砲撃はハルバードの男に向かって一直線に軌道を描き、身体のぐらつきから立ち直っていない彼に直撃させた。
「ぐぬうぅ‼」
総次の飢狼から放たれた火炎を食らったハルバードの男は、その場から壁際まで吹き飛ばされ、膝をついた。
「よしっ‼ 行くぞ‼」
薙刀の男は得物を拾い上げて突撃しながら他の三人に指示を出した。
「グオオォォォオオオオ‼」
しかしハルバードの男は再び立ち上がって身体全体から凄まじい量の蒼い炎の闘気を放った。
「ヤバい‼ 全員下がれっ‼」
危険を察知した薙刀の男は三人にそう命じ、再び総次の下へ集まった。ハルバードの男は、凄まじい勢いで燃え盛る青白い炎をその身に纏いながら総次達を睨んだ。
「灰になりやがれぇ‼」
男はそう叫びながら青白い火柱を纏わせたハルバードを振り下ろして地面を叩き割った。そして青白い火柱は訓練場全体を覆い尽くさん勢いで総次達に襲い掛かった。
「逃げろっ‼ あれはマジでヤバい‼」
薙刀の男の叫びを聞いた総次と他の三人は、炎が届ききる前に闘技場を脱出し、もと来た階段を上った。薙刀の男も彼らに続いた。
「まったく‼ あいつまだあんな力があんの⁉」
サイドテールの女性は逃げながら驚きと呆れ返りの感情が混ざったような顔で叫んだ。
「蒼炎を使う上に、あんな真似までするなんて……」
セーラー服の女は冷静な声色でつぶやいた。
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総次達は階段を登りきり、そのまま地上に戻ってきた。
「ここまで来れば大丈夫だろう」
薙刀の男は自分以外の四人が逃げ切ったのを確認しながらつぶやいた。そこに総次の無線に薫からの通信が入った。
『沖田君。何があったの?』
「上原さん。あなたが仰ってた方々と合流しましたが……」
「坊主、ちょっとそれ貸してくれるか?」
「え? ええ。上原さん、ちょっと待ってください」
総次は薙刀の男に無線を渡した。
「陽炎リーダーの高橋だ。ついさっき現場に到着したんだが、あれは一体なんなんだ?」
『あれって……やはり闘気の使い手が?』
「それも炎の闘気の中でも突然変異種の蒼炎だった」
『何ですって……?』
「流石にまだ新米の坊主一人には荷が重すぎると思うぜ……」
『……翔。沖田君と変わってくれるかしら?』
薙刀の男こと翔は、薫の言葉に従って無線を総次に返した。
『……沖田君。今一緒にいる陽炎と一緒に、渋谷にいる勝枝達と合流して』
「渋谷で闘気の使い手が?」
『制圧中にMASTERの増援が来たの。その中に、あなた達が一カ月前に青梅で戦った構成員の姿もあるらしいわ』
「⁉」
薫のその言葉を聞いた総次は驚きを隠せなかった。
「じゃあ、ここは……」
『私の読みが甘かったわ。そこからは直ぐに退却して。君のスマートフォンに勝枝達がいる場所の地図データを送信したから、すぐに向かって』
「……了解」
総次は俯きながらつぶやいて無線を切った。
「副長さんは何て?」
サイドテールの女性は尋ねた。
「渋谷の笠原さん達の援護に迎え、とのことです」
「何で⁉ せっかくあそこまで追いつめたのに……」
そう言ってサイドテールの女性が総次に詰め寄ったが、彼女の隣にいたセーラー服の女がそれを制止した。
「やめろ、麗美。上原さんの言う通りだ」
「だって哀那!」
「相手が蒼炎まで使えるとなると分が悪すぎる。それに拠点制圧に時間を掛けすぎれば増援を招きかねない」
「だったらこっちも増援を……」
「この時間帯に人通りの多い所で闘気の使い手同士が市街戦を行えば、関係のない一般人今で被害が及ぶわ」
「……分かったよ、哀那」
麗美はサイドテールをいじりながら、セーラー服の女性こと哀那の言葉を受け入れた。
「とにかく、渋谷に行きましょうよ」
「そうだな、清輝」
ヘアバンドの青年こと清輝の言葉に賛同した翔は、そう言って麗美と哀那を手招きした。
すると翔は総次の方を振り向いてこう尋ねた。
「俺達はここまで車で来たんだが、お前も乗るか?」
「大丈夫です。バイクで来たので……」
「分かった。じゃ、俺達は先に行くぜ」
翔の言葉を聞いた陽炎はそう言って廃屋を後にした。総次もそれに続いて自分が乗ってきたバイクを駐車したところまで走って行った。
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「まさか、ここまで追い詰められるとはね……」
「だからといって俺達赤狼に頻繁に支援要請すんのもどうかと思うが……」
赤狼司令室のソファに向かい合って座り、渋谷第三支部の戦況を無線通信で得た情報を元に話し合っていたのは御影と翼だった。
「突然加山様に呼び出されて何事かと思えば、支部に赤狼から増援を送ってくれないかと来た。闘気を使える人材が少ないからというのもあるが、加山様のご苦労も絶えないだろうな。なあ翼?」
「まあな……」
「そう言えば、新宿の方にも敵の気配があるって新宿支部からサイバー戦略室に連絡があったらしいけど……」
「あそこには山根を派遣したからあいつ一人で守り切れる。暴走しなけりゃな……」
翼はどこか不安そうな表情で語った。
「だがそれ以上に問題は渋谷だ。あそこはまだ本部からの派遣がまだな上に、闘気の使い手が六人程度しかいないと来た」
「赤狼から最低でも三十人は寄こしてもらいたいとはな。一応組織して向かわせたが……まだ油断は出来そうにないだろ?」
「ああ……」
「ひょっとしたら、あの沖田総次もいたりしてな……」
「……かもな……」
翼は俯きながらつぶやいた。
「どうしたんだ?」
「いや……」
「もしあいつがそこにいたら、お前は出たか?」
「今の俺は赤狼の司令官だ。非人道的な作戦でない限り、己からは動けん」
「建前上は?」
「……」
「まあ、いいんじゃないか? それで」
「御影……」
御影の言葉を聞いた翼は、俯いた顔を上げて彼を見た。
「それに、お前と戦って生き延びた奴なんてそうはいないだろ? どんな形であれ、そこから生き延びた奴が易々と死ぬなんて、俺には考えにくいな……」
「……確かにあいつは簡単にくたばる奴じゃない。まだ俺達の脅威ではないがな……」
翼は凛とした表情になってそう言った。
「とにかく、渋谷に向かわせた八坂とアザミの健闘を祈ろうぜ」
「無論だ」
御影の言葉に、翼は静かながらも力強く答えた。
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